旧都街のDresser[ドレッサー]   作:WILLΛRD(現・九羽原らむだ)
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EX03「波佐間玲奈 ~毒の中の素顔~ その3」

 

「ふむふむ」

 今日も漆野はお気に入りのコーヒー片手に新たなシステムを作り上げるためにレイスリモーターの改良の実験を行って……

 

 

「ふむ、なるほど」

 と思いきや、今日は少し違う事をしているようだ。

 彼はファイルを開いては何かをチェックしている。その近くにはいつも使っているパソコン機器も実験機器も何一つ置いていない。ファイルを黙読し続けているだけだ。

 

 

「確かに父親の存在は確認されているね」

 そう、彼が調べているのは“波佐間玲奈の育児放棄事件”のことについてだった。

 

 彼女が保護されてから1週間後、母親である波佐間京子は逮捕され、自身は“思った通りの子供にならなかった事”を理由に育児放棄したと警察の記録にまとめられている。そのことに関しては波佐間玲奈の耳にも届いてしまっていた。

 

 ……育児施設に送られる際にどうしても知りたかったようだ。当時の彼女は。

 

 

 父親は出張で帰ってきておらず、その報告も父親は受けていることは判明した。母親の暴走を止められなかったことを気に病んでいたようである。

 彼は仕事の件もあり、彼女の育児に手を出せない状態であり、彼の支援により彼女は孤児院へと送られることになった。確かに波佐間敏夫の言う通りである。

 

 

「しかし、なんだかなぁ」

 漆野はどこか煮え切らない感じであった。

 

「妙だな……話が出来過ぎている」

 どこか、この事件のファイルの記録は“都合が良い”ような感じがした。

 

 父親である波佐間敏夫。彼は事件の事を気に病んでいる割には、彼女を引き取ろうとはせずに孤児院に教育を任せ、娘には“自分の存在”を伝えないようだった。

 波佐間京子の口からも言質は取っているため、信憑性は高いのだが……

 

 

「おっと、電話だ」

 携帯電話を取り出した。

 

「もしもし磯野君。どうだった?」

 

『あってみたよ。“波佐間京子”に』

 電話の相手は仕事仲間の磯野である。

 

 

「どうだった?」

 

『ああ、質問してみたが、やはり“自分好みの子供に育たなかったから”と言っている』

 

「ふむふむ」

 磯野からの返答をメモしている。

 

『だが……なんか妙な感じがした』

 

「というと?」

 

『彼女と喋っている時……さっき言ったことの一点張りだったり、“自分が悪いんだ”と蓄音機のように何度も呟いていたんだ。まるでロボットのようにね』

 

「ほほう、ロボットのように」

 再びメモを取っていた。

 

 

「ありがとう。帰ってきたらお礼にコーヒーでもご馳走するよ」

 電話を切った。

 

 ……彼なりに気になったことがあったのか、彼女が投獄されているという埼玉刑務所まで磯野を向かわせたらしい。交通費は勿論ウルシノラボの経費で。

 

 磯野が集めた情報を一字一句漏らすことなくメモ帳に書きまとめる。一通りまとめると再びファイルに目を通していた。

 

 

「何か引っかかる」

 育児放棄事件のファイル。

 そして、刑務所に投獄されていた波佐間京子の様子。

 

 彼の中で何かが引っかかっていた。

 

 

「おっと、また電話か」

 磯野が伝え忘れたことがあったのかと再び電話を手に取った。

 

「って、おや?」

 しかし、電話の相手は……違った相手であった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 11月後半。赤酒プラザホテルパーティー会場。

 時間帯は深夜一時を回っていた。既にホテルは消灯時間で静まり返っており、ホテルマンも呼び出しのコールがあるまで控室で休憩中。真っ暗闇の中を緊急用の看板の緑ランプが照らし、その中を警備員が懐中電灯片手に見回りしている。

 

 

 ……最上階近くのパーティー会場。

 静かなパーティー会場に一人客人がひっそりと訪れる。

 

 

