GM、大地に立つ   作:ロンゴミ星人

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今回ちょっとグロいかもしれないけど原作よりは全然グロくないです。

追記:トールが作ったアイテムについての説明が、数値に出すとトールっぽくない気がしたので変更しました。


14話

 イビルアイとトールの話し合いは意外と早く終わった。

 というのも、イビルアイの話す事は基本的にすべてが空回りし、見栄を張るトールが「あぁ」とか「そうだな」とか「確かに」とか曖昧な言葉ばかりを返したからだ。八欲王だの魔神だの、過去にこの世界を騒がせた存在の話を聞かされても、トールがそんな事の詳細を知っているわけがない。

 それでもイビルアイにとって一番大事な質問だけは、トールも適当な返事を返すことはできなかった。

 即ち、トールの現在の目的である。

 

「目的ねぇ……」

 

「あぁ。この国の冒険者として、これだけはしっかり答えてもらうぞ」

 

 仮面越しに見つめられて、トールは少したじろいだ。

 別に真剣さを感じて慄いたとかいうわけではない。

 女性にモテるためだなんて目的を言ったが最後、目の前の女性陣からモテる事は無理だろうと察したからだ。

 つまり、明らかに真面目そうな雰囲気のイビルアイを納得させるだけの、それっぽい目的を即席で作らなければならなくなったのだ。

 とはいえトールはそこまで上手い嘘を吐けるような人間ではない。彼は仕方なく、モテたいという部分だけは隠して本音で語ってみる事にした。

 

「俺はただ楽しく過ごしたいだけさ」

 

「楽しく……?」

 

「あぁ。今までがロクに話し相手もいない、つまらない生活だったからな。せっかくこうして自由に過ごせるようになったんだから、楽しくやるのが人間ってもんだろ?」

 

 イビルアイと、そしてこの場にいる蒼の薔薇向けに考えた台詞ではあるが、それは紛れもなくトールの本心でもあった。

 トールは元の世界では富裕層の人間であり、荒んだ世界においてテロも戦争も発生しない生活圏に住んでいた。

 しかし、友人は親のコネでとある会社に入社した時にできた一人のみ。その友人とも頻繁に連絡を取るわけでもなく、将来親の立場を引き継ぐ事だけが決まっているトールは命じられたままにずっと家の中で過ごし、映画鑑賞やMMORPGくらいしか退屈を紛らわすものがない生活を送っていたのだ。

 それは貧困層で暮らす人間にしてみれば贅沢な悩みなのだろうが、それはトールの知る所ではない。トールにとっては趣味で気を紛らわすだけの退屈な毎日だったのだ。

 

「店開いてるのも、店員に優しくするのもその一環……みたいなもんだ。なにしろこうして蒼の薔薇にも会えたんだからな」

 

「ふむ……わかった。嘘は言っていないようだな」

 

「俺は嘘を吐くのが苦手なんでね」

 

「フッ、違いない」

 

 イビルアイの態度が軟化したのを見て、トールは内心ガッツポーズを取った。

 どうやらもう問いかけは飛んでこないようだ。

 トールは蒼の薔薇に会えたことを喜ぶ発言をした事でラキュースの機嫌がよくなったことを見てとると、ここは攻めるべきだと思ってアイテムボックスの中から一つのアイテムを取り出した。

 

「さて! せっかくの出会いを祝して、一つ贈り物をしよう!」

 

「露骨」

 

「ちょっとティナ! ごめんなさい。それは……指輪、ですか?」

 

「如何にも!」

 

 トールが取り出し、ラキュースたちの前に差し出したのは一つの指輪だった。

 特に意匠が施されているわけでもない、シンプルな金の指輪だ。

 一見するとマジックアイテムには全く見えなかったため、それを受け取ったラキュースはほんの少しだけ気を落とした。店内のマジックアイテムやイビルアイの様子から、とんでもない人物が凄いアイテムをくれるかもしれないと期待してしまっていたのだ。

 

「そいつは『特製』だ。効果は保障するから大事にしてくれよな」

 

「……ありがとうございます。ところで、これはどういったアイテムなのですか?」

 

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたな」

 

 ニヤリと笑ったトールが語りだした指輪の性能は、どう考えても嘘を言っているとしか思えないものだった。

 

 まず前提として、ユグドラシルにおけるオリジナルアイテムは、コンソールからアイテムリストを呼び出し、外見とデータ容量を決める外装(ビジュアル)に、そのアイテムの性能を決めるデータクリスタルを組み込む事で完成する。より良いオリジナルアイテムを作るには、外装を高レベルの鍛冶師に貴重な鉱石を使って作ってもらい、ドロップ品であるデータクリスタルを厳選する必要があるのだ。

