I wanna be the HERO!!   作:Natural Wave

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第21話 雄英体育祭 上鳴VS発目

爆豪と瀬呂の試合の後のステージの状態がひでぇもんだからとセメントス先生が急ピッチでステージを直してる最中、俺は俺でどうしたもんかと控室で時間を潰していた。爆豪の試合が終わった直後にトイレに行ったから催してはいないし、腹が減ってるわけでもない。恐らく後十分程は時間がかかる。

 

 

「う~ん、ストレッチでもしておくかぁ?」

 

 

そう考えて俺が立ち上がって肩や手を回し始めたのと同時に、ドンドンドン!とドアが強めにノックされた。

 

 

「は~」

 

 

い、そう言おうとした瞬間、俺の返答を待とうという素振りも見せずにガチャリとドアが開けられた。突然入ってきたゴーグルを掛けた女の子。確か、名前は発目 明(ハツメ メイ)だったはずだ。

 

 

「貴方が対戦相手の方ですね!」

 

 

そう言い、ゴーグルを額に上げた発目ちゃんは俺の顔をまじまじと見つめると、腰のポーチから取り出したメモ帳に何かを書き記していく。

 

 

「あ、あぁ、うん。そうだけど?というか何の――」

 

 

「あのですね、貴方にお願いがありましてですね」

 

 

嘘だろこの子。人の話全く聴かない…!!

 

 

「ちょちょ、ちょっと待って。いきなり来られてお願いとか言われても困る困る」

 

 

発目さんの肩を抑えて少しだけ落ち着かせると、発目さんはキョトンとした顔で首を傾げてこちらを見詰めた。お、おぉう、かなりイケてる仕草…!!

 

 

「何ですか?」

 

 

「―ハッ!いやそれこっちのセリフ!何しに来たの!?」

 

 

「ですからお願いに」

 

 

「うぅん!堂々巡り!!」

 

 

駄目だ!話が始まらない!!一旦リセットしないと…!!

 

 

「ちょ!ちょい待ち!!」

 

 

発目さんの肩を離して、背中を向けて距離を取って深呼吸。よし……よし。オッケー。お兄さんモードオン。

 

 

(わり)、もうオッケー。で、発目は何をお願いしに来たの?」

 

 

「あぁ、もういいですか?私がお願いしに来たのはですね!()()()()()()()()()()()()()()()のですよ!!」

 

 

 

 

「あぁそう!()()()()()()――って出来るか!!

 

 

 

 

俺の全力のノリツッコミが控室に響く。っつかこの子何言ってんだ!?そして何で首傾げてるの!?対戦相手にわざわざ個性教える奴いないだろ!それに俺の個性騎馬戦で見てたでしょうに!

 

 

「いきなり何!?ってか俺の個性騎馬戦の時に見たよね!!」

 

 

「………?」

 

 

「え!?何その反応!?何でわかんないの!?電気よ電気!!結構派手でしょ!!思い出した!?」

 

 

パチチッ!と体に紫電をめぐらすと、発目は、おぉ、と感心したような声を上げてまたメモを取り始めた。

 

 

「ふむふむ、電気を発生させるのですね!電力量や電圧はある程度操作できるのですか?全身に纏うだけですか?一部分にのみ発生させることは!?」

 

 

ズズイ、とこちらに詰め寄って来る発目。顔近い近い!!

 

 

「えぇ!?放出する量はある程度大小出来るけど強すぎると頭パンクするし、部分的にはあんまし得意じゃないっていうか…どっちかってーと苦手っつーか…」

 

 

「成程!では失礼します!」

 

 

「あ!ヤベッ!」

 

 

あたふたと発目から顔を逸らそうと考えたために、つい出てしまった個性の弱点。メモを一通り取ったであろう発目はガチャバタン!と即行で部屋を出ていった。

 

 

「言っちゃったよ……俺のバカァ……。ってかあれ何だったんだよ……」

 

 

 

*

 

 

セメントスがステージの修復を終わらせ、こちらへと合図を送るのを確認したマイクが息を吸い込んだ。

 

 

「お待たせしたぜオーディエンス!!ボロボロだったステージももう大丈夫だ!思いのほか押してるんでちょいと急ぎ目で紹介に入る!っつーことでコイツもかなり画面映えするタイプだな!強力な個性でオーディエンスを痺れさせてくれよ!?A組!!――上鳴 電気!!

