GM、大地に立つ   作:ロンゴミ星人

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時間が取れるようになったからリハビリ的な意味で
あとがきに一章までのまとめを載せます


幕間1

 法国の地下にその部屋が作られたのは、破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)を探していた漆黒聖典が吸血鬼と遭遇してすぐの事だった。

 強力なアイテムの力で作られたというその部屋を知る者は少なく、中に出入りすることを許された者は両手の指で数えられるほどしかいない。

 多数のマジックアイテムを用いて厳重に守られたその部屋の扉は、今は法国の切り札である漆黒聖典の番外席次によって守られていた。

 そんな部屋の扉が内側から開き、その中から一人の男が姿を現す。

 まだ幼さの残る顔立ちの彼こそが、この部屋の中に囚われている存在を連れてきた漆黒聖典の隊長である。

 

「ねぇ、どうだったの?」

 

 扉の横の壁に寄り掛かっていた少女は、そんな隊長に気安い口調で話しかけた。

 左右で色の異なる長い髪を持つその少女こそ、漆黒聖典最強である番外席次『絶死絶命』である。

 

「どうとは?」

 

「中で神官長たちが『アレ』と話してるのを聞いてたんでしょう? 何か進展は?」

 

「この世界に現れた敵について、また幾つか明らかになりました。これもジョン殿のおかげです。私には正直『設定』というのはよくわからないのですが、アレは嘘を吐くことも、問いを無視することもできないみたいですから」

 

「ふーん……」

 

 隊長は今も部屋の中で続けられている尋問を思い出し、番外席次にそう伝えた。

 これまで繰り返された尋問により、既に危険がない事は明らかになっている。彼がこの部屋の近くまで付き添ったのは、あくまで形式上のものだ。そして質問が始まった以上は既に彼の役目は終わっており、後の監視は部屋を守る番外席次の仕事となる。

 おそらく神官長たちは今も熱心に『アレ』に対して問いを投げかけていることだろう。

 ジョンによって与えられたアレは、おそらく今後の敵に対応するための切り札になるはずだ。

 それを聞いた番外席次は途端に興味を失ったようで、懐からルビクキューと呼ばれる箱型の玩具を取り出し、それをカチャカチャと弄り始めた。

 

「アレ、私も見たけどそこらのゴブリンより弱いじゃない。こんな部屋見張る必要なんてないんじゃないの?」

 

「存在そのものが秘密なので仕方ありません。ジョン殿からも情報統制について念を押されていますし、我々にできる事は本物の『姿』と『記憶』を象った偽物であるアレを有効利用する事くらいですからね」

 

「そもそもその説明もわかんないのよね。『設定』なんて今まで聞いたこともないもの。実際にはジョンは何て言ってアレを作ったの?」

 

 アレの元となった相手に関しては、番外席次も予想がついている。

 『それ』には、法国の精鋭部隊である漆黒聖典が何人も死傷させられているのだ。

 隊長がプレイヤーの下僕を名乗るジョンと出会って法国へと案内したのもその時であり、『アレ』を法国へと連れ帰ってきたのも同じタイミングであるのだから、答えなど一つしかない。

 わからないのは、ジョンがどのようにしてアレを作ったのかだ。

 隊長はアレが作られた現場にいるだろうと判断しての問いだったが、彼はその問いに首を横に振った。

 

「いえ、私が傷ついた者に指示を出している間の事でしたので」

 

「そう……でも、逆に言えばアレを作るのに時間は必要なかったって事よね」

 

「はい。それは間違いないでしょう。ただ一つだけ直接お聞きできたのは、『NPCを構成する要素はプレイヤーとは違う』というお話だけでした。あなたにはこの意味がわかりますか?」

 

「んー、さっぱりね」

 

 ジョンの言葉の意味を番外席次は理解することができず、ゆっくりと首を横に振った。

 そして深く考え込むこともなく、再びルビクキューを弄り始めた彼女を見て、隊長は軽い溜息を吐きつつ口を開いた。

 

「いずれ、ジョン殿を従えるぷれいやー、トール様がいらっしゃいます。その時になったら疑問も解決するでしょう」

 

 ジョンからの伝聞でしかトールを知らない隊長は、とんだ過大評価な台詞を告げてその場に背を向けた。

 そうして歩き出してすぐ、彼は背後からの声に足を止める事になった。

 

「ジョンが言っていた『主』。あの化け物(ジョン)よりも強いという超越者。今は疾風走破を侍らせているその男に、早く会ってみたいわね」

 

