#■■■■■ 最後の狩人と迷い人【一時休載】   作:7th HeaVen
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サボってたので初投稿です。
……皆まで言うな。分かってる。だから石ころを投げるのはやめてください死んでしまいます。
今更ですが、この作品は私が今書いている別作品の後日譚にあたるものなので物語終盤で(゜д゜)ポカーンとなる可能性を大いに含みます。ごめんなさい。


7 純粋な理性、それこそが狂気の本質だ。

赤い二股槍を持つ男を見た後、気は進まないながらも道を行くと、何かがおかしいことに気がついた。

森から音がしないのだ。風もない。虫の音もしない。忌々しい蛇の息の音すらもしない。ただ、自分の足音だけがしている。オレンジ色の水たまりや若干ぬかるんだ地面を見ると、どうやらそういうことらしかった。あの男は自分以外の生命という生命を皆殺しにして回っている。

音のしない森を歩き続け、やがて老紳士が言っていた三叉路にたどり着いた。ここも命の気配はない。森は死んだように静かだった。老紳士は無事だろうか。いくらあの人が強いと言っても、槍の男に勝つのは難しいだろう。引き際は心得ていると思うが、心配だ。

坂を登ると、ちょっとした崖に出た。下の空間には巨大な墓標のようなものが見える。石の塀で囲われているので敵が入ってくる心配も無さそうだ。老紳士は隅っこで何やら頭に蛇を生やした人間をぶつ切りにしていた。

階段状の崖を降りた。

 

「早かったね」

「そうですか?」

 

老紳士は葬送の刃の血を軽く払いながらのんきに言った。本当に大蛇と怪獣大決戦した直後なんだろうか。戦いを終えた後のピリピリした独特の雰囲気は微塵もない。

 

「あれ、トップハットはどうしたんですか?」

「あぁ、なくしたよ。思ったより激しくて。結構気に入ってたんだけどね……」

 

割と悲しそうに老紳士は言った。あんな怪獣クラスの敵と殺りあっておいて、自分が生きていることよりトップハットをなくした方が心を占める割合が大きい辺りにこの人のクレイジーさをひしひしと感じる。

 

「さて……この先なんだけどね。ちょっと強いのがいるんだ。三人ほど」

「えっ、三人もですか?」

「一人一人はそんなに強くないから大丈夫。一人、球形の戦棍を持ったのがいるから、君はそいつを頼むよ。残りの二人は僕がやる」

「はい」

 

手短に打ち合わせを済ませ、二人で先へ進む。ちょうど自分たちがいる向かいに、禁域の墓はある。そこを抜ければビルゲンワースだ。

 

墓に足を踏み入れると、霧に包まれた向こうから黒い影の輪郭が浮かぶのが見えた。闇を削りだしたような刀を下段に構えるそれは、じっと動かない。

その影の後ろには、二人の影が佇んでいる。

 

霧が晴れた。三人、いるはずだった。戦棍を持った一人を相手取る算段だった。

 

その三人の奥にも、影はいた。

二、四、六、八、十。

二、四、六、八、十。

二、四、六、八、十。

 

 

合計三十三人の影が、こちらを待ち構えていた。

 

 

「…………多くないですか?」

「…………多いね」

「…………どうしましょうか」

「…………一点突破。君を先に行かせて、僕が本気で暴れる」

「わかりました」

 

作戦は決まった。あとは実行するだけだ。老紳士は曲刀を柄に連結させた。

老紳士が動いた。加速を使ってわずか数歩で最高速度に到達。地を這うような軌道で大鎌を振りぬき、回避の間に合わなかった数名の影を大きく吹き飛ばす。吹き飛ばされた影はビリヤード球のように他の影たちを直撃し、突破口が開きかける。すかさず老紳士の後ろにぴったり張り付くように追随した。

老紳士の猛攻は止まらない。左腕に固定された重厚な鋼の筒、大砲を突き出し、至近距離にも関わらず容赦なく発砲。規格外の怪物を相手取るための狂った重砲の直撃を受けては無事で済むはずもなく。刀を振り下ろさんとしていた真正面の影の四肢を吹き飛ばし、近くにいた影たちをまとめて爆風の餌食にした。が、まだ突破するには足りない。

老紳士が大鎌の刃をこちらの足元へ突き出した。意図をつかみ、両足を刃の上に乗せる。

老紳士はそのまま大鎌を振るい、こちらの体を影の包囲網の外へ放り投げた。

 

