遊戯王WISDOM   作:龍音
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episode5

(あー…左腕痛い)

 

そう心で呟きつつ、宗一は左腕に触れる。決して疼くとか、そういったものではない。

どうやら昨日のデュエルの傷を想像以上に重かったようだ。

 

(お兄ちゃん…私が支えるからデュエルは心配しないでね?)

(ああ…)

 

宗一は左腕を動かそうとするが、痛みが走る。

 

(痛覚レベルMAXか…。俺だけ上限が無いってなんなの…)

(ほら…お兄ちゃんはサクリファイスだから…)

(否定出来ない)

 

ユキの言葉に宗一は内心苦笑いだ。

そんな彼は現在、教室の自分の席に座っている。授業開始までは後30分はある。

 

(さて…デッキ調整でもするか。流石に周りの視線が鬱陶しい)

 

教室には彼と同じように、早く登校してきた生徒がそれなりにいる。

そのほとんどが彼を腫れ物のように見ているのだ。

 

(カード盗難の件は解決してるのねー)

(ユキ。一応、決闘高校では´まだ´犯罪者扱いだ。ここの理事長がそうしたからな)

(じゃあ、あの視線も納得だね。だってお兄ちゃんは犯罪者だもん。話し掛けたら自身の評価が悪くなるよね。

自分が大切だもんねー)

(そうだな)

 

沙耶とのデュエル前の、第1デュエル部員とのやり取りを思い出す宗一。

 

その時に言われた、犯罪者という彼等の評価も間違ってはいないし、宗一が言ったとっくに冤罪で解決してる、というのも間違いではない。

こんなあやふやな状況になったのは…。

 

(なーんで、このままにしとくのかね…理事長)

(でも1人で落ち着いてデッキ調整出来るし、お兄ちゃんにとっては都合が良いよねー)

 

ユキはそう言いながら、宗一のデッキ調整の様子を見ている。

 

(そうだな。遊理達とは違うクラス。現状はこの方が良いかもな)

 

宗一は二年のクラス替えの時、遊理達とは違うクラスとなった。つまりは1人だけ別れてしまったのだ。

それに対し、遊理、恭介、翼は同じクラスだ。

 

そこまで考えた所で、チャイムが鳴り、担任が教室に入ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

―四時限目 2-A

 

「さて、お前らも知ってるが、スリークロスシップの市街地代表の選出戦が開催される」

 

担任―松山征也がそう言う。彼は第1デュエル部の顧問である。

 

「出場者と参加年齢は知っていると思うが…」

 

黒板に名前を書いてゆく。

参加年齢は16~18と書かれている。つまりは、高校生限定というべきか。

 

「そして高宮、烏間、高城の3人は本選の出場が確定している。去年の大会の活躍は素晴らしいものだからな」

 

この言葉に驚きの声がちらほらあがる。

 

「だからこそ残念だ。年齢の縛りがない、もう1つのスリークロスに出ていればな…」

「まあ、その頃の俺の評価を考えれば仕方ないですよ。冤罪でも、その時は、犯罪者扱いだった俺を出すわけにはいかないですからねー。

ほら、あれって決闘高校の総意でしたし」

 

宗一の最後の皮肉めいた言葉に松山は苦笑いだ。他の生徒は何かを言いたそうにしている。宗一は無表情になり…。

 

「あ、何か言いたかったら、俺じゃなくて理事長に言ってね。こんな宙ぶらりんの状況にしたのは彼女だから。

疫病神に言われなくても理解してると思うけど」

「なんだと!?」

「え…いや、疫病神は別に間違っていないだろ」

 

彼の言い草にクラスメイトの1人が思わず怒鳴る。怒鳴られた宗一が逆に困惑しているが。

 

…ともかく、宗一が孤立している&腫れ物扱いの原因はこれだろう。

彼は一部の者を除き、他者との関わりを避けているのだ。

幼少の頃から疫病神扱い、何をしても高宮神社の関係者だから、というだけで悪い方に解釈されればこうなるは必然だろう。

それが正しいかは分からないが。

 

「そこまでだ。

高宮…。お前のそういう所何とかしろ」

「残念ながら疫病神は事実ですよ。生まれた時から」

「はぁ…。話を戻す」

 

