やはり俺が「十師族のマモリビト」なのは間違っている。   作:ハーマィア
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……世界の半分が欲しい……


こうして彼は、また一つ口を滑らせる。

魔法師に限らず、人間ならば誰もがこう思ったことはあるだろう。

 

『ふははは……おい貴様。世界の半分が欲しくはないか?』

 

乗っ取られた王宮の奥で、或いは本当の魔城の王座で。

 

給料も今の百倍どころか千倍で、待遇も良くて残業もなく、仕事を奪われる心配もない。

 

敵に対しては容赦が無いが、身内に対しては激甘。

 

そんな魔王の配下に成れ——と、言われたのなら。

 

『有り難く頂戴致します』

 

と、絶対に答えるだろう。すぐにでも、人類に対して叛旗を翻すに違いない。

 

——しかし。

 

『そうかそうか。それでは、望み通り——』

 

『何勝手にあーしの下僕を引き抜こうとしてんの?』

 

八幡の差し出す手を取り、優しげな表情を見せていた魔王の胸に、火柱が生えた。

 

『ぐあっ!? ……き、貴様!』

 

『魔王様っ!? ちょっと三浦さん何してくれてんの!? 俺はこれから順風満帆な眷属ライフを——』

 

『あーしの、ではなく私のだけどね』

 

『げぶらぼぼばふぇっぶらばろあ!?』

 

全方向から差し向けられた魔弾が、魔王の全身に風穴を空ける。

 

『くそっ、この程度で魔王が倒せるなどと思うなよ!』

 

エメンタールチーズ(トムとジェリーでよく見るやつだ)の様に身体中にボコボコと穴を開けた魔王が、血まみれになりながらも叫ぶ。どうやって喋っているのだろうか。

 

魔王を庇おうと立ち塞がる八幡だが、時すでにお寿司、ではなくて遅し。

 

『——あら、随分と下賎な輩もいたものね。私のおっt——知り合いを誑かそうなんて』

 

『ぺぶんっ!』

 

時計回りに回転しようとする頭と、それとは逆周りに回転しようとする身体。

 

棒状のものを半分に割って食べるアイスを、うまく割れなくて捻って引きちぎった時の様に魔王の首は取れ、そして絶命した。

 

『王……!』

 

実はあれ元々アイスじゃなくて清涼飲料水という扱いだったらしいのだが、力無く倒れる魔王の亡骸に八幡は駆け寄った。

 

『何故……こんな所で逝ってしまうんですか! 俺の給料は、一体誰が……!』

 

後ろでハイタッチを交わす三人娘と、涙を流すひとりの配下。

 

あ、俺金の事しか考えてねーなと気付いた瞬間、比企谷八幡の意識は覚醒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔王討伐の夢から帰還した比企谷八幡は、ゆっくりと目を覚ました。

 

(……魔王)

 

結局、敵とは相容れない存在なのだろうか。

 

「……あ、起きた」

 

目覚めた先には、至近距離で自分を見つめる謎の美少女。

 

(……え、何? 何なのこの子?)

 

雰囲気的には、深雪と雪乃を足して2で割って不思議属性を追加した様な感じだ。

 

「……何か用か」

 

寝起きらしく、がしがしと頭をかいて起き上がる。立ち上がり、背伸びをして正面を見る——と。

 

「おはよう比企谷。よく眠れたか?」

 

ビキビキと額に青筋を浮かべた風紀委員長、渡辺摩利が、教卓の前から笑顔でこちらに微笑んでいた。

 

「……今は各委員会の委員長が、一科生へ詳しい紹介に来てるんだよ。比企谷くん、ずっと寝てたから」

 

「……そりゃどうも」

 

説明をしてくれる女生徒に短く礼を言うと、その女生徒は自分の席へと戻った。そして八幡も速やかに着席する。摩利も八幡をひと睨みした後、話を再開した。

 

「さて。話を元に戻すが、要するに私が欲しているのは単純に強い奴だ。この強い奴といっても様々で——」

 

(風紀委員会って、確か直接の推薦が無いと入れないんじゃなかったか)

 

そこまで考えて、自己推薦という手段があるのを思い出した。自己申告をすることによって、間接的にではあるが意図的に風紀委員会への参加が可能と言うわけだ。

 

