元・天才魔術師は揺らがない   作:遠坂しぐれ
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ホントはルイの視点で書こうかとも思ったんですが、まだルイの戦闘の秘密について書いてないのでとりあえずはイリーナ視点で終わらせます。


闘争を望む者②

 会場は、静まり返っていた。

 イリーナが風魔術でルイを吹き飛ばしたその瞬間も歓声が上がるようなことはない。

 生徒会長であるイリーナが魔力を持たぬ生意気な新入生を打ちのめす。そんな光景を描いていた者たちは皆一様に、この状況への反応に困っているようだった。

 

「こらイリーナ! 今のはもう勝負あっただろう!」

 

 イリーナが後方へと吹き飛んでいくルイを見送っていると、頭上からエミリエの声が聞こえてきた。

 

「まだ負けてないわ! だってあたし、参ったも何も言ってないもの! 本当に勝負を決めるつもりだったならあそこでとどめを刺すべきよ」

「……はあ。全くお前ってやつは本当に……」

 

 呆れたように額に手を当てるエミリエ。

 自分で言っていても滅茶苦茶なのは分かっている。

 この回復術式は基本的に魔術攻撃を想定しているので、ある程度の打撃ならともかくナイフで、しかも首を斬るなんてことをしたら術式発動の前に死ぬかもしれない。

 だからあの場でのルイの寸止めは間違っていないし、イリーナは負けとみなされるのが普通ではある。

 

 だが、ここで終わらせたくないという思いがイリーナの中には強くあった。

 

(なんとなくあいつの戦い方が分かって来たところなのに……こんなんで終わりなんて冗談じゃないわ!)

 

 結局のところイリーナが脳筋で、ただただ純粋に闘争を望んでいるということなのだが、当のルイにとってはたまったものではないだろう。

 勝負ありだと思ったところに魔術をぶちかまされたわけなのだから。

 

「まあ、派手に飛んだみたいだけど実際はただ強めの風当てただけだし、どうやらあたしが風魔術使うことも分かってたみたいだしね。

 ギリギリで後ろに飛びのこうとしていたのはちゃんと見てたわよ」

 

 地面に着地したルイに向かってそう言い放つ。

 ここまで涼し気な顔か笑顔しか浮かべていなかったルイだったが、今は流石に不満そうな表情を滲ませていた。

 

「……今の先輩のやつがありだったら、僕はもう勝てないことになるんですが」

「さっきのは流石に悪いと思ってるわよ。あれはもうしないから、仕切り直しってことでもう一回やり直しましょう!」

「…………分かりました」

 

 不満はあるが渋々といった感じでルイがまた戦闘の構えを取る。

 それを見てイリーナは笑顔を浮かべた。

 

(まあこいつの実力を生徒たちに見せるっていう本来の目的は十分以上に果たしてるわけだし、あとはぶっちゃけ自由にやってもいいわよね。ふふふっ、楽しみだわ! 

いつもは魔術を撃ちあうだけの対人戦。だけど、魔術を使えないやつを相手にしてこんなワクワク出来るなんてね)

 

 ルイとの接近戦を通じて、イリーナは自分の未熟さを痛感していた。

 国家魔術師として魔物と戦う時も、魔術師同士の対人戦闘の時も、結局は遠距離からの魔術攻撃が中心となる。

 だから必然的に近接での格闘経験が浅くなってしまっていたのは事実だ。

 それがまさに、先ほどルイに懐へと入られてから手も足も出なかったことに現れている。

 

 どうやら相手は何かしらの『先を読む力』を持っているらしいが、しかしそんなのは自分が成す術もなくやられていい理由にはならない。

 投げ技を決められたその時だって、瞬時に魔術を発動させることは出来たはずだった。

 何の反応も出来なかったのは、ひとえに学園最強などという地位に甘んじた怠慢が招いた結果である。

 

(だからまあ、明日から近接格闘の訓練をしっかりやるのは当然だけどそれはそれ。

 とりあえず今は手持ちのカードであいつと戦わなくちゃいけない。

 つまり遠距離からの魔術、これで勝負する必要がある)

 

