I wanna be the HERO!!   作:Natural Wave

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心操君の友人でオリキャラが出ます。

お待たせいたしました。


第12話 雄英体育祭 障害物競走

「……あぁ、気が乗らないな」

 

 

雄英体育祭開催まで残すところ後数分。控室に控えていたA組の面々を見まわした後、ため息を吐く。

 

 

「幾度無個性だからなー。今回はどうしようもないだろ、気晴らしにレクリエーションを楽しめって」

 

 

範太が肩回りの柔軟をしながら慰めに来る。正直言って今回の雄英体育祭に於いて何か結果を残すことは難しいと思う。出場する以上上位を目指すには目指すが俺の個性の『死に戻り(リスタート)』は体育祭というイベントとはかけ離れた位置に存在する個性であり、死に戻りをしてまで優勝を狙うつもりもない。血生臭すぎるだろ。

 

 

「それにお前手動かしていいのかよ?USJの時からまだ時間経ってないだろ?傷も残ってるみたいだしよ」

 

 

鋭児郎が心配そうに右腕の傷を見る。脳無に砕かれた際の傷を治療した際に残った肘から手首まで在る細長い大きな傷の事だ。

 

 

「あぁ、見た目は痛々しいが実際大きな影響はない。それに傷跡も消そうと思えば消せるらしいしな。とはいえ、ちょっとカッコよくないかこの傷」

 

 

「ハハッ…なんだよそれ…でもまぁそうか。お前が大丈夫ってんならいいよ――っと、時間か」

 

 

右腕を何度か握ったり開いたりして見せると、少しだけ鋭児郎は安堵したように笑った後時計を見て表情を引きしめた。入場が始まる。

 

 

「整列したまえ!左に男子、右に女子!前から出席番号順にだ!」

 

 

「ッシャァ!テンション上がってきた!行こうぜお前ら!」

 

 

 

 

「「「オーー!」」」

 

 

 

 

ぞろぞろと控室から会場へと通じる廊下を進むとプレゼントマイクの実況が廊下の中に響き渡る。水を得た魚というかなんというか、とても楽しそうだ。

 

 

『一年ステージ!生徒の入場だ!』

 

 

薄暗い廊下から会場へと足を踏み出し明るさに目を慣れさせる。見渡す限りの人、人、人。打ち上げられた花火、歓声、拍手、あまりのスケールの違いに圧倒されている自分がいる。

 

 

『雄英体育祭!ヒーローの卵たちが我こそはと鎬を削る年に一度の大バトル!!どうせお前らの目当てコイツらだろ!敵の襲撃を受けたにもかかわらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!ヒーロー科!1年A組だろぉ!?』

 

 

「ひ、人がいいいいぱいいいいいい」

 

 

「落ち着け出久」

 

 

「人人人人…あむっ。クソォ全然効かねぇじゃんかよぉ…人人人…あむっ……グェップ」

 

 

「お前もだぞ実。とりあえず二人とも軽くジャンプでもしろって、こういう時は自分は出来るとか思いこむよりも実際に身体を少し動かしたほうが緊張は解ける」

 

 

「うぇっぷ…おう」

 

 

整列場所に着き、続けて入場してくるB組や普通科、サポート科に経営科を待っている間、周囲を見渡し顔を青くしている出久や手のひらに人の文字を描いては飲み込み続けて吐きそうになっている実の特に緊張の強い二人の背中を叩き、その場で軽くジャンプさせる。

 

 

『選手宣誓!』

 

 

整列が終わりミッドナイトが号令台に立つと観客席などから唸るような歓声が小さく上がる。まぁあのコスチュームならな、本当に情操教育とかそういった意味合いで大丈夫なのかあのコスチューム。

 

 

『選手代表1年A組――幾度継司!』

 

 

「俺かよ、天哉じゃないのか」

 

 

「入試一位だからな。妥当だろう。行きたまえ」

 

 

生徒の間を通りぬけて号令台の階段を上がり、周囲が静まるのを確認をする。

 

 

「マイクは?」

 

 

「大丈夫よ、そのままどうぞ」

 

 

マイクの前に立ち、軽く深呼吸をする。恐らく活躍は出来ないだろうから、控えめに言っても雄英体育祭に於いて俺の一番の大舞台であろう宣誓。正直に言えばもっと前からセリフを考えさせてもらいたかったが、仕方ないだろう。月並みだが当たり障りのない宣誓にしよう。

 

 

 

『宣誓、僕たち一年生生徒一同は父母から授かった個性、指導してくださった先生方から授かった精神、己の鍛錬によって培った肉体のすべてを用いて全力で競技に挑むことをここに誓います』

 

 

 

まばらだが、宣誓を終えた後には周囲から拍手が送られる。まぁこんなものだろう、ミッドナイトも満足そうに頷いてるし。宣誓はこれでいいだろう――そう思い階段を降りようとした時に小さくだが確かにこんな呟きが聞こえた。

 

 

 

 

「つまんねぇ」

 

 

 

 

今の声絶対勝己だろ。見れば案の定こっちをつまらなそうに見ている。というか、普通科の面々も少しつまらなそうにしている人間が多い。……そうかそうか、そんなにつまらないかそうかよし、いいだろう。丁度いいことを思いついたんだ、やってやろう。

 

 

「幾度君?どうしたの?」

 

 

動きを止めたまま号令台から降りない俺の様子をうかがうミッドナイト。だが、もうこっちもこっちで決めたことだ。

 

 

「すいませんミッドナイト、少し変えます」

 

 

「え、変えるって何を…」

 

 

マイクスタンドからマイクを取り、周囲を見渡す。雑談を始めていた普通科や観客たちも何事かとこちらへと意識を集中させているのを確認して口を開いた。

 

 

Plus Ultra(プルスウルトラ)……意味はさらに向こうへ、さらに先へ…己の限界を常に超え続けるという意味を持つ雄英高校に伝わるモットーといえる言葉です』

 

 

周囲がざわつき始める。モニターには俺の顔がアップで映っている。

 

 

『その言葉を考えるとこう思うんです。人の限界、そしてスタートは少なくとも横並びではないという事を。個性の差、性別の差、生まれの差、さまざまな差が壁となって立ちはだかるのが今の社会。そしてそれはそのままこの雄英高校にも当てはめることができる。経営科、サポート科、普通科、ヒーロー科…さて、ここで一つ考えて欲しい』

 

 

『これらはすべて横並びか否か?―――――否、横並びじゃない。経営科はそもそもこの雄英体育祭を重視していないと聞く、サポート科は己の生み出したものをアピールする場と見ている。競争という点に於いてはそもそも土俵が違う。これら二つの科は除外するとして、問題は、普通科とヒーロー科だ』

