【完結】鈴木さんに惚れました   作:あんころもっちもち
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2.部下の裏切り

加藤さんをツアレと呼ぶようになって、まだ数日しか経っていない。

・・・あの日、王都で彼女を見つけ この手に入れてからの日々は本当に幸せだった。振り向けば彼女がいるのだ。

階層守護者にツアレと妹のニニャが 興奮した様子で詰め寄っている光景や、ナザリック内部を説明しながら笑い合う日常・・・あぁ、俺はやっぱりツアレが好きなのだと、しみじみと思う。

 

だが、その一方で 俺とツアレの関係は手探り状態であり、もどかしい思いをしていたのも事実だった。

 

 

 

“ナザリックの王”なんて大それた椅子に座っている この俺、モモンガは、現在。そんな王とは思えぬ醜態を晒していた。ツアレの部屋の前で行ったり来たりしながら、脳裏に蘇るツアレの素肌を何度も何度も振り払おうとしたが・・・どうしても、焼き付いて離れない。

 

あれは事故だ。本当に申し訳ないことをしたのだから、一刻も早く忘れるべきだと考える一方で、あぁ 揉んでみたかった・・・などと下世話な思考にニヤついてしまう。

 

カチャリと恐る恐るドアを開ける音が聞こえ、俺は足を止めた。

 

 

「ツアレ、先程はすみませんでした!」

 

「あ、あの、私こそご迷惑かけてすみません・・・」

 

 

部屋のドアからちょこんと上半身だけ出したツアレが恥ずかしそうに俯きながら顔を覗かせた。

 

 

「身体の方は大丈夫ですか?」

 

「はい、えっと・・・痛くはないです」

 

 

そろっと出て全身を顕にさせたツアレの身体は大きく変化していた。

背中からは太く力強い蜘蛛の脚が2本生えており、下半身は完全に蜘蛛の身体になっていた。全体的に青黒いその身体は、金髪で紫の瞳を持つツアレにはとても似合っていた。不思議な事だが、俺の目にはそれがとても美しく写った。

思わず息を飲み魅入っているとツアレが小さく声を発した。

 

 

「・・・気持ち、悪いですか」

 

「え?」

 

「私にも、どうして姿が変わったのか分からなくて・・・やっぱりここまで変わってしまうと、嫌ですよね」

 

「いや、ナザリックには昆虫の姿をした者達も沢山にいますし、そんなに気にする事はないですよ!?」

 

「そう、ですか?」

 

「はい。それに・・・僕は、ツアレがどんな姿になっても・・・大丈夫ですから」

 

「あ、え、あの・・・ありがとう、ございます」

 

 

戸惑いながらも苦笑いを浮かべたツアレに自分は失敗したと痛感した。

今のは、“大丈夫ですから”じゃなくて、“愛してますから”ぐらい言えなきゃダメだろうに・・・!?

 

 

「あ、モモンガさんの指輪・・・」

 

「ん?あ、あれ?蜘蛛の指輪がない」

 

 

ツアレに言われてから、自身の指を見て気が付いた。この世界に来てからずっと(強制的に)身に付けていた蜘蛛の指輪が消えている。

 

 

「あの。もしかしたら、私の身体の変化は 指輪のせいかもしれません」

 

「それって・・・どういう事ですか?」

 

 

ぽつり、ぽつりと、ツアレは夢の話をしてくれた。・・・どこか隠している事がある様な不自然さがあったが、ツアレが言いたくないのなら突っ込まない良いのだろう。

 

今までの俺ならば抑えられていた筈の感情が、胸の中で強く波打つ。

「何を隠しているのですか?」そう言って問い質したい。

 

 

「ツア・・・」「あの、モモンガさん」

 

「え、あ、はい」

 

「私は・・・・・・いえ。そういえば 、今の状態でモモンガさんに触れるとどうなるんでしょうね」

 

 

以前は指輪の効果で、お互いに触れると一瞬の光の後、俺の姿は人間の姿へと変わっていた。ツアレと触れている間のみの効果で 離れると元の骸骨に戻ってしまう。

 

 

「触ってみますか」

 

「はい」

 

 

俺が差し出した右手を、ツアレがゴクリと唾を飲み込んだ後、握り返した。

光は現れなかったものの、俺達は人間の姿へと変わった。

ツアレはトップスのみを身に付けていたので、まるでミニワンピースのようになってしまい、艶かしい足が顕になった。俺は出来るだけ平静を保ちつつ言葉を発した。

 