 つまりトールはデータクリスタルは持っていても、鍛冶職のプレイヤーが作るような外装は持っておらず、初心者が使うような店売りの外装しかもっていない事になる。

 本来ならその時点でロクなアイテムを作る事もできないはずなのだが、幾つかの要因が働いた結果、そうはならなかったのだ。

 

 まず、コンソールが開けないためにアイテムリストを介してのアイテム作成が行えなかった事。

 そして試しにコンソールを用いずに作成できないか試してみたところ、彼がGMだからなのか、ここが異世界だからなのか、それとも元からなのかは不明だが、外装にデータクリスタルを触れさせただけでアイテムの作成が行えた事。

 そして最も大きな要因として、トールが全てのアイテムを幾らでも取り出せた事と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 本来ユグドラシルというゲーム内であったのなら、外装の限界を超えたデータクリスタルの組み込みなどできず、実行不可を示すメッセージが表示されるだけだったのだろう。

 しかしこの世界にはエラーメッセージなど存在しない。

 それが原因なのか、外装のデータ容量を超えるデータクリスタルでも無理矢理に組み込む事ができ、その外装は込められる魔力に耐え切れなくなって破裂するという現象が発生することが判明したのだ。

 

 しかしこれはジョンが試した場合であり、トールが試した場合は更に異なる現象が発生した。

 

 すなわち『持っているアイテムが壊れないトールが手に持った外装を用いてアイテム作成を行った場合、その外装本来の許容量を超えても破裂する事はなく、どんな外装にでもいくらでもデータクリスタルを詰め込める』という現象が発生したのである。

 前にエ・ランテルにいた時に起きた吸血鬼騒動の時に作成し、現在はナザリックのシャルティアの手に収まっている十字剣も、同様の手段を用いて作成したものなのだ。

 

 とはいえそんな事を蒼の薔薇に説明したところで理解できるわけがないため、実際にトールが彼らに伝えたのは、彼が『黄金(ゴールド)』と名付けた指輪の性能だけだ。

 その内訳は『ステータス上昇』と『耐性付与』のみの非常にシンプルなものであるが、当然普通の上昇値ではない。

 ほぼ全ての属性に対する完全耐性と二倍近くのステータス補正など、ユグドラシルに存在すれば一瞬でBAN確定の代物である。

 

「こ、こんなものを貰うわけには……」

 

 明らかに異常な性能を持つ指輪を前にして、ラキュースは躊躇った。

 そもそもトールの話が本当なのか、大袈裟に言っているだけなのではないかとも思ったが、ここまでの話を聞く限りでは彼が嘘を言う必要はまるでない。

 ならば指輪の話は真実であり、国宝どころか伝説の武具すらも超えた代物を前にして、それを受け取っていいものかと思ったのだ。

 しかしトールとしてはここで引くわけにもいかない。

 強引にラキュースの左腕を掴んだトールは、彼女の掌に指輪を置いてそっと握らせた。

 

「受け取ってくれ。できる事なら君が装備して役立ててくれると嬉しい」

 

 そんな無茶苦茶キザったらしい態度で指輪を握らされたラキュースはといえば、過去最高レベルにテンションが上がり、口角が上がってしまうのを抑えきれずにいた。

 このシチュエーションは、それほどまでにラキュースの感性にクリティカルヒットしていたのだ。

 伝説の吸血鬼であるイビルアイが警戒する謎の存在『プレイヤー』、そんな彼から手渡される秘宝の指輪。自分はその指輪の力を用いて魔剣を抑え込み、冒険者として更なる高みに……という感じのストーリーが既にラキュースの脳内では作り上げられていた。

 そのままハァハァと息を荒げそうな勢いだったが、双子の忍者が何かを察したような顔で溜息を吐くと共に時間が動き出した。

 

「んんっ! それでは、ありがたく受け取らせていただきますね」

 

「あぁ。存分に使ってくれ」

 

 何かを誤魔化したような咳払いと共に、ラキュースは普段通りのキリッとした表情を取り繕った。

 ちなみにトールはちょっぴり火照った表情のラキュースに目を奪われていたため、違和感に気付くことはなかった。

 

 

 

「そういえばうっかり忘れるところだった。蒼の薔薇の皆さんに一つ質問」

 

