……夥しい数の敵機がレーダーに映る。
先んじて交戦中の機体と合流するため、道中の敵機を切り払いながら進む。
可変させた機体で移動する双子は、美しい翠の粒子を撒き散らすマスターユニットに声をかけた。
「ねえ、本当に良かったの?」
『何がでしょうか?』
通信相手のアリアは、首を傾げていた。
喋るアンヌは、渋い顔で彼女に聞く。
「ほら……ジオンの捕虜まで引っ張り出して。あいつらの機体、アリアが整備していたついでにめちゃくちゃに改造していたじゃん。ろくに試験稼働もしてないし、っていうか今まで捕まっていた連中だからシミュレーションもしてないのに……。死ぬんじゃない? ぶっつけ本番とかさ、普通のパイロットなんて出来ないよ?」
『……何故ですか? わたしとて、バカではありません。機体にサポートOSも組み込みました。死なないように護衛もしっかりとつけました。大体、後方ですから安全圏だと思いますけど……』
『アリアちゃん。そういう問題じゃないの。見てなかった? あの人たち、自分の機体なのに搭乗するとき凄く戸惑っていたのよ?』
姉のマリーが、アリアにそう指摘する。
双子の時もそうだったが、基本的にアリアは教導には向いていない。
その規格外のスペックが、皆の感覚とは違いすぎて、彼女の基準は高すぎる。
今回もアリアなら即座に機体に対応して、完全に使いこなせる。
そういう風にクローン故に仕込まれたデータでやれる。
アリアには経験がないのだ。経験で育つ人間が彼女には理解できない。
求められたものが、マスターユニットと一般パイロットでは雲泥の差。
彼女は仲間を過信することが多い。
これぐらいなら大丈夫、だって自分だって大丈夫だからという根拠のない判断で、こんなすれ違いを頻繁に起こしていた。
『わ、わたしが間違っていると言いたいのですかっ!!』
珍しく、怒鳴ってアリアは言い返した。
彼女は、滅多なことでは動揺しないし声を荒くすることもない。
知性的で余裕があり、常に感情を完璧にコントロールできる。
例外として、親友や友人に近い人物に何か言われると、自分を正当化しようとして、ムキになる。
「落ち着きなよ、アリア。責めている訳じゃないって」
アンヌが宥めるように言うと、アリアは画面越しに睨んでいた。
それは、マリーに対しても同じだった。
「そうよ。責めているつもりはないの。でも、言葉がキツかったわ。ごめんなさい」
マリーが謝ると、不機嫌になりつつも彼女は頷いた。
移動中敵機が空気を読まずに絶えず襲ってくる。
その大半を八つ当たりのように、アリアが片っ端から叩き落としていた。
意識は双子に向いている。反射的に敵機を見分けて、身体が勝手に動いているのだ。
「まあ、捕虜に対しての態度はあれでいいと思うな。信用はできないし、後ろから撃ってくる可能性もゼロじゃない」
『平気です。こっちを標的にした瞬間、あの機体は自爆します。裏切りは死をもってして払わせるのがうちの流儀です』
マリーも、捕虜に対してのアリアのやり方に異論はない。
今回犠牲になったのがあの捕虜三人だっただけだが、元々は敵だ。しかも男。
信用する価値などないと双子は思う。
異論があるのは普段からあの対応であること。
めちゃくちゃな要求をする悪癖が問題なのだ。
アンヌも、アリアが規格外ゆえの無理解と知っている。
自覚させるために優しく指摘して、少しずつ改善していけばいい。
大体、腕前は悪くないが……アリアの改造に適応できない程度の物ならジェネレーションではやっていけない。
彼女の改造は基本的には本人だけのカスタムをするが過剰に盛る場合が多い。
特に試行錯誤する前の初回は大体パイロットが振り回される。
今回の事で死ぬのならば、別にいい。興味もない。
アリアの問題点を少し教えているうちに、マリーがあることに気づく。
アンヌも、アリアも気がついた。
「……味方が減っている?」
『四名程、撃墜されましたか。……ああ、ダメですね。生命反応がありません。多分コックピットを潰されて落とされたようです。アンダーソンも消耗が激しいようですし……ふむ、ダガーに切り替えましたか。兼用の機体も出すように指示だしておきますかね』
決戦に相応しい規模だ。敵の数は全く減らない。
対して、ジェネレーション腕利きが数名死んだ。
識別反応がロストしている。消耗が激しいのか、頻繁に乗り換えるパイロットもいるくらいだ。
『結構ヤバイね……。一向に敵の母艦が見当たらないんだけどさ、もしかしてステルス持ってるのかな』
アンヌの言う通り、厳しい戦いを強いられている。
この間にも切りまくるアンヌのエピオンとマリーのウイング。
アリアが乗っているのは連携を視野にいれているガンダムアクエリアスを予定していたのだが、特性が噛み合わない挙げ句に火力不足を懸念して、GNドライヴ搭載型のガンダム、Oガンダムを引っ張り出して来た。
普段からアリアが長期戦に備えて使う愛用の一つで、シンプルな武装しかないが逆に怪物的な火力を有しており、
扱いを間違えると非常に危険な機体だった。
『……二人とも。今、母艦に近寄らないでください。アンダーソンがEXAMを使ったそうです。暴走しているようですので』
「暴走!?」
アリアが聞き捨てならないことを報告した。
いわく、母艦近くに何やら強化人間の乗った集団が襲来しているとのこと。
劣勢になっているようであった。
Xラウンダーとかいう件のヴェイガン強化人間だったらしい。
無論、似たような存在にNT殲滅用のOSであるEXAMが黙っている訳がなく、意図的にアンダーソンが解放した事もあり、見事に暴走。
敵だけを皆殺しにするべく、味方を退避させてアンダーソンが単機で一画を相手取っている。
同じ部隊のALICEも伊織に文句をいう敵にキレて暴れまわっている。
ミチアも、機体を通して聞こえる声に限界が近いと判断したバイオコンピューターがリミッター解除。
短期戦に持ち込み、消耗を抑えるべく何か見たことのない速度で駆け回って、かなり数を減らしている。
「嘘……? 通常の三倍も速度が出てる……!? 何で!?」
ミチア、アンダーソンの機体は通常時の三倍近くに速度で戦っていた。
あれでは、伊織はともかくも二人が持たないとマリーは思いアリアに一度撤退をいうが。
『……いいえ。今は戻りません。此方だって、今戦っているでしょう? そろそろ、到着しますよ』
合流できそうなポイントにまで既に来てしまっている。
今さら戻れないとアリアは言う。
仕方ない。さっさと倒し戻るしかない。
マリーとアンヌは、そう判断して直ぐに無線のチャンネルを開いたのだった……。
『こちら、地球連邦軍所属、デカルト・シャーマン大尉。そちらのMS、応答せよ』
戦域に突入。MAのパイロットからの通信が入る。
すると、アリアはなにかを感じる。画面を通して頭に過る嫌な感情。
これは、苛立ち?
