【完結】英雄戦機ユナイトギア   作:永瀬皓哉

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未来-ホープレス-

 2頭の超大型レイダーの襲撃。

 あまりにも唐突な出現に対処が遅れる第一前線部隊と第二前線部隊だったが、この事態に直前まで交戦状態にあった『絆の家族(ファミリィ)』と『仲間たち(パートナー)』が手を組んだ。

 

 希繋(きづな)逢依(あい)悠生(ゆうき)から成る『絆の家族(ファミリィ)』の団結力。

 優芽(ゆめ)覚悟(さとり)総交(そうま)から成る『仲間たち(パートナー)』の結束力。

 

 どちらも強い『絆』と『信頼』で結ばれたチームであるだけに、そしてどちらもが「誰かを守るため」「誰かを救うため」に戦ってきただけに、この両者の共闘はレイダーにとって脅威となった。

 

「さすがに、レイダーを相手にギアを纏わない理由はないな」

「ようやくお披露目か。勿体ぶりやがって」

 

 レイダーを前にした総交の呟きに、背中を預けた悠生が吐き捨てるように言う。しかし、その表情はどこか満足気で、それでいて狂気的な何かをも孕んでいた。

 

「知ったことか。いくぞ、ディープブルー」

『了解。ユナイトギア三二号・ディープブルー、海凪総交に同調接続(アクセス)します』

 

 左腕に装着していたブレスレットの群青色の水晶が輝くと同時に、総交の体を青い光が包む。

 そして、一瞬の輝きの中から現れたのは、四肢にブースターのついたガントレットとグリーブを装着し、群青色のマントに身を包んだ姿。

 だが、希繋たちが驚いたのはその装備ではなかった。

 

「メッシュ入り……って、姉さんのハートと同じ、エモーショナルエナジーが『逆流』したユナイトギア……!?」

 

 エモーショナルエナジーの逆流。数あるユナイトギアの中でも、特に強力なものを用いる装着者が、リミットブレイクを繰り返すことで発生するギアの暴走の後遺症。

 リミットブレイクは装着者の感情エネルギーを過剰摘出(エクシードチャージ)することによって、ギアの出力上限を一時的に解除し、基本限界以上の力を発揮させる決戦用プログラムだ。

 だが感情エネルギーの過剰摘出(エクシードチャージ)とは、即ち装着者の感情を無理矢理に引き出す行為であり、ギアだけでなく装着者自身への負担も極めて高い。

 その負担に耐え切れなくなった状態でなおリミットブレイクした者に対し、ギアが装着者を守るために強制発動する防衛機構こそ、感情エネルギーの『逆流』である。

 

 摘出しすぎた感情エネルギーを装着者に逆流させることで、底を尽きかけた装着者の感情に潤いを与えるが、その後遺症として本来あるべきでない部位にギアの影響が現れる。

 それが、主に髪や肌の変色。総交の場合、前髪の一部に群青色の変色が見られるため、おそらくそれこそが『逆流』の影響なのだろう。

 だが、逆流とは単純な感情エネルギー『だけ』を逆流させているわけではない。ユナイトギアの特性――『感情を威力にする』という点も『逆流』しているのだ。

 

「道理でオレとタイマンで張り合えるわけだ。さすがのオレだって、エモーショナルエナジー込みの格闘じゃ楽には勝てねーからな」

「喋っている場合か。来るぞ」

 

 総交の言葉が合図であったかのように、2頭のレイダーが家族と仲間に襲い掛かる。だが、それに対する絆の家族(ファミリィ)の対応は早かった。

 レイダーが動いた途端、希繋と悠生が駈け出した。当然、レイダーの元に到達する速度は希繋の方が格段に速い。しかし、彼の蹴りにすらこのレイダーは耐え、こうして向かってきているのだ。

 故に、希繋は牽制以上の意味を持つ攻撃を敢えてしなかった。

 

