【更新休止】Doppelter Gedanke Alchemist   作:APOCRYPHA

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大分遅くなりましたが、なんとか書き上がったので投稿です。


第十九話 人、ヒト、ヒトカタ

「邪魔するぞ」

 

「はい、どなたでしょうか……って、アイン、あなたでしたか」

 

 街外れに佇むソフィーのアトリエの扉を開けたアインを出迎えたのは、家主であり、アトリエの店主でもあるソフィー本人でも、居候?である本のプラフタでもなく、見知らぬ銀髪の少女だった。

 首の辺りで揃えられた銀髪の少女は、かなり真面目そうな顔付きをしている。

 だが、その真面目そうな顔に反して露出が多く、ボンテージともレオタードとも言い難いその服装は太股や脇、胸元などで白い肌を剥き出しにしている。

 

「……?」

 

 目は口程にものを言うとは誰の言葉だったか、そんな少女を見たアインからは『誰だこいつ……』と言った不信感が滲み出ており、場所を間違えたと思ったのか、扉の外に顔を出して周囲を見回した。

 

「どうかしましたか?」

 

 少女は急に扉の外に顔を出したアインの様子を心配して近くに寄る。

 しかし、それはアインを余計に混乱させるだけであり、知り合い程度のものではあるが、初対面な筈なのに妙に近い距離感は『あれ? こいつと知り合いだったっけ?』 と困惑を深めるだけであった。

 

「まあ、上がってください」

 

 そんなアインを見て一旦落ち着かせようとでも思ったのか、少女は『何か用事があって来たのでしょう?』 と言いながらアインに背を向けてアトリエに上がるように勧める。

 少女の剥き出しの背中を見たアインは『うわぁ……』と言わんばかりに顔を引き吊らせる。が、その一言で少しだけ冷静になったのか、或いは心当たりでも思い出したか、顔に出ていた動揺の色が消えたアインは右手に持っていた杖頭である蒼い宝玉をそれとなく少女に向けると、微妙に顔をしかめながらこう問い掛けた。

 

「……そもそも、お前は誰だ?」

 

「えっ」

 

 アインからの問いに惚けたような顔をした少女だったが、少女の様子を見たアインはますます警戒を強め、杖を握る手に力が入る。

 また、アインが杖を握り魔力を込める度に宝玉が輝きを増していき、その輝きから滲むようにして泥のような黒が染みのように混じり出す。

 

「……あー…そう言えばそうでしたね」

 

「……」

 

 余りにも禍々しい黒に気付いているのかいないのか、少なくとも宝玉の放つ輝きには気付いている筈の少女は、まるで『この程度では自身を害せない』と言わんばかりに宝玉の放つ輝きを歯牙にも掛けずに両手を胸の辺りで組んで『うんうん』と頷いている。

 

 そんな少女に腹が立ったのか、スッと目を細めたアインは無言で宝玉の放つ光を強め、制御能力を超えた魔力が集束した宝玉からはバチバチと黒い火花が散る。 

 

「私はプラフタです」

 

 しかし、そんなアインの苛立ちを知ってか知らずか、少女は笑みを浮かべながらこのアトリエの空飛ぶ本であるプラフタの名を名乗る。

 

「……は?」

 

 困惑からか杖頭の宝玉から光は消え、集束した魔力は霧散した。

 目を見開いて驚愕するアインを余所に、日に焼けた様子の殆ど見られない白い手を差し出して、『改めて、よろしくお願いします』と言う少女―――プラフタは、微笑みを浮かべるのだった。

 

「ただいまー! あ、アインさん、久し振り!」

 

「お帰りなさい、ソフィー」

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――と、言う事があったんだよ!」

 

「……そうか、大体理解した」

 

 これまでの事をおおまかに説明したソフィーは、腰に差していた杖を抜くと錬金釜の前に立ってその中身である乳白色の液体を杖でグルグルと掻き混ぜる。

 そんなソフィーを横目に捉えながら窓の高さにまで積み上げられた分厚い本に腰掛けているアインは、理解したと言いつつも何処と無く残念そうな顔をしているのだった。

 

「ふむ、しかし……そうか……」

 

「……あの、なんですか?」

 

 『うむうむ』と頷き、腰掛けていた本から立ち上がったアインは、反対側でソフィーの行使する錬金術を斜め後ろから見守っていたプラフタに近寄ると、その身体を上から下までじっくりと視る。