ため息を吐きながら、松山は対戦カードを黒板に書いていく。

 

「基本的に選出戦の出場者は第1デュエルと第2デュエル部から選ばれる。人数が少ない第2も対象なのは去年のウィズダムの優勝が理由だ。

そして今年は第1と第2以外の枠は無い。他の市街地の高校は辞退した」

 

対戦カードの1つを見て、宗一は内心笑みを浮かべる。

 

《第1デュエル部部長 雪田沙耶》VS《第2デュエル部 雪田愛理》

 

(これは楽しみだな…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―昼休み 1-C

 

「し、しおりん~…」

「…愛理、いきなりお姉さんとデュエル」

「うう…」

 

二年生の教室で対戦カードが発表されたように、愛理と詩織の教室でも対戦カードが発表されていた。

 

「せ、先輩にアドバイス貰わないと」

「…そうだね。愛理、デッキの調整は?」

「終わったよ!」

 

詩織と愛理はすっかり打ち解けており、クラスでも常に一緒だ。

 

「…今から行く?部長の教室に。…私も部長とはもっと会話したい」

「今から…。そうだね!行こうしおりん!」

 

愛理は詩織を手を取り、教室を後にする。二人に話し掛けようとしていたクラスメイトの介入を許さない位、スムーズだった。

 

 

 

 

 

その頃、宗一は1人デッキ調整を行っていた。腫れ物を扱うような視線は相変わらずだが、何人かは彼に話し掛けようとしている。

そこへ…。

 

「失礼します!」

「…失礼します…」

 

2つの声が教室に響いた。他のクラスメイトや宗一はそちらへと視線を向ける。

そこには愛理と詩織がいた。

 

「えーと…。あっ!先輩ー!」

 

愛理と詩織は手を繋ぎながら宗一の元へやってくる。

 

「…こんにちは部長」

「えへへ…。先輩、来ちゃいました」

 

そう言って、二人は控えめに笑う。詩織は困った感じに、愛理は少しあざとく。

 

「ほい、こんにちは。愛理、詩織。どうした?」

「…会話をしたくて…」

「なるほど。だが、てっきり遊理達の方へ行くと思ったんだが…」

 

宗一は自分達のクラスは二人に教えている。しかし、1人の宗一よりも複数の遊理達の方へ行くと、彼は推測していたのだ。

それより、宗一には気になる事があった。

 

「というか詩織…大丈夫か?」

「…少し辛いですが、愛理と部長が居るので」

 

詩織は男性が苦手なのだ。宗一のクラスには彼以外の男子生徒ももちろん居る。

 

「…部長の方こそ大丈夫ですか?」

「私も…その、お姉ちゃんから先輩の扱いは色々聞いてます」

 

他の上級生が居る中、二人は堂々と言う。宗一は苦笑いになりつつ、答えを返す。

 

「あー…二人が言いたい事は何となく理解した。心配してくれてサンキューな。

でも、俺にとっては、それはもう呼吸と同じように当たり前の事だ。疫病神扱いやら腫れ物扱いは。

まあ、とりあえずは大丈夫と言っておく」

「…む…分かりました」

「それで、話って?」

 

宗一は教室の空気が悪くなる前に話題を転換する。すぐに愛理が元気良く返事をする。

 

「はい!お姉ちゃんとデュエルをすることになったので、色々聞きたくて」

「…愛理、普通は姉妹の方が良く知ってると思う」

「そうだけど…。それは違うよ、しおりん!わ、私は先輩に聞きたいんだよー」

 

二人の様子を何処か微笑ましく見る宗一。

 

「話せることは余り無いが…」

「えー、そんなの嘘ですよ!去年のお姉ちゃん、先輩の事ばっかり話してましたよ!」

「…愛理のお姉さんなら、部長の悪評も気にせず、接してきそうです」

「詩織。その通りだ」

 

こんな感じで、宗一、愛理、詩織の3人は賑やかに昼休みを過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―放課後・午後16時、決闘高校中庭

 

「かなりついてるな…。《トリシューラ・プリン》の券が二つも当たるとは…」

(お兄ちゃんの分、ちょこっとちょーだいちょーだい!)

