真・恋姫†無双~程遠志伝~   作:はちない
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第3章 董卓包囲網編
董卓包囲網編 第一話


 

 

「董卓包囲網?」

 

 程遠志は阿呆面を浮かべながら寝転がっていた。

 向かい合う形で、鄧茂はだらりと姿勢を崩している。何か言いたいことがあったんだよなぁ、なんてしきりに首を捻っていたが、忘れてしまったらしく違う話題を程遠志に振っていた。

 いつもいるはずの張曼成はここにはいない。用がある、と言って、ふらふらとどこかに出かけてしまっていた。ごくごくたまにあることだったので、二人は気にしていない。

 

「袁紹って人の使いが来たらしくてさ。董卓を倒せーっていう書状を持ってきたんだって」

「ふうん。まず俺はよ、その董卓を知らねえ」

「割と街とかで噂になってる気がしたけどなぁ。暴虐の限りを尽くしてるってさ」

「へえ、そりゃ大悪人だ。で、曹操様は受けたのか、それ」

「うん。程遠志にもそろそろ働いてもらうわ、って曹操様が言ってたよ」

「……まあな、ちょっと休みすぎちまったしなぁ」

 

 程遠志は黄巾討伐の報酬として、昇進は勿論のこと、長い休息日も実際に貰っていた。

 休めるのならば、と程遠志は遠慮を一切することなく酒を飲んで寝るだけの日々を費やしていた。それももう一週間弱が経ち、流石の程遠志も、そろそろ働くかな、なんて殊勝な考えにもなりつつあった。

 

「包囲網なんて言うからには、多分すげえんだろうな。袁紹と、曹操様と、あと他にも二、三くらいか? どんだけ参加するんのかな」

「そんなもんじゃないよ。小さい勢力もいれたら十、二十に及ぶと思うし。袁紹だけでも三万以上の兵を率いてくるだろうから、とんでもない規模になる戦だよ」

「はぁ」程遠志は口をぽかんと空けた。「俺にはよ、想像もできない話だ」

 

 程遠志が率いたことのある軍勢なんて、精々二百人や三百人がやっとである。鄧茂の話からすると、この包囲網すべての兵力は十万だの、二十万だのになりそうだった。気が遠くなる。

 

「でもさ、袁紹の書状が届いたのって、確か一昨日より前だった気がするんだけど。初耳なの?」

「初耳だよ。そういやちょっと前、なんか騒がしかったな」

「多分その時じゃない。袁紹のかなり大事な部下が二人くらい来てたから、こっちも皆集まってたし」

「俺も呼んでくれればいいのによ」

「夏侯淵さんが、休暇中に呼び出すのも忍びないって言ってたよ―――あと、今いてもそんなに意味がないって」

「酷えこと言いやがるよ」

 

 はは、と程遠志は苦笑する。まあ確かにその通りかもしれない、とも思った。

 

「まあ、よくよく考えたら当り前か。程遠志は友達少ないもんね」

「んだよ藪から棒に」

「包囲網の話が伝わらなかった、ってのも頷けるなって。それならさ、今一番噂になってる、どこかに天の御使いが来たらしいってのも知らないでしょ?」

「まず、そもそも。天の御使いってなんだよ」

「管輅が言ってた占いのこと知らないの!?」

 

 鄧茂は半ば絶叫のような声を上げた。

 占いね、と程遠志は若干興味を持つ。現実的な考えを持つ彼も、風水などが嫌いだというわけではない。

 

「東方より飛来する流星は、乱世を治める使者の乗り物。その使者こそが、天の御使いって呼ばれてる存在だよ」

「ふうん。要するにだ、そいつはこの大陸に平和をもたらすわけだ。すげえじゃねえか」

「それが、どこかの勢力に来たらしいの。名前忘れちゃったけど」

「成る程なあ」

 

 まあ、頭の片隅には入れておくか、なんて程遠志は考えた。占いはある程度まで信じるが、自身のことではない限り大して興味が湧かない。

 その規模が中華全土まで覆われてしまうと、程遠志はこの大陸がどうだの世界がどうだの、だと言われたような遠い話に思えてしまう。

 

「でも、僕が言わなかったら危なかったね。出陣は割ともうすぐだよ」

「あ?」程遠志は目を瞬かせた。「なんだよ、そんな早く集まるのか」

「当り前じゃん。明後日か、明々後日には程遠志も軍を率いて出ることになってたよ。僕と張曼成は、その副将だってさ」

「わりかし危なかったな。教えてくれて助かったぜ。俺の友達はお前と張曼成と―――ああ、そうだ。厳政もそうだな」

「そうだ、それだ!」

 