 

 

少しずつ、A組のみんなの顔が青ざめて普通科の顔が険しくなっていくが…まぁいい。

 

 

『この二つは横並びか―――否、横並びじゃない。わかりやすい指標が卒業後の収入でしょう。普通科の皆も雄英高校卒というブランドを持てば大企業の社員として大きな一歩を踏み出せるでしょう。一千万の年収を超える事も十分にあり得る。だがそこに雄英高校()()()()()卒という更なるブランドが付いた瞬間、差が生まれる。雄英高校ヒーロー科の人間がヒーロー事務所を設立すれば、間違いなくメディアから実績を持たずとも引く手数多だ。年収も数千万、数億、トップヒーローにもなれば正直どうなるかわからない』

 

 

「あの幾度君…それ以上は…」

 

 

手でミッドナイトを制し、続ける。

 

 

『さて、この差は何か――俺はこれだと思うんです』

 

 

 

『期待』

 

 

 

『これが、普通科とヒーロー科の違いだ』

 

 

「ふ――ふざけんなてめぇ!!俺たちが期待されてねぇとでも思ってんのか調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 

「そうだコラァ!降りてこいぶっ飛ばしてやる!」

 

 

普通科の中からブーイングと怒号が飛び交うが、無視する。

 

 

『事実だ。君たち普通科が何を言おうが、周囲はそう思って俺たちヒーロー科を扱う。そこで話は最初に戻るんだ。Plus Ultra(プルスウルトラ)…スタートが違うというのなら、乗り越えていく壁の大きさも、数も違うという事。普通科ならばヒーロー科という壁を、ヒーロー科なら先生方の用意した困難という壁を、そしてヴィランという壁を越えていく。越えれるものなら、越えてみるといい。普通科でも、リザルト次第ではヒーロー科への編入を検討されるそうだ』

 

 

普通科を見渡し、人使へと視線を送ると人使はニヤリと笑った。

 

 

「いいじゃねぇかA組!言葉は悪ぃが最高だな!」

 

 

ふと、B組の集まりから上がった声へと目を向ける。なんか熱そうなのが両手を振り上げている。――が、勘違いをしているようだから教えてあげよう。

 

 

『何か勘違いをしているみたいだな』

 

 

「……は?」

 

 

『普通科とヒーロー科、そこには差があると言った。――で、なんで俺たちA組とB組が同じラインに並んでいると思ってるんだ?』

 

 

「――あぁ゛?」

 

 

「ハッ…いいねぇ…」

 

 

B組の面々の顔が険しく、視線も此方を睨みつけて射殺すような視線へと変化する。そんななか楽しくて仕方がないというような顔で勝己がこちらを見る。少しくらい焦ってくれれば可愛げがあるんだがな…。俺が言うのも何だけどひねくれすぎだろう。

 

 

『俺たちは先のヴィランの襲撃という壁を乗り越えた。間違いなく、これは現状に於いて決定的且つ巨大な差だ。悪いが、俺たちA組はお前たちB組より先にいるんだ。普通科だろうがB組だろうが、俺たちの壁として立ちはだかる事を期待している。全員まとめてかかってこい』

 

 

「あのー、幾度君、そろそろ時間が…。それにこれ以上は本当に暴動でも起きそうだし…」

 

 

 

 

『宣誓。今回の雄英体育祭の表彰台はA組で独占します』

 

 

 

 

「ふっ――ふざけんなテメェェェェ!A組コラァ!」

 

 

「幾度ぉぉぉぉ!なんでそうややこしくすんだよ!」

 

 

「A組テメェら憶えてろよ!」

 

 

「ほら!B組からもヘイト集まってんじゃん!何してんのお前!!」

 

 

「ヒーロー科が何だってんだ!ぶっ潰してやる!」

 

 

「やんぞお前ら!普通科の意地見せてやろうぜ!」

 

 

「「オオオォォォォォ!!」」

 

 

「うぉぉぉ!普通科めっちゃ燃えてる!!怖ェェェ!」

 

 

団結する普通科、A組を睨むB組、拍手喝さいの経営科とサポート科。実にカオス。まぁ面白くなってきたしいいだろう。

 

 

「……よし、こんなもんでいいか。どうも」

 

 

「貴方、これを狙ってたの?」

 

 

「さぁ、でもせっかく三回しかない体育祭ですよ。ただのイベントではなく、どうせなら燃え尽きるぐらい全力でやりたいじゃないですか」

 

 

「――そう。ありがとうね」

 

 

『ハッハー!これぞまさにPlus Ultra!なんだおい言うじゃねぇか1-A幾度ぉ!』

 

 

どこか満足そうなミッドナイトに礼をして号令台を降り、クラスの元へ。普通科やB組の視線が刺さるが、知らん。

 

 

「幾度君!君は正直こちら側だと思っていたんだぞ!君まで爆豪君側に回ると収拾がつかないだろう!」

 

 

「いいだろべつに、やる気のない普通科辺りを焚き付けるにはこれがいいと思ったんだよ」

 

 

「む?…いや……だが確かに…体育祭の普通科の多くは最初から諦めているようなものもいただろう…。そう考えればこれは良かったのだろうか…?」

 

 

「うわぁぁ、すごいことになっちゃった……」

 

 

『さてここで実況席のイレイザーヘッドさん、1-Aの担任として先程の幾度君の言葉はどう思いますか。予告ホームランにも近い宣誓でしたが』

 

 

『……』

 

 

戻って来るや否や慌ただしく手を振りながらこちらを注意してくる天哉、そしてあわあわと周囲を見渡し射殺すような視線に怯える出久。正直言って、今になってかなりすごいことをしてしまったという実感が湧いてくる。プレゼント・マイク…頼むからそれ以上相澤先生を煽らないでくれ…

 

 

「とはいえだ――お前ら」

 

 

「む?」

 

 

「マジで表彰台取るぞ、さすがにあれだけ啖呵切っといて出来ないのは不味い。俺のメンツ的なのもあるが、主に相澤先生のメンツがやばい」

 

 

やばい、実況席の相澤先生の方を見ることができない。というか本当にいつまで俺を映してるんだあのカメラ。いい加減モニターに抜くのやめてくれ。

 

 

「――ブハッ!アハハハハハ!お前あんだけ言っといて!」

 

 

「フ、だが…。当然狙うさ」

 

 

「フ…フフッ…」

 

 

範太が腹を押さえて爆笑してるのを見て目蔵も失笑する。見れば踏影も背を向けて肩を少し震わせている。

 

 

「うおっ!?Hchのサーバー落ちてる!!マジ!?」

 

 

「峰田君!今携帯をいじるのはやめたまえ!」

 

