雨上がり、虹は見えず   作:鴉の子

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久し振りに書けたので投稿です


第3話 改装工事は頼んでねぇぞ

 

「今俺たちは外にスナイパーが二人、その他雑多な火器を持った構成員14人に囲まれている、有り体に言うと四面楚歌という奴だ」

 

 キーラは聞こえてる言葉を処理しきれず思考が停止する、暫しの無言、キーラは再び動き出すと、ゆっくりと口を開けた。

 

「ええええええええええええええええ!?」

 

 小さな体のどこから出るのかという程の大きさの声が事務所に響き渡る、思わずアルフレッドは顔を顰め、キーラの額を小突く。

 

「うるさい、頭がガンガンする。 ほれ、窓の外見てみろ」

 

 アルフレッドは遮光カーテンを少し開け、隙間から景色をキーラに見せる。 そこには全面スモークのワゴン車が4台、軽機関銃からARなど雑多な銃器で武装した男達がぞろぞろと事務所の前にたむろしていた。

 

「わかったろ? ならさっさとその残ったベーコンスクランブルエッグを腹に入れておけ、昼飯は確約できん」

 

 そう言って呑気にコーヒーを啜るアルフレッドに、うるさいと言われたのを気にしたのか律儀に口を押さえながらパタパタと外を指差すキーラ。

 

「んー! んー!」

 

「……手を外せ、何を言ってるか分からん」

 

「ぷはっ、外! 怖い人がいっぱいいるのにご飯食べれません! 逃げましょう!」

 

「……いいか落ち着け、奴らの無線を聞いてたが奴らはまだ様子見だ、まぁ少なくとも20分後には俺の事務所は風通しがだいぶ良くなるだろうが。 その前にまずお前は朝食を食べ終えキッチンの床下収納に隠れろ、あそこはもう一段下に部屋があってシェルターになってる。 俺がいいと言うまで亀みたいに閉じこもってればいい、簡単だろ? 何も心配はないさ」

 

 コーヒーを飲み終えたアルフレッドはソーサーとカップをシンクに置くと、キッチンの床下収納を開き、更にその下の板を外す。 そこには空調と最低限の食料、水が用意された小部屋があり、そこにアルフレッドはハシゴを下ろす。

 

「飯を食べ終えたらハシゴで降りろ、俺は準備があるから外す」

 

 席を立ち、ダイニングを離れる。 すぐ隣の仕事場へ出ると、書類や書籍の入った木製の棚、その側面の少しだけ色の違う部分を押し込む。 すると棚はガコンという音を鳴らして動き出す、棚そのものが沈み込むと奥から大量の銃火器、刃物を積んだ“商売道具用の棚”がせり出す。

 

 手始めに金属製のランチボックスの様な形状のもの、国際法を詭弁でくぐり抜けた対人地雷、クレイモアを四つほど取り出すと玄関に2つ、それぞれを開いた時に扉の裏に来る場所と、靴箱の中に設置する。次に棚から愛用の自動小銃、HK416とマガジンが数個入ったポーチ、二個の発煙手榴弾を取り出す。 そしてもう一度ボタンを押し、書類棚を元の位置に戻すと仕事机から拳銃を二丁、SW1911、45口径弾を用いる大型拳銃、これも愛用品である。これらを全て一度スーツを脱ぎホルスターやポーチに仕舞う、そして彼の一番の武器達を常に身につけている鞘から一度抜き調子を確かめる。

 

「錆び無し、歪み無し」

 

 腰の後ろに回した鞘からはククリナイフ、腰の右側にはマチェットが、右腿にカランビットを、そして左腿にボウイナイフを一本。 主に使う物を粗方確かめると、右腿に6本の投擲用のナイフを装備しスーツの裏地にも数本忍ばせておく。

 

「さて、あと30秒くらいか」

 

 キッチンを見回し、食べ終わりシンクに置かれた食器ときっちりと閉まった床下収納の扉を確認する。 “いい子だ”と呟くとライフルを抱え込み事務所の仕事机を盾にするように床に座り込む。

 

 鼻歌を歌いながらライフルのコッキングレバーを引き最初の一発を薬室に送り込み、懐から取り出した煙草に火をつけ、咥えたその瞬間、無数の銃弾が群れを成して部屋に飛び込んだ。防弾用のセラミックプレートと装甲板で出来ている机が悲鳴をあげる、衝撃が装甲板越しに背を叩くのを感じながらウンザリしたような表情をアルフレッドは浮かべる。