 指輪を渡した後、全員でトールの取り出したお茶やお菓子などを楽しみながら雑談していると、ふと思い出したかのようにトールが手を挙げた。

 どうやら冒険者と話そうと思っていた本来の目的を思い出したらしい。

 

「なんだ? ラキュースも随分喜んでるみたいだし、一つなんてケチくさい事言わなくてもかまわないぜ?」

 

「お菓子も美味しいし」

 

「このお菓子、何て名前?」

 

「え? それはショコラットとかいう……ってそうじゃないだろ! なんで俺が逆に質問されてんだ! で、八本指って知ってる?」

 

 テーブルの上に並べられた多種多様なお菓子に心を奪われた忍者にペースを奪われかけながら、トールはなんとか言いたかったことを口にした。

 それと同時に、その場に会った和やかな空気は一気に吹き飛んだ。

 とある依頼によって何度も八本指の施設を襲撃してきた蒼の薔薇にとって、それはかなりデリケートな話題だった。

 

「そりゃ知ってるが、それを聞いてどうする気なんだ?」

 

「潰す」

 

「はぁ?」

 

 八本指という組織の大きさを知るガガーランは、その発言に耳を疑った。

 ラキュースもトールが八本指の事をあまりよく知らないのだと思い、諭すような口調で話しかける。

 

「いい? トールさん。八本指という組織は――」

 

「いやもうそこらへんの説明は腐るほど聞いたからもう言わないでくれ!」

 

「え? そ、そうなの?」

 

「でも、知っているなら尚更不可解」

 

「あれは個人でどうにかできるような組織じゃない。八本指の根は王国の隅々まで広がってしまっている」

 

 ティアとティナの言葉もまたトールの発言を否定するものだった。

 彼女たちの持つ情報から考えれば、それが当然である。

 しかし、蒼の薔薇の中で唯一イビルアイだけは違う意見を持っていた。

 

「ふむ……確かにトール殿なら可能だろう。しかし、それは何故だ? 何故潰そうとする?」

 

「イビルアイ!? 可能ってどういう……」

 

「彼なら可能であってもおかしくはない、ということだ」

 

「おいおい、マジかよ」

 

「嘘は吐かぬさ。それで、トール殿。一体なぜだ?」

 

 やたらとトールの事を評価するイビルアイにより、蒼の薔薇からの驚愕に満ちた眼差しに晒されるトール。

 そこで彼は、ここでかっこいい事を言えば更に評価が高まると感じ、自信に満ちた表情で、しかし何気ない口ぶりで言葉を発した。

 

「俺は良い奴とは仲良くしたいし、悪い奴はその逆だ。友達も困ってるし、俺の商売の邪魔にもなる。あんなのを放っておいて良い事なんて何もないだろ? だから、俺は八本指を潰したいんだ」

 

「トールさん……っ!」

 

 ラキュースが喜びに満ちた声で自分の名を呟くのが聞こえ、トールは心の中でガッツポーズを取るのだった。

 

 

 

 一方その頃クレマンティーヌはと言えば、さっそく積極的行動に移っていた。

 彼女の目標は八本指の奴隷売買部門の殲滅と貴族との繋がりを示す証拠の奪取だが、当然それだけで終わらせるつもりはなかった。

 例え競争でもトールがすぐに動くはずがないと思っていたため、こちらも十分に楽しみながらやろうと考えたのだ。

 

「ふんふふんふふーん♪」

 

「ひぃっ!? や、やめてくれ、もうやめぇぇぁぁああああ!」

 

 奴隷売買部門が王都で開いている娼館、それがどこにあるのかさえわかれば話は早いのだが、流石に全くの情報無しではどうしようもない。

 そこで彼女が取った手段は『同業者に聞く』というものだった。

 八本指直営の娼館はその特殊性故に、一部の人間にしか場所も明らかになっていない。しかし同じように娼館を開いている者ならば、それもそこそこ規模が大きくて評判の悪い店ならば、同業者の店の居場所や奴隷などを用いた不自然な女の仕入れに関する情報を持っているに違いないと判断したのだ。

 結果的に言うと、それは半分正解で半分不正解だった。

 

「ギッ、げごぁ」

 

「つまりさー。この店はヤバい事やってる八本指の隠れ蓑ってことでしょ? 露骨に評判悪ければそっちに目がいくもんねぇ。考えたもんだわ」

 