作戦は成功。ちょっと着地に失敗して転んだが。あとは老紳士が勝ってくれることを祈るだけだ。

ビルゲンワースに続く道を突き進む。月明かりが木々の向こうから少しだけ覗いた。

 

 

 

◆――シン――◆

 

 

 

あの子はうまく逃げおおせたようだ。三十三人のヤーナムの影は誰一人として減っていない。あの子を追う者はいない。

無数に突き出される刀をのらりくらりとかわし、適当なタイミングでたまたま一番近くにいた影の両脚を刈り取る。たいていの敵はこれで死ぬ。が、こいつは死にそうにない。それどころか俺の脚をつかもうとしてくる始末。どこかおかしい。いや、本来三人だけのはずであるヤーナムの影が三十三人もいる時点で相当おかしいのだが。

原因は分かっている。メルゴーの乳母だ。奴はよほど俺とあの子を引き離したいらしい。奴は見た目を除けば聖母マリアも真っ青の母性の塊であるから、少々過保護なのも無理はない。

葬送の刃をそこらに放り、大砲も捨てる。生命力の高い相手には車輪が一番だ。死ななくとも物理的にひき肉にしてしまえばよいのだから。

 

ローゲリウスの車輪を二つ、取り出す。積んだ血晶はそこまで強くはないが、最低限の強化(+10)は済ませている。ヤーナムの影ごときにはこの二枚で十分だ。車輪を四度ほど回してやれば、このどこでもミンチ製造マシーンは素晴らしい威力を発揮する。アンナリーゼもニッコリだ。

 

振り下ろされる二枚の車輪。その暴力を受け止めるには影たちの刀では不可能。なすすべもなく、影たちは刀ごと轢き潰されていく。三人。

追撃は火球の弾幕に阻まれる。まずは邪魔な秘儀使いを殺す必要がある。二枚の車輪を盾のように構えながら影の群れを突っ切り、後方に控えた十一人の秘儀使いに肉薄する。急停止した勢いをそのままに二人を二枚の車輪で挟み込むように叩き潰す。胸から上と太股から下、そこだけが原型をとどめている状態は一見死んでいるようだが、まだ油断してはいけない。こいつらにはまだ秘儀を放つ腕が残っている。二枚の車輪で腕を一息にミンチに変え、陣形を乱した秘儀使いたちをさらに潰す。潰す。潰す。十四人。

 

振り返れば、仲間が潰されても平然とした様子で機をうかがう影が十八人。一人足りないのは大砲で吹き飛ばした分とすれば計算は合う。

面倒だ。弱いのが数ばかりぞろぞろと。こんな奴ら、時間稼ぎにしかならん。

あの子が持つメルゴーの乳母謹製の“ジャマー”は距離が空いたおかげで効果を失っている。こんな状況、負けるほうが難しいというものだ。

 

「なぁ、そうだろ?」

 

背後にいたメルゴーの乳母に声をかけた。人間の言葉なぞ通じる訳もないが。

乳母は何も言わずに消えた。おおかたあの子のところへ行ったのだろう。まぁ、問題はない。俺の存在を盲信させるよりも、疑念を抱かせた方が都合がいい。真実を見極めようとあの子はついてくるだろうから。

 

「さっさと来い。時間が惜しい」

 

俺には救いたい人がいる。救わなければならない人がいる。そのためならなんだってやってみせる。それが。

 

それが俺の、たったひとつの望みなのだから。

 

 

 

◆――彼、あるいは彼女――◆

 

 

 

ビルゲンワースに着いて早々、不用意に歩き回ったら人っぽいナニカに脳みそを吸われて死んだ。頭でっかちの蜘蛛っぽい人に捕まって発狂死させられたりもした。最近はあまり死んでいなかったため起こった事態だ。猛省している。灯りがあって本当によかった。ところで一回死ねば発狂しても平気というのはどういう原理なのだろう。賢者モードというやつなんだろうか。

さて、先についたはいいが、老紳士が来るまで何もすることがない。有り体に言って暇だ。自分の命は羽毛並に軽いことを考えると、ちょっとくらい一人で攻略しても問題あるまい。ショートカットのひとつくらい開通させておきたい。