 

「あーあ……これで4度目のリフォームだ。 今度は壁と窓も防弾にするか……?」

 

 そうぼやいていると銃弾の雨の勢いが落ちる、軽機関銃手以外のリロードで生じた隙だった。現状弾を撃ち続けているのは機関銃手三人のみになった、それも暫く撃ち続けると弾切れを起こしたのか完全に銃声が止んだ。

 

 全員が弾切れを起こすとリロードが終わった者から事務所の玄関側に回りはじめる、その足音を聞きながらアルフレッドは二本目の煙草に火をつける。揺れる紫煙を通して、穴だらけの玄関ドアを眺める。男達が扉前に集まるのをつまらなさそうな目で見つめながら、手元のスイッチを弄る。男の一人が扉を蹴破り侵入し、アルフレッドの目の前に躍り出た。

 

「よう、イワン共。 揃いも揃って汚ねぇ面だな」

 

 煙草を吹かしながら小馬鹿にしたような薄い笑みを浮かべるアルフレッド、男達は簡単に挑発に乗ったのか事務所の中へ踏み込んでいく。

 

 アルフレッドは手元のスイッチを二度押し込む、玄関の死角に設置された二つのクレイモアが起動、背面の火薬が炸裂し数百個ものベアリングが銃弾に匹敵する初速度を与えられ男達に襲いかかる。2名は原型を残さずに挽肉に、2名が脳幹に損傷を負い死亡、5名は重要部位に損傷を負い無力化、5名が幸いにも無傷、あるいは軽傷で済んだらしい。

 

 死角からの一撃に混乱する男達に手元のライフルを無造作に向けるとフルオート状態で適当なあたりをつけて撃つ。放たれた30発の5.56×45mm弾が無機質に生存者の命を奪い去った。一人は心臓、一人は頭、一人は主要な動脈に損傷を負う。残り二人、となったところで弾が切れる、その瞬間リロードの隙を狙い残りの二人が襲いかかった。

 

 咄嗟にアルフレッドはライフルを床に捨てると懐から一本、太腿に巻きつけたバインダーから一本、スローイングナイフを抜き銃口を向けた男達の喉元へ投擲。投げられたナイフは狙いへと寸分違わず命中し彼らの頸動脈と気道を同時に切断した。妨げられた呼吸と、失血性ショックにより二人は床へと倒れ込んだ。

 

「……さて、どうするかな」

 

 床に転がったライフルを拾い、弾倉を換えるとしゃがんだ状態で二階への階段へすぐさま移動する。しかし防弾壁から身を出した瞬間にアルフレッドの体を弾丸が掠る、若干の間を置いて発砲音が響く。

 

(弾着から銃声が響くまで0.5秒、弾着の角度からして……あのビルからか)

 

 射線を通さないよう遮蔽物を使い、隠れながらキッチンへ戻ると床下収納を開け、底を数回ノックし、開けると小さく薄暗いシェルターの隅で座り込んでいるキーラにはしごを登るよう指示した。

 

「おい、嬢ちゃんハシゴを登って、扉から頭を出さない位置で待ってろ。 よし、手掴め、3、2、1で引っ張りあげるから自分でも登れよ、肩抜けるからな」

 

 キーラの手を掴むと、発煙手榴弾のピンを抜き二つ転がす。 ボシュウと言う音がすると煙が吹き上がり家中に充満、視界が完全に塞がった。 これで狙撃手も狙いを定めづらくなる、無論場所はすでにバレているためここからの脱出は文字通り命懸けではある、足手まといを抱えてどこまでいけるかという懸念を振り払い、アルフレッドはライフルを背負うと腕に力を込める。

 

「3、2、1、そら!」

 

 キーラを引っ張り上げるとすぐさま脇に抱えて玄関横の割れた窓へ駆け込む、ドアからでは見えない状態でも当たりをつけて撃ち込まれる弾丸に当たる可能性があるためだ。 案の定玄関ドアへ向けて撃ち込まれる弾丸を横目に窓から飛び出すと、家の前に停められたバイクに乗り込みエンジンをかけ、すぐにその場を離れる。 全速力でバイクを走らせ、数キロ離れた場所にある寂れたガレージへ二人はたどり着く、周りは廃工場ばかりで人気も少なく閑散としている。 ガレージを開くと、トレーラーハウスが中心にあり、その周りをさまざまな工具を乱暴に積んだ棚が取り囲む雑然とした空間が広がっていた。