要するに、教職員だけでなく委員も人数不足なのだろう。だからといって何か委員会に所属する気にはなれないが。

 

寝起きの頭でぼーっと考えていると、隣の深雪と視線が合った。

 

【説明してもらいますからね?】——という意味を持つその視線は、微笑というベールに包まれて八幡に送られてくる。

 

そして不意に八幡は、朝起きた事の学習もしないまま、深雪にしか聞こえない声で小さく呟いた。

 

「……昼間に司波の兄貴と会ったけど」

 

「……説明はきちんとして下さい。貴方が何者なのかは知りませんが、もしお兄様に危害を加える様であれば——」

 

笑顔のまま、他人に気づかれないような水面下での危険なやりとり。だがそれは、八幡と深雪と、優美子以外には聞こえてはいなかった。

 

「……トーラス・シルバーが高校に、しかも2科生として入学してくるなんてな。知る所に知られたら「何の冗談だ」って笑われそうなものだけど」

 

「……! そんな事まで……!」

 

表情を強張らせる深雪だが、それはほんの一瞬だけだった。

 

「……ヒキオ、喋り過ぎだし」

 

(……あれ、また変な事言った?)

 

左隣に座る優美子に肘で小突かれ、再びそれを知覚する。——だが、それに対応する暇は無かった。

 

「私の話はそんなにつまらなかったか……?」

 

先程よりもさらに深い笑みと怒りを露わにした摩利が、八幡を睨め付けていたからだ。

 

その威圧感は凄まじく、八幡の眠気も吹っ飛んで——

 

「……なぁ三浦。声が少しだけお前に似てるあの先輩、何?」

 

否、八幡の眠気は彼自身にまとわりつくように、再び睡眠へと誘っていた。

 

「…………」

 

「寝てろし」

 

「がっ……ふ」

 

生徒会副会長以外にも風紀委員長に対して溝を作ろうとしていた所を、優美子が強制的に意識を奪う事により解決。

 

「——というわけで、以上が風紀委員の仕事となる。一名を除いてご静聴ありがとう」

 

「それじゃあ、私達はこれで失礼します。……比企谷くんは、後で生徒会室に出頭するように」

 

摩利や、その付き添いで来ていた真由美(きな粉はすでに取れている)、その他の委員長達が教室から出て行く。

 

次に向かうのだろうが——真由美が残した一言が、クラスメイトの八幡への憐れみと侮蔑と、少しばかりの羨望と嫉妬を織り交ぜられた視線を向けさせる原因になったのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日はこれにて終了とする。気をつけて帰る様に」

 

放課後。

 

授業も全て終了し、ちらほらと席を立って帰宅しようとする生徒が見受けられる。

 

八幡も、それに倣って席を立った。

 

(……集団で目立たないようにするには、やはり集団で行動すべき……だな)

 

「よし三浦、帰りにミスドかマック寄って帰ろうぜ」

 

「……うぇ!? ……べ、別に良いけど」

 

学生らしく、寄り道でもしながら帰ろうか——と八幡が思っていると、深雪に袖を掴まれた。

 

「さぁ、行(逝)きましょうか」

 

八幡を見上げる深雪の目が笑っていない。

 

「何のこと——あ、いえ。すいませんわかってます、ハイ」

 

闇を纏った笑みを浮かべる深雪に、最初はとぼけようとして、深雪の笑みが深くなるなりすぐさま言い直す八幡。

 

「……あーしも行くから、少し待って」

 

そんな中、唯一自体を冷静に把握していた優美子が、深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やだなー、行きたくないなー、面倒くさいな)

 

「さっさと歩く。ヒキオがぐずぐずしてるから、司波さんは連れていかれたんだし」

 

教室を出た2人は、校門を目指してゆっくりと歩いていた。

 

八幡を連行しようとしていた深雪は、他のクラスメイト達に「相談したいことがある」「親睦を深めよう」などと誘われて、先に行ってしまったのだ。

 

(やはり、数の力は暴力だ……)

 

しかし、深雪が連れていかれることも、この後(・・・)校門前で落ち合う事も、八幡は既に知っていた。

 

