GM、大地に立つ   作:ロンゴミ星人

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第二章 GM/魔王、王都に立つ 前篇
11話


 トールたちはエ・ランテルから王都に移動した後、王都でアイテムショップを開店していた。彼はアインザックからもらった紹介状のおかげで色々と便宜を図ってもらい、更に大量のアイテムを売り払った資金を用い、エ・ランテルの冒険者組合並みの大きさを持つ二階建ての物件を購入することができたのだ。

 既に何人もの従業員を雇い、冒険者組合に直接アイテムを流している事もあってそれなりに繁盛しているその店の名は、『ザ・マジック』という。

 トールが適当に付けた、何の捻りもない名前である。

 

「あぁ、面倒くさい。でもそれなりに立派な店持ってる方が女受けいいだろうし……ハァ」

 

 そして店長であるトールは、今日も建物に二階にある自分の部屋で溜息を吐きながら書類に目を通していた。

 建物は一階は店として開放しているが、二階は居住スペースとして使っているのである。店長室もここにあり、基本的にはそこで適当に書類に目を通したりしているのだ。

 

「誰だよ仕事してる方がモテるなんて言い出したの!」

 

「自分で言ったんでしょ? っていうかなんで私まで手伝わされなきゃならないのよ」

 

「二人で協力した方が早く終わるだろ! 終わったらどこにでも連れてってやるよ!」

 

 調子のいいことを言って誤魔化そうとするトールを見て、クレマンティーヌは軽く溜め息を吐いた。

 なんでトールがクレマンティーヌと一緒にそんな柄にもない事をやっているのかと言えば、女にモテるためである。

 厳密には、エ・ランテルにいる間は何にも仕事せずに娼館に行けばそれで満足だったトールが、ここにきてちゃんと『モテ』を実感したいと我儘を言い出したのだ。

 

 お金で抱くのもそれはそれでいいけど、なんか思ってたのと違う、と。

 

 それをジョンやクレマンティーヌと色々と話し合った結果、じゃあ店を開いて働いてみようという事になったのだ。

 更に言うならあんまりにも楽をしすぎていたため、このままだとダメ男になってクレマンティーヌに嫌われるのではと思ったのである。

 もう手遅れなんて言葉は微塵も浮かばなかったらしい。

 

「なんであの犬私に世話役を頼むのよ……」

 

「そうなの?」

 

「そ、う、な、の! まぁ他にやる事もないからいいんだけどさー」

 

 ジョンは現在、トールの身の回りの事をクレマンティーヌに任せ、幾つかの世界級アイテムを手に王都を離れている。彼曰く、今後の事を考えて様子を伺っておきたい場所があるらしいのだ。

 そしてそんな行動のしわ寄せを受け、トールの身の回りの世話を押し付けられたのがクレマンティーヌだった。

 彼女にとってラッキーだったのは、ほぼ全ての家事を雇ったメイドに任せられた事だろう。一度料理を作らせた後、複雑な顔をしたトールがメイドを雇うことを決めなければ、きっと今頃色々な意味で大変な事になっていたはずだ。

 

「それで? どこか連れてって欲しいとこあるか?」

 

「私としては最近()ってないから盛大にぶっ殺してみたいんだけど、そういうのは駄目なんでしょ?」

 

「それストレス解消か何か?」

 

「だって暇なんだもの。トールと行動し始めてから一度も殺してないのよ?」

 

「何がいいのかわからんが、駄目だぞ。それよかもっと建設的な事やろうぜ? 料理の勉強とかしてみろよ」

 

「それこそくだらないでしょ」

 

 トールが王都で店を開いてから既に三週間。

 既に店の経営の方は安定し、トールたちにとってはちょっと退屈な日々が続くようになっていた。

 一応、これまでに酔っぱらったトールが王都で迷子になるなどの事件もあったが、中でも一番大きな出来事といえば王国の第二王子であるザナックと関係を持つことができた事だろう。

 

「王国は貴族派と八本指を抑えられずに滅亡寸前だけど、金だけはまだ残ってるからねー。王子ならそれなりの商売相手にはなるんじゃない?」

 

 これはトールが商売兼見物で王城へと赴いた際、一緒にいたクレマンティーヌが発した言葉だ。

 かつて法国にいたクレマンティーヌは王国を取り巻く状況を詳しく知っているため、内と外に敵を作ってボロボロな王国があと数年もすれば帝国に抗う力すらなくなって自滅すると知っていたのだ。

 当然それを大き目な声で嫌味たっぷりに笑いながら言えばトラブルが発生する。

 そしてそのトラブルに巻き込まれた人物こそ、リ・エスティーゼ王国の第二王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフだった。彼は二人がしていた一般人がするにはありえない話を聞いてしまい、既に商売の交渉を終えて帰ろうとしている二人を呼び止めてしまったのだ。

 

 「何故そこまで詳しいのだ?」と。

 

 その後はトールがクレマンティーヌの素性をバラした事もあり、その情報価値を正しく認識したザナックに頼まれ、個人的な付き合いが始まる事になったのだ。

 今では『伝言(メッセージ)』と同じ効果を持つマジックアイテムを用い、頻繁に連絡を取りあうようになっている。

 