そんなごく軽い気持ちで灯りを離れた。死んでも死なないから、なんて理由でデスマーチに繰り出すあたり結構毒されてきたと思う。

坂をととと、と駆け下りて蜘蛛っぽいのに喧嘩を売る。こいつはどうせ放っておいてもこちらを殺しにくるので、別にバーサーカーになったとかそういう訳ではない。

意味不明なうめき声をあげて、どこかの梨の妖精じみた動きで飛びかかってくるそいつをかわす。そのまま落ち着いて数回斬り裂き、また飛びかかりを回避。また斬り裂き、回避。それを動かなくなるまで数回繰り返す。行動パターンは死んで覚えた。泥臭いが、これ以外の攻略法を知らない。

動かなくなった蜘蛛人間(仮)を放置。また同じ工程で他の数体も狩る。単調だ。だがここで手を抜くと最初からやり直しになって大変面倒くさいのでおちおち気も抜けない。

わざわざカインハーストの血を受け入れた意味がよくわからないくらいの貧弱な生命力だ。血の遺志を保持できないせいで怪我の治療もできないため、攻撃も絶対に受けてはいけない。なかなか辛いが、若干慣れてきた自分もいた。

ここからが本当に大変だ。脳みそを吸ってくるとんでもない敵が一匹、このビルゲンワースの庭園の片隅に隠れている。灯りからまっすぐ左に進むと、木の幹に隠れてちょうど見えなくなったそいつに会える。そしてもれなく脳みそを吸われる。

脳みそを吸われる!

これが本当に地獄だ。体の感覚がだんだん麻痺していく独特の感じだとか、自分がどんどん消えていく喪失感と不安感は吸われた者にしかわからない。復活してから久しぶりに吐いた。まだ脳みそがむずむずしている気さえする。

それだけならまだいいが、そいつは普通に戦うと恐ろしくタフなのだ。捕まって脳みそを吸われるか、こちらが先に殺るかのギリギリの戦いをそこそこ長時間強いられる。自分が戦った中で最強最悪の敵だ。

脳喰らいが隠れている木のそばまで来ると、くちゃくちゃと音がする。背中がぞぞぞっとした。

奇襲を仕掛けようとした途端、一陣の黒い暴風が吹いた。金属がこすれ合う音がしたと思えば、脳喰らいらしき灰色の塊が視界の外に吹っ飛んでいった。

 

八本の腕に黒い翼、見えない頭。六本の曲刀。メルゴーの乳母がそこにいた。

 

「えっ」

「えっ」

 

そして喋った。

 

「喋れるんですか?」

「喋れるんですか?」

 

いや、これは多分違う。喋っているというよりは、こちらの言葉をそっくりそのまま返しているだけだ。オウムや九官鳥が喋るのと同じで、彼女は言葉の意味を理解していないのだろう。声音まで完全に再現しているあたり、きっとその類だ。

 

――難しい。

 

言葉が通じないことに若干すねている。本当にカインハーストで大暴れした彼女なんだろうか。

 

「えっと……先、行きますね」

 

こちらも彼女と同じく思念を飛ばすような方式のコミュニケーションが取れれば意思疎通ができたのだが、あいにく普通の人間には不可能。とりあえず言葉を使って先に行く旨を伝えた。絶対に通じていないと思うが。

無視するようで悪いな、と思いながら建物のある方、自分から見て右の道を歩く。

さらさらと衣擦れの音がした。振り返ってみると、メルゴーの乳母がついてきている。

そのままこちらを追い越し、振り返ってこちらの顔をちらっと見た。

しょうがないので一緒に歩く。もし強い敵がいたら彼女に押し付けよう。

裏庭らしき場所を抜けて建物の正面に出た。何やら若干遠くの方に、ムカデと植物をかけ合わせたような何かが一匹、いる。

デカい敵は大体強い。そしてこいつは三メートルはある。つまり強い。

メルゴーの乳母が動いた。低空を這うように飛ぶ彼女は一気に花ムカデとの距離を詰め、六つの斬撃を食らわせる。恐ろしい斬れ味を誇る六振りの曲刀は、いとも簡単にムカデの体を六等分した。

彼女の圧倒的な戦闘能力に恐怖を覚えながらさらに進む。屋敷の外周を回る石畳の道の突き当たりまで来た。右に曲がればショートカットの門がある。屋敷の入口も門のすぐ右手に。ここまでは案外楽勝だった。メルゴーの乳母がいなければここまで来られたかわからないが。

とりあえずここまで。レバーを引いて門を開けた。灯りの方に見知った人影が見えた。どうやら三十三人を相手に本当に勝ってしまったようだった。

背中に感じていた気配が消えていく。メルゴーの乳母は去った。貧弱な自分を守ってくれたのだろうか?