「来てくれたね」

 パーティー会場のテーブルで一人ワインを飲んでいる人物がいる。

 

「玲奈」

 そこにいたのは……波佐間敏夫。

 

 

 

 

 そして、パーティー会場に現れたのは“波佐間玲奈”だった。

 

 

「ここに来たという事は手紙を見てくれたという事だね」

 

「……ええ」

 

「そして、答えを出してくれたと」

 

 波佐間敏夫は立ち上がる。

 

 

「では答えを聴こう……私たちと“協力”してくれるかい?」

 彼女に優しい声で語りかける。

 

「私たちと共に……新しい日本を作ってくれるかい?

 手招きをするように彼女を誘っていた。

 

 

 そんな波佐間敏夫の背後には。

 

 10体近くの“ハザード”がそこにいた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 パーティー会場に訪れる数時間前。彼女が波佐間敏夫に手渡された書類を見ている時の事だった。

 

 そこに入っていたのは彼のボディーガードへの転属願の書類。

 そしてそれ以外に入っていた別の書類。

 

 

 

 それは“正義の党”の活動内容や方針。今後、国会に提出予定であるマニフェストの内容などではなく。

 

 ……自分たちが過去にやってきたという裏の仕事。もとい汚れ仕事。

 

“政治家襲撃事件”の犯人の正体が自分であることを明かした書物であった。

 

 

 

 政治家襲撃事件。正義の党などを中心的に狙っているのは、他の派閥にマイナスイメージを与えるため。嫌な噂を立てるためのフェイクだったのである。

 

 自分は数多くのハザードを雇っており、それを使い日本政治を駄目にしている役立たずな政治家を片付けるために“裏で計画”していたことを包み隠さずすべてを話していた。

 

 現に作戦はうまく行っており、日本政治をかき乱すだけの無能な政治家共の評判はがた落ちで次々と根の葉もない噂が次々と出ているようだ。

 

 嘘も100回付けば真実になるという話もある。このまま噂が立ちこみ続けば一般市民の間ではそれが真実となっていく。

 

 

 自然と正義の党に票が集まりつつあった。

 

 自分にはその手伝いをしてほしい。一緒にこの駄目になった日本政治を変えるための正義の味方になってほしいという誘いの手紙があったのだ。

 

 返事は今夜か明日。同梱された地図に指定されたホテルのパーティー会場にて行う。ホテルに入るためのカードキーも一緒に入れてあったのだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 その手紙を読み、波佐間玲奈はやってきた。

 彼の目的に賛同するかどうかを決めるために。

 

 

「玲奈。私はこの日本を変えたいと思っている。そのためには力が必要だ。私は心から腐った日本を変えなければならないと思っている!」

 

 自身の正義は本物である。

 それを心の底から彼女に告げる。

 

「君にはヒーローになってほしい。だから」

 

 

 

 

「悪いけど断るわ」

 

 玲奈は答えを出した。

 

 

 

「……どうしてだ?」

 

「気に入らないからよ」

 椅子に座り、用意されたオレンジジュースを飲みほした。

 

「正義の味方? 笑わせないでよ」

 不敵な笑みを浮かべ、敏夫へと視線を向ける。

 

 

「こんな小細工。小悪党にも程があるじゃない」

 

「違う。日本を変えるためにはこれくらいのことは」

 

「“これくらい”ねぇ」

 オレンジジュースをグラスに次いで飲み干すと……今度はオレンジジュース1リットルの瓶を掴み、それを一気に飲み干した。

 

 

「“人殺し”をこれくらいって言えるなんて随分と軽いこと」

 彼女のために用意したという高級なオレンジジュース。

 

 その瓶を……手放し地面に叩きつけた。

 高級オレンジジュースの瓶が音を立てて割れる。

 

 

「胡散臭いのよ、アンタ」

 

 

 

 

 

 

 

「まったく」

 敏夫は瞳を閉じる。

 

「本当に……“思い通りにならない子供”だな」

 目を開ける。

 

 

 緑色に光る。

 

