不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。   作:アサルトゲーマー

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新キャラが登場します


めんどくさい女の話。

 この世でもっとも面倒くさい種族とは何か。

 人間とゴールドエルフは口を揃えて言うだろう。『ホワイトエルフ』と。

 

 ホワイトエルフは選民主義と排他主義が主流の種族だ。

 我らの祖先は造物主より遣わされた天の使者だと考える宗教が大半のホワイトエルフに信じられているとか、他の種族より技術力が抜きん出ているとか、そういったことが彼らの思想の歪みの原因だ。

 他種族を見下す一方で、しかし人間やゴールドエルフを管理するのも我らの仕事だと考えているのもまた事実。そして当面の脅威としての遺物の調査に力が入るのも当然というわけで。

 

「我が名はディンクハンクパリラ!今日は貴様ら下等生物に、天の使いの末裔であるパリラ様の調査に同行できる誉れを与えてやろう!」

 

 たまにこんなめんどくさい依頼が来るのだ。

 

 ホワイトエルフが面倒くさいという話はしたが、西のエルフと東のエルフで面倒くささはぐるっと変わる。

 まず東の森に住む全体の九割を占めると言われているホワイトエルフ達は他種族を家畜か奴隷か悪魔か何かの末裔程度にしか見ていない。足かせをさせた人間を労働力として働かせたり、ゴールドエルフに首縄を付けて遺跡に潜らせる『炭鉱のカナリア』のような扱いをしたりと。まあいわゆる過激派だ。

 では西の少人数エルフはどうか。保守派か、穏健派か。実はどっちでもない。

 

「ん?おい金髪の貴様、依頼主に会うのにフードも取らんとは何事だ!取れ!」

 

 パリラに言われてフードを取り、耳を晒すノーレ。すると彼女は目の色を変えてノーレの肩を掴んだ。

 

「エルフだとぉ!?おい貴様!人間に酷いことをされてないだろうな!」

 

 これでもう分かっただろう。西の奴らはただのツンデレだ。

 面倒くさいし下には見てるけど、人間とゴールドエルフを大事にしている。そんなわけで今日の俺たちの空気はホンワカしていた。

 

 

 

 ノーレがパリラに揺さぶられているのを眺めているとゾックに肘でつつかれた。

 

「なあ、俺は今まで女のエルフしか見たことねえんだが…まさか女しかいないわけじゃあないよな?」

 

 そう言われてパリラを見る。長くつややかな白髪に豊かな胸部と臀部。まごうことなき女性だ。

 

「実はですね、エルフって生まれてくるのがほとんど女性なんです。まれに男性が生まれることがあるそうですが、貴重なので基本的にエルフの集落から出ることがありません。人間が見ることが無いのは当たり前のことなんですよね」

 

 俺が答えるとゾックは「ハーレムかよ」と言って羨ましがっていた。実際はそんなことはないのだが…まあ、黙っていよう。夢は夢のままのほうが良いことがある。

 しばらくして平静を取り戻したパリラはミサイルの暖かい視線に気がついたのか赤面しながらゴホンと咳払いした。

 

「フン!この娘に手を出していないあたりどうやら貴様らはまだマトモな人間らしいな!」

 

 取り繕ったってもう遅い。

 

「とにかぁく!今から遺跡の説明をする!貴様らに野垂れ死なれたら後味が悪…埋葬が大変だからな!きちんと聞いておけ!」

 

 埋葬する時点でホワイトエルフの中ではなかなか手厚い扱いだ。 

 

「今回赴くのは未だ誰も足を踏み入れていない巨大な円盤形施設!その名も『カロン社』だ!」

 

 

 

■■■

 

 

 

「ふうむ…確かに『カロン社』ですね。後半は文字が汚れて見えませんが、おそらくデパートのような物かと」

「でぱーと?」

「あ、そっか。ミサイルさん達には馴染みがない言葉でしたね。様々な種類の店を一つにまとめたものと考えていただければ」

 

 エスポワール達はフロンティアからおよそ丸一日の距離にある野球ドームほどはあろうかという巨大な円盤前にいた。でかでかと『カロン社』と古代文字で書かれた看板をぶら下げたそれはアダムスキー型UFOを彷彿とさせる。下部から生えた三本の足でしっかり着地しているものの、相当な年月が経っているのかツタに巻き付かれてどこからが足で地面なのか分からない。

 上部のガラスのような透明な半球体の部分にはなぜかモノリスアンカーが起動していない状態で刺さっていた。

 

「壮観だな…まさかこんな近場にこんな物があるとは」

「そうだろうそうだろう!造物主はこれだけの物をポンポンと作れるだけの力がある偉大なるお方なのだ!」

 

 ゾックがぽろりと漏らした言葉に食いつくパリラ。宗教に興味のない彼は舌をだして辟易としている。

 そのまま近づくとツタなどで見えなかった入り口が顔を出した。床板の一部が跳ね橋のような構造になっているようで、長い坂道がUFOの中まで続いている。

 

「準備はいいか?」

 

 ミサイルの問いかけにエスポワールとゾックとノーレは頷き、パリラは自慢げに自分の腰を叩く。そこには革のホルスターに収められた拳銃が吊されていた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「魔法的な保護がされています。警戒してください」

 

 俺がそう言うとパリラ以外の全員が顔を強張らせた。彼女はそれがどういうことなのか解っていないようだ。

 魔法的な保護とは他の魔力を受け付けていない、もしくは受け付けにくくしている状態だ。人間が作るマジックアイテムの大半はこういった保護がなされているが、それも大体三年もすれば効果がほとんど無くなってしまう。

 つまり未だに保護が有効になっているということは、このUFOは未だ生きている状態である可能性が高い、ということに他ならない。

 そういったことをかみ砕きながらパリラに伝えると興奮し始めた。

 

「おおおおっ!つまり我らは造物主の生きた箱船に乗っているということなのか!」

 

 確かにそう言えるかもしれないけど、危険には変わりない。興奮しまくって何をしているのか自分でも解ってない犬みたいなはしゃぎ方をしているパリラをたしなめようとした瞬間、俺たちは急に光に照らされた。

 

「な、なんだ!」

「みんな気をつけて!機械人形の足音がする!」

「ゾック、前へ出ろ!」

「おねえちゃんは後ろ!」

 

 すぐさまフォーメーションを取る俺たちとオロオロするパリラ。彼女の首根っこを掴んで後ろに下がらせると、明るくなったことであることがわかった巨大な柱の裏側から人間ほどの大きさのロボットがギコギコと音を鳴らしながら現れた。

 

「イラッシャイマセ!ヨウコソ『カロンコーポレーション』ヘ!キョウハ オカイモノ デスカ?」

 

 そしてぎこちない動きでお辞儀をするロボット。どうやら彼は案内人のようだった。


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