 

 

マイクの声を聞き、上鳴がゲートから出てくる。多少の緊張はあるだろうが、表情にはあまり硬さは感じられない。試合が始まれば直ぐに解れる程度の緊張だろう。悪くないな。

 

 

「続いてはこのトーナメント戦唯一のサポート科だ!その場その場に適したサポートアイテムを駆使してここまで勝ち残ってきた!この試合でもどうサポートアイテムを使うのか今から楽しみだ!!C組!!――発目 明!!

 

 

 

サポート科は受け持っていないからわからないが、障害物競走や騎馬戦でのアイテム捌きは確かなものだった。ただ単にモノづくりに没頭するだけでなく、自分自身でモノを使い込み問題点を洗うという開発者に必要な資質は確かに感じられた。この資質を持つ生徒が近頃減ってきているとパワーローダーが嘆いていたな…そう言えば。

 

 

「……」

 

 

「……発目 明!!

 

 

マイクの声が場内に虚しく響き渡る。しかし彼女自身は未だゲートから姿を現さない。それから更に少ししても姿を現さない発目に観客がざわつき始めた。

 

 

「おいミッドナイト、彼女は?」

 

 

『サポートアイテムを用意するのに時間が掛かるそうよ』

 

 

「Damn it!!最初っから用意しとけっての!!」

 

 

「おい、生だからな。気を付けろ」

 

 

ガバっとマイクがツッコんだ。確かに、前回の試合の短さもあるがセメントスがステージを修復していた時間を考えるにこれはあまり褒められたものではない。しかし、ミッドナイトはモニターの時計を確認すると肩を竦めた。

 

 

『私に言わないでよね。サポート科のアイテム使用は認められてることだし、私がとやかくいう事じゃないわ。五分経っても入場が無い場合は不戦敗ってルールにもあったし、まだ大丈夫なはずよ』

 

 

「そりゃぁ、そーだけどよー」

 

 

ぶつぶつとマイクボリュームを切ってから文句を言い始めたマイク。

 

 

 

『お待たせいたしましたぁ!!』

 

 

 

――と、そこに特大の音声が響いた。

 

 

「……え?」

 

 

……。

 

 

『いやぁ、申し訳ありません!カスタマーに適したアイテムを()()()()()()()()()もので!!』

 

 

ガッチャガッチャと体中に様々な機械を取り付けた発目がゲートから姿を現した。

 

 

「ふむ……」

 

 

しかし、今さっきアイテムを作って来た…そう言ったな。となると、体中に装着されたアイテムは前回の試合が終わってから二十分程で作り上げた…というよりは組み合わせたという事か。

 

 

「つーか何だよそのマイク!!」

 

 

『あぁすいません!これは私の用いるアイテムの説明に必要と思ったもので!』

 

 

「ハァ!?何だそりゃ!!――ったくまぁいいぜ!あと少しで放送事故だったとこだぞおい!!次は気を付けてくれよな!」

 

 

『善処します!!』

 

 

「じゃぁ行くぜ!!READY!!

 

 

「……」

 

 

パチ!と上鳴の身体から紫電が迸り、発目が目を輝かせる。試合が始まる直前のこの一瞬。いい緊張感だ。

 

 

「START!!」

 

 

マイクの宣言と同時に、会場が迸る雷に包まれた。明滅するステージを見てヒュゥ、とマイクが小さく口笛を鳴らした。

 

 

「先手は上鳴!しょっぱなから飛ばしていく!対して発目は!?」

 

 

『うっふっふ…いいですねぇ。いいパワーですよ上鳴さん!これならヴィランもイチコロですね!』

 

 

土煙が舞う中で会場に響く余裕さを感じさせる音声。まぁ、対策をしてきているのならこれで倒れられても困るか。

 

 

「効果なし!!やはり対策を立ててきていたようだ!!」

 

 

土煙の晴れたステージにある一つの白い布。バサリと取り去られたその布から発目が姿を現した。

 

 