だから八幡は「行きたくない」と引き摺られる様にして歩いていたのだが、優美子が睨みを効かせるとすぐに背筋を伸ばして歩き始め、すぐに止まる。そしてまた睨まれて……の繰り返しで、ずるずると目的地へと向かっていた。

 

「……ったく、何で俺がこんな事を」

 

「自業自得だから文句を言わずにさっさと歩く!」

 

「はいはい……」

 

猫背になりながらも、先程よりはしっかりとした足取りで歩いていく。

 

ここを曲がればすぐに校門前というところで、優美子が立ち止まった。

 

「……そういえば」

 

「ん?」

 

「ヒキオあんた、確か生徒会長に呼ばれてなかったっけ」

 

くるり、と反転して嫌疑の目を向ける優美子。向けられた八幡は静かに目をそらし、

 

「……無視するから別に良い」

 

と、吐き捨てた。

 

「無視するって、あんたね……」

 

八幡の言い分に呆れる優美子だが、その後の彼の一言によって、その声は憐れみを帯びた声へと変わる。

 

「……どうせこの後来るし」

 

「……ああ」

 

八幡は知っている。

 

校門前では、既にちょっとした騒ぎが起きている事を。

 

この後、その側を通り過ぎようとしても深雪に名指しで呼び止められてしまい、そこを達也に確保されてしまうであろう事を。

 

……そして、その騒ぎを沈静化する為に、巡回中の風紀委員ではなく、何故か組織のトップである風紀委員長と生徒会長が止めに入ってくる事を。

 

(……じゃあ、変えるしかないんだよな)

 

しかし、それは非常にまずい。どの辺がまずいのかというと、八幡が自分達の秘密を握っている事を知っている司波兄妹と生徒会長がブッキングする辺りが特に。

 

(どう変えるか——?)

 

・司波兄妹をグループの中から強引に連れ出す?

 

(……無理、一科生が突っかかって来る)

 

深雪が迷惑そうにしているのを察知出来ない連中だ、間違いなく追って来るだろう。

 

・全部無視して素通りする?

 

(不可能。もう真由美様にマルチスコープでストーカーされてる)

 

背後を振り返るも、そこに会長の姿は見えない。……しかし、建物を超えたそのずっと先に、こちらに向かって歩みを進めている真由美の姿が、八幡には見えた。

 

・会長達が来る前に事態を沈静化する。

 

(……なら手早くやらないと。真由美様達が間に合ってしまう)

 

争いがなくなれば、その分早く司波兄妹を連れ出せる。……決まりだ。

 

「やれやれ……悪い、ちょっと行ってくる」

 

「なるべく早く済ませてね。……その、カフェとか……行きたいから」

 

俯きながらも視線だけは八幡を見つめている優美子は、今まさに駆け出そうとしている八幡の袖を掴み、小さいながらも八幡に届く様に、声をかけた。

 

「……あ、ああ。行ってくるにょ」

 

すると八幡は、顔を真っ赤にし、どこぞの魔法少女(物理)の様な語尾で、返事をしてきた。声も上擦っているし、相当緊張しているのだろう。

 

なんだかそれがおかしくなった優美子は、自分も恥ずかしいのも忘れて、思わず吹き出した。

 

「……ぷっ。あはは! 早くしてね! 遅れたら厳禁だし!」

 

「……わかってますよ、お嬢様」

 

「お、おじょっ!? ……もう」

 

速攻で反撃されてしまったが。

 

それだけを告げると、八幡は前に向き直り、ゆっくりと右手を上げる。

 

夜間の工事現場で車両整理などを請け負っていた作業員か、気だるげに質問を出す大学生のようだが、実際、彼の掲げた手には刃引きの施された剣が握られていた。

 

(……いや、刃引きされた剣ってそれただの鉄棒じゃん)

 

そんな事を思いながら、彼は喧騒を続けるグループに近づき、その鉄棒を、ちょうど2つに分かれた中心に向かって——振り下ろした。

 




最後までお読みくださりありがとうございます!

やっべえ学年総代が校則違反してるよ。今更だけど……。

でもご安心下さい、多分何か策を打ってるはずですから。

次回は放課後のイザコザを挟んでからのお昼召喚といきたいと思います!

ついに辿り着く! これで終わりじゃないけど!

次回もお楽しみに。







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