桔梗の芽吹く頃 作:ふま
視点はモズメ→零兎さんで。
(侵入者か____何とか排除できた様だ・・・。)
病院のベッドの中、布団に隠れて百舌鳥どもに念を送っていた。
火影サイドにも送り込みたいところだが、この弱った体では分散はできない・・・。
大巫女様は・・・私より更に弱っておられる筈だった。
右手から何もかも吸収され___心の臓にも負担が掛かり過ぎていると心配していた。
だが昨日の夕飯時。ぽっちゃり系のおばさん給仕さんが病室に食事を運び込んだ何気ない時。
トレイをサイドテーブルに置く、ゆっくりとした動作の途中に。
『お頭様は何とかご無事だ、化け物屋敷で療養していなさる。』
『_______!』
『後は俺達が。お前は療養せよ。』
あの口調・・・恐らく変化した零兎さんだ。監視カメラに映り込まないよう浅く頷いておいた。
とは言われるものの、何もせずに居られる訳が無い。せめて回復の邪魔立てを排除せねば。
(私の方も回復せねば伽舟様もお守りすることも叶わぬとの、ご配慮だろう。)
新生・御頭となった零兎さんは、他国出身でありながら八香様の為なら命も投げ出す忠義者だ。
紫紺様に負けじと、先代であるあのお方を本当に良く知り、サポートをなさっている。
(ただ・・・やはり女は女同士。本音は吐かれますまい・・・・。)
______コンコン! ドアのノック音にはっとなる。
返事をするかどうか迷っている間にドアは遠慮がちに開けられた。
「あ・・・・。」
「やぁ、起きてたか。どうかな、具合は?」
入って来たのはニッコリと笑う、此処の火影様・・・。
このお方と・・・八香様が昔、恋仲だったとは___少し信じがたい。
「まだ・・・体に力が入らず頼りないですが、痛みは無いです。」
「そか・・・。安心したよ。俺はあまり陰陽道に詳しくないし心得も持ち合わせていない。
守る事が出来なくてすまなかった。それでひとつ教えて欲しいんだ。相手は一体誰だい___?」
「・・・・・・・・・!」
穏やかだった黒目が、僅かに鋭く光を放った。同時に私の脳にもキラリ、霊感が走る。
この人は、今もあのお方を想っていらっしゃる様だ。恐らくはその根源を辿る気でおられる。
私は溜息を吐く。八香様・・・本当によろしいので? 躊躇いも致しますよ、こんな眼をみれば。
「私は・・・今回、こうなってしまった程度の者。あのお方の真意まで計り知れませぬ。」
「つまり、君にも八香は詳しい事を言っていないと?」
「ええ___巻き込む事も配慮されたかと思われます。私の仕事はあくまで伽舟様の護衛のみ。」
結局、また嘘を吐く事となる。
けれどそれが___今大事なのだ。八香様の心の内側が知れてはならない・・・。
「ただヒトツここの結界は生き霊と云う輩にとうに破られており、失礼ながら保護は無意味かと。
天の国で修行なさった伽舟様でさえ飲み込む強力な力です。対抗できうるはただお1人・・・。」
「八香のみか・・・・。」
マスクの下では小さな溜息が零れた。
「で___今、あのコは大丈夫なのかな。もしそれだけでも知っていたら教えて欲しい。」
「・・・・恐らくは今、どこかで治癒に専念されておられる筈。」
「やはりダメージを・・・。治癒ってのは?」
「これは昔、捨てられる前の八香様の素性をお調べになったお館様から聞いた話・・・元々、
あのお方は自然を司る民の末裔。こういった時、悪い物を出し良い物を吸収できる力がある。」
お許しを・・・この程度の事、教えてやらねば火影様も夜も眠れない筈;
マスク超しの人相や、ちらりと見える掌の手相。霊感で感じる、このお方の真意など___
占いを得意とする私には、このお方の・・・貴方様への本気度が見えすぎて困惑してしまう程だ。
「できるだけ___今は、聖域で安静にして頂かなくては・・・。」
ここまでヒントを与えたのだ、後は察して退いて頂かねば私のした事が無駄になってしまうな。
(さて__そろそろ御館様の任務もこなさねぇとな。要訳すりゃぁこう言う事だ。助けてやれと。
ノンキを装ってはいるが、ジィさんも気付いてンのさ・・・八香様の異変に。)
俺は化け物屋敷を目指しつつ考えていた。アンタが隠居と銘打って住居を移した本当の理由だ。
あの時は、こうなる事も予測してなかったから___濁されても俺ァ、別に良かったんだ。
聞いた所によると陰陽道の基本なんだって?アンタの取った対処法は。それで確信したんだ。
(いつものこった___どうせ本音など・・・云いはしないだろうけどな・・・。)
「____!?」
あの屋敷を目前に木の上で足を止めた。何やらいつもと雰囲気が違うらしい。
その下を見遣れば此処の忍か、少年が気を失い大勢の鳥が飛び立っていく所だった。
(あれは百舌鳥!? ・・・あいつめ、侵入者に分身を放ったか・・・、____!?)