『こちらは私の開発したベビ-です!今しがた電撃を防いだことからよくある絶縁体を用いたただの布ではないか!――そう仰りたい方もいらっしゃるかもしれません!しかし私の開発したこのドッ可愛ぃベイビーの特徴は!その薄さと軽さ!そして強靭さです!』

 

 

そういいながらその布をパタパタと折っていく発目。人を一人包めるかという程の、大きさの布であったが彼女が折っていくとポーチに収まるであろう程度の大きさに収まった。

 

 

『このサイズならば!非常用セットに入れ、人を運ぶ担架代わりにも防寒用のシーツにもなります!防水加工も施してありますので雨よけにもなります!』

 

 

……成程。確かに、ヒーロー向けではなく一般向けと言われれば悪くは無いな。

 

 

『続いてはこちら――おっと!!』

 

 

無視をするな、そう言わんばかりに再び放電をする上鳴。しかし再び布を被った発目には効果が無い。というかそこまで高出力な攻撃を続けていては限界が来る筈だが大丈夫か?

 

 

『これは危ない!危険なヴィランが暴走しています!!』

 

 

白々しく、まるでテーマパークの係員のようにそう言った発目が取り出したのは、一丁の信号拳銃のようなもの。発目はそれを上鳴に向けると引き金を引いた。ドバッと飛び出した網が上鳴に絡まり、上鳴はその場で倒れてもがいた。

 

 

『いかがでしょう!こちらも私が開発した暴徒鎮圧及び捕縛用ベイビーです!網に用いられている繊維も先ほどのベイビーと同じく絶縁及び防火防刃加工が施されています!操作は二つ!撃鉄を起こし!引き金を引く!たったそれだけです!網の装填されたシェルも単体でお求め出来ます!!家庭用にも!店舗等の非常時にもお役立ちするでしょう!!』

 

 

「……何だこれ」

 

 

「知らん」

 

 

『そして――こちら!!』

 

 

そう言った発目がのしのしと上鳴に近づき、もう息も上がり顔からも見て分かるほど限界を迎えかけているであろう上鳴の全身に何かを取り付けた。上鳴は最後の抵抗のように電気を放出するも、他にも対策を立てていたのであろう発目は物ともせずに懐からコントローラーのようなものを取り出す。カチカチと発目が何かのダイヤルを操作すると、途端にビクンと上鳴の身体が跳ね起きた。

 

 

『こちらは私が開発した強制ギプスです!第三者の手で操作の出来るダイヤル操作も、本人の意思で行える音声操作も可能!上鳴さんの状態を見るに放電は体力を著しく消耗するようですね!となると個性の限界を伸ばすには体力向上は必須!!ではまずは筋力トレーニングからです!音声入力に切り替えまして――スクワット用意!!

 

 

発目がそう言うと、立ち上がった上鳴の身体は手を前に出し、足を肩幅に開いて腰を落とす形になった。

 

 

『1!2!3!』

 

 

グイングインとスクワットを始める上鳴の身体。

 

 

『どうですこの滑らかな駆動!関節部には余計な振動や負荷をかけず!それでいで筋肉には限界手前の負荷をかけ続けることが出来ます!――次!腕立て伏せ用意!!

 

 

スクワットの姿勢から腕立て伏せの姿勢へと移行する上鳴。うむ、首、背中、腰に足と一直線になった綺麗な姿勢だ。再び発目の号令がかかる度に腕立て伏せを始める上鳴。肘の曲げ方も基本通りだ、あれならしっかりと負荷がかかるだろう。

 

 

『こちらの強制ギプスは体力がある内は必要最低限の出力で関節部などの保護のみを行います!しかし回数を重ねるごとに筋肉のエネルギーは枯渇し力が出せなくなるもの!そこでこのギプスは保護のみに掛けていた出力を筋肉の動きの補助にも出力を回すことで運動を続けさせることが出来るのです!』

 

 

グワングワンと身体の勢いに振られる上鳴の頭。もうあれ泣いてないか?

