真・恋姫†無双~程遠志伝~   作:はちない
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張邈決戦編、完!!!!
これで大体本編の半分くらいが経過したと思います(*'▽')
年内までには完結させる……はず!笑




張邈決戦編 最終話

 

 

 程遠志は、裴元紹を斬った後すぐさま城へ戻った。彼自身、体力の限界が近づいていたのである。

 毒による弱体化、単純な肉体疲労、それに流れを掌握したことによる頭脳的な疲労まで。あらゆる面において疲れきっていた。それでも、裴元紹が死ぬところだけはこの目で見なければ安心できない。そのような思いから追撃の軍に混ざり―――予想外の裴元紹の言葉はあったものの―――ほぼ狙い通りにことを為した。

 城に入ると、彼に向けて視線が突き刺さった。程遠志はうげ、と思わず吐きそうになる。荀彧、程昱、張曼成、厳政、そして鄧茂―――様々な感情を秘めた視線が様々な角度から飛んでくる。そのどれにも共通して言えたのは、心配の感情だった。このような無駄なところで命を危機に晒すなど! と馬鹿にするような荀彧の視線にも、どうしてそのようなことをしたのだ、と涙目になっている鄧茂の視線にも、大小の差はあれそのような感情の色が宿っていた。

 

「おう」程遠志は、それらを無視して言った。「まあよ、勝ったな」

「そうね―――董卓軍も、完全にこちらへ寝返った。もう負けはないわ」

「そんな状況なのに、よく程遠志さんはその身体で追撃にいきましたねー」

「自分でつけなきゃならねえ落とし前ってのが、あったのよ」

 

 程遠志が少し胸を張って言うと、鄧茂が横から「程遠志」と少し怖い顔になって言った。びくり、と身体を震わせる。張曼成はその姿を見て苦笑していた。

 鄧茂は程遠志が裴元紹を斬りに言ったのだと理解している。程遠志が彼に直接伝えたわけではないが、薄々感じとれるだけの関係が構築されている。それ故程遠志の気持ちも理解はしているが―――理解していても納得できるわけではない。

 

「程遠志、言ったよね。『無茶しない』『自重する』って。連合の終わりに、僕に向けて言ったよね」

「言ったかもしれない」

「言ったよ!」鄧茂は叫んだ。「どうしてそれを守らないのさ」

「確かにな、俺も軽率だったよ。でも鄧茂、確かその時に言ったろ。俺の流れは無敵だってよ。流れが来てるときは誰にも負けねえんだ、俺は」

「そうだとしても―――それなら、僕たちにも声をかけてよね」

「はあ?」

「僕だけじゃなくて、今回は張曼成も度を失って心配してたんだから」

「度を失ったのか」程遠志は驚き、張曼成を見つめた。

「まあ」張曼成は鼻の頭を掻いた。「だな」

 

 程遠志は眉を顰める。あの、いつも余裕そうで無口な張曼成が? 心配ならばわかるが度を失うとは思えない。思えないが、彼がそんな無駄な嘘をつく人間にはもっと思えない。病み上がりで戦場へ向かった程遠志をずっと心配していたのだ、と面と向かって言われると罪悪感が湧いてきた。小さく、頭を下げる。

 

「そりゃ、悪かった」

「いいよ」鄧茂は小さく笑う。「いいけど、程遠志はどうせまた無茶するでしょ?」

「しないように善処するよ」

「絶対嘘だぁ」

 

 鄧茂は笑いながらも少し表情が引き攣っている。連合の時と同じだった。程遠志は流石に心配をかけすぎているな、と反省しながらも、鄧茂の言う通りだとも感じた。恐らく、曹操軍全体に危機が生じ、それを自分が力を尽くせば解決できるならば、程遠志はまた無茶をすることだろう。

 それを何とかするには、程遠志が無茶をしなくてもいい状況にするしかない。

 即ち―――それは、曹操による大陸制圧である。

 

「俺もよ、より曹操さまのために働かねえとな」

「ふん。男のくせにわかってるじゃない。狗みたいに忠誠を誓いなさい」

「おうよ。狗みてえに、べろんべろん働きますよ」

「いや」荀彧はそこで真顔になった。「べろんべろん華琳さまに奉仕するのは私の役目よ」

「お、おう―――そうか。そ、それはすげえな」

 

 程遠志はそこで口ごもって、何も喋れなくなった。

 そういう意味で言ってんじゃねえよ、と心の中だけで言ってみる。

 

 

 

 張遼が董卓軍と合流したのは、張邈軍を完膚なきまでに霧散させ、敗走させた後だった。華雄から「お前の所為で城攻めの際に酷い被害が出た」と咎められ、口笛を吹いて誤魔化していた張遼だったが、華雄の後ろにいる男の顔を見て目を見開いた。身体の数か所に傷を作りながらも、余裕そうな表情を敢えて崩さず佇んでいるその男は、高順であった。

 

「アンタ」張遼は驚きのまま聞く。「どうしてここに」

「姫と詠を救ってきたからさ、戻ってきたんだよ」

 