 

『さて!燃え上がってるところで第一種目行くわよ!今年の第一種目はこれ!障害物競走!!』

 

 

ザワついた周囲を見渡し、一度ミッドナイトがピシャリと鞭を打つ。周囲が切り替わったモニターに視線を送ると障害物競走の文字が表示されていた。

 

 

「障害物競走…」

 

 

『計11クラス全員参加のレースよ。コースはこのスタジアムの外周約4km!わが校は自由が売り文句、コースを守りさえすれば何をしたってかまわない!さぁ、位置に着きなさい!』

 

 

スタートを知らせるランプのあるゲート前に全員が集合する。経営科などは後ろへと回り、サポート科はアイテムの調子を確かめる。普通科は作戦を練っているようで、B組はこちらにガンを飛ばしている。ゲートで点灯しているランプが一つずつ消えて――

 

 

『スタート!』

 

 

ミッドナイトの合図と共に、全員がずっと狭いゲートから会場の外へと出ようと殺到した。当然普通科だとかヒーロー科だとか関係なくもみくちゃになるわけで、いきなりグダグダになる。スタート地点からもう篩になっているわけだ。っていうか誰だこの野郎どさくさに紛れて足踏みやがったのは。そう思い見れば、普通科であろう背の高い奴が馬鹿にするようにこちらを見ている。

 

 

「全く…これ時間かかるな」

 

 

そう考えるのとほぼ同時に、足元に冷気を感じた。

 

 

「――ヤベッ!」

 

 

「うぉぉ!?何すんだお前」

 

 

俺の近くにいた背の高い奴に飛びついて地面から足を浮かせたのと同時に周囲の足元が凍りつく。危ない危ない。

 

 

「冷たっ!イテテテテテ!!」

 

 

「悪いな、でもお前も俺の足わざと踏んだろ?これであいこってことで」

 

 

普通科の奴の背中をポンと叩いて親指を立てておく。じゃ、と手を挙げて先へと進む。

 

 

「待てお前このやろおおおお!」

 

 

「――おぉっと…転んで怪我は無しにしよう」

 

 

滑らない様にゆっくりと歩を進めていく。焦る必要は無いだろう。まさか全員が全員この轟の個性を無視して突き進むことができるような個性じゃない筈だ。無視して飛べる爆豪なんかの上位陣との差は開くだろうが、集団全体としての速度は落ちている。焦る必要はない。

 

 

「よぉ」

 

 

と考えている時に後ろから声を掛けてきたのは人使だった。人使と一緒にいる背の高いどこか冷めた雰囲気の二枚目は俺を見下ろしながら睨んでいる。どうやら普通科の仲間も一緒のようだ。まぁそりゃ開会式であれだけ言えばヘイト値マックスだろうが。

 

 

「…人使か、どうした友達か。お父さんお前に友達が出来てるのがわかって嬉しいぞ」

 

 

「誰がお父さんだ」

 

 

「おい心操、なんでヒーロー科の…しかもコイツに…」

 

 

「いいんだよ。熱波(あつなみ)、個性頼む」

 

 

「は!?お前!こんなとこで俺の個性使ったらコイツも…」

 

 

「ここで俺たちだけで先行するより、コイツと一緒に行ったほうが上に上がれる可能性が高い。そう思うからだよ…頼む」

 

 

「あぁクソッ!……わかったよ。おい心操に感謝しろよ」

 

 

熱波とよばれた人使の友人は丁寧にセットされたであろう髪をガシガシと掻いた後、前に出て先行して走り始めた。彼が足を踏みつけた場所の氷が水となって地面へと吸収されていく。

 

 

「全くよ、人間ヒーターだとか人間クーラーなんて言われたりもしたが今だけはこの個性でよかったよ。おい速度上げるが俺の足跡に合わせて走れよ。すっころんでダセェ真似全国に晒したくなかったらな」

 

 

「おう、助かる」

 

 

『おっと!?凍らされた地面を駆け上がってく三人…アレェ!?見たところ1-A幾度と…普通科か?集団を置き去りにして先頭集団を追っていくゥ!――じゃぁ、これはどうかな!?』

 

 

ぶつぶつと熱波とやらが文句を言っているが、三人で凍らされた地面を自分たちだけほぼ速度を落とすことなくダッシュで駆け抜けていく。多くの人間を抜き去り、おそらく上位陣の次の集団あたりには食い込むことができた。その後見えてきたのは入試の時にも戦った仮想敵のロボット達。

 

 

「うーわ、何だあれデカッ!」

 

 

「ヒーロー科の入試で戦った仮想敵だよ。まぁ、馬鹿みたいに0P敵がいるが…おいどうする」

 

 

「あんなのと戦ったのかよ…やっぱヒーロー科異常だろ…」

 

 

「どうするか、熱波君だっけ?あれ溶かしたり出来ないの?」

 

 

「出来るか!出来てたら俺も今頃ヒーロー科にいるってんだ!」

 

 

すると、0P敵の中の一機が氷に覆われるのが見えた。ゴクリ、と唾を飲み込んだ熱波とやらが倒れていく0P敵に視線を送った。

 

 

「相変わらずの出力だな」

 

 

轟音と共に崩れ落ちていく0P敵に巻き上げられた土埃の中から1P敵や2P敵がぞろぞろと前進してくる。

 

 

「おい、どうすんだ…。言葉返すけどお前はどうにかなんねぇのかよ?ヒーロー科だろ」

 

 

「ヒーロー科だけど得手不得手はあるんだぞ。まぁ…やりようはあるがな…なぁ人使」

 

 

熱波が冷や汗をかいているのを他所に、人使はジッと仮想敵を観察する。パキ、と指を鳴らして手足の調子を確かめる人使。やる気は十分らしい。

 

 

「コンピュータは頭の中に入ってるんだったな」

 

 

「あぁ」

 

 

「そうか…。ぱっと見試験の時とは違い無さそうだな。0P敵――デカいのはデカいのを相手取れる奴に任せたほうがいいだろう、熱波、囲まれたくなかったら遅れるなよ」

 

 

「え――ちょ待て!マジかよ!」

 

 

「マジだ」

 

 

人使と共に走り出し、それぞれ1P敵や2P敵に飛びつく。そして、肩を支点に頭部を抱え込み勢いと体重をかけて――

 

 

「――よっと」

 

 

「せぇ――の!」

 

 

首を捥ぐ。ガシャリと捥いだ首を投げて先を見据える。まだ結構残っている。少しは足止めを食らうだろう。

 

 

『捥いだーー!スプラッタならぬスクラップーー!!いろいろ躊躇がなくて!2(トゥ)ー!スケアリィィィ!』

 

