渡英△年
時計塔での生活にも慣れてきた。
ただやはり食生活が貧しい。
素材の味を活かしすぎている料理の数々。
かと思えばケチャップなどをドバドバかけて濃すぎる味付け。
白米とみそ汁が食いたい。
つい先日時計塔内に個人の部屋を入手した。
久しぶりに混血である俺をサンプルにしようと襲撃してきた魔術師を返り討ちにしたからだ。
その時の事を振り返ると、襲撃してきた魔術師は40台くらいのアッシュグレーの髪をオールバックに纏めた英国紳士といった外見で、俺としてもこういう年齢の取り方をしたいと思わせるほどに気品溢れるイケメンだった。
とある早朝、俺が住んでいるフラットから少し離れた郊外をランニングしていた時だ。
うっすら霧が掛かっている森を一人走っていると、いくつもの黒い車輪が霧の中から飛んできたのだ。
ただ俺にとってはよくあることだったので最初から周囲の霧から魔力を読み取り車輪を防ぐ。
次いで足元が急に隆起したり黒い縄やら熱線が襲ってきたが、これも混血の身体能力で木々の中を飛び跳ねて回避した。
とりあえずその日は体を動かしたい気分だったのでそのまま飛び跳ねながら、空気中に粒子化した血液を魔術で散布。
しばらくすると散布した血液を媒介に魔術を実行、周囲を解析すると、現在地から1㎞くらい離れた森の中に1か所だけ粒子が近寄れない場所を発見した。
すぐさま足元に転がっていた石(電子レンジくらい)に魔力を込めて投擲。
投擲した石は俺の予定通り周囲の樹木ごと隠れていた魔術師本人もくの字に吹き飛ばしたが、魔術師は血を吐きながらも何かの魔術を発動させようとした。
俺は粒子化した血を着火、一瞬だけの燃焼発光で魔術師の目を潰してからのシャイニングウィザードで決着だった。
タロットカードのような礼装が周囲に散らばっていたので仮称「タロット紳士」とするが、「タロット紳士」は首が折れて死亡していた。
彼を工房に運び込み、礼装やら金目の物、眼球も「魅了」の魔眼だったので丁寧に回収した。ついでに研究成果やら資産やらすべて回収しようと脳みそに術をかけてみた段階で、なんとこの時計塔に個室を持っている学友だということが判明し現在に至ったのである。
「挨拶代わりに学友をサンプルにしようとするとか時計塔終わってんな。」
即座に部屋の結界を解除して乗取った。
研究資料も貴重な礼装なども美味しく頂いたが、魔術師本人の遺体は返却した。
それというのも、返り討ちにした魔術師の血族から申し入れがあったことと流石に魔術師にとって命より大切な魔術刻印を奪ったら他の魔術師が警戒してしまい時計塔での活動に支障が出るという法政課からの交渉人の言葉に従った結果だ。
少し残念だったが仕様がないと諦める。
渡英△年と半年
俺は封印指定執行者として業務に携わっていた。
北に町一つを占拠して死徒の研究をしている外道魔術師がいればエスメラルダ式血凍道で氷結粉砕して、南に人を攫い腑分けして悍ましい生物を製造している人外がいれば混血ジャーマンスープレックスからの爆砕、東は魔術師の派閥同士の抗争に殴り込んで魔術で陣地の支配権ごと奪って蟲の餌にしたりした。
ついでに新宿でも現地の女性を生贄にして魔術儀式をしようとしていた相良何某という魔術師がいたので膝の皿を割ってやった。
一度大物死徒、この世界では27祖という言葉はないらしい、の領地へ偵察などにも行ったが裏切り者がいたせいで何十人単位の死徒に包囲殲滅戦されてしまった。
魔力も血晶も使い果たし、異能を使いすぎて貧血気味。体も各所打撲に裂傷、アバラも何本か折れていたのに味方は皆合挽ミンチ状態という酷い状況だった。
意識が朦朧として覚えていないが久しぶりに混血としての衝動を完全に開放してあばれに暴れたような気がする。
まあ次の日起きると四肢の関節が10か所くらい増えて視覚も味覚も喉も機能してなかったが生きていたのでヨシとしよう。
渡英△年と6か月
死にかけたあの日から、味方も含めて無防備状態で他人に見つかるとモルモットにされかねないので蟲を使役してセルフ土葬していた。
混血としての生命力と小さな蟲を使役して文字通り蟲やら泥やらを何でも食んで傷が癒えるのを待っていたが、どうやら地上はドンパチしすぎて魔力汚染が酷いため今のところ気づかれる恐れがないようだ。
とりあえず傷が治ったら裏切り者を処さなければならない…。
渡英△年と7か月
傷が癒えた俺は土中から脱出、全力で死徒の領地から逃走した。
秘密裏に時計塔に帰還後、事のあらましを報告して久しぶりのシャワーを堪能した。
その後、俺は昏い笑みを浮かべながら裏切り者を探したがあっさりと見つけることが出来た。
なんと件の裏切り者は用無しになったからか死徒によって既に殺されていたのだ。
どうにも俺が大暴れしているときには既に殺されていたようで、ざまあと思いつつも自分の手で処すことが出来なかったことがモヤモヤする。
今日のところはビールとフィッシュアンドチップスで酔っぱらいたい気分だ。
だけどウナギのゼリー寄せ、手前は駄目だ!