「それよりアンタ、王女はどうしたの? 確かこの前に王子に話を聞いて会えないか試すって言ってなかった?」

 

「あー、いや……それはなぁ」

 

 そもそもトールが王都に興味を持ったきっかけは、『黄金』と名高い王女の噂を聞いたからである。

 王子という目的の人物に近しい存在と繋がりを持ったのなら、そこから王女の事について話を持っていくのは当然のことだ。

 そう思っての質問だったのだが、何故だかトールの反応が悪い。

 

「どうしたの?」

 

「実はザナックから話聞いててさ。あいつ妹の王女の事を『化け物』って呼んでたんだよね」

 

「……どういう意味?」

 

「俺もどういう意味かと思ってさ。あのラナーって王女の部屋を覗いてみたんだけどな。確かに美人だったんだけど、あれちょっとレベル高すぎだわ」

 

「ハァ?」

 

 何かを思い出すかのように虚空を見つめるトールの瞳は、今までクレマンティーヌが見た事のない諦観に溢れたものだった。

 しかしクレマンティーヌは王女の姿を知っている。

 トールなら間違いなくどんな手を使ってでもヤろうと思える美少女であるはずだ。

 

「いったい何を見たの?」

 

「頭が良すぎるってのも考えもんだな……」

 

「ちょっと、無視しないでくれる?」

 

 フッと笑いながらシカトを決め込むトールに不機嫌になるクレマンティーヌだが、トールはそんな彼女を見て無駄に爽やかな笑顔を浮かべると、彼女の肩に手を置いて真正面から顔を向き合わせた。

 

「その点クレマンティーヌはいい性格してるよ。それくらいわかりやすいと一緒にいて気が楽だ」

 

「ハッ、それ褒めてるつもり?」

 

「もちろん褒めてるのさ。お前は笑顔で人を殺せるけど、ただの言葉だけで人を操れたりはしないだろ?」

 

「……それってつまり」

 

「そういう事だよ。一番ヤバいと思ったのは鏡見ながら笑顔の練習してたとこだけどな」

 

 あれはちょっとヤンデレ通り越してると語るトールに、言葉の意味がわからないながらもクレマンティーヌはそれを察した。

 とんだ買い被りだが、彼女はトールの持つ強さを信頼しているのだ。

 そのトールが、しかも女好きである彼なら好意を抱くはずの美少女に、ここまで嫌悪を抱いている。

 きっと王女の中にある何かを見抜いたに違いない、そう思ったのだ。

 

「とにかくだ。王女の事はもういい! それより行きたい場所がないんなら俺が決めるぞ。いいな?」

 

 もはや話題にもあげたくないのか、そう言って話を打ち切るなりクレマンティーヌの腕を掴むトール。

 その腕をぐいと引っ張られて立ち上がったクレマンティーヌは、トールに引っ張られて店長室の外へ出る事になった。

 

「ねー。酒場以外の場所にしてよね。頼むからさぁ」

 

「任せとけ。俺は女を楽しませるのが得意なんだ」

 

 一体どの口がそれを言うのか。

 そう思いながらも口にはせず、クレマンティーヌは男に手を引かれながら溜息を吐くのだった。

 

 

 

 ちょうどその頃、『ザ・マジック』と看板の掲げられた店の中から現れた老紳士も、深い溜息を吐いていた。

 

特に珍しいもの(・・・・・・・)はありませんでしたね)

 

 心の中でそう呟いた老紳士、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のNPCのセバス・チャンは最近評判が良いという店の噂を聞きつけて調査にやってきていたのだ。

 しかし評判とは異なり、セバスの主人であるアインズの興味を惹くようなアイテムは何一つなく、それどころか店の中にあるアイテムは全てセバス自身も何の興味も抱くことができないものだった。

 評判通りの店なら主人に喜んでもらえただろうと思っていただけに、落胆してしまうのは仕方のない事だ。

 彼は自らの足元で蠢く影に、いつもより数割増しで冷たい声色で語りかける。

 

影の悪魔(シャドウデーモン)、ソリュシャンに件の店には()()()()()()()()()()()()事を伝えてください。私は他の店に寄ってから戻ります」

 

 足元の気配が動きだし、遠くへ離れていくのを感じながら、セバスは一度だけ自分が出てきた店を振り返った。

 外装、内装共に十分に金を掛けた立派なもので、従業員の教育もしっかりと行き届いた店だが、販売しているアイテムはセバスには興味を抱くことのできないものばかり。

 惜しい店だと思いながら、何の違和感も覚えることなく、セバスはその場から立ち去った。

 




ハースストーンやってました
シャダウォックとかいう今世紀最大のクソのおかげで戻ってきました。

本来のプロットと大幅にズレたので、色々書き加える物が増えたり展開変わったりで大分時間がかかりました。
第二章はトールとクレムちゃんの章ですのでお楽しみください。

漆黒聖典の中でもかなりの人格破綻者だったらしいクレマンティーヌには料理とか学んでる暇絶対なかったよね。

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