 牽制、撹乱、陽動。そういう作戦において、エクレールの『電気変換』というギア特性は、非常に有用なものだった。

 電気がスパークする光は相手の視界を遮ることができる上、電気という性質から成る「麻痺効果」は、相手を殺すことなく自由を奪うためには非常に役立つ。

 そこに希繋のスピードが加わることで、相手の攻撃を全てかわしながらヘイトを集めるという戦略は成立し、そうして稼いだ時間はほんの10秒程度でも『結果』へと繋がる。

 

『――充填完了(コンプリート)

 

 そう、たった10秒でも、レイダーを氷漬けにしながらチャージを完了させるには、必須かつ十分な時間なのだから。

 

「オーヴァー……ッ!!」

 

 その拳は、太陽の輝きにも似た力を持っていた。

 見ているだけで悠生以外の誰も彼もを輝かせてくれるような、闇の世界を強引に暴くような、強さと激しさの象徴。

 故に、その拳は燃え盛る。太陽も呑み込むほどの光と熱を放ちながら。

 

「デェストラァクトォォォッ!!」

 

 悠生が拳を叩きつけると同時に、希繋もその場を即座に離脱する。

 オーヴァーデストラクトは、その名に相応しい『超破壊』の力。殴りつけた先から、周囲の被害を顧みず徹底的な破壊を尽くすだけの拳だ。

 圧倒的で絶対的で暴力的で究極的かつ最強的なその拳は、レイダーを穿った直後、巨大な火柱を生み夜空の雲を貫く。

 

「相っ変わらずのバ火力で安心する……」

「いくら超大型でも、悠生の大バカデストラクトの前では他のレイダーと大差ないわね」

「お前ら人のことバカバカ言いすぎだろ」

 

 まともな一撃だけで超大型レイダーを炭に換えた絆の家族(ファミリィ)は、もう片方の超大型レイダーの相手をしている仲間たち(パートナー)の加勢に入ろうと振り向く。だが――。

 

「やっと終わったか。随分と待たされたな」

「……は……?」

 

 そこには、水の棺桶に詰められ、無数の鉄筋にその身を貫かれた超大型レイダーを背に、絆の家族(ファミリィ)を待つ仲間たち(パートナー)の姿があった。

 

「この程度のレイダーが相手なら、私と優芽だけで十分ですからね。もちろん一瞬で終わらせましたよ」

「とはいえ、あたしたちじゃ拳ひとつで倒すことはできないのも事実。さすが『最強の拳』といったところですね」

「桐梨希繋が撹乱と陽動をしながら時間を稼ぎ、香坂逢依が対象の動きを封じ、大郷悠生がトドメか。理に叶った戦術だが……さすがに時間が掛かりすぎるな」

 

 不敵に笑む総交と、その後ろに控える優芽と覚悟。そんな三人に、絆の家族(ファミリィ)は初めて戦慄しながら、それでも構える。

 ここからは、共闘じゃない。いよいよ時が来たのだ、絆の家族(ファミリィ)仲間たち(パートナー)、それぞれの決意と誓いが交差する最終決戦の時が。

 

「……悠生」

「総交の相手だろ、わかってるっつーの」

「逢依……」

「はいはい、覚悟ね。了解よ」

 

 希繋では総交の格闘技術には敵わない。だからパワーとタフネスで勝負ができる悠生を頼る。

 希繋では覚悟のギア特性には敵わない。だからテクニックとタクティクスで勝負ができる逢依を頼る。

 

 桐梨希繋は一人では戦えない。家族がいて、心強い兄や姉がいて、初めて彼は「戦う桐梨希繋」となる。

 

 故に、和泉優芽は今、この瞬間――桐梨希繋を何にも勝る「強敵」として、何より絶対に救いたい「恩人」として、ディアドロップを構える。

 

「桐梨……いえ、お兄さん。あたしは、現代のあなたに憧れて、必死になってあなたの背中を追いかけて、そして……未来でこのイーリスを託されました。だけど……」

「……未来の俺は、君じゃ救えないほど『なにか』に絶望してしまった……か?」

 

 言葉に詰まる優芽の表情を見かねて、希繋の方から思い当たる節を探し当てる。

 希繋自身もずっと考えていたことだった。なぜ、自分を慕ってくれていると言って憚らない優芽が、あんなにも悲しそうに戦いを望み、戦いに臨むのか。

 考えてみれば、難しいことではなかった。優芽が希繋を「救う」と言うからには、希繋を傷付けるような出来事が、未来で起きたはずなのだ。

 