喉元に冷たさを感じた、それは着きつけられたクナイ__俺の背後を取るとは・・・何者だ。
一応両手を挙げ、今更ながら一般市民ぶろうと努力する。
「オイオイ、一体俺が何したって云うんだ・・・?」
「_____自の国の者じゃないな・・・? 答えろ・・・!」
自の国に、忍はいないという事を知っている男の質問だ。実際、俺は元・忍だからな。
捕らえた俺の体の、僅かな鎖帷子の音を聞いたんだろうよ。だが面は被っちゃいねェ様だ。
「礼儀がなっちゃいねぇな___そう聞くならまずてめェから名乗ろうぜ?」
「不審者に名乗る名前なんかあるか___」
「前髪で目が隠れてるって見た目でソンしちゃってるンだけなんだぜ?俺なんて・・・よッ!」
「・・・変わり身!? チッ・・・!」
距離を取った途端に咥えてやがった千本を吹き飛ばしてくる___弾いたがなかなか重い。
「・・・霜遁・・・!」
「___火遁____!」
「 「 ・・・!?? 」 」
どっちが先に結んだか、印を組んだその時だ。凄まじい吹雪が俺を___いや、俺達を襲った。
どうやらあの人は、俺が来るのを見越してあの憎き冬の化生の子を見張りに置いたのか!?
勢いよく渦巻く雪混じりの竜巻に吸い寄せられたかと思うと、ドサリ!地に弾き落とされた。
「ッテェ____何しやがる・・・モノノケめ!」
「雪羽___お前ェの仕業か・・・・! イテテ」
「ゲンマさまも若年寄も、モメている場合ではございませぬぞ・・・!」
「若年寄じゃねーよ!?俺、意外と若いンだって!!何度云ったら解ってもらえンのォ!?」
その体は受身を取れない筈、互いの術を発動させぬ様に上半身だけ薄ら凍らされていて。
気が着けば二人共が屋敷の庭へと引き込まれ、仁王立ちする幼女の前に腰を打ち付けていた。
男は一旦諦めたかに溜息を吐いて完全な仰向けになると、軽々弾みをつけ立ち上がった。
同じ様に俺も立ち上がったが、氷に直接触れてる手の辺りが冷た過ぎて思わず顔を顰めてしまう。
「おい雪羽、早く解かねーとお仕置きしてやんぞ!」
「ワーン!紫紺さまー!此処に”悪いロリコン”がおりまする~!」
「ヤメロ!泣きマネ!誰がロリコンだ!?」
というか。俺より化生のガキと親しげだと__!? 一体コイツは・・・。
「どちらの”悪いロリコン”と思いきや、ゲンマ様ではないですか___一体、今日は何事です?」
「お前もヤメロそれ! んな事より早くコレを解くように云えってんだよ・・・!」
「も~。ウチの雪羽がスミマセ~ン。後でよ~く叱っておきますから~。ホラ、さっさと解いて!」
「 「 今、ココで叱れ。 」 」
ヤツとハモっちまったじゃねーか。紫紺がムクレる幼女の背中をポンと叩けば
ようやく氷が俺達の体から溶け落ちてゆき、男は新たな千本をまた口にしながら辺りを見た。
「やっぱり居たな、紫紺。アイツに何があった・・・?」
「アイツって誰のことだい___大体、テメエこそ誰だ。」
「まぁまぁ零兎さん、落ち着いて。この方は不知火ゲンマ様。八香様のご友人ですよ。
そしてゲンマ様、こっちの”むさ苦しい男”は裏方の衆の2代目・御頭様でございます。」
「前から思ってたンだけど___お前、ちっとも俺の事、敬ってなくない!?」
紫紺はいつになく落ち着かない。気になって腕時計を見ている。俺の質問もスルーだ。
「今はちょっと。後でゆっくり・・・___!?」
「 「 ____!? 」 」
「夏風!?」
黄色い女の悲鳴が上がったのだ。
その声の主であるらしい古風な中華風の姿をした美女が「お助けを!」と此方に逃げてきた。
ワシャワシャワシャ!と、まるで紙を丸めたかの音が近くなって来て俺達は身構えてる。
下だ・・・!娘の足元を追いかけるかに、草花が茶色く変化していっている?紫紺が声を上げた。
「いけない・・・雪羽!あれをせき止めて!」
「あいッ・・・!!」
ピキピキピキ・・・・!
