OLが魔法使いメイドになってお城で働きました。   作:リュフ・ボソン
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ジェイドの部屋

《ジェイドの部屋》

 

「ほら、入れよ」

 と、ジェイドは陽子を部屋に中へと招いた。ここまで来て、陽子には断る事も出来ないので渋々部屋に入る。

「……おぉ」

 部屋の中に入った陽子は一言で言うなら驚いた。彼の部屋が意外にも綺麗に整っていたからだ。

 品があり華やか、こんな彼でもやはり騎士団長なんだなと、陽子は思う。

「ん? どうした?目を丸くして。そんなに可笑しいか?」

 ジェイドが尋ねる。

「いえ、そんな事ないです。凄い綺麗な部屋だなって思っただけです」

 と、陽子。

「……まぁ、良い。ほら、そこのソファーにでも座れよ」

 ジェイドはそう言って、ソファーを指した。

「失礼します」

 と、陽子は言ってソファーに座った。

『ぼふっ』

 彼女が尻を着けると、尻は深くまで沈み込んだ。とてもフカフカなソファーだ。

(良いソファーだな……)

『トクトクトクトク……』

 と、そこで陽子はハッとした。その音は正しくグラスへと酒を注ぐ音。陽子はジェイドの方を見た。

「お? 良い反応だなァ? お前、酒好きだろ?」

 ジェイドはそう言うと、酒を注いだ二つのグラスをソファーの前のテーブルに置いた。

 そして、ジェイドは陽子の隣に座る。

「はい! 好きです。ウイスキーですね!」

 と、陽子は元気に答えた。

「ああ、そうだ。お前の笑顔を初めて見た気がするぞ? 良い顔だなァ」

 ジェイドはそう言うと、グラスを持った。そして、陽子にもそれを渡す。

「ほら、乾杯だ」

「「カンパーイ!」」

『カンッ』

 ガラスが触れ、高い音を鳴らす。琥珀色の水面に波が揺れた。

「んくっ」

 陽子はグラスに口を付けた。久しぶりの香り、それだけで彼女は嬉しく思い、またアルコールが口に入り、喉を抜けて行く感覚が数週間前の当たり前を思い出す。

 

「……」

 すっかり陽子は元の世界に浸り、しんみりとした。

「どうした? そんな顔して……」

「い、いえ。故郷を思い出して……」

 陽子は薄っすらと潤んだ瞳を拭く。

「お前の故郷にもウィスキーがあるんだな……。それでスズキ、お前に話したい事があったんだ」

 ジェイドはそう言うと、酒を口に含み、飲むと、グラスをテーブルの上に置いた。

「え? 何です?」

 陽子が尋ねる。

「前に言っただろ? お前はただのメイドじゃなくて『魔法使いメイド』になるって」

「あぁ! あの話、結局どうなったんですか?」

「承認されるようだ。あと、一週間程度で君もあのメイド部屋から移動になる。そうしたら、お前はこれから俺の部屋で過ごす事になる」

 と、ジェイドは嬉しそうに言った。

「……はい?」

 思わず陽子は目が点になっていた。

「お前を推薦して、これから監督するのは俺になる。だから、俺が面倒を見るんだ。当たり前だろォ?」

「……えぇぇぇぇ!?」

「おいおい。そんなリアクションするなよっ! 悪いようにはしないからよォ!」

「……」

 そうジェイドが言ったが、それでも陽子は訝しげに彼を見詰めている。

「お、おい……」

「分かってるわよ」

 陽子はそう言ってニヤリと笑うと、グラスを手に取り、ウィスキーを呑んだ。

「スズキっ! やったな?」

 ジェイドは半笑いでいた。

「ん」

 陽子は更にグラスを傾けて、ウィスキーを飲み干した。

「ふはっ。美味しい」

「結構飲む方なんだなァ? スズキ?」

 ジェイドは嬉しそうに言っている。

「まぁね」

 