 

「俺の家だ、いいだろ? 国中移動するのに便利なんだ、中に入ってな、ほら鍵」

 

「ほわぁ……おっきいですねこの車」

 

「ん? ああいや車じゃなくてただの箱さ、牽引用の車が別でいる、まぁそっちは事務所兼本宅に置きっ放しだし、なんなら今頃あちこち罅と凹みだらけだな」

 

「へー……あれ、電気がつきません」

 

「ちょっと待ってろ、今ガレージの電源と繋げる。 ああ、今はプロパンじゃなくてガス管とも繋げてるからお湯も沸かしていいぞ。 地下室、掃除忘れてて埃っぽかったしシャワーでも浴びたらどうだ」

 

 太い専用のケーブルをガレージの配電盤に繋ぐと、トレーラーハウスに電気が通り明かりが点いた。 それを確認するとガレージのシャッターを下ろし施錠をする、窓のカーテンを閉め、換気扇を回し煙草に火を点けた。

 

「はぁ、どうしたもんか……」

 

 娘の護衛とエドガルの始末、自分から言い出したとはいえ甚だ面倒極まりない仕事に憂鬱になる。 煙草の煙を肺いっぱいに吸い込んで、沈み込む気持ちとともに静かに吐き出す。 コンクリートの床に吸い殻を捨て火を踏み消すと、トレーラーハウスの扉を潜りコーヒーでも淹れようかとキッチンへ向かう。 棚からインスタントコーヒーを取り出し電気ケトルで湯を沸かす。 湯が沸くのを待っていると奥のシャワー室からキーラが出てくる音がする、どうやら勧めた通りにシャワーを浴びたらしい。 ちょうど湯も湧き、コーヒーも淹れた、何か食べたい菓子でも聞こうかとキッチンから通路へつながるドアを開けると、そこには裸のキーラがバスタオルを首からかけて目の前に立っていた。

 

「あ、着替えならすまないが無いからさっき着てたの着てくれ」

 

「ほ」

 

「ほ?」

 

「ほわぁああああああああああああああ!?!?」

 

 少女特有の甲高い声が響く、幸い部屋は防音仕様なので目立つことはないが、その声はアルフレッドの鼓膜に若干のダメージを与えた。

 

「うるさいぞ、なんだ生娘じゃあるまいし、だいたいお前が早とちりして一回見せてるだろう」

 

「覚悟決めて見せるのと不意打ちで見られるのは違うんです!」

 

「心配すんな、ガキの裸見ても何も思わんよ」

 

「私が! 思うんです! 色々!!」

 

「わかったわかった、後ろ向いてるから早く服着ろ」

 

 あの年頃の子供は扱いづらいと溜息をこぼす、特に女は複雑だ。 男は馬鹿ばかりする生き物だからわかりやすいが、女はあの年頃でもう大人に片足を突っ込んでいく。 自分には少し手に余るなどと考えながら、美味くもないインスタントコーヒーを啜った。 しばらくすると服を着たキーラが耳を赤くしながらキッチンへ入って来た。 ダイニング部分の椅子に座るキーラにアルフレッドは温めた牛乳に砂糖を多めに混ぜたコーヒーを手渡す。

 

「温かいものでも飲みな、まだ空調が効いてないから寒いだろう」

 

「……ありがとございます」

 

 まだ裸を見られたのが恥ずかしいのか少し目を逸らしながらマグカップを受け取るキーラに少苦笑する。 コーヒー牛乳を飲みながら乾いて少しボサボサになってしまった髪を出先で弄る彼女を見て、アルフレッドはコーヒーを置いて洗面台へ向かい、櫛を取り戻ってきた。

 

「髪、梳いてやるよ」

 

「あ、ごめんなさい……」

 

「いいよ、別に」

 

 少し薄暗い照明の光を反射するプラチナブロンドの髪を梳きながら、髪の色は親父譲りだなと益体も無いことを考える。

 

「……纏めるか? 俺のヘアバンドならあるぞ」

 

「あ、大丈夫です、このままで」

 

「そうか、手入れはきちんとしとけよ、せっかく親父譲りの綺麗な髪なんだ」

 

「あはは、洗うのも梳いて貰うのもいっつもゾーイ、あ、昨日話したメイドさんなんですけど、彼女に任せてて……そういえばアルフレッドさんの髪も長くて綺麗ですよね」

 