 足の先端から数センチずつ切り落としていた副店長を鞘に入ったままのナイフであっさり撲殺し、クレマンティーヌは感心したように呟いた。

 つまるところ、この娼館は王都に幾つかあるダミーの一つだった。事情を知る人間はトップの二人だけであり、それでもかなり厳重な警備が敷かれていた。

 しかし現在、この娼館内に生きている人間は、地下室に押し込められた娼婦を除いて店長とクレマンティーヌのみになっている。

 そしてその店長は、脳天に鞘がめり込み、目玉が飛び出した副店長の死体を見て恐怖したのか、手足の指全てを切り落とされた時以上の叫び声をあげた。

 

「おい! 目的は達したんだろ! 解放してくれ! 死にたくねぇよぉ!」

 

「はぁ? いやいや、先に手を出してきたのはそっちでしょ。まっさかこのクレマンティーヌ様を娼婦にしてやるだなんてよく言ったもんだよホント」

 

「ぐぅぁあああっ!」

 

 最初、クレマンティーヌはあらゆる警備を全部スルーして店長室に現れ、その場にいた店長に八本指の情報を寄越せと要求した。

 当然、八本指の人間である店長には、組織を裏切る事になる要求など飲めるわけがなかった。それを言ってきたのが得体のしれない仮面の女であるならば尚更である。

 その上、女が仮面を外した時に見えたその美しい容姿と、外套の下から覗く扇情的な肉体を見てしまえば、不審な女を捕えた上でそいつを犯してやると考えるのは当然の事だった。

 彼らにとって不運だったのは、それをやろうとした相手が、トールにもらった装備の性能を試し、久々の殺しを楽しもうと思っているクレマンティーヌだったことだ。

 

「ま、そんな事言われなくても最初から全殺しの予定だったんだけどね」

 

「な、あぎぃぃぃ!」

 

 肩口に死なない程度にナイフを刺し、ぐりぐりと動かしながらクレマンティーヌは店長に語る。

 

「ほら、顔を見られたら口封じしないと」

 

「お、おま、おまえが、それは勝手に」

 

「うん、()()()顔を見せたら殺さないとダメじゃない? フフッ♪」

 

 つまりはクレマンティーヌがこの娼館が選んだ時点で、娼婦以外の従業員たちが生き延びる道はなかったのだ。

 最初にクレマンティーヌに掴みかかった従業員は顔面を十字に割られて脳漿を店長室に撒き散らして死に、その後は武器を持って彼女に挑んだ警備員と従業員は、残らず四肢を寸断された後で腹部を捌かれ、零れ出た血と臓物で廊下を赤黒く染めあげていた。

 全身を切り刻まれた店長の体も血で赤く染まり、当初の色を保っているのはあれだけ大暴れして尚も血を浴びていないクレマンティーヌただ一人だけだ。

 そして今、用済みとなった店長もまた、その命の火をあっけなく吹き消されようとしていた。

 

「じゃ、そういうことだから」

 

「や、め、ぁ」

 

 サクッと、クレマンティーヌは笑顔で店長の腹部にナイフを突き刺した。

 口が「あ」の形のまま止まった店長を見つめながら、クレマンティーヌは刺したままのナイフをゆっくりと上に上にと押し上げていった。

 

「あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 徐々に開いていく腹からは血が溢れ出して店長室の床を汚していくが、クレマンティーヌはそんな事などおかまいなしに、むしろむせ返るほどの血の匂いに笑みを深めていく。

 そしてナイフが鳩尾にまで達した時、そこでピタリと悲鳴が収まった。

 椅子に縛り付けられた店長は、だらりと舌を垂らしたまま息絶えていた。

 

「ふぅ……スッキリした」

 

 そんな死体を前に、クレマンティーヌは満足した表情を浮かべていた。

 久々の殺戮と拷問を行ったことで、今までトールの面倒を見ていたことで溜まっていたストレスが解消されたようだ。

 トップの二人以外の、八本指とは何の関係もない従業員たちにとっては完全なとばっちりである。

 しかし、そんな事はクレマンティーヌの知ったことではない。今更無関係の人間を殺したくらいで罪悪感を感じるような精神をしていないのだ。

 

「ん~、本命は明日にしよっかな。今日一日で全部やっちゃったらもったいないよね」

 

 拷問しつくした二体の死体を前にあくびをしながら、クレマンティーヌは悠々とその場を立ち去った。

 地下室から逃げ出した娼婦の通報によって警備兵が訪れるのは、この翌日の事である。




今回割と捏造ですが、『主人公がGMだからこそそうなっているのかもしれない』という事にしてあるので許してください。
まぁ早い話バグですよ。
アイテム無限増殖バグと経験値1024倍バグも経験したことあるし、ユグドラシルなら異常強化バグとかあってもおかしくないよね!

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