 

 その視線にいつぞやの『分解させてくれ』発言でも思い出したのか、或いは人だった頃の感覚の大部分甦って羞恥心でも湧いたのか、プラフタは身体を守るように掻き抱き、アインを睨む。

 

「ふむ、錬金術で作った皮膚……にかなり近い触感、及びに質感の布で球体関節を覆い、見た目を誤魔化すと同時に異物であるゴミの混入を軽減すると言った所か」

 

「あ、分かります?」

 

「っ?!」

 

 しかし、アインはそんな視線はお構いなしでプラフタの腕を取ると、関節部分に指を這わせながら『良く出来ている』と宣う。

 そんなアインからの高評価にソフィーは釜を廻しながら喜ぶが、いきなり腕を取られたプラフタは急な事に思考が追い付いていないのか、硝子の瞳を見開いて微妙にプルプルと震えている。

 

 恐らく、人形(無機物)の身体ではなく()の身体であれば目を白黒とさせていただろう。

 

「これ以上の事は解体(バラ)して見なければ判らんが、一級の技師が手掛けた人形だと言うのは分かるぞ」

 

 そう言ったアインはプラフタの腕から手を離すと、『人形、人形か……』等とブツブツ呟きながら元の位置に戻っていく。

 

「ふんふんふふふふふんふんふふふふふんふん―――」

 

「……」

 

 そんなアインを警戒するプラフタと、そんな空気に気付かず陽気な鼻歌を歌いながら釜を回すソフィー

 

「元の器に近い器を用意して……親和性を……許容値が……………ないなら…………………それだ!!!!」

 

「うひゃぁっ?! ……あ、危なっ!?!」

 

「ちょ、大丈夫ですかソフィー!?」

 

 すると、アインは突然『それだ!!!』と叫び、大声に驚いたソフィーは手に持っていた材料である灰色の粉が入った丸い瓶(炎帝の粉)を釜に落としそうになる。

 

 舞い上がる、ただそれだけの些細な刺激で発火してしまう粉の詰まったそれが落下の衝撃に耐えられる筈もなく、錬金釜、引いてはアトリエの大炎上という未来にアインを睨んでいたプラフタも思わず振り向いてその安否を確認した。

 

「な、なんとか……」

 

「あはは、あははははっ……アーッハッハッハ!!」

 

 そんなプラフタになんとか無事である事を伝えるソフィーは、歓喜の念を纏うように喜色満面の笑みを浮かべて狂ったように高笑いを上げるアインを尻目に、きちんと適切な処置を施しながら炎帝の粉を錬金釜へ入れる。

 

 それから『これをこうして……』と言いながら錬金釜を右回りにゆっくりと回して数秒後、白い光と共に掌サイズの赤い球体―――フラムの発展強化系であるオリフラムが完成したのだった。

 

「……ふう」

 

「ハハハハハ―――!!」

 

「もう! 危ないじゃないですか!」

 

 その完成に伴って一段落が付いたソフィーは、額の汗を拭うと手に持っていた杖を錬金釜へと立て掛け、完成品であるオリフラムをカバンへと仕舞い、未だに高笑いを挙げ続けるアインの方を向いて『危ないじゃないか』と、怒った顔で抗議の声を挙げた。

 

「――む…ああ、すまん」

 

「気を付けてくださいね」

 

 半ば理性が飛んでいたかのように笑い声を挙げていたアインだったが、ソフィーからの抗議は不思議と耳に入ったのか、狂喜が溢れ出ていた相貌は普段通りの理知的なものへと戻り、周囲の様子を少し見て自分が何をしたか理解したのか、両手を挙げながら『悪かった』と謝る。

 

 そんなアインを見て満足したのか、ソフィーも『あたし、怒ってます』といった表情を収めて『仕方ないなぁ』と言った風に苦笑いを浮かべながら、『もう、本当に気を付けてくださいよ』と言う。

 『分かった分かった』と言いながら、アインはソフィーに謝った。

 

 そうしてそんなやり取りを数分ほど続けた後、アインはこれ以上ないといった真剣な表情でこう言ったのだった。

 

「ノイエンミュラー、いきなりで悪いが、少し協力してくれないか?」

 

「え?」




ここがダメって部分があったら感想でもメッセージでも良いので出来るだけ具体的に教えてもらえると助かります。

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