 鄧茂は唐突に程遠志を指さした。なんだよ、と程遠志が少し眉をひそめながら返すも、彼はその勢いのまま続ける。

 

「厳政を助けるのは知ってたけどさ、友達になるのは僕聞いてないんだけど」

「はあ? なに、俺が友達増やすたびにお前に言わねえといけねえのか? どんな面倒くさい仕組みだよ、束縛してくる妻かよ」

「言ったじゃん、黄巾抜けるときに! 友達が増えるときには教えて、って。これでもう、程遠志含めたら僕たち四人になっちゃったよ」

「知らねえよ」そう言いながらも、程遠志は四という数字が気になった。「けどな、縁起悪いなあ、四ってのは」

「ほら、いろいろ問題出てくるじゃんか」

「多数決もできねえしな―――いっそのこと、さっさともう一人増やして五人にすっか?」

 

 できもしないことを簡単に、程遠志は冗談めかして言ったが、鄧茂が真顔になったので閉口した。冗談にならねえな、なんて胸中で呟く。

 

 

 

 

 ほとんど曹操軍の全力とも呼べる軍勢、総勢三万。練度は黄巾との戦でさらに底上げされて、他のどの勢力をも超えている、と曹操は確信していた。

 その三万が、出陣の声を上げた。鬨の声である。気負い、緊張、葛藤。それらすべてを吹き飛ばすような怒声が、あたり一帯に響き渡る。

 そして―――その中には当然、程遠志の姿もあったし、鄧茂と張曼成も、厳政もいた。

 

「すげえな。一気に士気が上がっちまった」

「こんな演説聞いたことないね」

「そうだな鄧茂―――でも、まあ。厳政、確かお前も演説上手かったろ」

「え!? い、いやいや、とんでもない。ぼくなんかまだまだですよ」

「そりゃ曹操様に敵うわけもねえけどさ、俺たちとかと比べたらよ、格が違うよ。この軍の演説担当はお前だから頼んだぜ」

「そういうのって、普通程遠志さんがやるんもんじゃないんですか?」

「馬鹿。俺は人のやる気をださせるだとか、そういう才能は皆無だよ。鄧茂じゃ締まらねえし、張曼成が大声出すのも想像できねえ。お前しかいねえのさ」

 

 黄巾にいた時、程遠志たちは一度だけ厳政の演説を聞いたことがあった。黄巾兵たちの手綱をしっかりと握り、士気を上げていた。

 

「でも、いいね。なんか僕たちの軍がしっかり整備されてきたじゃん。程遠志が流れで、張曼成が軍の指揮、厳政が演説。各自それぞれ担当を持ててるし」

「お前は何担当なんだ、鄧茂」

「僕? ……幼馴染担当とか?」

「俺限定じゃねえか。具体的に何するんだよ?」

「何してもいいの?」

「今の俺の疑問にどういう思考回路したらそういう答えになるんだ?」

 

 程遠志はなんとも言えない微妙な顔になる。

 厳政は恐る恐る、といった感じで手を上げた。

 

「程遠志さんと鄧茂さんって付き合ってるんですか?」

「はあ?」

 

 程遠志は目を瞬かせる。鄧茂は当たり前だよ、というように頷いた。ぱこん、と隣の程遠志に頭を叩かれる。

 

「夏侯淵様と懇ろだとか、いろいろ噂されてたので、何が本当なのかわかんないんです」

「どれも嘘だよ。誰とも付き合ってなんかいねえし」

「え、意外です」

「んだよ、俺が特定の人間と不埒な行為ばかりしてる不潔な人間に見えるのか?」

「そ、そこまでは言ってないですけど」

「俺は不特定多数の人間に手を出すことがあるかもしれねえが、特定の人間にかかりっきりにはならねえよ。安心していい」

「……いや、そっちの方が不潔なんじゃ」

 

 厳政は横から口を挟んだが、程遠志は無視して言葉を続けた。

 

「まずはな、厳政。俺の女性遍歴だとか、張曼成が一月に一回必ず単独行動を取ることが怪しいだとか、そういう話は置いといてだ」

「おい」張曼成は顔をしかめた。「お前らの猥談に俺を巻き込むな」

「とにかくだ。お前が知らねえといけねえのは、鄧茂が俺と付き合うのはそもそもあり得ないってことだよ」

「え」厳政は首を捻る。「何でですか?」

「あれ」鄧茂もそれを真似る。「何で?」

 

 程遠志は呆れた顔になる。どうしてお前が聞いてくるんだよ。








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