 

「何だよそれ…そんなの出来んの?」

 

 

「出来る…というか出来た」

 

 

「じゃぁ進むぞ」

 

 

「……マジか」

 

 

後ろを見れば、土埃に紛れて他の生徒達も戦闘を始めているのがちらほら出始めた。百が大砲を作り0P敵を砲撃するように個性を使って0P敵に攻撃を始めている者もいる。

 

 

「0P敵で倒れたやつの所からここを抜けよう。それまでは俺たちでできる限り前に進みつつ小物を片していく。0P敵と戦っている奴らは俺たちの後に続けば楽に抜けれるし、俺たちは小物を片す労力を負って0P敵を片してもらう。まさにギブアンドテイク」

 

 

「……なるほどな。おいA組の」

 

 

「…何だ?」

 

 

振り返れば、熱波が拾った仮想敵の頭を両手で掴んでいるのが見えた。そして、シュウウ、と黒い煙のようなものが仮想敵の頭部から立ち昇る。

 

 

「――寒波(かんぱ)だ」

 

 

「?」

 

 

熱波寒波(あつなみかんぱ)――俺の名前だよ」

 

 

「…」

 

 

仮想敵の頭部を投げ捨てた熱波――寒波が正面の仮想敵を見据えた。寒波は2ポイント敵の脚部を駆け上がり、頭部を抱きかかえると、ジュウゥゥゥという音と共に2秒程でガクリと2P敵は動きを止めた。

 

 

「クソ…何だよ。倒せんじゃねぇか…勝手に諦めて…馬鹿みてぇだ…」

 

 

「…」

 

 

「熱波…」

 

 

「行くぞ…行けるとこまで」

 

 

走り出した寒波を追って人使と共に走り出す。横を見れば、人使が結構嬉しそうにしている。

 

 

「アイツの個性は――っと、熱だか体温だかを操れるらしい。とはいえ、物を燃やすほどは出来ないらしいし――っ、素早く凍らすことも出来ないらしい」

 

 

人使と共に1P敵、2P敵と首を捥いでいく。

 

 

「成程ね、中途半端って捉えられやすいのか」

 

 

「あぁ、だからアイツも――っ!アイツで結構な中学生活だったらしい。個性婚なんて言葉が出る世だ――!」

 

 

「…」

 

 

「いくら顔がよくって、背が高くて運動が出来ようが勉強が出来ようが、個性(そこ)で見限られることだってある」

 

 

「オォォラァ!!――おい!デカいのが倒れたぞ!後続も動き出したし今の内に行くぞ!」

 

 

2P敵を熱でショートさせて捥いだ寒波が先へと走り出す。0P敵と他の仮想敵の隙間を縫い駆け抜けると、前方の集団がゆっくりと歩いているのが見えた。そのまま先へ進むと、今度は切り立って突出した足場と足場があり、その間にロープが張られていた。

 

 

『さぁて、次は勢いだけじゃこなせねぇぜ!?落ちたらそのままサヨウナラ!あの世まで一直線だぜ!ザ・フォールウウウウ!!』

 

 

『キチンと安全対策は取ってあります。落ちても張られた網とエアマットで怪我をする可能性は最大限減らしていますので安心してください。――お前も勘違いされかねん事を言うな』

 

 

「こいつはどうする?」

 

 

「どうしようもねぇからな、体力勝負だ――っと!」

 

 

「おいおいマジかよ」

 

 

縄を掴み、そのまま下へとぶら下がる。俺と人使が雲梯の要領でガシガシと進んでいくのを見て寒波が嫌そうにしながらも後ろからついてきた。距離は見たところ10mほどの短い距離のロープから長い箇所に至っては30mや50mとも見える長い距離の場所がある。

 

 

「くっそ、コレ後何回繰り返すんだよ…」

 

 

「さぁな、終わったら筋肉痛になる事は覚悟しとけ」

 

 

一つ、二つ、三つとロープを渡り、中腹まで届こうかというところで、俺たちの頭上をサポート科の生徒がアイテムを使って悠々と飛び越えていった。ああいうのを見ると本当にサポート科がうらやましい。

 

 

「本当に!サポート科ズリぃなくそ!!」

 

 

「諦めろ、その為に距離を稼いだんだ。想定の範囲内だろ。熱波、幾度、腕の調子は?」

 

 

「まだ行けるっての」

 

 

「俺もだ」

 

 

「よし、このまま進もう。きつくなったら途中で休憩しようぜ」

 

 

「あぁ」

 

 

中腹を越え、途中腕を回したり伸ばしたりしながら固まった筋肉を解しながらさらにロープを渡っていく。するとようやく最後のロープにたどり着き、渡りきることが出来た。

 

 

「腕が…きっつ……」

 

 

「よし、進むぞ。上位との遅れを取り返す」

 

 

「おう」

 

 

最後のロープを渡りきる前から見えていたが…ところどころで桃色の煙や爆音と共に生徒と思わしき人影がポンポンと吹っ飛んでいる。大丈夫なのかあれ。狭いルートから開けたエリアへと出れば一面何かが埋められているのが分かるくらいに色の変わった土の場所が一面に見える。

 

 

『なかなかいい体力してるじゃねぇかヘッドハンターズ!ちょっとお気に入りだぜコイツら!んじゃぁ今度はこの難関をどう切り抜ける!?この地雷原をどう切り抜けるー!?』

 

 

『平等に実況しろ』

 

 

『とかいいつつお前もこいつらに興味あんだろ!?』

 

 

『……』

 

 

『無視かよ!!』

 

 

「おいどうする?」

 

 

地雷原を前にして一度立ち止まり地面を凝視する。傍の色が変わった部分を慎重に周囲から細かくゆっくりと掘り返す。すると、白いプラスチックのような色と質感の地雷が顔をだした。慎重に持ち上げ、観察する。

 

 

「…なにやってんだ?」

 

 

観察して(みて)る……。感圧式……でも他の生徒が踏んだ感じから見ると足が離れてから爆発するタイプらしいな」

 

 

地雷とは天面にスイッチのようなでっぱりがあり、それを踏むと押し込まれた信管が火薬に点火する仕組みとなっている。それが最も単純な仕組みの地雷と言えるだろう。しかし他の生徒が足を踏み出してから爆発するまでのタイムから考えるに、踏み込んで信管が作動するのではなく、足を離してから信管が火薬に点火する仕組みになっているようだった。

 

 

「どうする?俺の熱波(ねっぱ)で誘爆させられるとしてもせいぜい数個だ。時間がかかりすぎる。寒波(かんぱ)で凍らせるのも同じ――ったく、エンデヴァーの息子とやらの下位互換もここまでくると滑稽だな」