 当然のように高順は言った。董卓と賈詡を救い、安全な場所に確保したと。それが容易いことなどでは到底ないことなど、話に聞くだけでもわかるし、彼の身体の傷を見れば一目瞭然である。それでも高順は痩せ我慢をするように「簡単だった」「欠伸が出るくらいだったな」と主張した。そんな、どのような状況においても気障な自分を演出しようとする彼に張遼は苦笑を隠せない。

 曹操が鄄城に十五日で帰ってきたように、高順も同じような期日で董卓と賈詡を助けて戻ってきた。そんな曹操に対して荀彧が感激していたように、高順に対して感激した人間がいてもおかしくはないのだが、不思議と董卓軍の中で彼に対して信奉のような感情を抱く者はいなかった。

 高順が気障な性格だということもあるし、自信家な部分も仇となっているのだろう。誰しもが董卓を救った高順に感謝をしているがその痩せ我慢からか心底の感謝をしている人間は見られなかった。張遼は少しだけ悲しくなり、彼の肩に手をぽんと載せる。

 

「ウチはアンタの頑張りを理解しとるからな……」

「んだよ、気色悪ィな」高順は邪険にその腕を払った。「で、どうだったよ、曹操軍は?」

「どうだったって?」

「なんか、凄ェ奴はいたのか?」

「色々いたで。猫耳百合軍師と、頭に人形を乗せてる軍師とか」

「……すげえってそういうことじゃねえよ。軍師として凄い奴を教えてくれってことだっつーの」

「いや、そいつらも凄いねんて! 詠並みの天才や」

「本当かよ」意地悪そうに高順は笑う。「オレより頭の悪い霞の言葉は信用できねえな」

「誰がアンタ以下や。戦以外能がないくせに―――って、それはウチもか」

 

 む、と唇を尖らせると高順は大笑した。何やら一本取られたようで腹が立ち、張遼はそこで思い出した。

 曹操軍にいる人材で、面白い人間がいた。鄄城では敢えて彼に会わないようにしていたが―――それは高順を驚かせるにはもってこいの話だった。反董卓連合の折を思い出しながら、張遼は口を開く。

 

「他にも、面白い人間が曹操軍にはおるで」

「へえ、誰だよ? 夏侯惇とか、そこら辺か」

「ちゃうちゃう。まだ夏侯惇とはウチも会っとらんわ。程遠志、ってアンタは知っとるか?」

「程遠志?」高順は思案するように顎に手を伸ばした。「聞いたことねえな」

「やろ! こいつがすごいんよ」

「なにがだよ?」

「戦の空気を怖いくらいに読めるんよ。程遠志をそれは流れとか言っとるらしいが」

「偶然だろ?」高順はにべもない。「流れが存在しないなんて言わねえが、到底信じられねえな」

 

 高順は武官であり、頭はよくないが、ある程度までは現実的な思考回路をしている。「流れ」や「勘」が時には戦場で大きく活躍することを経験で理解はしていたが、意図的に読み切ることができる、とまでは信奉していない。懐疑的な心境になるのも当然のことだった。

 しかし、それを聞いても張遼はにやにやと笑っていた。確実に高順を驚かせることができる、と確信したような笑み。

 

「その程遠志のおかげで、今回の戦いは勝てたらしいで」

「そう思ってるのはお前だけ、ってオチじゃねえよな」

「ちゃうちゃう! さっき言った軍師二人も、程遠志の実力は認めてるんや」

「へえ」高順は軽く笑った。「流れは信じねえけど、なかなか面白そうなやつじゃねえか」

「やろ」張遼も同様の笑みを見せた。「それに、ウチらは程遠志と前から繋がりがあるで」

「はあ?」

 

 高順は小首を傾げた。程遠志、という名前を頭の中で唱えて見るが、心当たりはない。

 張遼は変わらず意地の悪い笑みを浮かべ続けている。高順は焦れ、苦笑を口の端から漏らして、降参を表現するように両手を上げた。

 

「わかんねえ。会ったことなんてあったっけか」

「直接会ったことも、名前を聞いたこともなかったが、ウチらが会いたがってた人間や」

「会いたがってた?」

「鈍いなぁ。あの、汜水関の時やん」

「汜水関―――」高順はそこで、目を大きくした。「あの、呂布と戦った先陣の奴か!」

 

 ようやく思い出した。汜水関の戦いの折、我が策を打ち破った先陣の人間であったのか。高順は驚き、張遼を見る。張遼も見返すように高順に目を合わせていた。

 呂布が率いる猛攻を耐え凌いだ男。会いたい、と胸から感情が飽和してくる。「流れ」だのなんだのはどうだっていい、とすら思った。生き残ったら一緒に会いに行こう、と張遼と約束していたのを思い出す。「先に会いやがって、ズリいな」と高順が漏らすと、張遼はその言葉を待っていた、というように目を光らせた。

 

 