(ぴょんぴょん跳ねなくても、ちゃんとあげるって)

 

宗一はカードパックを買った際、そこに付属されている、超レアな《プリン・トリシューラ》を当てたのだ。しかも二枚も。

この《プリン・トリシューラ》は決闘高校のターミナル・プリンセスと言われる食堂でごく稀に作られるプリンで、「高人気」「高価格」「高カロリー」の三点揃った最高級スイーツである。

 

(俺の分はユキと半分こするとして…。この残りの券…どうしようか)

 

宗一の足元でぴょんぴょん跳ねるユキを宥めながら、彼は考える。

 

「…部長?」

「ん…?」

 

考えながら歩いていると、いつの間にか彼の左側に詩織が並んで歩いている。

 

「…部長、部室には…」

「ああ、もちろん行くよ。ただ、さっきカードパック数枚買ったんだが…」

 

宗一は《プリン・トリシューラ》の購入券を彼女に見せる。

すると無表情の詩織の眼が大きく開かれる。効果音で例えるなら、「くわっ!」だろう

そしてそのまま、宗一の左側から右側に回り込み、彼の右腕を掴む。

しっかりと彼の左腕の怪我の事を考慮している。良き後輩だ。

 

「…部長」

「えっと、欲しいのか?」

「…はい」

 

宗一の微笑ましいものを見る視線に、詩織は少し恥ずかしそうにする。しかし、彼女の視線は《プリン・トリシューラ》の購入券に注がれてる。

 

「じゃあ行くか」

「…はい!」

 

 

 

 

 

ターミナル・プリンセスに入った宗一は、1日数量限定設定の《プリン・トリシューラ》の券を店員に見せて、二人は窓際の席に座った。

 

しばらく世間話をしていると、店員が《プリン・トリシューラ》を1つ持ってきた。他にはたこ焼きやらピザもある。

 

「…あれ、部長は…」

「お持ち帰り。後で食べるよ」

「…なるほど。

…で、ではいただきます」

 

凄く丁寧に詩織がそう言う。

 

(眼がものすごい輝いてるな…。これだけ喜んで貰えたらこっちも嬉しいな)

(帰ったら私達も食べるぞー!)

プリンを一口頬張った詩織。やはり無表情ながらも眼が輝いている。

 

「…とても美味しいです。でもちょっと量が多いですね」

「まあ、高カロリーだからな」

「…部長食べます?」

「いや俺は家で食べるん―」

 

そう言う前に、詩織がスプーンにのせたプリンを宗一の口に運ぶ。

 

「…えっと。美味しいですか?」

「美味しいが、いきなりはやめてくれ…」

「…いきなりでなければ良いんですか?」

「おい、男性苦手どこ行った」

 

宗一は思わずそう突っ込む。

 

「…私、一人っ子なんです」

「ふむ」

「…それでその…兄や姉、というものに憧れていまして。…部長が…その…理想に近くて…」

「疫病神の俺が理想か…」

「…それも部長にとっては、人生そのものですよね?良くも悪くも」

 

(この子凄い!お兄ちゃんの事ちょこっと解ってるよ!?疫病神の時点で普通だったら避けるよね)

 

詩織の言葉にユキが驚きを表す。

 

「良くも悪くもか…。確かにその通りだ」

「…気を悪くしたのなら、ごめんなさい」

「いや大丈夫大丈夫。

それよりプリン食べようぜ」

「…そうですね」

 

トリシューラプリンを食べながら、詩織は思う。

 

(…お母さんが言った通りの人…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―午後20時、第2デュエル部部室

 

「あ、思い出した」

「どうした同士宗一」

 

現在部室には宗一と恭介しかいない。遊理達は先に帰宅したようだ。

そして、作業をしながら宗一は何かを思い出したようだ。

 

「詩織の名字だよ」

「詩織嬢は…天谷だったな。それがどうかしたのか?」

「うちの神社の巫女の1人に天谷がいたんだ。その人の事はいつも名前で呼んでたから気付かなかったが…」

「巫女…ということは母か姉か?」

「母親だ。うちの母さんと同じ年齢だったし」

「それで?それがどうかしたのか?」

 

宗一が一旦作業を止めると、それに合わせて恭介が訊ねる。

 

