真・恋姫†無双~程遠志伝~   作:はちない
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董卓包囲網編完!!
評価、お気に入り、感想は勿論のこと、誤字報告をいつもしてくださって本当に感謝の念が堪えません<(_ _)> もうちょい誤字減らさないと……汗


董卓包囲網編 最終話

 

 

 

 既に、董卓軍本隊は汜水関へ退却する動きを見せていた。孫策軍に背後を突かれ完全に包囲されるよりも、籠城して時間を稼ぐ方を選んだのだろう。張曼成はそう、冷静に分析したが―――その考えは間違っている。董卓の危機から、本隊は洛陽へ向かうために汜水関どころか函谷関も捨てる勢いだった。

 傍らの程遠志を見る。ふらり、ふらりと揺れながら、馬の手綱を必死に操っていた。

 

「程遠志」鄧茂は心配そうに彼を見ている。「大丈夫なの?」

「大丈夫じゃねえけどよ、死ぬほどじゃねえ」

「もう戦いはひと段落したんだし、休んでてもいいんだよ」

「ちっとは余韻に浸らせてくれよ―――そういえば、夏侯惇と夏侯淵はどこだ?」

「董卓軍を適度に追い討ちした後、劉備さんのところに行って軽く会議をするらしいですよ」

 

 厳政も、心配そうに程遠志を見つめながらそう言う。

 

「そんな会議なんてあんのかよ。夏侯淵め、俺も呼べってんだ」

「休んで、っていう気づかいですよ。そうに決まってます」

「なんだ厳政、妙に確信的じゃねえか」

「案外、女性の気持ちには敏感なんです、ぼく」

「言いやがる」

 

 程遠志は喉を掠れさせながら笑った。

 身体から流れ出る血は、既に止まっている。元々致命傷ではない。完全に避けた一撃を、ここまでのものとした呂布こそが異常なのである。「流れ」に囚われない人間がいるとすれば、彼女こそその部類に入るのだろう、と程遠志は思った。

 

「まあ、俺なんかがそこの会議に出ても、意味なんてねえだろうけどさ」

「どういうことだ?」

「連合の一番最初の会議で、俺は話の流れにまったく興味が持てなかったしな。戦力にならねえし、そもそも、劉備軍の軍師の奴らだって興味ねえだろ。俺がいても」

「それは違うな。お前は、多分今回の件であの軍師たちに興味を持たれたよ」

「なんでだよ」

「さあな」張曼成は微笑を浮かべた。「お前の妙な人徳というやつかな?」

「お前らしか友達がいねえのに?」

「友達が増えそうでよかったじゃないか」

 

 やだよ、と程遠志は笑う。孔明と龐統。あれと俺が手をつないで友達だ、なんて言ってるのを見られたら、牢屋に入れられてもおかしくねえだろ? なんて言うと、張曼成と厳政は噴出した。確かに、それは衝撃的過ぎる光景だ。

 しかし、鄧茂だけはその冗談にも反応しなかった。なんだよ、と程遠志が小突いても、微妙で心配そうな顔を崩さないでいる。目線は言うまでもなく、程遠志の胸元から離れない。

 ああ、そうだったな、と程遠志は頷いた。目立った刀傷を鄧茂の前で負うのは初めてだった。もう会ってから長いことになるし、それなりの戦場を超えてきた。その中で大した手傷を負うことなく生きてこられたのは度過ぎた幸運だったのだろう。その跳ね返りが、今鄧茂を襲っているのだ。

 

「悪かったな、心配かけてよ」

「それならあんな危ない真似しないでよ」

「身体がよ、勝手に動いてたのよ。夏侯惇を救うために。中々格好良かっただろ?」

「格好良かったけど、死んじゃうのはやだよ」

 

 冗談めかした程遠志の言葉に、鄧茂は真顔で返した。

 おいおいと程遠志は思う。「冗談にならねえな」なんて呟き、彼も真顔になる。真剣な表情、と言い換えてもいい。そのまま、真っ直ぐな瞳で目線を合わせた。

 

「俺はよ、死なねえんだよ」

「どうして」

「そういうものだからだ。そりゃよ、土壇場で『死ぬかもしんねえ』とか『これはやべえ』とか思うことはあるけど、流れに乗ってるときの俺は無敵だ。夏侯惇を救った、救えた時点で俺が死なないのは確定してた。俺に間違いはねえのさ」

「だからって、無茶していいわけじゃないでしょ」

「ああそうだな。自重するよ。するけど、俺の流れをお前は誰より理解してる。そうだろ?」

「そうかもしれない」

「そんな流れに乗ってる俺は死なねえから、どーんと安心してみてくれよ」

 

 ははは、と程遠志は笑う。鄧茂はそれを聞きながらも黙っていた。黙ったまま、一、二秒が過ぎた。やがてその黙りこくったままの無表情な真顔が、笑顔になった。「僕」と呟くように言う。「僕は、そんな程遠志だから、一生ついてこうって思ったのかも」引き攣ってながらも、いつもの悪戯っぽい微笑みだった。