「!?」

 彼女の中に何かが入り込む。

 

 

“私に従え”

 

 なんだこれは。

 

“従うんだ。君は間違っていない。私に従えばよいのだ”

 

 優しく脳を刺激する。自分の中で何かが呟いてくる。

 心地よい。自分の心が満たされる。まるで母親に抱かれているような温もりが伝わってくる。この気持ちよさはなんだ。

 

 

“君も一緒に来い”

 気持ちが良い。

 心が満たされる。潤いと心地よさ。

 

 

 

 

 

 

「全く」

 波佐間敏夫の姿が泥に包まれていく。

 

「本当に聞き覚えの悪いガキだ、お前は」

 次第にその姿はハザードへとなっていく。

 

 その姿はまるでバク。

 波佐間敏夫はバクハザードへと姿を変えた。

 

 

「お前への暗示もすぐ終わる。ドレッサーの手駒が手に入れば……世界を動かすための布石が急激に進むことになるのだ」

 

 その瞳には“洗脳”能力があるようだ。

 後ろにいるハザード一同。このハザードは全て彼のボディーガードを務めていたSP達だ。全員彼が洗脳したハザードであり、身分を偽ってボディーガードとして自分の周りに身を置かせていた被害者だったのだ。

 

 

 

「……政治家になるには家族が邪魔になった。お前は言う事を聞かないし、母親も主婦の仕事に愚痴を言い続けるだけ。はっきり言って目障りだった」

 再びワインを口にする。

 

「京子に罪を擦り付けお前を捨てた。お前がもう少し聞き分けの良い子供に育っていれば面倒を見てやったが……残念だな、お前のような出来損ないには失望した」

 グラスをそっとテーブルに置く。

 

 ハザード達の目が怪しく光っていた。

 

 

「出来損ないを有能にしてやる。お前も私の役に」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるさい!」

 波佐間は声を上げる。

 

「お断りって……言ってるだろうがッ!」

 近くのテーブルに頭を思い切りぶつけた。

 

 テーブルにヒビが入る。破片が彼女のおでこに刺さり、次第に血が溢れ出す。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「何故、暗示が聞いていない。それだけショックを与えても意味はないはず」

 

 

「はっ。あのドクターの怪しい薬も役に立つものね」

 レイスリモーターがない間、レイスの活動を抑えるために飲んでいた抑制剤の薬。どうやらハザードの能力の一部にも影響があるらしく、彼女の内部に潜入し誘惑する洗脳能力を劣化させたようである。

 

 その結果、頭痛を与えることにより洗脳から逃れたのだ。

 

 訳の分からない心地よさのある気持ち悪い洗脳から。

 

 

「本当……嫌な人間を見続けてきたせいで、性格の悪い奴を見分けられちゃう癖がついちゃったようね」

 頭をかき乱し、血を片手で拭う。

 

「こうまで害虫だと……笑う事すら馬鹿らしい」

 

 

 

 

「残念だ」

 バクハザードは指を鳴らす。

 

 パーティー会場のあちこちからハザードが現れる。その数は元々いたボディーガードのハザード達を含めてざっと30近くはいる。

 念のための伏兵として用意していたようだ。勿論、全員の洗脳は終えており命令も一人残らず全員に告げている。

 

 

「黙って洗脳されていれば可愛がってやったのに」

 目の前にいる“役立たず”を排除しろと。

 

 

 

「可愛がる?」

 周りの風景を見渡す。

 

「ふふふ……アッハッハッハ!!」

 笑う。

 

 絶望的な状況に頭がおかしくなったのか。今まで不敵な笑みを浮かべる彼女はいつもとは比べ物にならないくらいの下種な笑い声をあげている。

 

 

「意外と面白い冗談言えるのねぇ」

 彼女のジャケット。ドレッサー組織に所属することを意味するジャケットの内側に手を伸ばし……波佐間は取り出した。

 

 

 

「あんたら害虫を可愛がるのは……アタシの専売特許以外他がないでしょ?」

 レイスリモーター。

 