 

 

「いや、さっきも言ったが得手不得手ってやつはある。胸を張れ。こういう時は別の奴を――ふんッ」

 

 

「うへへへへ!――っどわぁ!何だよ幾度ぉ!」

 

 

丁度、俺たちの横を通り抜けて地雷原に入ろうとした百に飛び掛かろうとする実の首根っこを掴んで引き離した。

 

 

「実…お前何してんだ……」

 

 

「何ってお前――ッ!男の夢――いいや俺の作戦をよくも!!」

 

 

ジタバタと暴れる実を見ていると、脳裏にある考えが浮かんだ。そしてこちらへと礼をした百をみてその思考はさらに現実味を増していく。

 

 

「はぁ…はぁ…あ、ありがとうございます…では、私はこれで…」

 

 

「百…ちょっといいか」

 

 

「……何でしょうか?」

 

 

「個性で手を貸してもらいたいんだがいいか」

 

 

その言葉を聞くと、百の顔が険しくなる。

 

 

「貸してって…これは貴方のおかげで組対抗戦のような側面を持ちこそすれ本来は個人戦ですのよ?確かに峰田さんから助けていただいたのは感謝いたしますが、それはそれこれはこれ、競技という都合上メリットが見受けられません」

 

 

きっぱりと言い切り、進もうとした百を止める。

 

 

「聞いてくれ、お前にも悪い話じゃない。実もいる、お前もいる。とくれば多分このまま進むよりずっと速くここを抜けれるぞ」

 

 

その言葉を聞き、ジタバタと暴れていた実が大人しくなり、百もこちらに興味を持ったようだった。

 

 

「え、そんなの出来るのかよ幾度。てかこいつ等誰だよ」

 

 

「お前こそ誰だよチビ」

 

 

「何だとお前!この峰田様を知らねぇってか!アァン!?」

 

 

「知らねぇよチビ」

 

 

その言葉を皮切りに飛び掛かった実と応戦する寒波を他所に百が真剣な顔で向き直る。

 

 

「やめてくださいまし。幾度さん、時間も無いので簡潔に」

 

 

頷いて実に指を差すと、百は目を細めて実を見た。

 

 

「百に布を作ってもらう。長さはこの地雷原の端まで、幅は両足幅…厳しければ片足幅で良い。進行方向に実のもぎもぎを撒いてもらってその上に布を掛ける」

 

 

「その上を走る…ということでしょうか?確かに、地雷によっては踏まれると同時にもぎもぎにくっついて離れなくなり作動しないものもありますわね」

 

 

「並び的には必然的に、百が先頭になる。どうだ?地雷原を駆け抜けて、先頭でゴールまで行けるぞ?このまま地雷原に入るよりもずっと早く且つクリアの可能性もくっきりリアリティがあるのが分かるはずだ。今すぐ決めてくれ。時間がないんでな」

 

 

百はほんの数瞬だが、目を伏せると表情を引き締めて俺を見た。

 

 

「いいでしょう。考え得る限り最善策に近いと思います。なら急ぎましょう、峰田さん。ご準備の方は?」

 

 

 

 

「えっなに?」

 

 

 

 

「聞いててください!何でこんな時に遊んでいるのですか貴方は!!」

 

 

もみ合っていた寒波と実がこちらを振り向く。二人は何かしらに気づいたのか争うのをやめてこちらに歩いてきた。ゴツン、と実の頭の上に拳を落とす。

 

 

「今北産業」

 

 

「もぎもぎ撒く、布掛ける、地雷突破」

 

 

「了」

 

 

簡潔に説明をすると実は百を見た後にポンと手を叩いた後頷いた。

 

 

「日本語話してくれるか。とはいえ、理解できるし、いいけどな」

 

 

人使が足首を回して調子を確かめるのを見て、百が肩を叩いてきた。

 

 

「あの、幾度さん?先ほどから気になってはいたのですが、この方たちは?」

 

 

「普通科の人使と寒波だ」

 

 

「えぇ……。幾度お前あんだけ煽っといてよく普通科で一緒に行動する奴いるな。何だよそのコミュ力」

 

 

実がドン引きとでも言いたそうな顔でこちらを見ている。別にいいだろう、結果オーライだ。

 

 

「俺はメリットがあるからだ。人使は前からダチっぽかったがな」

 

 

「ふーん…で、行くなら早くしようぜ。頼むぜ八百万」

 

 

「言われなくてもそうします。あと、貴方だけは私の真後ろに立たないでください」

 

 

「はぁ!?そうしないともぎもぎをうまく投げれねぇじゃん!」

 

 

身体に手をまわし、ジトっとした目で実を睨みつける百。実の顔を見ればまぁ考えていることなんてまるわかりなので当然の措置だろう。実を持ち上げて肩車の形で乗せるとオイオイと実が嘆く。

 

 

「だったら俺が肩車してやるから、ほれ乗れ実」

 

 

「何で男に肩車されなきゃいけねぇんだよ!」

 

 

「女でも嫌だろ馬鹿かチビ」

 

 

「そこまでにしろ熱波!もう行くぞ!」

 

 

もうこの地雷原にたどり着いた人間も多く、人数が増え始めた。狙いを悟られて妨害されるのも面倒だ。――このタイミングで行くしかない。

 

 

「実!」

 

 

「わかったよやればいいんだろ!おりゃあああああああああ!!」

 

 

パン、と肩に掛けられた足を叩くと、実が頭についているもぎもぎをがむしゃらに前方へと投げた。もぎもぎはペタリ、またペタリと土の色の変わった箇所へと落ちて行く。

 

 

「―――頼むぞ百!」

 

 

「えぇ!行きます!」

 

 

百が腹の部分から布を個性で作り出しながら走り出す。身長の高い百であるがゆえに、歩幅も意識して合わせる必要がなく最速で地雷原を駆け始める。

 

 

「行け!行け!行け!」

 

 

「転んだら吹っ飛ぶからな!助けに行く暇ねぇから足並み合わせろよ!」

 

 

「言われなくてもわかってる!――ッ!――幾度!!今踏んだ感触がしたが作動してない!」

 

 

「よし上手くいってるぞ!このまま行け!続けろ実!」

 

 

「言われなくてもおおおおおおおお!!おりゃああああああ!!」

 

 

実が投げ、百が布を作り、その後ろを一列になり駆け抜ける。走る中でもぎもぎを踏んだ感触と同時にガチン、と何かがはまるような音が足から伝わってくるが、爆発は起こらない。

 

 

『おおぉぉぉぉ!?何だ何だぁ!?ヘッドハンターズが仲間を増やして強行軍してんぞぉ!?てかなんで地雷が作動してねぇんだ!?』

 

