嘘です。
でも、ついに一回、主視点です。
迫る巨人の手。
そんな窮地を救ってくれたのはヒッチだった。
私を補給地点に案内し、策にも乗ってくれた。
何だかんだでいい人だと思う。
「で、目的は何なの?」
ヒッチの部屋に匿われた私は布団を被り万全の状態になっている。
「てか、その格好は何なの?」
「人が来たときに視界を奪い逃げるまでを想定した、対人逃走術」
「真顔で言うの止めて...」
ヒッチは額に手を当てる。
そんなに馬鹿な事をいったつもりはないのだが。
「私が隠れた理由は一つだよ」
このままだと布団を剥がされかねないので話を進める。
「鎧の巨人であるライナーのクソ野郎に死んだと思わせるため」
「いや、隠れなくてもあの時点で死んだと思われたでしょ?」
私の言葉にヒッチは返す。
それではダメだった。
「私を知っている人、全員が死んでると思わなきゃいけないの」
自身を指差すヒッチを無視して話を続ける。
「誰かが私の生存を知ってるだけで情報は漏れる。でも、皆が死んでると思ってたらクソ野郎に情報が漏れる心配はない」
「つまり、何が目的なのよ?」
まだ伝わっていないらしい。
「私の目的はクソ野郎とその友達を削ぎ落として始末する事」
あの日、私はアルミンに諭されて復讐を諦めた。
だが、あれはあの時に限った事だ。
偶然とはいえ、私は死んだことになった。
ならば利用しない手はない。
奴等はきっと、再びエレンやアニを狙うだろう。
そうなればあとはお楽しみだ。
「あんた、その為に兵士になったんだっけ...」
同情したのか、ヒッチは悲しそうな瞳で私を見つめる。
「その為に」
私はヒッチの手を握る。
同情なんてしてほしいわけじゃない。
命の恩人で、親友で、信頼できるヒッチだからこそ頼める仕事がある。
「調査兵団の動きを私に教えて欲しい」
奴等を陽動したり、奴等に対象を奪われたときは何か変わった動きがあるはずだ。
私は調査兵団の動きから予想して動く。
目的が違った場合はここに戻れば良い。
「でも、近くにあんたがいたら生きてるのバレるんじゃない?」
それもそうだ。
だから私は。
「基本的に民衆に紛れ込むよ。似てる奴がいるとしか思われないでしょ」
そして調査兵団が壁外に出るなら追う。
「なるほど。木を隠すなら森の中ってことね」
ヒッチは頷く。
残る問題は二つ。
「食べ物はヒッチ、なんか買ってきて」
当たり前みたいに頼むしかない事が一つ。
「はいはい、分かってるわよ」
嫌がらない分、彼女も成長しているのだろう。
食事問題は解決だ。
「あとは手帳かぁ...」
「あぁ、あんたの...あれ、どうしたの?」
完全に死を覚悟していた私はエレンに託してきた。
だが、あれにはクソ野郎どもの事も書いてある。
あると無いとでは雲泥だろう。
「エレンにあげちゃった。取りに行くしかないかぁ...」
「あんたねぇ...」
さすがに呆れ顔をされる。
「まぁ、場所は聞いておく。直接取りに行くんでしょ?」
「ありがと」
行動予定は決まった。
第一目標の手帳。
そして第二目標のクソ野郎。
これからの暗躍とクソ野郎の驚いた顔を想像するだけで楽しくなってきた。
「何笑ってんの、気持ち悪い...」
「ヒドイ...」
助けてくれたヒッチには感謝しかない。
あの場で死んでいたらこんな風に話せなかった。
クソ野郎への復讐が出来なかった。
エレン達同期に二度と会えなかった。
「助けてくれてありがとね、ヒッチ」
感謝の言葉を伝える。
茶化さずに、まっすぐに。
「気にしないでよ、友達でしょ?」
ヒッチが私の頭をワシワシと撫でる。
でも違う。
伝えるのは恥ずかしいけど。
ヒッチは友達と言うけれど。
間違いなく、彼女は私にとっての同期達と一緒だ。
親友なのである。
はい、手帳を取りに行く前のお話でした。
口が悪いのではなく、ライナーが悪い。
そして、隠れて手帳を回収した理由もこちらでした。
ちょっと設定というか1話との相違があるのは元々見切り発車だから勘弁してください。