「こちら第二前線部隊・攻撃隊の
「同じく
『既に第一前線部隊と連携し、二体は処理した。一部じゃなく具体的な数を言え』
レイダー連続襲撃事件12日目。ピークをようやく脱したとはいえ、わらわらと湧いて出ずるレイダーたちに愚痴をこぼす暇もなく、レイドリベンジャーズは戦場に駆り出されていた。
通常のレイダー襲撃と違って、レイダー連続襲撃事件におけるレイダーの勢力レベルはいずれも『群』以上。
エース揃いの第一前線部隊でさえも手を焼く数というだけに、サポートと主力戦闘のどちらにも対応できる第二前線部隊に、休みなど与えられるはずがなく、第二前線部隊のメンバーたちは疲労と愚痴が露骨に増していた。
とはいえ、レイダーの殲滅はレイドリベンジャーズの本分。いくら疲弊しようとも、レイダーとの戦いに不満をもらすことなどできはしない。
『こちら本部の
「了解。
希繋の指示に返事すらなく、天宮と空宮は各々のポジションに移動、望月も彼に続き後方からレイダーたちを追いやる。
現在地点であるA-07ポイントは住宅の密集した大規模住宅エリア。ここで戦闘を激化させては被害は計り知れない。ならば少しでも被害を抑えつつ、海に面するA-08ポイントに誘導することこそ最善策。
既に数体のレイダーが移動ルートを逸れようとするも、チェーンタイプの簡易ELBシステムを持つ望月がそれを許さず、強引に縛り付けてスピードを緩めないまま引きずり回す。
「あーん! レイダー重ーい!」
「文句言うな、お前しかレイダー引き摺れる奴いないんだから」
「この非力男子どもー!」
極端に脆弱な希繋だけでなく、しれっと自分たちまでひと括りにされたことについて文句のひとつふたつぶつけたいと思った天宮と空宮だが、ひとまず任務を終えてから存分に仕返しをしようと心に決めて言葉を呑んだ。
しかしそうこう冗句をかわす内に、レイダーも追われるだけでは行く先が知れていると判断したのか、数体が殿として立ち止まる。これに対して即座に判断を下したのは希繋だった。
「望月、ここを任せる。第一と連携し、ここを収めろ」
「らじゃーっ! んじゃ、引き摺りメンバーもまとめて片付けちゃおうかなー。隊長、第一の人を適当に見繕ってこっちください」
『了解。第一前線部隊に応援要請を出すわ。5分……いえ、10分くらい稼いでくれる?』
はいはーい、と軽く返事を返す間にメインのレイダー群と希繋たちは姿を消し、この場には5体のレイダーと望月だけが残された。
いかに永岑支部の第二前線部隊において単体戦力最強を誇るとはいえ、望月が持つのは簡易型ELBシステム。レイダーに対して打撃を与えられるとはいえ、エモーショナルエナジーをチャージできない以上、彼らに対する致死性を持たない。
故に彼女が今ここで出来ることといえば、第一前線部隊からの応援が到着するまで時間を稼ぎ、これら5体のレイダーたちをここに留めておくこと、それだけだ。しかし――。
「さーて、じゃあみんな見てないし、久々に本気でやっちゃっていいよね? まぁ、返事なんて聞かないけどさ」
『――――!』
雑音にも悲鳴にも似た、ノイズがかった叫びが、住宅地にほど近いこの公園に響き渡る。
住民は既に避難を追えているだろうが、生憎と望月は加減の下手なパワーファイター。公園という狭いリングで4体もの相手をするのは、自らの強さ故に骨が折れる。
それでも――自らの慕う上司がこの場を自分に任せ、それを彼女は承った。共にいた二人の同僚も、彼女を信じていたからこそ何も言わずに先へと進んだ。ならばこそ、ここでこのレイダーたちに背を向けることはできない。
背を向けていいのは、自分が本気で守りたいものか、自分を本気で守ってくれる相手だけ。故に、