 

『峰田に…八百万……考えたな。使われている地雷の仕組みを理解したんだ。最適解を導き出してる』

 

 

『へー!やるじゃねぇかヘッドハンターズ!そうなると前方で足を引っ張りあってるやつらはかなりやべぇんじゃねぇかぁ!?おいおい遊んでていいのかYO!!』

 

 

地雷原を最速ともいえる速度で駆け抜けた俺たちの視界に先頭を走っていた焦凍と勝己の背中が映る。

 

 

「見えた!先頭だ!」

 

 

「そうはさせねぇぞA組ぃぃぃ!!」

 

 

背後を振り返れば、B組のなんか熱い奴が後ろから追い掛けてきていた。さらにその後ろには俺たちの行動に気づいた他の生徒が続いている。

 

 

「ハッ!こんないいもんを残してくれるなんてな!おかげで上位に食い込みやすくなったぜ!ありがとうよA組!!」

 

 

『おぉっと!?ヘッドハンターズの残した道に他のヤツが続いてるぞ!?逆に首を絞めたかぁ!?』

 

 

「どうすんだよ幾度!」

 

 

「気にせずそのままもぎもぎを投げてくれ!……人使、頼めるか」

 

 

「あぁ」

 

 

実が俺の肩の上で慌てるのを抑え、そのままもぎもぎの投擲を続けさせる。肩越しに人使に合図を送ると人使はニヤリと笑った。

 

 

()()()A()()()()

 

 

「あぁ゛!?何だテメ――」

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

「…」

 

 

「おい!何で止まって――ちょ、押すな――――ああああああああ!!!」

 

 

『おぉっと!?後ろについて行ってたやつらが転倒してまとめて大爆発ーー!!!』

 

 

人使の洗脳を受けたB組の奴はその場で足を止め、後方の他生徒を巻き込んでその場でもつれて大転倒を起こした。そしてそれは同時に傍の地雷を作動させることとなり、後続についてきていた生徒達や残した道と一緒にまとめて吹き飛んだ。

 

 

「ナイスだ心操」

 

 

「おう、これで心置きなく上位に食い込め――」

 

 

直後、後方で起きた大爆発に実が肩の上でビクリと跳ねた。

 

 

「な、なにが起きたんですか!?」

 

 

「おい上見ろ幾度!」

 

 

「あれは…出久か!」

 

 

『な、なんだぁ!?ありゃぁ……!A組緑谷だ!爆風で猛追――っつーか抜いたああああ!!』

 

 

後方で起きた大爆発で巻き上がった煙の中から一筋の煙が俺たちの頭上を越え、更には焦凍や勝己の頭上すら越えていった。このまま行けば先頭に着地をしてそのまま駆け抜けられるだろう。

 

 

「ハッ…やるなあいつ…緑谷出久…だったか」

 

 

「ああいう発想が出来る奴だからな。でも…多分…()()()()

 

 

「抜かれてしまったのなら仕方がありませんわ!このまま行きます!」

 

 

正面の二人も、出久を追うために争うのをやめて、走り出す。このまま行けば追いつかれるだろう。そして着地のタイムロスを考えれば抜かれる。さて…どうする出久?

 

 

()()()()?どういう事だ幾度――」

 

 

()()()()()()()

 

 

そう答えた瞬間、正面で大爆発が起きた。…狙ってやったのか?だが、間違いなく運がいい。

 

 

「ま、またですか!?」

 

 

「おい!爆豪と轟が吹っ飛んだ!行けるぞ幾度!」

 

 

「今の内だ!行くぞ!!」

 

 

「――ッ!幾度ッ!?クソ!追いつかれたか!!」

 

 

「スカシィィィィ!」

 

 

正面の二人が体勢を戻しているほんの数秒のタイムロス。そのタイムロスは俺たちが追いつき、追い越すのには十分な時間だった。地雷原を抜け、一列だった隊列は横並びになり――ゲートを目指して走る。ほんの数歩分先へ行く出久を追い、俺、人使、寒波、実、百が走り、出遅れた焦凍と勝己は個性で加速をした。

 

 

出久との距離も少しずつ縮まっていく、そして――

 

 

 

『雄英体育祭!1年ステージ!!序盤の展開からこの結末を誰が予想できた!!??今、一番にスタジアムへ帰ってきた!!!そいつの名は―――ってうおぉぉぉぉぉ!?』

 

 

 

ゲートを越える。

 

 

 

『何だ今のはぁ!!??すっげええええええ!!おいカメラ!!ちゃんと今の撮ってただろうな!スロー再生で判定すんぞ!!』

 

 

しかしそれは、まさしく横一列のゴール。

 

 

 

 

同着だった。

 

 

 

 

「ハッ――俺だ俺!俺が一番だオラアアアアア!!」

 

 

「何言ってんだ…俺が一番だ」

 

 

「僕――ゲッホ…!僕が一番!!」

 

 

「オイラだぜッ!オイラ!!」

 

 

「私ですわ!…ッ私が最初です!」

 

 

「ふぅ…微妙なところだったな。カメラの画像待ちか…」

 

 

モニターに表示された『判定中、しばらくお待ちください』の字。

 

 

「生まれて、初めてここまで、全力疾走したな…脇腹痛ぇ………熱波?どうした?」

 

 

「ハァッ…おい…心操…なんだッ…これ…夢か?俺…今…」

 

 

人使の声につられて寒波を見れば、寒波はほんの少しだけ呆けたような顔でモニターを見ると顔を歪ませ、震える手で顔を覆ってしまった。

 

 

「熱波……」

 

 

「ははッ…天下の、雄英高校、天下の…雄英体育祭だぜ?そこによ…そこの第一種目とはいえよ…そこで、この俺が、中途半端…、()()()()…なんてあだ名…付けられて陰口言われ続けた俺がッ…一位になるかもしんねぇって…そう言う所に……ッ!何だよ…これッ…クソッ…」

 

 

両ひざに手を置き、項垂れる寒波の顔からポタリと雫が落ちる。人使は寒波の肩を抱き起こし、前に進ませる。

 

 

「じゃぁよ、もっと見せてやろうぜ。俺達はこういう場所に立ってんだって、カメラに、全国に、お前を馬鹿にしたやつらに見せつけてやろうぜ」

 

 

「あぁ…くそッ…。ありがとう心操…もう大丈夫だ…」

 

 

顔をゴシゴシと袖で拭い、寒波が顔を上げてこちらに歩み寄って来る。

 

 

「おい、A組の…名前…聞いてなかったな」

 

 

「……幾度継司(きどけいじ)だ」

 

 

「幾度継司…か…。俺も改めて名乗っておく、熱波寒波(あつなみかんぱ)だ」

 

