機動戦士ガンダム オーバーワールド   作:らむだぜろ

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アロウズの極秘任務

 

 

 

 

 

 

 

 アロウズの管轄する街では、クリスマスシーズンが到来していた。

 戦時だと言うのに軍に守られた街は平和なもので、サンタクロースがそこかしこに現れて、イルミネーションが輝いている。

 そんなアロウズに、緊急極秘任務が発生したのは、偶然ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「救世主たるもの、人間たちが求めるものを放置するわけにはいかないな」

「何をいっているんです!?」

 呼び出しを受けて、本部に向かった二人が見たものは。

 真顔で、サンタクロースの格好に扮する自称救世主、リボンズ様であった。

 ご丁寧に白い髭までつけて、大きな袋を背負っていた。

「アメリアス、ノーフェ。極秘任務だ。人間たちに、僕ら救世主からプレゼントを配るから手伝っておくれ」

 何をいっているんだこいつは。

 唖然としているアメリアス。ノーフェは先ず彼に一言。

「ならプレゼント下さい」

「いいよ。何がいい? 新しいマシンでもほしいのかい? それとも、別の物かな?」

「気前良すぎませんか!?」

 リボンズは笑顔で、ガサガサ袋をあさり、タブレットを取り出すと、ノーフェのワガママにあっけなく応えた。

 何やら注文していたらしい。あとで来るというと、大喜びのノーフェ。

 それは放置しておくとして。

 アメリアスが叫ぶと、当然のように語った。

「人間は本当に愚かだね。まさか、幼い子供にサンタクロースは居ないなどと嘘を教え込むなんて。両親など、単なる人間に過ぎないのに」

(普通はご両親じゃないんですかね……?)

 アメリアスはクローン故に両親などいないが、普通の子供の場合は、両親がサンタクロースの筈である。

 なのに、この男と来たら。

「いるじゃないか、目の前に。そう、僕達イノベイターこそが聖夜の伝承に伝わる、サンタクロースだッ!!」

 ……何を堂々と意味悲鳴な事を真面目に言っているのだろうかこいつは……。

 聞けば、彼なりに理屈は通っていた。

「僕達イノベイターは、人間を導く存在だ。導かれる人類は知らないだろう。彼らが伝えていた伝説の存在が、僕達だと言うことを。僕は、人間の存在を愚かだとは思うが、文化まで否定する気はないよ。寧ろ、推奨しているぐらいさ。子供たちが夢見る聖夜の伝説は、実在するのだと。そうして僕達は文化が廃れるまで、永遠に語り継がれるのさ。素晴らしいと思わないか?」

 要はこいつ、自分が伝説の存在になって子供たちに崇拝されたいだけだった!!

 そんな自尊心のためにわざわざ行動を起こすあたり、本物というか……。

「一年に一度の聖夜だろう? 丁度僕もやりたいことがあったから、一緒にやってしまおうと思ってね。悪いが、付き合ってくれないかな? そちらの人間たちにも何か送ろう。交換条件でどうだい?」

 他のイノベイターは、面倒くさいのと用事と寝るので勘弁してくれと断ったらしい。

 ノリのいい一部は、憧れの眼差し期待でやると言っているとリボンズは説明した。

 暇していた二人も、一応了承。どうせ寝ているだけならお金になるだけまだいい。

(意外としっかり管理する気はあるんですね……)

 この辺は流石と言うか。周りの評価は表面しか見ていないのもよくわかる。

 クリスマスにまさかのサンタクロースの真似事。

 というか、リボンズはサンタクロースの概念を奪おうとしているようだ。

「警備は他の人間に任せている。なに、荒事はしないさ。子供の希望を奪うのは僕の本意ではないし」

 というので、結局彼のよくわからない極秘任務に付き合うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……で。