 しかし、ただ傷付けられるだけの出来事なら、過去にまで遡る必要はない。つまり、本当に文字通り「守る」のではなく「救う」必要がある出来事が、起きてしまったのだ。

 そして、優芽・覚悟・総交たち『仲間たち(パートナー)』が未来で尽力してなお「救えない」ことを過去に来てどうにかしようとするなら、それは物理的な被害ではない。

 彼ら三人がかりで希繋を救う。そしてそれは未来ではできないことであり、なおかつ『エクレール』を破壊して解決を図ることができること――即ち、それは。

 

「はい……。あたしの知る未来では、レイドリベンジャーズと世界中に散らばった絆の家族《ファミリィ》たちの尽力によって、全てのレイダーを殲滅することに成功しました」

「やっぱりか……。そしてレイダーという「共通の敵」を失った世界は、今度は強い力を持つ『レイドリベンジャーズ』や『絆の家族(ファミリィ)』に牙を剥いた……ってところか?」

 

 優芽が追うように言葉を連ねれば、その言葉から希繋はさらに真実への道を繋げていく。

 おそらく、既に希繋だけでなく逢依も、同じ真実へと到達しているのだろう。故に、覚悟と総交も優芽を止めようとはしない。

 

「戦力では明らかに装着者や身体能力に優れるレイドリベンジャーズと絆の家族(ファミリィ)たちに分がありました。ですが……結果はそれらの惨敗。なぜかわかりますか?」

「……いや。いくらレイドリベンジャーズが対レイダー以外の戦いにおいては『専守防衛』のスタンスをとっているとはいっても、さすがにそこまでされたら自己防衛くらいは……」

「簡単ですよ。人質に取られたんです。レイドリベンジャーズと絆の家族(ファミリィ)を結ぶ、最も強固な『キズナ』となる人物が」

 

 まさか、と希繋は優芽が次ぐ言葉を待つ。

 

「そう、それがあなたです。『最弱の』レイドリベンジャーズにして、『最古参の』絆の家族(ファミリィ)であるあなたが人質に取られたことで、両者はあなたを見捨てられず次々と斃れていった……」

「……なるほど。それで俺は世界に絶望した、ってことか。確かに、聞いただけで許せないよ。腹が立つ。世界よりも……ただ何もできず世界に利用された俺自身が、許せない」

「だからあたしは、そんな悲劇的な未来を変えるためにも……あなたを倒す! あなたを倒して、エクレールを破壊させてもらいます!」

 

 エクレールを破壊されれば、希繋はレイドリベンジャーズとしての力を失う。そして希繋がレイドリベンジャーズを除籍されることになれば、小転(こころ)が黙ってはいないだろう。

 希繋だけに限らず、大好きな絆の家族(ファミリィ)を危険な戦いに送り出すことから、あまりレイドリベンジャーズに良い印象を持っていない小転のことだ。希繋が抜ければ逢依と悠生も脱退させられる。

 そうなれば、少なくともレイドリベンジャーズと絆の家族のキズナは断たれる。つまり、もしも未来で世界がレイドリベンジャーズの敵になっても、絆の家族(ファミリィ)を守ることはできる。

 桐梨希繋を救うことで、全ての絆の家族(ファミリィ)を救う。それが優芽たち仲間たち(パートナー)たちの、最大にして唯一無二の目的だったのだ。

 

「今の優芽の話を聞いてもまだ、エクレールを守るために戦うつもりか。お前のその中途半端な優しさ……甘さのせいで、また多くの家族を喪失(うしな)うとわかっても」

「戦うさ。確かに未来での出来事は、どう考えても俺の甘さと弱さが招いたことだ。けど、エクレールだって家族だ! 機械だとか人間だとか関係ない! 喪失(うしな)いたくない大事な存在なんだ!」

「そのために、世界中のレイドリベンジャーズや絆の家族(ファミリィ)を巻き込むことになってもか……!」

「そんな未来なんて、俺が……俺たちが変えてやる!」


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