老紳士はこちらに歩いてきた。血まみれの……大きな車輪? をかついでいる。かなり奇怪な光景だ。

 

「待たせたね」

「いえ」

「ここの門は君が」

「はい。時間があったので」

「そうか。いや、すごいね……想像以上だ」

 

老紳士は独断専行については何も思っていないようだった。まぁどうせ死んでも死なないから心配する必要もない、ということだろう。

やけに右の手のひらがむずむずした。

屋敷の扉をくぐった。誰もいない。音もしない。埃っぽい空気は長らく入れ替えられていないようだ。すえた臭いがした。

正体不明の巨大な瓶詰めがそこら中に置かれていることをのぞけば、雰囲気はなかなかいい場所だと思った。

中央には立派な階段が弧を描いていた。老紳士はまるで自分の家に来たかのような気安さで階段を上っていく。

階段を上っても誰もいない。耳鳴りがするくらいに静かだった。老紳士の足音だけが絨毯に染み込んでいく。

老紳士は階段のすぐ左にある扉へ向かった。

 

「少し周りを見ていてくれ」

「はい」

 

対するこちらは右側の談話スペースらしき場所へ。これみよがしに置かれた巨大な木箱がひとつ。RPGに出てくるような宝箱の形そのまんまだった。いや、本当に、これ以上ないくらい。

好奇心がむくむくと首をもたげた。わけもなく辺りをきょろきょろと見回す。なんだかイタズラでもしているような気分がした。

 

開けよう。これはもう開けるしかない。

 

慈悲の刃をそっとしまう。短銃も。これで両手はフリー。あとは蓋を持ち上げるだけ。

右手をかけ、左手をかけ、思い切り持ち上げる!

ぎいっと大きく軋みをあげて蓋が空いた。

中身は……なんだろう。箱いっぱいの、黄ばんだ布? 手を伸ばして布を思い切り引っ張る。何か重いものがくるまれているのか、ちっとも取れない。

なんとはなしに布に触れると、何か違う感触がある。この箱は布だけが入っているのではない。()()()()()()()()()()()()

今思えば、ここでやめておけばよかったのだ。それならまだ、引き返せた。好奇心は猫をも殺すのだ。

布をめくった。顔だった。干からびた女の顔があった。

悲鳴は、突如意に反して動き出した右手に抑え込まれた。心臓が飛び出しそうなくらい跳ね回っている。

後ろを見た。老紳士は扉に鍵か何かを差し込んで何やらやっている。また、右手がむずむずした。

あるのは死体だけではない。死体の下に何か敷かれている。服、か? この服は……知っている。知っている服だ。

無我夢中で死体の下から服を引っ張り出す。

 

制服だ。あの時。診療所で目覚めた時。他でもない自分が着ていた制服だ。

 

「……は」

 

息が詰まる。これは

 

「ビルゲンワースの学徒の制服」

 

背後から聞こえた声に心臓が止まりかけた。カチリ、と撃鉄を起こす音がした。

 

「君が着ていたものと同じ、ね」

 

振り向いた。エヴェリンの銃口が向けられていた。

 

「この、死体は」

 

声が震える。

 

「ユーリエだ。頭のよく回る女だったよ。必要以上に、ね」

 

老紳士の銀髪が、空いた扉から差す月明かりを受けて煌めいていた。

 

「来たまえ。君は、僕には勝てない。灯りは潰した。今死ねば、君は終わる」

「なぜ、ですか。なぜ、こんな」

 

聞き出せ。ひとつでも多く聞き出せ。こうなっては状況の挽回は望めない。少しでも老紳士の行動を理解したい。

 

「なぜ、ね。そういうつもりだったとしか言いようがないな」

「どういうことですか。なんで、銃を向けるんですか」

「君が知る必要はない。君は今まで通り、僕の指示を聞くだけでいい」

 

今は、指示に従うべきだ。そう思った矢先、右手が勝手に突き出された。

 

「おい、何を」

 

その瞬間、空間が炸裂した。鼓膜が破れるかと思うほどの大音響。椅子が、石壁が、手すりが、階段が、ありとあらゆるものが滅茶苦茶に砕け散る中、老紳士が竜巻に飲まれた紙屑のように吹き飛ばされていく。天と地が何度も何度もひっくり返る。

最後に見たのは、一陣の黒い暴風だった。




なんで主人公は上位者の言葉が分かるのかって?……HAHAHA!。
何はともあれファッキュークソジジイ。はっきり言って老紳士はキ〇ガイです。今に分かります。






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