 

 

『どうです上鳴さん!お体の方は!?』

 

 

『うぇっ、うぇっ、うぇっ』

 

 

『成程ありがとうございます!』

 

 

「うわぁ……」

 

 

「実況してやれ、せめてもの手向けだ」

 

 

……成程。とはいえこれは上鳴の課題点でもあるな。むやみやたらな高出力だけじゃ連戦は出来ない。これからは持久力と、細かい指向性を持たせる訓練が必要か。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

『おや?もう動けないのですか上鳴さん?』

 

 

恐らく上鳴向けのサポートアイテムを一通り試したであろう発目は、ツンツンと痙攣している上鳴の頬をつついた。

 

 

『まだ試したいベイビーがいたのですが……。仕方ありません。――音声入力、立ち上がってリカバリーガールのいる医務室へ歩行』

 

 

発目がそう言うと上鳴の身体はガッシャン、と立ち上がり、ウィン、ウィン、と場外へと出ていった。恐らくリカバリーガールの元へと向かったのだろう。しかしまぁ…あれだな……これは後を引きそうだ。

 

 

『……上鳴君場外。二回戦進出は発目さんよ』

 

 

ミッドナイトの宣言を聞き、発目は四方に一礼をした。

 

 

『いかがでしたでしょう!私のベイビーたちは!一般、及び企業向けのサポートアイテムを用いた第一試合とは趣向を変え!続く第二試合では特にヒーローの皆さまへと向けたサポートアイテムをお持ちします!また後程お会いしましょう!!以上!発目 明!発目 明でした!』

 

 

やりたいことをやり終えたら、風のように去っていった発目。マイクは眉間を摘まむと、一度深呼吸をした。

 

 

「あー、なんつぅか、実況の立場を奪われちまったって感じだったが、良しとするぜ!ったく!!商魂たくましいって感じだったな!それに結構男心がくすぐられるアイテムも幾つかあったし見てて面白かったぜ!」

 

 

マイクの言葉を聞き既に無人となったステージに向けて拍手を送る観客たち。特に男性からの声援が大きいな。

 

 

「んじゃぁ!次の試合は十分後だ!第一回戦ラスト!コイツは面白そうな組み合わせだ!今のうちにクソしとけよ!!」

 

 

「おい生放送だって言ってるだろ」

 

 

 

音声入力のボリュームをオフにしたマイクが笑いながら対戦表をパラパラとめくった。

 

 

「どう見るよ?()()!!」

 

 

マイクが指し示す次の試合。緑谷VS幾度の文字。

 

 

「……」

 

 

()()()()()使()()()()()()()()()()()に対して、ドデカい一発を持つ緑谷。楽しみだぜ全くよぉ…頼むから即行決着ってのは止めてほしいぜ」

 

 

そう……。幾度はアイテム…の対個性用拳銃(A P G)の使用許可が下りている。もし幾度がAPGを使用したなら、数秒で決着もあり得る。しかし……。

 

 

「でも、緑谷もそれは考えてきてる筈だしなぁ。初手は読みあいになるんじゃねぇか?」

 

 

俺が考えてる事を読んだとでも言わんばかりに、ニヤリと笑いながら背もたれに背を預けて頭の後ろで腕を組んだマイク。

 

 

「どうだろうな…。幾度も緑谷も行動が読めんタイプだからな。読めるタイプだったら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()U()S()J()()()()()()()()

 

 

まぁ、それは幾度に助けられた俺もだろうがな。俺が対戦表をマイクの方へと押し返すと、マイクは時計を見て立ち上がった。

 

 

「んじゃ、俺もちょっくら外すぜ。トイレ行っとかねぇとな!本気で実況するためにも、余計なもんは全部出しとくぜ~!!」

 

 

……ったく、今日はいつにも増して遠慮が無くなってるな。

 

 

「……」

 

 

この二人の試合は、教師としてそれぞれ一人ずつ見たかった。二人の課題点を洗うためにも、可能ならば一回戦、若しくは二回戦まで勝ち残って欲しかったが…これも何かの縁か。椅子から立ち上がり、時計を見ると試合開始までまだ八分程残っている。十分にトイレに行く時間はある。

 

 

「なら、一人の人間として、一人のヒーローとして楽しませて貰うぞ」

 

 

 




お待たせしました。


感想、評価、誤字報告等とても有り難いです。感謝します。


次回、緑谷VS幾度です。

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