GATE ダイアモンドドッグス 彼の地にて斯く、潜入せり   作:謎多き殺人鬼

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帰還

リリーは細心の注意を払いつつ移動していると、道路に出た。

道路には工作員の車とおぼしき大きめのワゴン車が止められており、見張りなのかワゴン車の運転席に男が一人待機している。  

 

《ワゴン車か・・・軍用ではないが、車は車だ。奪えば十分な足になる。やるのはお前次第だが》

 

オセロットにそう言われると、リリーはそっとワゴン車に近づき、回収しなおした拳銃を男に向けた。

 

「手を挙げろ」

 

「なッ!?だ、誰だ・・・!」

 

「手を挙げて、車から降りて」

 

リリーに促される様に男は車から降りると手を上げる。

 

「・・・地面に伏せなさい」

 

「わ、分かった・・・」

 

男は地面に伏せるとリリーは適当な紐で男を拘束すると、車に乗り込みエンジンを付け、車を運転する。

リリーは車を運転しつつ、ミラー達が向かいそうな場所を考えていると、無線が入る。

 

《ウルフ。ミラー達はどうやら銀座に向かう様だ。お前も銀座に向かってミラー達に合流してくれ。それと、その車は適当な場所へ捨てて置け、後は日本の政府がやってくれる》

 

「分かりました」

 

リリーはオセロットに言われた通り、銀座に向けて車を走らせる。

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その頃、ミラー達はリリーと同じく工作員の車を奪い、走らせていた。

暫くして近くにあった自販機に立ち寄りテュカとレレイ、ロゥリィの三人に飲み物を買わせに行かせ、念の為にティファニも同行し車内にはミラーと自衛官の伊丹、栗林、富田と梨沙と寝ているピニャとポーゼスの7人がいる。

 

「・・・あの、ミラーさん」

 

そこで栗林がミラーに話しかける。

 

「何だ?」

 

「後でリリーに聞こうと思っていたんですが、本人から直接聞ける様な事ではなかったので貴方に聞きたいのですが・・・リリーは一体、何者ですか?」

 

栗林の言葉に無言で見つめるミラー。

その空気は冷たく、今すぐに抜け出したいと思える物だった。

 

「何者とは?リリーはリリーだが?」

 

「そうじゃなくて、リリーは明らかに人間業を越えてる・・・車並みの速さ、多数の敵を軽くあしらう異常な戦闘能力。どれもおかしいです」

 

「・・・おかしい、か」

 

栗林の言葉にミラーはどうしたものかと考えていると、ミラーの元に無線が入る。

 

「誰だ?」

 

ミラーは無線を取り、そう素っ気なく言うと、予想だにしない人物からの無線だった。

  

《話してやれ、カズ》

 

「その声はボス!?」

 

「ぼ、ボス・・・て、ビックボスですか!」

 

富田がそう言うと、無線越しにいるビックボスことスネークは笑う。

 

《そう呼ばれてはいるが今はスネーク。そう呼んでくれ》

 

スネークはそう言うと、スネークは再びミラーに話し掛ける。

 

《カズ・・・リリーの事はいつまでも隠し通せる事じゃない。共に戦場で戦えばいつかは知られる》

 

「そうだが・・・」

 

《確かに話すにはリスクがあるかもしれない・・・だが、話さずにそのままにするのは不審を招くだけだ。そうだろ、カズ?》

 

ミラーはスネークの言葉で、裏切り者として追放したヒューイの独断による核査察の案件を思い出した。

ヒューイの独断で核査察に扮したサイファーの実働部隊XOFに襲撃を受け、最初に創設された国境無き軍隊が壊滅に近い状態にされた事を。

スネークやミラー、そして生き残った国境無き軍隊の兵士達は何とか脱出するも、スネークとミラーが乗っていたヘリはサイファーに捕らえられていたパスの内部に仕掛けられた爆弾の爆発で墜落、スネークとミラーは負傷する事になった。

 

《カズ・・・》

 

「・・・分かった。全く、あんたには敵わないな」

 

ミラーはそう言うと、伊丹達の方へ振り向く。

 

「さて、リリーは元々はISIS の子供兵として従軍していた経験がある」

 

「あっ、その話はリリーから直接聞きました」

 

理沙がそう言うと、ミラーはそれなら話は早いと言う様に頷く。 

伊丹と富田は分からないと言う表情をすると、理沙が一通り説明して理解する。    

 

「ISISの子供部隊のリーダー的な立場に立っていたリリーはそこで幅広く活動し、国連軍を相手に圧倒的な戦いを見せた。アメリカ軍はリリーの事をブラッドウルフと言う異名を付け、恐れた」

 

「ブラッドウルフ?」

 

伊丹が分からないとばかりにそう呟くと、栗林は何かを思い出したかの様に喋る。

 

「聞いた事がある・・・私が自衛隊に入りたての時にイランに派遣された先輩が言ってた。イランには国連軍も裸足で逃げ出したくなる血に飢えた狼がいるって」

 

「そうだ。ブラッドウルフの正体は他ならぬリリー本人だ。リリーを相手に国連軍は相当頭を悩ませ続けたのか遂に俺達の元に排除の依頼が届いた。まぁ、結果としては回収しても排除と言う事になるからボスが回収したがな」

 

ミラーはそう言うと笑う。

 

