【完結】英雄戦機ユナイトギア   作:永瀬皓哉

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乱戦-ツーマンセル-

拡張接続(アクセスロード)! ユニティバレットッ!」

『了解。ユニティバレットに拡張接続(アクセスロード)します』

 

 ユニティバレットを装填したブレスレットのスライドを引き、エクレールに接続すると、ブレスレットから赤い光が迸り、エクレールの足首両側面にブースターが展開された。

 

「この武装……あの時アイツ(菜咲)がつけた追加機能の実戦型か! なら……使い方はわかってるッ!」

 

 義陰(よしかげ)の攻撃そのものは「見えて」いる。受けたダメージに怯む瞬間を継ぎ足すように打ち込まれるせいで回避ができなかったが、ユニティバレットをアクセスロードした際に発した光に阻まれ、この一瞬に限ってはその限りではない。

 故に希繋(きづな)はすぐさま攻撃に転じた。既に義陰の拳は追撃を撃ち込もうと振り被っている。しかし、その拳を弾くように振り上げたのは、希繋の右脚。先ほどまでの攻撃速度とは比べ物にならない鋭さで、その一撃を打ち破った。

 

「なっ……!」

「エクレールッ!」

『了解。クリムゾンインパクトを使用します。エモーショナルエナジー、充填開始(チャージ)

 

 振り上げた踵を義陰の右肩に落とし、膝をついた彼の身体を大地に打ち付けるように踏み潰すと、右脚で肩を、左足で手を踏みつけて、チャージ完了までの行動を封じる。

 

「もう勝負は見えただろ! 大人しく投降しろ……! これ以上戦って、傷ついて、陽乃(あのこ)が悲しむだけだってわからないお前じゃないだろ!」

「わかってないのは君だ! たとえどんなにボロボロになっても復讐さえできればそれでいい! 復讐が叶っても叶わなくても陽乃(はるの)を傷付けられた事実が変わらないのなら……だったら復讐して少しでもこの怒りを晴らした方がいいッ! それに……これで勝ったつもりなら大間違いさッ! そうだろう、ルーナぁッ!」

『ラジャ。肉体を影に変換します』

 

 電光によって触れることが可能になっていたはずの義陰の肉体。だが彼はまるで地面に吸い込まれるように消えた。

 

「消えた……? いや、影……影かッ!」

充填完了(コンプリート)。クリムゾンインパクト、いけます』

 

 希繋はすぐさま肉体を電気に変換し、周囲を赤い電光で照らそうとするが、それを阻むように希繋の影からリミットブレイク状態の義陰が現れ、彼の頭上からその巨大なマシンアームを振り下ろす。

 躱しきれないと判断した希繋は即座に防御態勢に入るが、その頑強なマシンアームと脆弱な希繋の腕では強度の差は歴然。骨の軋む音を伴いながら勢いよく吹き飛ばされた。

 

『肉体を電磁力に変換します』

 

 肉体を電磁力に変換し、電磁体を再び肉体に戻すことで怪我そのものは即座に修復されるが、その間に生まれた痛みと隙は埋められない。

 体勢を整えて義陰の追撃に備えるが、視界には既に義陰の姿はなく、おそらく陰に紛れて攻撃を仕掛けてくるつもりだろうと警戒した希繋だったが、いつまで経っても襲ってくる様子がない。

 これも油断を誘うためか、と思いながらも、ならば敢えて警戒を解いたフリをして迎撃しようと構えを解くと、通路の奥――緊急指令室の方角から巨大な爆発音が響いた。

 

「まさか……ッ!!」

 

 再び電磁体となると、希繋はすぐさまその場を後にした。

 義陰の言う「復讐」が希繋を倒すことではなく「希繋を傷付ける」ことだとしたら、希繋が最も傷つくものは――希繋が最も傷ついてほしくないものは、たった一人の少女でしかありえない。

 どうか杞憂であってほしいと願いながら、永遠にも等しい一瞬の果てに緊急指令室の扉を開けた。

 

逢依(あい)ッ!!」

「希繋……っ!」

 

 爆発の影響か、壁も床もいたるところが焼け焦げ、数え切れないほどの資料が燃え盛る中、そこに立っていたのはたった一人の巨体の男と、その男と対峙する一組の男女。逢依と、その場に居た多くの隊員たちは、大男の後ろに隠れるように座り込んでいた。その男の名は――。

 

悠生(ゆうき)!」

「遅かったじゃねーか、希繋。あんまり待たせるもんだからうっかり二人まとめてぶっ潰しちまうとこだったぜ」

 

 大郷悠生。最強のレイドリベンジャーズにして絆の家族(ファミリィ)の長兄。胸に滾らせた「勇気」の炎は後に続く者を導き、全人類の頭上に輝き続ける「太陽」にも等しい。

 そんな太陽に灼かれるように膝をついているのが、月影(よしかげ)陽光(はるの)の二人だった。誠実から受け取った資料によれば、二人揃っていなければギアを纏えないところからして、義陰とは別の場所で行動を起こしているのだろうとは察していたが、ここで合流する手筈になっていたようだ。

 しかし、ここでこうしているということは、その手筈において悠生との正面衝突は想定外だったか。あるいは彼の存在こそ知っていても、担当地区がここであることは知らなかったか。思い返してみれば、希繋と悠生が二人で義陰と陽乃を追っている時も、実際に会ったのは希繋だけであった。

 