 

「お、おぉ。人間に戻っちゃいましたね」

 

「ふぇ、あ、こ、こ、これは・・・そ、その。失礼します!!!」

 

「あ、」

 

 

自分の体を見下ろしたツアレが顔を真っ赤にさせて、部屋へすっ飛んでいってしまった。

 

 

「・・・行っちゃった」

 

 

再び 骸骨の姿へと戻ってしまった俺は、どうしていいか分からず、ただ立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

ツアレがアラクネへと変化してから数日が経った。

 

あれから色々と試してみて、分かったことがある。

指輪が消えた事により、俺の弱点となってしまっていた『全ての無効化スキルを無効』が消えた。

弱点が消えたことは喜ばしい事だ。

 

「精神作用無効」に関しては予想外の結果だった。スっと抜き取られるような感覚はどうにも慣れないが、感情を抑制されるのは支配者としては必要なスキルだろう。

 

睡眠や食欲、そして性欲も消えてしまったが、ツアレと触れて人間に戻っている間だけは復活していた。「精神作用無効」も作用していなかったことから、毒・病気・睡眠・麻痺・即死といった無効化スキルも作用していないと考えた方がいいだろう。魔法なんかは使えていたので、一応攻撃は出来るのだが・・・まぁ、指輪があった時と変わらないな。

正直、ナザリックで味わえる絶品料理を食べられなくなるのは辛いものがあったから、これからも楽しめるのは良かった。本当にツアレ様々だよな。

 

 

 

ツアレとの関係だが、何だかあの一件以降 距離が空いてしまった気がする。恋人らしい事を一切出来ていないのだ。今の所 ツアレに触れられるのは、食事の時のみ。それ以外は何処かよそよそしい。

どうにかしたい・・・とは思うものの、生まれてこの方彼女が一度も出来たことがなかった俺には、どうしてもゴマついてしまって、上手くいかない。

 

 

どうしたものかと、グダグダ思考の海に沈んでいたら、無意識に足がツアレの部屋へ向かっていたようだ。

曲がり角を曲がってから 僅かに聞こえた声に顔を上げると、1組の男女が何やら真剣に語り合っていた。

 

 

「あ、あれは、ツアレとデミウルゴス?」

 

 

ここから2人の場所までは、まだかなりの距離が離れていたが、何だかただならぬ雰囲気に呑まれそうになって、思わず身を隠した。

 

一緒に付いてきていたメイドが、訳がわからず、小首を傾げていたので、人差し指で「しー」っとジェスチャーをすると、察してくれたようで音もなく俺と同じように身を隠してくれた。

 

なんで俺は隠れてしまったんだろうか と、自己嫌悪に陥りつつも、そっと2人の様子を伺う。

《ラビッツ・イヤー》を使用して、聞き耳をたてる。メイドから生暖かい視線を感じて恥ずかしくなったのも束の間。聞こえてきたデミウルゴスの発言に思考が吹っ飛んだ。

 

 

「・・・貴女を愛していますよ」

 

 

バッと顔だけ出して、2人の様子を視界に収めると、デミウルゴスを見つめていたツアレの肩がビクンと跳ねた。こちらからじゃ横顔しか見えないが、その真剣な様子に俺は動けずにいた。

 

愛している・・・?デミウルゴスが?ツアレを??

 

 

「え、あ、それは・・・信じても良いのでしょうか」

 

「勿論ですとも」

 

 

デミウルゴスの言葉を聞いた途端、耐えきれなくなったようで 涙を零し始めたツアレに、綺麗な動作でハンカチを差し出したデミウルゴスが言葉を紡いだ。

 

 

「大丈夫ですよ、安心してください」

 

 

何度も頷くツアレを慰めながら、一瞬 デミウルゴスがこちらに視線を向けて来た。まさかバレているとは思っていなかったので、顔が強ばってしまったのだが、そんな俺に対して、デミウルゴスはニヤッと笑いかけてきた。

 

え、あ、は・・・??

予想外すぎる部下の裏切り。ま、まさか・・・宣戦布告なのか!!?

 

 

息が出来なくなるほどには、苦しくなって、俺は逃げるようにその場を去った。

 

デミウルゴスに思う事はあるが、それ以前に・・・ツアレの横顔が泣きながらも、本当に とても嬉しそうだったからだ。

 

 

 




メイド「モモンガ様のうさ耳・・・ごちそうさまです」


お久しぶりにしれっと投稿。
デミウルゴスの真意は言わずもがな







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