 

「一生って」厳政がちょっと冗談めかした感じで言った。「随分重たい発言ですよね」

「それがいい」張曼成も微笑を浮かべながら言う。「重いのが、鄧茂のいいところだ」

「しつれーな。重いんじゃなくて、愛がある言葉だって言ってよね」

 

 鄧茂は笑いながらも、無茶をしている。まだ程遠志に対する心配の感情を隠しきれていない。厳政、張曼成は笑いながらも、場の空気、雰囲気を取り成すような趣旨の言葉だった。無茶ではないが、取り繕った感じであると言っていい。程遠志だって、そんな三人の言葉を聞きながら、「おう、そうだな」と偉そうに腕を組んでいたが、顔は青褪めている。こんな怪我など楽勝だ、と余裕を見せながらも、実は早く身体を横にしてぐったりと寝たかった。皆を安心させるため無茶をしていたし、取り繕ってもいた。

 だが、それでもいいな、と程遠志は思った。無茶だからなんだ。取り繕ったからなんだ。こういった、互いに無茶をしあって意地を張り合ってる状況も捨てたもんじゃねえな、なんて思う。

 

「俺たちだけだから、いいんだよ」といつしか言ったことがあった。まさしくその通りで、こうして男四人でお互いに嘘や欺瞞を交えながらも、真に信頼して笑い合える友人がいることは大事なことだな、なんて今更になってしみじみとなった。

 

「あ、程遠志」鄧茂が、向こうの方を指さした。「夏侯淵さん来てるよ」

 

 程遠志はその言葉に釣られて、そちらを見つめる。

 

 青髪の弓兵が軽く手を振っていた。四、五人の従者に囲われて、こちらへ向かってくる。まだこの地は戦場なのだからもう少し護衛を付ければいいのに、と思う程遠志に、「汜水関から敵が逃げて行ったぞ」なんてことを言いながらだった。「おお!」と程遠志たちは互いに顔を見合わせ合って、驚き、喜び、感動など、四者四様の表情を浮かべ合った。

 そんな中、ふと程遠志は夏侯淵の方を見つめてみる。彼女は程遠志から目を逸らさなかった。僅かな心配の色が、瞳の中に浮かんでいる。程遠志に気取られないためだろう。意識的に心配などしていない、と言わんばかりの、どこ吹く風と言った感じを保とうとしながらも、消しきることはできず、目の端が赤くなっていた。

 少し、程遠志は驚きつつも、笑った。愉快な感情と、素直な嬉しさが胸中に浮かんできて、広がった。あの夏侯淵に心配された。黄巾にいたころの自分が聞いたらどう思うだろうか。驚くのは間違いないか―――いや、そもそも、信じてもらえないか。劉備との会議に行ったばかりだというのに早々とこちらへ帰ってきた彼女は、もしかしたら自分の顔が見たかったんじゃねえのかな、なんて自惚れた推測を立てたりもした。

 

 ひとしきり笑った後、夏侯淵をからかってやろう、と程遠志は思った。弄られているばかりではなく、たまにはやり返してやろうと考えた。馬を操り、夏侯淵の元へ行き、「目の端が赤くなってるじゃねえか」とでも言ってやればいい。普段通りを装う彼女のことだ、多少は動揺するだろう。「もしかして泣いてくれたのか」なんて付け加えれば、恥ずかしくて顔から火が吹くんじゃねえのか―――そんな想像すると、先ほどよりも愉快になった。

 

 早速、とばかりに程遠志は馬の手綱を握り直して、「あれ」と呟くように言った。するり、と手から離れていく感覚。油断したな、なんて気の抜けるようなことを思った。馬が小さく嘶いた。暴れだす。これはまずい、だなんてのんきなことを程遠志は思った。

 意図的に感情を殺していた夏侯淵が、そんなことはどうでもいいとばかりに顔いっぱいに心配を詰め込んで、馬を上手に操って程遠志の元へ素早く駆け寄ってきた。程遠志の後ろからは鄧茂が真っ先に、それにほんの僅かに遅れながら張曼成が、それに次いで厳政が走る。四人はほぼ同時に、馬から落馬しそうになった程遠志を抱き留めた。

 真正面で、程遠志と夏侯淵は向かい合う。

 

「は、ははは」程遠志は誤魔化すように笑った。「いやな、夏侯淵、これは何と言えばいいか」

「馬鹿め」夏侯淵も、心配そうにしながらも笑った。「まったく、締まらない奴だな、お前は」

 

 本当だよ、と後ろで鄧茂がため息を漏らす。

 こんな幕引きも悪くねえな、なんて程遠志が言うと、「悪いよ!」と鄧茂が怒ったように言った。

 

 

 

 

 

 

 このような様子で、汜水関の戦いは幕引きになった。この後、夏侯惇から感謝の言葉を受けて戸惑い、夏侯淵からそれ以上に感謝されて疑心暗鬼に程遠志は陥るのだが、まあ、大体はこんな感じだ。

 

 

 




次回に息抜き編で酒宴を挟む……予定です!









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