『――――』
「四足歩行型3体と二足歩行型2体……飛行型がゼロなんて、ちょろすぎて笑っちゃうね!」
正面から襲い掛かるのは一体の四足歩行型レイダー。そしてそれに追従する二足歩行型と、左右に展開する二体の四足歩行型。複数の戦力が単騎に対して打つ先手としては定石といえる。
定石は定石となるだけの結果を生み出すからこそ強力だ、ということを理解した上で、それでもなお敢えて言おう。定石に従うばかりの戦術が、レイドリベンジャーズにどれほど無力であるか、と。
「散開したところ悪いけど、もっぺん一纏めにしちゃおうか!」
『――――!』
両手に握ったチェーンが意思を持った蛇のようにうねり、四体のレイダーを固く絡めとると、その怪力にものを言わせて地面へと叩きつける。
感情のない大地への叩きつけは、レイダーに対して有効なダメージとはならないものの、生み出される衝撃は絶大。その反動で3メートルほどの高さまでバウンドしたレイダーに対し、今度はチェーンを鞭としてダイレクトに攻撃を打ち付ける。
チェーンによる打撃は、先程の投げ技と違いELBシステム――即ち感情エネルギーによる攻撃である。故に、致命的なダメージを与えられないとはいえ、明確なダメージとしてレイダーに蓄積される。
「ちょっと飛ばしすぎたかな? ま、この
伸ばしたチェーンをガントレットのごとく腕に巻きつけ、フラフラと立ち上がるレイダーへと駆け出すと、三体の四足歩行型を庇うように二体の二足歩行型が望月の前へと立ち塞がる。
しかし地を駆ける望月の足に迷いはなく、逆に好都合とばかりに二体の二足歩行型レイダーをその両の拳で貫く。いかに致命性がないとはいえ、体の1割以上の体積を抉り取られるように失ったレイダーは、彼女に慄く様子を隠さなかった。
『――――ッ!?』
「メアだけだからってナメないでほしいですよねーっ。希繋さんたちがいないからって、たった二頭でメアをどうにかできるって本気で思ってたのかなー?」
二頭のレイダーを膝立ちで踏みつけながら穿ち貫く拳がレイダーに叩きつけられる度、まるで大木が倒れるかのような音と地鳴りが公園内に響き渡る。
既に抵抗するだけの力すら残っていない二足歩行型レイダーへ、執拗なほどに何度も打ち付けられる銀鎖の拳は、既にレイダーの青い血糊でべったりと濡れている。
その様子を見た残りの四足歩行型は恐怖心を煽られながらも、無防備な彼女の背中へと触手を伸ばす。望月の視線は足元のレイダーに向けられたまま、その背後に息を潜める三体のレイダーには注がれていない。
このままコンマ数秒を気付かれなければ、この細く強靭な触手が彼女の首にしゅるりと巻き付き、そしてキリキリと締め付けながらその息の根を止めるだろう。
――と、もしもレイダーにそれほどの知能があるのなら、間違いなくそう思っていただろう。しかし……。
「視線さえ向いていなければ気付かれないとでも? 甘いですねー。ここは敵前、眼前だけでなく認識できる敵性には常に意識を向けているに決まってるじゃないですかー」
しゅるりと触手を絡めとり、キリキリとそれを引き千切ろうとするのは、彼女の腕に巻き付いたチェーンよりも遥かに細い、ワイヤーチェーン。
「そりゃ簡易型だし正規型みたく一機だけで好き勝手はできないけどさ、逆に言えば同系統の武装ならいくつ使ってもいいのが簡易型のいいところだよね」
『――、――――ッ!』
悲鳴を上げるレイダーに「何いってるかわかんないや」と困った風に笑いながら、触手ごとワイヤーチェーンを引き抜くと、望月は静かに立ち上がり、そしてその腕に巻き付いたチェーンを再び解き――、
「じゃ、あと5分メアと遊ぼうね!」