「その人は天谷美樹さんっていうんだが、自分の娘が決闘高校に入学するからよろしく、みたいな事を言われてな」

「…なるほど。であれば、詩織嬢は事前に同士宗一の事を聞いていたのだろう。男性苦手でも、印象は良かったのではないか?」

「おそらくな。しかし…世間は狭いなー」

 

そう言って、作業を再開する宗一。

 

「同士宗一。左腕は大丈夫なのか?」

「まあ…痛みはあるが大丈夫だ」

 

実のところ、かなりキツいが、彼はユキにサポートしてもらい、ある程度は動かせている。

 

「そういえば…さっきから、何を作っている?」

「明日、沙耶と愛理のデュエルだろ。…最悪の事態を想定して、色々な…。

愛理にもそうなった時の対策を教えてある」

「…最悪の事態か」

「疫病神の俺が部長をしている時点で、それに付随する悪意は高確率で起こる。

ならば、部員を守るのが部長の役目だ。

…まあ…何も起きないのが…一番良いんだがな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―午後22時、高宮神社

 

「ただいまー」

 

部室での作業を終え、帰宅した宗一。

 

(あれ…?ミスト、出迎えに来ないね。それにあの()も居ないし…)

(ミストはVR空間実装に備えて、今日の朝からVR空間に潜ってる。唯は沙耶の家に泊まるって言ってたぞ)

 

宗一はデュエルディスクの画面に刻まれた、《さいかわ多機能デュエルディスクAIメイドのミストはログインなうです♪》というメッセージ、そして銀髪のメイドがどや顔&ピースをしている画像開く。

 

文面を読む限り、彼女はAIなのだろう。それにしてはやたらと人間臭い。

 

(さ、さいかわ…ロ、ログインなう…)

 

何処かツボにはまったのか、ユキが堪えるような笑いをする。

 

「…うーん、変に堅いよりかはマシだな」

(へ、変な知識を覚えないとい、良いけど…)

「あ、ユキ。トリシューラプリン食うか?」

(食べるぅー!お兄ちゃん大好きー!)

 

堪えるような姿勢から一変、ユキは宗一に抱きつきながらそう言う。

 

 

 

そしてユキがプリンを食べるのを視線に入れながら、パソコンを起動する。

 

「…えっと、選出戦の後は修学旅行、そしてその後にスリークロスの本戦か…」

 

修学旅行の文字を見て、宗一は溜め息を吐く。

 

(去年と同じ、俺だけは教師と同じ部屋だろうな。

はぁ…俺の疫病神という評価だな…。

そしてこれは、遊理達との時間が作れない事を嘆くべきか、疫病神のおかげで落ち着いて過ごせると捉えるべきか…)

 

去年の事を思いだし、少し遠い目になる宗一。

去年の修学旅行は宗一はほとんど軟禁状態であった。事前に、配達で頼んでいた大量の本とデュエルのおかげで、ある意味有意義な時間が過ごすことが出来た。

 

(うん…デュエルチャット?愛理からか…。何々)

 

思考していた彼のパソコンに1つのチャットが届く。愛理からだ。

その内容は…。

 

―先輩。明日、私はどうやってデュエル会場に入りましょうか?指定されたルートから入るって不安しかないですよ~―

 

もはや妨害が起こる事が前提のチャットであった。宗一はパソコンに指を走らせ返信する。

―普通に空からで良くないか?理由聞かれたら、妨害されそうな気がしたので…。みたいな感じで。―

 

それを返す宗一も何処かおかしい。空から、という言葉が違和感でしかない。

 

―その手がありましたか!それなら、先輩から貰ったあれが役に立ちますね!―

 

―デュエル会場が外で良かったな―

 

―はい!ではでは先輩!明日の私のデュエル観てくださいね!―

 

―ああ、頑張れ―

 

チャットのやり取りを終え、宗一は再びスケジュールを確認した後、やり残した作業に戻る。

彼は高宮神社の神主の他にも色々な肩書きがあるので、普通の高校生とは比べ物にならない位に忙しい。

 

(うーん、この量だとミストに手伝ってもらった方が良いかもな。…よし、キリの良いところまで頑張るか)

 

明日の対戦カードを楽しみにしながら、宗一は作業に没頭していった。




風属性のカードを勉強中…。





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