「それでリリーを連れ帰って彼女を調べた。血液、DNA、身体能力、目の変化、武器技能。調べられる事を全て調べ尽くし、結果は・・・分からなかった」

 

「分からなかった?」

 

「あぁ・・・あれだけ調べて彼女の全てが分からなかった。ただ、戦場育ちの影響か感情を示す為の表情を無くしていた」

  

ミラーは溜め息をつくと、ベレー帽を深く被る。

まるで長い間、ずっと悩んでいた様な顔で伊丹達の方へ向く。

 

「良いか?どんなに人間離れしていても、彼女の事を嫌わないでやってくれ。彼女も彼女で悩んで苦しんでいるんだからな」

 

ミラーはそう言うと、車の椅子に深く座り寝息をたて始めた。

そこに飲み物を買ってきた三人が戻ると同時に車は出発した。  

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場所は戻り、リリーは車で銀座まで来たのは良かったが、思いのほか人手が多く混雑のために通れずにいた。

リリーはハンドルに人差し指で何度もリズム良く叩きながら通る隙を伺っていると、無線がリリーの元に入る。

 

《ウルフ。その人混みはどうやら伊丹達の仕業の様だ》

 

「この人混みを伊丹さん達が?」

 

《あの理沙と言う女がネットを使って情報をあえて流したらしい・・・成る程、確かにこれなら工作員もまともな身動きは取れまい。なかなか良いセンスだ》

 

オセロットは口癖とも言える言葉を言うと、リリーはハンドルにもたれて溜め息を吐く。

確かにこれなら工作員も下手に動けないが、自分も動けないのだ。

リリーはどうするべきかと考えていると、オセロットがリリーに指示する。

 

《この際、車なんて捨てろ。後は日本の公安が始末してくれるだろうからな。もう徒歩でも良い、早くミラー達の元に向かえ》

 

リリーはオセロットの指示を聞き車を乗り捨てると、ミラー達の元に急いで向かう。

野次馬達を押し退けてリリーは進むと、花を供えて犠牲者を追悼する為の献花台の前に伊丹達とミラー、ティファニが立っていた。

リリーはミラーの元に行き、ミラーはリリーの存在に気付くと前に来る。

 

「お前にしては遅かったじゃないか、リリー?」

 

「ミラーさん。無事、工作員の排除が終わりました。少々、懐かしい顔と一戦交えて手こずった為に遅くなりました」

 

「そうか・・・リリー、この日本での最後のスケジュールである事件の被害者である人々の追悼を行う。心の底から哀悼の意を表してな・・・」

 

ミラーはそう言うと献花台に行き、リリーも来ると追悼が始まった。

ロゥリィが手にした花束を献花台に置くと、目を瞑って哀悼の意を捧げる。

回りも哀悼の意を捧げて静かになる中、ロゥリィが追悼を止めた。

 

「鎮魂の、鐘が欲しいわね」

 

ロゥリィがそう言った瞬間、時間を知らせる鐘が鳴り響き、ロゥリィは満足そうな笑みを浮かべた。

 

追悼を終えた伊丹達共に特地に帰還する為、リリーは封鎖されている門付近まで来ると、ミラーはそこで立ち止まる。

 

「リリー。此処でお別れだ」

 

「・・・マザーベースへ戻られるのですね」

 

リリーは少し寂しげに言うとミラーは苦笑いを浮かべた。

 

「いつまでもオセロットに任せっきりと言う訳にはいかないからな。それに、俺が特地にいなくてもお前ならやっていけるさ」

 

ミラーはそう言ってリリーの肩に手を置いて微笑みかける。

ミラーの目にはまだ幼い頃のリリーの姿があり、その姿が見違える程に成長した事を喜ばしく思えると同時に、戦場へと送り出す不安も覚える。

だが、その想いを出さず副司令としてリリーに言葉を投げ掛けた。

 

「頼んだぞ、ウルフ」

 

ミラーはそう言って用意されていた黒塗りの車で戻って行き、リリーは門の中を潜ろうとした時、歓声が挙がった。

その歓声はテュカやレレイ、ロゥリィの名前を挙げている事からファンタジーが好きな人々による物だろうと容易に想像がついた。

 

リリーはそんな歓声を気にせずに中に入ろうとした時、歓声の中にもう一つ名前が挙がった。

 

「「「「「「リリー!リリー!リリー!」」」」」」

 

「え?何で私の名前が・・・」

 

突然、大声で大多数の人々からの歓声に困惑していると、ティファニが苦笑いしつつリリーに言う。

 

「何だか知らないが・・・国会でお前の事をお気に召した一部の人間が広めたんだとよ。麗しいクール系美少女傭兵・・・てな。お陰でネットで一夜にして非公式ファンクラブが設立して予定していた人集めをしてたら話を聞き付けた奴等も集まって倍の規模になっちまったのは別の話だ」

 

「ふ、ファンクラブ・・・?私に・・・?」 

 

「ま、良いじゃないか。慕ってくれる奴等がいても」

 

「・・・慕ってるって、何か違う気がするけどね」

 

ニヤニヤとするティファニにリリーは何処か顔を赤く染めつつもそう答える。

リリーは門の中間辺りまで来ると、ファントムシガーを手にし、電子の火を着けると吸う。

 

こうして日本での参考人招致は終わり、元の任務漬けの毎日に戻った。








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