「まだ、ウチは殆ど会ってないで」

「……なに?」

 

 

 ぽかん、と高順は目を丸くする。張遼は得意げに言った。

 

「アンタと一緒に会いに行く、って約束したやろ。だからまだ、会ってない」

「……そうかよ」高順はぽかんとしてからすぐに破顔した。「馬鹿な奴だな」

「意外と健気な女やろ、ウチ?」

 

 高順はそれを聞いて大笑した。張遼もまた同じように笑った。そういう二人だった。

 華雄だけが、そんな彼らを苦笑交じりに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 ―――そんなわけで、曹操軍は張邈軍を大きく打ち破った。大勝である。

 後世の歴史家である司馬光や鄭樵も、この戦から曹操独力の実質的な兗州支配が始まったとしている。張邈の反乱は領内に大きな混乱を巻き起こしたが、長期的な視点からすれば曹操にとって必ずしもマイナスになったというわけではなかった。董卓軍の一部が曹操軍に加入したことを考えると、どちらかと言えばプラスだと言えよう。

 曹操にとってこの戦は、実利的な面ではなく心情的な面での衝撃が強かった。張超が死ぬ直前の張邈に語った言葉は、必ずしも間違いではない。曹操が自身の感情を隠匿することがいくら上手かろうとも、その隠匿された心中が無傷で済んでいたわけではないのだ。

 ……しかし、曹操はその程度で立ち止まる人間ではない。覇道を進む彼女は、自身の部下のためにも決して弱みを外に出さず、「完璧な自分」を演出し続ける。彼女はこの戦によって受けた衝撃も、傷も、誰にも相談することなく自分で呑み込んでしまうことだろう。

 

 

 つまり、心情的にも、実利的にも長期的に見ればマイナスではない。

 張邈軍と曹操軍の戦いは、曹操軍の完全勝利だったのである。

 

 

 ―――ただ、仮に一つだけ問題があるとするならば。

 張邈の親友だった、もう一人の人間のことである。

 

 

 

 

 

 

「香水さんが、死にました」

 

 一人、誰もいない部屋で声が響いた。

 いつも閨で共に過ごしているはずの緑髪の少女も、青髪の少女もいない。ただの一人で、部屋に籠っていた。名家の当主である彼女が一人になるなど、極めて稀なことだった。誰よりも多人数を好む彼女が、初めて孤独を望んだのである。

 ……未来を見ていた。曹操が自分と戦い、張邈はそれを止める。彼女の言葉を無視して曹操を倒し、呆れられながらも曹操と張邈を自分の臣下にする。そうなると信じていた。それこそが天下を取るための第一歩であり、彼女の夢と言っても良かった。

 

 しかし、それはもう現実になることはない。

 

 彼女―――袁紹は三日三晩泣き腫らしていた。何故張邈が曹操を攻めたのか。張邈は何故死ななければならなかったのか。兗州における今回の戦いは謎も多く、すべてを袁紹が理解できたわけではない。理解できないことも多く存在していた。

 初めのうちは曹操を恨んだが、その気持ちは少しずつ薄れていった。元来「怨恨」や「厭悪」に侵されるような邪悪な人間ではない。そのような悪感情は「勇気」や「挑戦心」などのような抽象的な感情に変わっていき、最後には「決意」の色一色に染まった。

 

「華琳さんは―――私が倒します」

 

 公孫瓚に手間取っている時間はない。すべての兵力を持って、曹操を叩き潰す。

 袁紹は決意した。今までのような余裕は見せない。全力を持ってすべてを為す。それこそが張邈の弔いになるのではないか、とどこかで思っていた。曹操を倒すことによって、兗州の戦いの一端を知ることができるだろうと考えたのである。

 袁紹の目からはまだ涙が零れている。悪感情は消えようとも、単純な悲嘆はどうしようもない。

 熱を持った顔、赤くなった頬から零れる涙の雫も、同じような熱を持ち続けていた。

 

 ―――袁紹の思う通り、全力を持って曹操に挑むことは張邈の弔いになるのかもしれない。

 仮に黄泉の国というものがあって、そこで張邈が一人で泣き腫らす袁紹を見たとすれば、必ず喜んでいることだろう。彼女がこれから曹操を苦しめる難敵となる未来を見て、愉快に笑うに違いない。

 

 

 

「三国志」の作者である陳寿はこう記している。「忽然、擊破瓚于易京、幷其衆。出亲戚譚、爲青州」たちまち公孫瓚を撃破し、残党を吸収し、親戚の袁譚に青州を治めさせた、との意である。

 

 袁紹は公孫瓚を撃破後、すぐさま曹操へ弾劾状を送った。

 内容は張邈との戦いの詰問で、実質的な開戦の手紙である。

 

 

 

 このような感じで、張邈との決戦は終結した。今後、この戦いがまだ序章のようなものであったのだと理解し、程遠志は再び苦労することになるのだが―――まあそれは、今からの話である。

 

 

 

 

 




次回は息抜き編を挟むかも……(未定)








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