 

「最初の氷のとこは助かったよ。お前がいなきゃ俺はもっと後ろだった」

 

 

俺の言葉を否定するように寒波が首を振った。最初に見た時のような冷めた雰囲気や顔つきは無く、穏やかな二枚目といった顔だった。

 

 

「それを言うなら俺もだ、お前や人使がいなきゃロボのとこも突破できたかわからねぇ。ロープの所も、地雷原の所も…突破できたかわからねぇ。いや…昨日までの俺なら間違いなく始まる前から諦めてた。でも…お前が開会式で煽ってくれたから、少しだけ、やってやろう、って…人使に声掛けて…そんで…」

 

 

その言葉を聞いて百や実が近づいてくる。百は寒波を見据えて一度礼をした。

 

 

「A組の八百万百(やおよろずもも)といいます。それを言うなら私もですわね。そもそも、あそこの地雷原の所であなた方と合流することがなければ歩いて地雷原を渡っていましたでしょうから、ここまで上位ではなかったはずですもの。極論を言ってしまえば、貴方が幾度さんを連れてきてくれたようなものなのですよ?」

 

 

百の言葉に実が同意して肩をすくめた。

 

 

「A組の峰田実(みねたみのる)ってんだ。ま、オイラも同じ意見だな。お前たちがこなきゃ八百万にくっついて来てただろうから必然的にオイラも少し順位下がってただろうしなー」

 

 

「最っ低ですわッ!」

 

 

「ハッ…見ろよ熱波、お前がここにいるのは、誰かのおかげでもない、お前自身の個性のおかげなんだぜ?誇れよ、胸を張れ。―――おいまた泣くな。二枚目が台無しだぞ」

 

 

「すまねぇ…ッ。俺、勝手にヒーロー科の奴なんて、プライドと個性だけの、イヤな奴だって…すまねぇ!」

 

 

「俺も入試の時まではそう思ってたよ。でもな、分かり合える奴ってのは、案外いるもんだ」

 

 

こちらを見る人使に対して肩をすくめて答える。

 

 

「ああ…そうだな…ありがとう皆…」

 

 

『待たせたなオーディエンス!画像が出るぜ!ぶったまげる心の準備はOKか!?ったくやっべぇなおい!雄英始まって以来って感じじゃねえか今回のゴール!まさか八人が同時にゴールだなんてよぉ!』

 

 

『まぁ俺も正直ここまで予想してなかったし、始まる前の俺に言っても信じないだろうな』

 

 

『はっはー!じゃあ行くぜ!第1位は!!コイツッ!!』

 

 

モニターにスローモーションの映像から切り取られた画像が表示され、コマごとに送られていく。全員が全員必死の表情でゴールを割る瞬間だった。そして表示される1位は――

 

 

 

 

 

 

『A組!!緑谷出久!!』

 

 

 

 

 

 

「ッッやっ――たああああああああああああ!!!!!」

 

 

「ッ――クッソがああああ!!」

 

 

『コイツは最後の最後で大逆転を見せてくれたぜ!万雷の拍手を送ってくれオーディエンス!』

 

 

両手を振り上げ、ボロボロと泣き出す出久と、両拳を地面にたたきつけ悔しがる勝己。表情こそよく見えないが、焦凍も拳を強く握りしめて悔しがっているようだった。

 

 

『第2位は――コイツッ!!』

 

 

 

再度コマ送りが進み、第2位――人物の画像が表示される。

 

 

 

 

『A組!!轟焦凍!!』

 

 

 

 

 

「1位じゃなきゃ…クソッ…」

 

 

『逆転こそ許したが最初から最後まで圧倒的だったなコイツは!安定してトップを走り続けるその実力!拍手を頼むぜお前ら!』

 

 

息を吐く焦凍と、未だ拳を地面に叩き付けている勝己。続けて画像のコマが送られ――人物の画像が表示される。

 

 

『第3位は――ッ!!おいおいマジか!マジかよおい!!やっべええええええ!!テメェら驚け!!第3位はコイツッ』

 

 

その人物の写真が表示された瞬間、観客から大歓声が上がった。

 

 

 

 

 

C()()!!熱波寒波!!!』

 

 

 

 

 

「ッッ!!ッシャアアアアアアアアアア!!」

 

 

「マジかッ!マジかよ熱波!!」

 

 

人使と寒波は握手をした後互いに抱き合い、喜びを分かち合っている。流石に、これは凄い。観客の歓声もあるからか、鳥肌が立ちっぱなしだ。

 

 

「……何で…普通科…ヒーロー科でも…ねぇ…ッ!!アアアアアアアッ!!」

 

 

『やっべえええええ!普通科が上位に入んの初めて見たぜ俺!!』

 

 

『見事としかいいようがないな。観客の皆さん、彼に拍手を』

 

 

相澤先生の言葉を受け拍手はさらに増し豪雨のような拍手と歓声が上がる。

 

 

『とはいえだ!まだまだ順位の発表は続くぜ!!!第4位はコイツ!!』

 

 

画像が送られる。人物の写真が表示される。

 

 

 

 

 

『A組!!爆豪勝己!!』

 

 

 

 

 

「……4…位…3位でもねぇ、ましてや、普通科のモブに負けての4位なんざッ…いるかクソがッ!!」

 

 

『認めろ爆豪、最後の最後、どんな事が途中にあったとしてもその結果、上位の三人はお前を確かに0.何秒を上回ったんだ』

 

 

「ッ…ックソォ…」

 

 

『上昇志向ってのはどんな物事にも必要だ!忘れるんじゃねぇぜその悔しさ!!続いての発表!第5位は――コイツ!!』

 

 

画像が表示される。その画像をみて人使が背中を叩いてきた。

 

 

 

 

『A組!!幾度継司!!』

 

 

 

 

 

「ハァ……なんとか5位には入れたか」

 

 

『来たなヘッドハンターズ首領!己の力だけじゃなく周囲を巻き込み、試練を突破して駆け上がる!実は俺のイチオシだぜまったくよぉ!!』

 

 

『ロボインフェルノの突破、峰田と八百万を引き入れての地雷原の突破、見事だ』

 

 

『とはいえ大丈夫かよおい!?このままじゃぁ表彰台をA組で独占ってのもちょっと怖くなってんじゃねぇのか!?』

 

 

『……』

 

 

「今じゃないです!表彰台なんで!最後にA組で独占すればいいんです!!」

 

 

『ハッハァ!!期待するぜ予告ホームランをなぁ!次の発表第6位!!おうおう今日は大番狂わせが多いってんだな!第6位はコイツ!!』

 

 

画像が表示されると

 

