不滅の存在になったので死んで英雄になろうとしたら仲間が良いヤツすぎて死ねなくなる話。   作:アサルトゲーマー

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ゴジホウコク アリガトウゴザイマス


降ってわいた不幸で幸運な出来事の話。

 俺が求める死に方にはいくつか種類がある。

 まず誰かのために死ぬ。これは俺の死によって助けた誰かが俺のことで思い悩むようになるという、シンプルなものだ。そのぶん仕掛けも少なくて済むし、危険に陥れる環境があればいつでも実行できるという利点がある。

 次に誰かの、またはみんなの思いを代弁して死ぬ。貴族や王族が圧倒的な発言力を持つこの時代、彼らに反論するというのは命がけだ。不満を持つことを、平民は誰も発言出来ない。だからこそそれを声高く言える者は尊敬を集め、または馬鹿にされつつも彼らの記憶に残るだろう。最後に殺される事によっていっそう悲壮さが高まり、人々の話題に上りやすくなる。

 

 そして最後、仲良くなった仲間の目の前で殺される事だ。仲間の力が及ばず、ズタズタに切り裂かれて殺されてしまう。これを見た彼らは深い心の傷を負い、後悔するだろう。それは俺に対する信頼や好感が大きければ大きいほど顕著になる。俺のイチオシだ。

 

「コワス、コワス、コワス……」

 

 そんなわけ、というのでもないが。俺は今ロボに首を絞められて仲間の前でみっともなく屍をさらすチャンスを得ていた。

 

 正直な話、降ってわいた幸運に興奮している度し難い俺がいた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「おおおお…!なんだこれは!なんだこれはっ!」

 

 ロボに案内された先は大きな吹き抜けだった。内部は大きな円形状で、壁に沿うように小さな店が入るスペースがいくつもあり、遙か上にはどうやって作ったのか解らないほど大きな半球状の透明な壁があった。モノリスアンカーから伸びているヒビがなければそこに壁があることすら気がつかなかっただろう。

 ミサイルは興奮するパリラの腕を掴んで後ろに下がらせる。彼女は冷や水を浴びせられたような気持ちで不満げな顔をしていたが文句を言う気は無いようだった。

 

「コチラ ワガシャ ジマンノ フキヌケデ ゴザイマス テンジョウガ ナイヨウニ ミエルデショウ?」

「ああ!恐ろしいくらいに澄んだガラスだ!」

「ガラスデハ ゴザイマセン トクベツナ カコウヲ サレタ セラミックデ ゴザイマス」

 

 セラミック…?と首を傾げるパリラ。それにエスポワールが注訳を入れた。

 

「セラミックは粘土などを加工した物です。陶器に近いですね」

「あれが陶器!?一体どうやればああなるんだ!」

「キギョウヒミツデ ゴザイマス」

 

 パリラの驚きの声にわざわざ応えるロボ。ギコギコと音を鳴らしながら歩いていた彼が立ち止まる。

 

「オキャクサマ オモトメノ シナハ ゴザイマセンカ?」

「ぬ…考えてなかったな。言われてみれば商店だ、客は買い物をしにくるものだろう」

 

 うーんと考え込む彼女。すると何かを思いついたのか指をパチンと鳴らした。

 

「おい機械人形!」

「ガイドロボデ ゴザイマス」

「ガイドロボ!お前が一番の目玉だと思う物に案内しろ!」

「カシコマリマシタ」

 

 そう言うとロボはまたギコギコと音を鳴らしながら歩き始めた。それについて行くパリラ以外の一行はやや不安げだ。

 

「パリラ、これは安全なの?」

「様を付けろ!安全に決まっているだろう、造物主がお造りになられた案内人…人?に案内をされるのだぞ!」

「はなしにならない」

 

 諦めたようにため息をつくノーレ。その間にもパリラはロボにあれこれと質問していた。

 

「あれはなんだ!」

「ホゾンショクデ ゴザイマス リロンジョウハ ウチュウガ ショウメツ スルマデ クサリマセン」

「うちゅうってなんだ!ん、あれは!?」

「パワーフレームデ ゴザイマス オモイ ニモツヲ ハコブノニ ベンリデスヨ」

「それはいいな!じゃああっちは!?」

「アリーナデ ゴザイマス メダマトハ コレノコト デス」

「そうか!」

 

 ロボに案内された先。それは円柱状に透明の壁で囲いを作ったスペースがあった。ぶつからないように視認しやすくするためか、壁の内部に針金のような物が格子状に編まれている。

 そしてその中央には黒くて大きな、ガイドロボの五倍はあろうかというロボが一体、膝をついた状態で停止していた。

 

「ハイッテ ミマスカ?」

「いいのか!では頼む!」

「コチラヘ ドウゾ」

「アリーナ?嫌な予感がします。ちょっとパリラさん」

「なんだ貴様も行きたいのか!来い!」

「わっ」

 

 パリラはロボの案内に従ってアリーナの中に入る。手を引かれたエスポワールも一緒だ。

 それを追いかけるミサイルたちだったが、アリーナの扉が突然閉じてしまう。

 

「えっ?」

 

 パリラが振り返るとそこには透明な壁と、その向こうにいるガイドロボの姿。

 慌てて壁を叩くも開く様子は見られない。

 

「エラー アリーナプログラムガ オウトウ シマセン」

「やってしまいましたねパリラさん」

「ぬぐ…!」

 

 失敗を咎められるパリラ。

 

「サイキドウ シマス」

 

 ロボの言葉と共に照明が落ちて、自然光だけになる。目の前の大きなロボが不気味に黒光りしていた。

 

「おい…これ、動いたりしないか?」

「十中八九、動きます」

 

 しばらく待つと再び照明が点く。そして黒いロボが滑らかな動きで立ち上がり、電子音を鳴らし始めた。

 

「な、な、なんだ!」

「これはまずいですよ…取りあえず離れた方が、っ!危ない!」

 

 エスポワールに突き飛ばされ、うわあっ!と悲鳴を上げながら転ぶパリラ。何をするんだと叫ぼうとして振り向いた彼女が見たのは、先ほどの黒いロボに首を掴まれているエスポワールの姿だった。




ナニニ シマスカ

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