アリアが代表して応答すると、デカルトと名乗った男は不敵に笑った。
『ジェネレーション……成る程。聞いたことがある。異世界を渡り歩くテロリストだとな。で、この戦いに何の依頼を持ち込んだのか、お聞かせ願えるかな?』
「依頼をするかどうかは、そっちですよイノベイター」
傲慢と取れる見下しの言動にマリーが眉をつり上げるが、アリアは至って普通に対応。
デカルトも、アリアに何かを感じ取ったのか、態度を訝しげに切り替える。
『……なぜ、イノベイターだと分かった? まさか、貴君は戦闘用NTか?』
「お察しの通り。結構イラついていますが、油断して死なないでくださいよイノベイター。ハッキリ告げますが、この戦闘は貴方が支えているんです。軍人ならばもう少し気合いれてほしいもんです」
互いに分かる。デカルトは高い次元の純粋なる人類の進化した姿、イノベイター。
アリアは戦闘用NT。互いの脳波が広域でもシンクロして、同類に似た別の種類だと。
アリアはこの区域に入ってから連中がいうアンノウンエネミー……UEに襲撃され、対応に追われていると説明。
交戦中のデカルト達に合流し、合同戦線を張らないか提案した。
敵の数は未確認。規模すら不明で未だに減らない。
戦況を支えるMAが味方がいるから良いものの、このままいけば敗北する。
故に即興でいい。手を組もうと言うことだ。
『……全く。どいつもこいつもいい加減なことばかりいう。非常時とは言え、宇宙海賊といい、例の子供といい……。まあ、良いだろう。此方は異論はない。但し、目をこぼすのはこれ一度だ。次はないぞ、ジェネレーション。そしてそちらから介入してきたのだから、相応の働きをしてもらう』
「了解しました。確か、ガデラーザ……でしたねその機体。色々大変でしょう、デカルト大尉。人間は珍しいものがいると、何でも実験したがりますので」
『流石ジェネレーション。ガデラーザも知っていたか……。然しまさか、テロリストのなかに気苦労を共感される相手と出会すとはオーバーワールドは分からんものだな。劣等種の相手は嫌気がするが、来るべき時のためだ。今は我慢してやるさ』
「心中、お察しします」
デカルトにも気苦労があるようで、何処か疲れたようにアリアに言う。
イノベイターはオーバーワールドでも非常に珍しく、NTと違って肉体にも変化が出る。
しかも彼らの脳波は一般的なNTとは波長が違っており、強い脳波としかリンクできない。
強い脳波とは即ち戦闘用のNTとかの事であり、デカルトからすれば劣等種と蔑む旧人類のモルモット。
立場が違えど、同じような苦しみを味わっているのは明白。
彼はアリアに対してはそこそこ、態度を改めた。
ずっと双子は黙っているが、典型的に気に入らない相手と知ったからにはなにも言わない。
揉めてアリアの邪魔になったらいけないのは理解している。
『粒子残量はまだ余裕がある。後方の敵は此方で対処しよう。貴君はそこの宇宙海賊と子供の支援を頼みたい。目の前でチョロチョロされると目障りだからな。離れていろと伝えてくれ。……それぐらい、Xラウンダーとかいうのならばいう前に理解してほしいものだが』
「子供や普通の人間にそれを求めるのも酷なものですよ、大尉」
『まあ、だろうな。所詮は劣等種。真のイノベイターと相互理解などできるはずもない』
デカルトは一貫して傲慢な態度でアリアに接する。
アリアも相手に合わせて笑っているが、怒濤のように襲いくる敵を二人は話し合って捌いていた。
癪だが、アリアと同等の相手なのは双子も分かった。
デカルトは苛立ちから一転、機嫌が良くなったのか言いたいことを愚痴のように吐き捨てて戻っていった。
しっかりと罵っておきながら仕事はする。腐っても、軍人は軍人としての矜持があるようで。
融通のきかない、権力に腐った連邦の世界もあるなか、態度は大きいがマトモな部類だとアリアは思う。
『……嫌な人ね』
『うざ……なにあの態度、ムカつくっ!!』
双子には案の定の評価だったが。
ともあれ、一行はまず後方支援を取り付けた。
更に進んで、今度はガンダムタイプと思われる機体と母艦に接触を図る……。