物が凍りつく小気味いい音がした、気が着けばあの男、素早く女を抱き掬って戻ってきてやがる。
「ゲンマ様・・・!御久しゅう御座います・・・♡」
「あ、ぁぁ・・・・;」
あんな可愛いコに首に抱きつかれて顔にスリスリされたって、ゼンゼン羨ましいとか思わねーし!
つか、オマエももっと嬉しそうにしろや!クール気取りやがって、カンジ悪ぅううう!←(妬)
「あれでもまだ足りなかったか____」
「おい、一体この事態こそなんだ・・・・?」
ゲンマと云う男は娘を降ろしてやると、凍りついた枯葉を足で叩いて観察してる。
この裏庭は中庭へと、壁と家の隙間の通路で繋がっているらしい。ずっと枯葉は奥に続いてた。
「紫紺_____時間はどの位経ってる?」
「え。もうそろそろですが・・・零兎さん、ご存知で?」
「話には聞いている、そう云う治療が必要な場合があるってな。」
俺は懐から布に包んだ粗塩をその場に巻いて、両足で踏みつけるよう男連中に云う。
チビと美女には紫紺がキツク云ってその場に留まらせた。
3人だけでサクサクと枯れた葉が踏み壊れる音をさせながら中庭へと歩いていく。
特殊な臭いがした___花が腐った様な、草が異様に青臭さを放った様な・・・。
「八香様____________」
「・・・・・・・・!」
「そう云う訳でしたか・・・・・。」
俺には予想がたっていたが、紫紺やゲンマには異様な光景でしかなかったんだろう。
ワッと広がる、輝きを失いガサガサに枯れた草花の絨毯の上、アンタは両手を広げて眠っていた。
近づけば、酷い汗を額に浮かべている。
「呪詛で溜め込んだ毒気を気で流し・・・、地と草花に吸わせ___回復してたのさ。」
吸収させるにも思いのほか、それが足りずにコチラ側まで及んだと云うワケだ。
「よほど苦しんだ様だな」とゲンマは呟き、広がった両手を畳んで腹の上に置いてやってた。
「右手のアレはキレイに消えている様だ___無事に駆除したか、安心したぜ・・・・。」
「駆除・・・・・!?」
俺は心配していた右腕をとって裏表を確認した。あの時、紫紺には見えてなかったらしい。
もしもコレが消えておらず、何かしら残っていた時の為、モズメに意見を求めようと思っていた。
化け物と化したあの生き霊を散らせた時、白い腕に現れた___醜い幾つもの腫れ物の事だ。
「俺にはアレが見えた。まるで人面瘡だった・・・腫れ物がそれぞれ悲鳴を上げていてな。
まるでこの人のチャクラを食い散らかすかに、口だけはバクバク動いてやがった・・・。」
そう・・・悪しき者が体に寄生したと悟り、彼女はあの場所へと向かったんだろう。
月の恩恵に預かれ、それなりに透明度が高く、死人の魂が近づけない、あの湖へ___
「あんなに弱っていたのはそのせいで・・・零兎さん!?鼻血が溢れ出てますけど!?」
「なァに、昨日バナナを食べすぎた。気にするな。」
「いや・・・ソレ、もはや噴出してんじゃねーか。気になんだろ・・・!」
(紫紺・・・、お前どっか悪いんじゃねェか? あの様子を見ててナンも反応しないとか。
エロかったンだ・・・不謹慎ながらも、成長なさった___後姿が、あまりにエロ過ぎた!!!)
チロリとヤツの顔を見ながら自主的にティッシュを鼻の穴サイズにして突っ込んどいた。
俺なんて某・キューシンが要るレベルで動悸、息切れ、ムスコ・ヤバイ状態だったんだからな!?
「よく考えてみろ__ただでさえ・・・。」
「右側には負担が掛かる・・・。」
「・・・・?」
普通の造りではない体の構造、想像以上に弱る事をモズメも心配したはず・・・。
会話の途中、溜息を吐くゲンマは己の両手を横たわる体に差し入れ、抱え上げると向きを変えた。
今度は俺がヤツの首根にクナイを押し付ける番になった。ヤツの体はそれ故に静止してる。
「部屋はそっちじゃねぇ・・・てめェ、どんな命を受けてきた。」
「・・・・この”頑固者の保護”だ。お前たちこそ、この土地で一体何をコソコソしてやがる。」
「お待ち下さい、ゲンマ様___これはお頭の意思なのです。」
八香様の、木の葉への特別な思い入れ。それを知る上で紫紺は躊躇い、言葉を捜し尽くしてる。
難しい作業だぜ___紫紺、どう説明するツモリだ・・・・?