 さしあたってはあのとてつもない先読みと反射神経をどうにかしなければならない。

 

「じゃあ――行きますね」

 

 ルイがゆらりと動き出し、その初動からは考えられない爆発力で地面を蹴る。

 そんな相手に対してイリーナは瞬時に魔術を発動させた――地面に向かって。

 

 瞬間巻き起こる砂塵。

 土埃が空中には舞い、二人の間の視界を煙で覆った。

 

 そのまま魔術を発動させつつ、イリーナは場所を移動する。

 フィールドに対して円を描くように動くとドンドン空間は土埃で満たされていき、ついには観客からも二人の姿が見えなくなった。

 

 イリーナが使ったのは土魔術と風魔術。

 粗く砂ぼこりの立ちにくい地面の性質を変えて細かい砂にし、そこに風を起こすことで砂塵を起こした。

 何故こんなことをしたのかというと、イリーナはルイの不可解な先読みについてある推測を立てていたのだ。

 

(あいつのアレが技術的な先読みか、それとも魔術でもない別の能力なのかは分からない。 

 だけど恐らくあいつは、『見る』ことによってそれを発揮しているはず。だから視界を塞げば……)

 

 こうすれば魔術を使えないルイは、視界に関係なく使える能力でも持っていない限りはその足でイリーナを探さなければいけない。

 遠距離の攻撃手段を持たないルイにとってこれはよくない状況のはずだ。

 

 一つ問題があるとすれば、イリーナもルイの位置が確認できないことである。

 本来魔術師同士ならば、お互いの魔力を探知することで位置は把握できる。

 だがルイは魔力を持っていない。

 探知には引っかからず、イリーナも視界が悪いという条件では結局相手を見失っているという点では同じだった。

 

 だが――

 

(あたしには、これがある)

 

 魔術を構築していく。

 腕に刻んでいる簡易のものではなく、一から術式を作り上げる。

 

 火系魔術式二十番『爆焔』。

 高エネルギーの火球を爆発させて衝撃と熱風を広範囲に至らせる魔術だ。

 これならばこの位置からでもフィールド全体に届く、つまりルイが何処にいても当たるはずである。

 

「自動回復もあるし死なないとは思うけど……結構痛いから覚悟しなさい」

 

 そして術式を発動させる。

 手をかざすイリーナの正面に生まれたのはとてつもない熱量と光を持った火の球。

 

 その圧倒的な熱量に流石にルイも気づいたのか、ものすごい速さで地を駆けてくる音が聞こえた。

 だがイリーナは焦らずに魔術を行使した。

 

「相当強かったわよ、ルイ。場所が違ったら本気で負けてたかも。じゃあ――これでおしまいっ!」

 

 そして爆発する高エネルギー弾。

 それは凄まじい熱と光、轟音、そして衝撃をこの訓練場全体にもたらした。

 

 さっきまで舞っていた土埃も一緒に吹き飛ばしてしまうほどの爆発だ。

 当然、その場所に立っていた人間が無事でいられるわけがない。

 回復術式が発動して、恐らく今は気絶状態になっているだろう。

 

 土が焼けた後に立ち上る白い煙と名残のように舞う土埃を視界に収めながら、イリーナはそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 ――――だからこそ、その煙の中からルイが飛び出てきたのは全く不意打ちだった。

 

 

 

 

「えっ、ちょ、嘘っ!?」

 

 見たことのない殺気走った眼をしたルイがナイフを振り上げて飛びかかってくる。

 

 それへの恐怖と反射が半々で、イリーナはまともに思考する暇もないまま『爆焔』の簡易術式を起動させて目の前のルイにぶつける。

 通常魔術を起動する際に自己を守る防御術式さえ使わぬままに。

 

 当然、この至近距離で爆発が起こればその被害は両者ともにいき……

 

 二度目の爆発の後、フィールドの壁に叩きつけられるようにしてイリーナが。

 フィールド中央に大の字になってルイが。

 それぞれ気絶した状態で倒れた。

 

 

 こうして、ひょんなことから始まった二人の勝負は、互いの気絶によって引き分けと言う形に終わったのだった。








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