「最強と準最速……! まさか二人揃ってこんな地方支部にいるなんて……! でも、それでも僕らなら、僕たち二人ならッ! いくよ陽乃!」

「うん……! やってやろう、アタシたちの反逆は、こんなところで終わったりしないって証明してやるんだ!」

 

 それでも、二人の瞳に宿る怒りと報復心は消えていない。

 もはやただ説得を続けても言葉が届くとは思えない。二人の闘志を折り、会話が可能な状態まで持っていかなければ、彼らの怒りが留まることはないだろう。

 ならば――やることはひとつ。

 

「希繋、悠生。あなたたちが追っていた相手が彼らなら、あなたたちが始末をつけなさい」

「トーゼンだろ! 久しぶりに活きの良さそうな得物が網に掛かったんだ、止めても止まらねーぜッ!」

「……逢依は他の隊長陣と共に被害を確認し、対応に当たってくれ。これだけの被害が出たんだ、みんなの不安を嗅ぎつけてレイダーが出現してもおかしくない」

「任せなさい。それと、任せたわよ。必ず彼らを……救ってあげなさい」

 

 逢依たちが緊急指令室を出ていくと、四人がそれぞれのギアを手にその名を呼ぶ。

 

「エクレールッ!」

「スヴィルカーニィ!」

「ルーナ!」

「ソールっ!」

『了解。ユナイトギア第四号・エクレール、桐梨希繋に同著接続(アクセス)します』

『了解。ユナイトギア第九一三号・スヴィルカーニィ、大郷悠生に同調接続(アクセス)します』

『ラジャ。ユナイトギア第八二二号・ルーナ、月村義陰に同調接続(アクセス)します』

『ラジャー。ユナイトギア第八一九号・ソール、日向陽乃に同調接続(アクセス)します』

 

 それぞれのギアを展開したと同時に動いたのは、希繋と義陰。まるで互いの動きを知っているかのように、互いの猛攻が火花を散らし合う。

 そんな二人に出遅れて、悠生を狙う陽乃。しかし光速で繰り出す牽制技の悉くが悠生の眉一つ動かすことすらできていないことに気付き、その手段を変えた。

 

「小手先の技が効かないのなら、デカいのを一発ブチ込んでやればいいだけ! ソールっ!」

「ラジャー。グリッターストームを使用します。エモーショナルエナジー、充填開始(チャージ)

「やっとか。イイぜ、そーいうのを待ってたんだ。やっぱ男ならドデカいのの応酬! これが一番燃えんだよな!」

「アタシ、女なんだけど?」

 

 知ったことか、と笑い飛ばすと、悠生もいよいよ攻勢に出た。その巨腕から繰り出される一撃必殺の拳は、周囲の光を吸収して強靭・剛腕となった陽乃の手ですらも防ぎきれず、緊急指令室の壁に大穴を開けて外へと吹き飛ばした。

 そんな彼女の元へ駆け寄ろうとする義陰だが、希繋の繰り出す超光速のラッシュをいなすだけで手いっぱいなのか、どうにか戦場を室外に移すことには成功するも、陽乃とは離されてしまう。

 とはいえ、希繋もまた余裕とはいかなかった。義陰と陽乃のコンビネーションは痛感している希繋にとって、二人が連携を取りやすい状況に持っていかれることこそ防げても、障害物や足場の多い室内という圧倒的アドバンテージを失った今、状況は僅かにだが義陰に傾きつつあったからだ。

 

「スヴィルカーニィ! 火ィくべてやれ!」

『了解。温度あるものの熱量を操作します』

「熱っ!? 服が燃えて……っ! ソール!」

『ラジャー。肉体を光に変換します』

 

 スヴィルカーニィのギア特性『熱量調整』によって服を燃やされ、慌てて服飾ごと肉体を光に変換して延焼を免れるが、その隙をついて悠生の放った特大の火球が陽乃に直撃する。

 いかに肉体が光であっても、その光すらも焼き尽くす熱には敵わない。そして悠生の炎は「勇気」の炎でもある。敵が強ければ強いほどに燃え盛り、背後に自分よりも弱いものがあるほど熱く熱く滾ってゆく。

 光と熱。どちらも「炎」を構築する二大要素であり、それを操る以上は悠生にとって「同格の力を持つ者」であることに違いなく、まして彼の背後にはレイドリベンジャーズ永岑支部があるのだ。だからこそ、彼の「勇気」が熱く燃え滾っていく。

 

「スヴィルカーニィ! 徹底的に灼き尽くすぞッ!」

『了解。劫火拳乱(ゴウカケンラン)を使用します。エモーショナルエナジー、充填開始(チャージ)

「その技は……っ!!」

 

 スヴィルカーニィのアナウンスを聞いて、陽乃の焦りが最高潮に達した。劫火拳乱といえば、「最強」の名を持つ悠生が誇る特大火力。太陽すらも消し炭にすると名高い暴虐の劫火。

 そんなものを受けてしまえば良くて重体、悪くて即死、そればかりか骨粉すら残らないだろう。だからこそ、それを使わせるわけにはいかない。

 

「ソール、まだなのっ!?」

充填完了(コンプリート)。グリッターストーム、いつでもいけます』

「だったら……っ、ぶっとばせええええええええっ!!」

 

 右手から放たれた極大にして絶大の光の嵐流。

 並の相手なら一撃で消し飛ぶ圧倒的なエネルギーの奔流。しかし――、

 

「……そんなっ!?」

「今のはなかなか悪くなかったな。けど、オレを倒すにはまるで全然、足りてねーんだよ!」

 

 炎の猛虎、倒れず――!


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