 暫く、二人は酒を飲みながら話す。

 

「お前よォ、この歳で恋の一つもした事がないのかよ」

「違うんですよ! 恋はした事はあるけど成就しないんですっ!」

 陽子がそう言うと、ジェイドは鼻で笑った。

「同じじゃねぇか」

 陽子は否定できずに彼を横目で見た。

 そこで彼女は一つ気になっていた事を尋ねようとした。

「そう言えばジェイドさん。どうして、私が魔法を使えるってバレたんですか?」

「ん? 前にも言わなかったかァ? 他のメイドがチクったそうだ」

「いえ、それが誰なのかって……教えて貰えたり……?」

 ジェイドは少し不機嫌そうな顔を浮かべている。

「そいつを教えるって事はちょっとした機密違反になる……。お前、ちゃんと立ち回れるか?」

 ジェイドは真剣な顔付きで陽子の方を眺める。彼女はいつになく真剣な表情の彼を見てドキリとした。

(私がやっている事はただ他人の迷惑も考えない自分のやり返しだ。そこまでする必要はないし、バカな行為だ……)

「やっぱりいいです。ジェイドさん」

 陽子がそう返すと、ジェイドは安心した。彼はそっと酒を飲む。

「……」

 陽子は何となくジェイドの方を見詰めていた。

「ん? どうかしたか?」

「いや、ジェイドさんって結婚してるのかなって」

「俺? 俺はァ、結婚してねぇぜ? なんだ、気があるのか? ん?」

 彼がそう言って微笑する。更に、火照った顔の陽子はジッと彼を見る。

「な、なんだよ……」

 少しジェイドはドキリとした。そして、彼も陽子の方を見る。

「……」

 陽子は更にジッとジェイドを見詰めている。

「……もしかして……俺の事好きなのか?」

「……ぷふっ」

 と、そこで陽子が噴き出した。

「お、お前! またか! チクショー!」

 ジェイドは頭を掻いて、バツが悪そうに笑った。

「また、揶揄いやがって。いい加減にしねぇと、怒るぞ……んぐっ!」

 その瞬間、彼の言葉を遮るように、陽子は深々と彼にキスをした。お互いの舌を絡め合う、結構濃厚なキスを。

「ぷはっ。……別にそう言う訳じゃないけど、こっちは女しかいない場所で働いてるから、やっぱり楽しいかな」

 陽子はそう言って微笑んだ。少し、呆けていたジェイドは顔が赤くなっていた。酔っている訳ではない。

「……やっぱり、俺はお前が好きだわ。今までこう言う女は……いない事はなかったがそれも随分昔の事だ。俺が偉くなってからはどんな女も俺に気を使ってこんな事はしてくれなかった……どうしてだ?」

 ジェイドは陽子に求めるように応えを待った。

「私はこう言う人間ですよ。本当にヤバい相手にはこんな事しないですし……ジェイドさんだからだと思っても構いません。まぁ? それが『好き』かって聞かれたら『YES』じゃないですけど」

 彼女は穏やかな顔で答える。

「なるほどなァ……。お前を連行して本当に良かったと、思っているよ。じゃあ、スズキ、そろそろ遅い時間になったな。もういいぞ」

 ジェイドは彼女に言った。

「そうですね。そろそろ戻ります。……最後に良いですか?」

「ん? なんだ?」

「もしかしてですけど、私の名前を『スズキ』だと思ってます? 『スズキ』は苗字ですよ?」

「そうなのか? じゃあ、これからは『ヨーコ』って呼ぶな」

 彼がそう言うと、陽子は席を立った。

「では、ジェイドさん。お休みなさい」

「ああ、お休み。ヨーコ」

 

 陽子は部屋を後にした。

 

「ヨーコ。俺は楽しいぞ?」

 ジェイドはグラスを片付けながら、陽子の出て行った扉を眺めた。

 

 

 続く!








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