 アップデートが終わり、特殊抑制装備システムが搭載された“レイスリモーター Ver.REPER”。彼女専用ドレッサー・ホーネットの力が秘められたそのブレスレット装置を。

 

 

 集合場所へと向かう前、彼女はある人物に電話をかけていた。

 

 それは“漆野”であった。

 

 

 彼女は自分に渡された書類の事をすべて彼に話した。

 同時、彼からも“自分の行方不明事件の違和感”などすべてを話した。

 

 それを聞いたうえで一度漆野と合流し……完成した“レイスリモーター”を受け取ったのだ。

 

 

「害虫がムラムラと気持ちの悪い」

 レイスリモーターを装着した。

 

 体が軽い。レイスの鼓動も弱い。

 行ける。これなら体の負担も考えなくていい。

 

 

 

「変身」

 親指を地面に突き立ててから、勢いよくレイスリモーターのスイッチを入れた。

 

 

 

 体全体に光を纏う。

 

 いつもと変わらないボンテージ風の衣装。底に新たに追加された追加装甲。右腕には長距離レンジ対応のビーム砲に左腕には方手持ちのガトリングガン。

 背中には有線で繋がれたビームコンテナのビットが5つ。そしていつも通り彼女の周りを旋回する無線のビット兵器たち。

 

 新たな小蜂と大蜂。レイスの鼓動を弱めているためハザード相手への殺傷力は減っているがそれを補う圧倒的火力を追加した新たなホーネットの姿。

 

 

 “ドレッサー・銃[ガン]・ホーネット”

 

 進化した女王バチがここに参上した。

 

 

「相変わらず馬鹿な奴だ。大人しく言う事を聞いていれば助けてやったものを」

 

「誰に対して口にきいてるのよ」

 彼女の余裕は収まる様子がない。

 

 

 

「殺せ」

 30人近くのハザードが一斉に彼女に向かって飛びかかる。

 これだけの数で襲われればドレッサー一人ではどうしようもすることができない。

 

 

「命乞いするのは……アンタたち害虫の専売特許でしょうに」

 銃口を。全ての火力をすべてのハザードに向けて。

 

 

「一斉殲滅! 皆殺しッ!!」

 

 一瞬でパーティー会場が火の海に包まれた。

 火力はレイスの鼓動が弱まっているとはいえ相当なもの。やっていることは“ミサイルや大型レーザーを周りの状況関係なしにぶちかましている”ようなもののため、当然一瞬にしてホテルの上の階は粉々になって吹っ飛んでいく。

 

 

 

 散っていく。

 次々とハザードが致命傷を受けてハエのように床に倒れていく。

 

 

「ぐあぁああっ!?」

 その火力にバクハザードも巻き込まれていった。

 

 

 

 

 

 数秒後、ドレッサー・銃・ホーネットによりハザード達は一掃。全員、殺虫剤を駆けられたハエのように身動き一つ取れなくなっていた。

 

 バクハザードも同じ状況であった。

 

「無様なもんね。小悪党の最後ほど」

 バクハザードに彼女は手の伸ばす。

 

 

「待ってくれ……玲奈、助けてくれ」

 父親の声を出して命乞いか。意地の悪い。

 

「ここで私が捕まるわけにはいかない……日本を変えるには……ここまで日本を駄目にした馬鹿どもを潰さなくてはいけないんだ……!」

 

 いや違う。

 こいつは彼女の親として助けてほしいという命乞いをしているんじゃない。

 

 さっきまでの眼差しとは全く違う。

 

「お前だって嫌な人間を見続けてきたんだろう……! 私や京子もそうだが、くだらない人間が弱者を潰して地位に立ち、結果傲慢に立ち振る舞うだけの奴らが上に立って好き勝手やってるだけの世界が狂っているとは思わないのか!!」

 

 本気で日本を変えようとしている革命家の顔だった。

 

 自分たちを捨ててまで……捨て駒にしてまで自分の身をかけた最後の取引だった。

 

 

「……ええ、そうね」

 玲奈はその質問に答える。

 