渡英〇年目
時計塔に留学して早〇年。
封印指定執行者として荒事をこなしつつもエルメロイ2世の教えを受けて研究を進める毎日だった。
やはりエルメロイ2世は人に教える天才だ。
俺にはロアと臓兼という天才たちの知識と記憶があるとはいえ、俺自身は彼らとは全くの別人なのだ。
そのため、以前から彼ら天才のすべを自分が使用できるように理解・最適化もしくは再構成すること第一としてきた。
エルメロイ2世は当人が非才な為か、通常なら魔術師として当たり前の感覚で処理する基礎的な工程ですら理論として理解し、分析し、実行する。
そういった彼の組み上げた理論こそが俺と天才たちの隙間を埋めることに重要だったのだ。
彼らの記憶から俺自身が分かった気になっていた部分を改めて理解し工夫することが出来たことで俺の魔術師としての階梯はトントン拍子で駆け上がることが出来たのだ。
そうして俺はこの度時計塔を引き払い、日本に帰ることにした。
あと数年で第5次聖杯戦争始まるだろうから準備もしなきゃならなないしね。
あ、志貴についてだが原作が始まったらしい。
最近秋葉から志貴が金髪美女や香辛料臭い眼鏡と仲良くデートをしているので処さなきゃ…という手紙が来るのだ。
うん、いつの間にかネロも滅ぼされたんだろうなあ。
出来れば彼の「混沌」のサンプルを入手したかったのだが俺と彼には縁が無かったのだろう。
まあ気づいてもアルクに問答無用で俺の中のロア毎殺されそうなので行かなかっただろうけど。
さて話が実家の愉快な現状へと脱線したが、一応恩師にして友人のエルメロイ2世に挨拶をするべく、彼の研究室をノックする。
「エルメロイ2世失礼する。少し話が有るんだが入れてもらって良いか?」
少し間が開いて返事が返ってくる。
「…ああ、シキか。構わないとも、丁度こちらも紹介したい人物がいるのだ。」
俺は結界が解けたのを確認してから、古びたオーク製の扉を開ける。
研究室に入室してソファーに座るエルメロイ2世を見ると彼の脇に影法師のように立つフード姿が一人。
彼(彼女)が先ほど言っていた紹介したい人物か…折角だが来月には此処を離れてしまうので、まあ普通に挨拶すればいいだろうと思い、件の人物の顔を見る。
「お邪魔します。紹介したい人物って、ファッ!?」
一瞬でミステリアスかつ時計塔に留学して僅か数年で天才(笑)と呼ばれる逸材としての顔を剥がされ、いや完全にぶっ壊されてしまった。
なんとフードの人物の顔が型月のドル箱、アルトリアと瓜二つだったのだ。
「アイエエエエ! キシオウ!? キシオウナンデ!?」
何⁉
俺知らないよ?
UBW編終わるの早くない?
なんでさ⁉
「そういえば君は聖杯戦争の監視役だったから彼の騎士王の顔を知っているんだったな。彼女はグレイ。少々生まれは特殊だが彼女はれっきとした人間だ。サーヴァントではない。」
「セイバーじゃない?本当に?切りかかってこない?」
「彼女はセイバーではない。」
エルメロイ2世の言葉を聞いてなんとか落ち着きを取り戻す。
きっとFateの続編とかが出たのだろうか。
セイバー顔だから絶対この娘ヒロインじゃん!
エルメロイ2世はヒロインじゃなかった…?
ダブルヒロイン制?
「あ、あの拙は何か気に障ることをした、のでしょうか?」
「い、いや昔の知人によく似ていたものでね…申し訳ない。」
俺はグレイ嬢を誤魔化しながら、思った。
グレイ嬢とエルメロイ2世はこれから絶対何かトラブルに巻き込まれるであろうから早く離れよう、と。
お久しぶりです。
いろいろと忙しくなって、そのまま再開するモチベーションが起きませんでした。
またのんびり不定期に書こうと思っています。
よろしくお願いします。