 隊長が振り返った先に立つ番外席次は、ルビクキューを弄る手を止め、どこかぼうっとした表情で中空を見つめていた。

 その表情はそれなりに付き合いのある彼にとっても見た事もないもので、思わず声をかけてしまうだけの何かがあった。

 隊長がジョンを連れて法国に帰還した後、ジョンに戦いを挑んで瀕死に追い込まれた番外席次が何を思うのか、その域に達していない隊長には理解できない。

 しかしそれ以降、彼女がジョンの、そしてその主が再び法国へ訪れるのを心待ちにしている事だけは知っている。

 だから彼は、いつもと同じ台詞を彼女へと告げた。

 

「すぐに会えますよ」

 

 その声が聞こえているのか、いないのか。

 番外席次は、己を遥かに超えるあの犬(バケモノ)を従えるという男、トールに対して思いを馳せる。

 

「本当に。えぇ、本当に楽しみだわ」

 

 




ジョンがやった事は非常にわかりやすいです。


一章までのまとめ

*オリキャラ

トール
現実世界においての立場は富裕層のニート。
GM権限として様々な力を持つが、何か大それた事をするつもりは特にない。
刺激さえしなければ特に危険のない人物。

ジョン
推定カルマ値-500なトールの作ったNPC。柴犬。
中身は世界級エネミーだが、トールが追加した『アドバイザー』と『ペット』という設定により、基本的に従順であり自分を下に置いた考え方をする。
トールにアイテムの説明をする際に自分もアイテムを受け取っており、そのアイテムを使って色々と暗躍している。

クレマンティーヌ
不幸にもトールに突っかかって掴まった美人さん。
一度死にはしたものの、もらったアイテムと装備で強くなった。
男の相手をしてるだけで強くなれるなら特に文句はない模様。


*オリジナルアイテム
『ロイヤルクラウン』
魔法ダメージを15分間30%カットする酒。
異世界においてもその効果は健在だが、味を感じられるようになった結果かなりの逸品である事が判明。
トールがよく飲んでいるもので、周りにも振舞っている。

燃え盛る死(コロナ・ディザスター)
ユグドラシル期間限定ガチャ装備『コロナシリーズ』の武器。炎耐性を貫通する炎武器。また氷系魔法・スキルに対する耐性も付与される。
一日一回、第6位階相当の炎上魔法攻撃が使える。シリーズアイテム全てを装備すれば超位魔法三回分。

誘引蝶(デコイ・バタフライ)
トールが冒険者組合にバラまいた蝶を象ったブローチ。
死亡するだけのダメージを受けた際に身代わりになって破壊されるアイテム。

『ファブニールのステーキ』
トールが『ファブニールの肉』を提供し、酒場のコックに作らせたもの
一応、自動回復能力が付与される。うまい。

『奴隷の七星玉』
クレマンティーヌが付けさせられた首輪。
一度装備すると特定のアイテムを使用しない限り外せないクエストアイテム。
基本的な効果として、一日一回死亡時に『その場で蘇生するかホームポイントで蘇生するか』を選んで自動蘇生する事ができる。この蘇生の場合経験値を必要としない代わりに、首輪以外のアイテムをすべてその場にドロップする。
しかし異世界においては死亡中に選択なんてする事ができるはずないので、必然的に全裸になってホームポイントに戻る事になる。
また、お得な七つの効果が付いている。

『馬車ワンセット』
本来なら『転移門』の魔法で一発だが、一応商人としての姿があるため王都への移動用にダミーとして用意したもの。
死なない馬と疲れない御者と壊れない馬車の組み合わせにより、異常な速度で走る。

『十字剣』
トールが作成した武器。
ゲーム的システム限界を超えてデータクリスタルが入っている。
効果はこの武器を用いた聖属性攻撃の威力の三倍化。
現在はシャルティアの手元に。


*オリジナル魔法
昏睡(デッドスリープ)』:使用者はトール
第六位階の睡眠魔法。耐性がなければ通る。


*オリジナルスキル
『*****』:使用者はジョン
潜伏系スキルを無効にし、相手の装備による強化分を含めたステータスを看破する。
これによってプレイヤーかどうかを判別することはできないが、そもそも異世界においてプレイヤーは高すぎるステータスと強すぎる装備を持っているため、異常な存在だとすぐわかる。

強欲の魔手(ロスト・グリード)』:使用者はジョン。
影から大量の腕を発生させ、これに触れた者から一定値のHPとMPを吸収する。
見た目のイメージはホラー映画でよくある、大量の腕が湧き出してくるシーンとか、窓に大量の手が張り付いてるシーンとか、ああいう感じ。
リゼロの見えざる手が一番それっぽい

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