 

「くっだらないほど嫌な人間ばかりだったわ。私が見てきた奴は本当にうんざりするくらいに面倒な奴ばっか……そんな奴らにこき使われて、唾を吐かれるだけの人生なんて。私は死んでもごめんね」

 

「だったら」

 

「人間ってそんなもんよ。最悪なことにね」

 だが、玲奈は彼の思想に従おうとはしない。

 

 

「アンタもその醜い化け物の一人。アンタがやっていることは正義だと思っているだろうけど……日本の法律からして。世界のルールからして“ただの殺害”よ」

 バクハザードに手を伸ばす。

 彼からその洗脳という能力を奪い取るために。

 

「……お前だって救ってやれると言っても駄目か」

 

「しつこいんだけど」

 バクハザードの胸に触れる。

 

 

「いらないのよ、そんなの。私はそれくらい“独りぼっち”に慣れたんだから」

 

 レイスを回収。

 政治家連続襲撃事件の黒幕はここで逮捕され……同時、30人近くのハザードのレイスも回収するという大手柄。

 

 ドレッサー・銃・ホーネットは大きな結果を生んだのである。

 

 ……ただし、ホテルの請求書や始末書諸々をウルシノラボの一同が責任をもって書く羽目になってしまった悲惨な結果を除いて。

 

 

「……お前だって、殺して来ただろうに」

 力を失った波佐間敏夫は無念にそう呟いた。

 

 

 

「私がやっているのは殺害じゃなくて駆除よ。一緒にしないでほしいわね」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 その後、駆けつけた警察にすべてを話し、用を終えた玲奈は自宅へと戻っていく。

 

 

 新しい力は実に心地の良いものだ。これなら十分に戦える。

 また、自分の力を発揮できるというものだ。自分の力を十分に証明できる。

 

 

 ……独り、少女は大惨事になったホテルを背に歩いていく。

 

 

 そうだ、自分は誰にも愛される必要もないし、誰かに支配される気も従う気もほとんどない。自分は自分のやりたいことをするために戦う。

 

 正義とか関係ない。目の前が悪なら潰すだけだ。

 

 その結果、どのように疎まれても問題はない。

 自身の力が証明さえできればそれでいいのだ。

 

 

「波佐間さん!」

 

 目の前から一人少女が走ってくる。

 

 双羽祈。

 息を荒げながら彼女に元にやってくる。

 

 

「あら、こんな時間に夜遊びなんて度胸あるじゃない」

 

「違いますよ!」

 祈は顔を上げ、彼女の顔を見つめる。

 

 

「波佐間さんが一人で政治家襲撃事件の解決に向かったって聞いて皆心配したんですよ! 葛見さんもリハビリ抜け出して向かおうとしていたり……だから、代表して私があなたの助けに来たんです!」

 

「レイスリモーターもないのに?」

 

「警察を動かすことくらいなら私でもできますよ」

 

 ムキになって祈が怒っている。

 

 ……本気で自分を心配したから怒っているのだろうか。

 

 

「ふふっ」

 玲奈は彼女を通り過ぎる。

 

「ちょっと待ってくださいよ!」

 

 ……双羽祈。そして、彼の兄である双羽渡。

 

 こんな自分を仲間だと言ってくれる葛見や同業者たち。

 

 そして、“親”のように自分の面倒を見てくれる馬鹿科学者共達。

 

 

 

 こいつら馬鹿な奴らの心地よさは……前と違って嫌いじゃない。

 

 

 

 

 

 彼女が波佐間敏夫に従わなかったのは先ほど言った通り、誰かに支配されるつもりも可愛がられるつもりもないという理由は間違いない。

 

 ただ、彼女は口にこそしなかったが。

 

 

“こいつらの味方をしていた方が都合がいいし、不思議と心地よい”

 そう思ったからだ。

 

 

「助けはいらないわよ。役立たずな後輩ちゃん」

 不敵な笑みを浮かべて、波佐間は夜の街を独り歩いていった。

 


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