 

 

 

 

C()()!!心操人使!!』

 

 

 

 

 

人使の名前が呼ばれ、寒波が肩を叩く。人使は恥ずかしそうに顔を掻きながらも、またもや豪雨のような拍手を送ってくれる観客たちへと手を振った。

 

 

『まぁたまた普通科からの入賞だ!!ヘッドハンターズの右腕!コイツもなかなかのハンティングぶりだったぜ!』

 

 

『そのヘッドハンターズってのやめろ。とはいえロープ渡りの時も感じたが、入試の時を鑑みれば体力も技術も大きく成長している。努力の跡が見て取れるな』

 

 

「…わかる人はわかってるんだな」

 

 

「やめろ、恥ずかしい」

 

 

『続けて第7位の発表!コイツも終始安定してたな!!第7位はコイツ!』

 

 

 

 

 

『A組!!八百万百!!』

 

 

 

 

 

「うぅ…嬉しいことは嬉しいのですが…もっと上に行きたかったですわ」

 

 

『ハッハ!いい飯食わせてもらってるご両親に感謝するこったな!』

 

 

『確かに、恵まれた身長や長い手足はバランスの取れた食事から得ることが出来る。ストライドの大きさからくる走力の高さも今回の順位争いに食い込むことが出来た大きな要因の一つだろう。だがそれ以上に個性の使い方の巧みさや状況判断の的確さが大きいことも忘れるな。よくやった』

 

 

『あ?身長?…ストライド?』

 

 

『……お前』

 

 

『…………さぁて第8位の発表に行くぞオーディエンス!』

 

 

『おいマイク止めろ。お前な本当に――』

 

 

「えっと……どういうことですか?」

 

 

「知らなくていい……全く、全国生放送だぞあの人」

 

 

『落ち着けってイレイザー!あとでサルミアッキやっから!!……よし第8位はコイツ!!』

 

 

 

 

 

『A組!!峰田実!!』

 

 

 

 

 

「俺がこん中で最下位かよ!!チクショー!!」

 

 

『おいおいおい!1位とのタイム差は0.1秒しかないんだぜ!?8位も1位も正直僅差っつーか誤差だよ誤差!!誇れってんだ!!』

 

 

『そうだ、お前がどう動くか、そしてどの流れにベットするかを的確に判断出来たからこその結果だ。――とはいえ、峰田、八百万にしようとした事の件で後で話がある。逃げんなよ』

 

 

「あ…」

 

 

「自業自得だ。怒られて来い」

 

 

『さて!あとは疲れるからそのままゴール順に表示していくぜ!本来は予選だし1位だけの発表だったんだぜ!?こんな面白いことになったらそりゃお前ら全員発表するっての!!あとはパスだぜミッドナイト!』

 

 

『はいはーい!じゃぁそれぞれ順位を確認しなさい!予選を通過したのは上位の42名!残念ながら落ちちゃった人も安心なさい?まだ見せ場は用意されてるわ。そして次からは本選になるわ!気張りなさい!それじゃぁ第2種目の発表!』

 

 

ミッドナイトの合図でモニターに表示される競技。その文字を見て観客も生徒達もざわついた。

 

 

『騎馬戦』

 

 

「騎馬戦かぁ…おれダメな奴だ…」

 

 

「個人競技じゃないけど…どうやるのかしら?」

 

 

『説明するわ。参加者は2人から4人のチームになり自由に騎馬を作ってもらうわ。基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど…一つ違うのが…先ほどの結果に従い各自にポイントが振り当てられること!振り当てられるポイントは下から5ずつ増えていくわ。そして1位に与えられるポイントは―――』

 

 

 

『一千万!!』

 

 

 

一千万である意味ってなんだよ。いや、確かにこれで分かることは上位に行けば行くほど狙われるってこと、つまり俺から言える事は…

 

 

「まぁ何だ。出久…がんばれ」

 

 

「うそおおおおおおおおお!!!??えッちょっと待って一千万!?一千万!!??」

 

 

『この後すぐにチーム決めの時間を15分取るわ!決まり次第本部に報告しなさい?ハチマキをつくるからね!』

 

 

「……まぁお前は狙われる側に回ったってことだ。騎馬選びは慎重にな」

 

 

とはいえ俺は騎馬を組む味方の見当はすぐについたしな。

 

 

「ッ!そうだ幾度君!よかったら僕と組まない!?」

 

 

「慎重にって今言ったばかりだろお前。ったく……察しろよ、出久。俺だって最初は42位以内に入れるかも自信がなかったんだぞ?――でも今ここにいる。そうすれば、欲が出るのが人間ってものだろう」

 

 

そう言って人使と寒波の肩を叩くと、察したのか二人は頷いて俺の隣に立った。出久が、ゴクリと唾を飲み込み表情を警戒のものへと変化させた。

 

 

「狙われる側に回ったって言ったな?…せいぜい、気を付ける事だ。首を刈られ(ポイントをとられ)ないようにな」

 

 

「幾度君…」

 

 

 

 

 

悪いが、今回…俺は本気で勝ちに行くぞ…出久。

 

 

 

 

 





・キャラクタープロフィール

NAME:熱波 寒波(あつなみ かんぱ)


出身:東京郊外


Height:186cm


Weight:78kg


好きなもの:音楽を聴く事(EDM等)


嫌いなもの:自分の個性


個性:熱波&寒波


熱波's髪型:色はパーマ&マッシュ 色はシルバーアッシュ


The 補足:イケメンで高身長、頭も運動神経もよく人柄もよい。だが個性が他人と比べられた際に中途半端と捉えられることが多く、妬みで熱波半端というあだ名を付けられたり嫌がらせを中学校生活を通して受けて荒む。他人からの評価は『個性以外は完璧』


顔つきは、垂れ目が無い物間のような感じ。イケメン。








大変長らくお待たせしました。長いです。


可笑しいな、最初は書いてて心操の性格軟化してるし友達の一人くらいいてもいいだろって思ってたんだけどなぁ…。熱波がいなければ正直ゴールの順位は原作通りサラッと流して幾度も後半あたりに食い込ませる感じだったのに…。



『熱波君誕生秘話』


『心操の友達一人作るか→名前と個性どうしよ→お、パッと思いつきの名前にしては本誌でも出てきそうだし個性も普通科らしいじゃん→(バックグラウンドを想像)……ん?主人公かな?→何だコイツ!?(恐怖)』




次回、騎馬戦。


最後のトーナメントの組み合わせ考え直さなきゃ…。お前のせいだぞ熱波ィ!(尚お気に入りの模様)




評価、コメント、誤字報告大変有難く思っております。時間こそかかるでしょうが気長にお待ちください。

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