「そりゃあ毎日きちんと手入れしてるからな、そこらの女よか綺麗にしてるさ」

 

 アルフレッドは片手で腰まで下がった三つ編みを持って自慢するように顔の横に持ってくる。 その中性的な容姿からは一見すると女性にも見える彼の姿は、境遇から彼女の周りにはそこまで髪などに気を回すような男性がいなかったキーラにはある意味不思議にも見えた。

 

「なんだか女の子みたいですね!」

 

「地味に気にしてることを……まぁいい」

 

「気にしてるなら髪切っちゃえばいいじゃないですか」

 

「……ダメさ、それは」

 

 ──── 綺麗ね、切るには勿体無いわ ────

 

 少しばかり残った未練が数瞬閉じた瞼の裏を過ぎる。 あの時はそう確か今とは逆に髪を梳いてもらっていた時だったか。 思い出したくもない白金色の髪が目の前の少女と重なってぶれる。

 

「アルフレッドさん?」

 

「ん、ああすまんちょっとぼーっとしてた。 ほら、綺麗になったぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「あ、すまん俺はちょっと仕事があるから寝室の方いるから、ダイニングにはテレビもあるしゆっくりしてていいぞ」

 

 そう言ってアルフレッドは奥の寝室へと向かう。 寝室から入れるクローゼット、一つには所狭しと武器が並べられていた。 事務所から持ち出したHK416用のマガジンをさらに補充、持ち出して来た分のマガジンにも銃弾を装填する。 S&W1911用のマガジンも同様である。 更にアルフレッドはC4、プラスチック爆弾と信管をいくつか、ライフルのアンターレールに取り付けるためのグレネードランチャーを取り付ける、予備の榴弾を数発取り出しこれら全てをベッドに並べる。 そしてスーツを脱ぐとワイシャツの上から防弾ベストを装着、スーツを着直すと並べた弾薬をベルトポーチに入れ、全てをバッグの中に入れガレージの外へ持ち出す。

 

(当面の準備はこれでいいか……次はキーラをどうするかだ)

 

  単身でマフィアの有力者の殺害、簡単ではないが慣れた仕事だ。 だが少女一人を抱えたままでは話は別だ、しかもそれが護衛対象であるなら尚更。

 

(信頼できる味方が必要だ、俺ではなくキーラの)

 

 その為にはまず、キーラの護衛をやっていた家政婦を待つ必要があった。 ラーリャ経由の事だ、自宅ではなくこちらのガレージに来るように伝えてはいるだろうから襲撃に巻き込まれることはないだろう。 しばらく待っていると外から空冷式の特徴的なエンジン音が聞こえてくる、すぐにコーヒーをテーブルに置くとトレーラーハウスを出て、ガレージの裏口の鍵を開けそこから表へ回った。

 

「あんたが護衛の家政婦?」

 

 ガレージの前にはサイドカーを付けたハーレーが一台、そしてすぐ側に無骨なバイクとは似つかわしくないロングスカートのメイド服を身に纏った女性が一人。

 

「はい、キーラお嬢様の身の回りのお世話と護衛を担当しておりますゾーイと申します。 お嬢様はどこに」

 

「ガレージの中にトレーラーハウスがある、そこで休んでる。 ああ、あと聞きたいんだがあの子着替えとか日用品の用意はあるか?」

 

「着替え、普段使いの石鹸など一通りは用意しています、しばらくの間は大丈夫かと」

 

 サイドカーから大きめのバッグを取り出しながらゾーイは言う。

 

「よし、装備で足りないものは」

 

「ございません」

 

 降ろしたバッグを開くと中には日用品に混じってグロックが二挺、ボックスマガジン式のセミオートショットガン、イズマッシュ・サイガを2挺とマガジンがいくつか紛れ込んでいた。

 

「充分か、ならあの子の護衛を頼む。 あの子には安全とは言ったが多分二日もすれば追っ手は来る。 それと、案外タフな娘だが知り合いがいた方が安心できるだろう、安心させてやってくれ」

 

「元より、それが私の任務です。 貴方はどちらへ向かわれるのですか?」

 

 事務所から逃げ出す際に乗ったバイクに重機を満載したバッグを背負い乗り込みながら返答する。

 

「ん、事務所の風通しを良くしやがった馬鹿共全員の頭に通気口開けてくるだけよ」

 

 

 




というわけで銃器をまともに使った初戦闘、若干爽快感を出せなかった気もする。

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