『うん、太陽炉の同調は悪くないかな。システムも安定している。トランザムも問題無さそうだ』

「ガンダムが……サンタに……!? ガンダムは、サンタだった……!?」

『その概念をこの夜に刻むのさ。僕達の手でね。今宵でアロウズの管轄する全ての街の施設を回るんだ。見られてもいいように、わざわざカラーリングを変えたんだ。似合っているだろう?』

「意外と違和感がないのは驚きですね……」

 現在、武装を外した機体で移動中。

 武装が全部ないリボンズのガンダム。リボーンズガンダムとか言うらしい。

 クリスマス仕様に塗り替えられた機体で、背中には大きな袋を特注で用意して背負っていた。

 そりなども用意したかったらしいが、技術的に無駄なので仕方ない、新しい伝説を作ればいいと前向きに諦めた。

 両腕の肘には、先日ノーフェと奪ってきたオリジナルの太陽炉が接続され、聖夜の夜に綺麗な緑色の粒子を放っている。

 正直、ガンダムがサンタクロースでも違和感がない気がした。

 一件目を回った時点で、何も知らない幼い子供たちが住む施設に、職員にはアロウズを通して話をしていたのか、笑顔で頼まれ社交辞令の薄ら笑いを浮かべてリボンズは進んだ。

「やぁ、君達!! メリークリスマス!! サンタがプレゼントを配りに来たよ!!」

 集団で待っていた部屋に颯爽と登場し、堂々と名乗った。

 戦争孤児である子供たちは、サンタが本当に実在するかのように、簡単に信じてしまった。

 嘘だろうと、後ろ手でチビサンタを名乗るサンタコスのアメリアスは絶句する。

 リサーチしていたのか、個人の欲しいものを何でも用意していた。

 この男、自分のためなら一切妥協しなかった。全員にきっちり、欲しいものを配り終えた。

 そして言い聞かせる。サンタは実在する、僕がサンタなのだと。

 プレゼントで浮かれる子供たちははしゃいで大喜び。

 ありがとうと、純粋な笑顔でお礼を言っていた。

(うわぁ……)

 見たことがないくらいリボンズも満足していた。

 背後で見ていてよくわかる。満ち足りた表情で愉悦している。

 なんというか、サンタ扱いがそれほど彼にとっては、重要なことらしい。

 施設から立ち去るとき、見送りに来た子供たちの満面の笑みで、彼の自尊心はかなり満たされていた。

『子供は素直でいい。僕達がサンタであると、これでもう疑わない。見ただろう? あの純粋な瞳を。そう、僕こそが人類を導くサンタクロースだ!!』

 高笑いしながら去っていくのを、黙ってついていく。

 やっていることは、間違いなく良いことなのだろうが……。

(動機が不純すぎるのと、中身がナルシストというのが……)

 アロウズにしては、慈善事業のように夢を与えるお仕事。

 然し本音はリボンズの自己満足である。

 本来は奪った太陽炉の同調テストらしいが、完全に趣旨が変わっていた。

 サンタクロース仕様と言うことで、二人とも違うガンダムに乗っていた。

 全部赤と白にして、サンタのような装飾つけているが。

『乗り心地は如何かな? アストレア、古い機体だが悪くないだろう?』

 先日、気に入らない連中の組織を襲って壊滅させたついでに、呼びパーツらしきものを組み上げたら出来たのがこの古い機体、ガンダムアストレア。但しクリスマス仕様、武装なし。

 アメリアスが乗るのは、リボンズからのクリスマスプレゼントだという。

 まあ、使わないので誰かに譲ろうと思う。今はデルタカイがあるし。

『そっちの太陽炉は、壊れていたのをアロウズの技術で再生したんだが……やはり難しいね。完全ではないし、出力もかなり低い廉価品になってしまった。オリジナルと言えど、疑似と同等ではお話にならない。そんなものでよめればもうひとつ、お土産に持っていくといい。僕のガンダムも、模倣で作ったけど……持っていくかい?』

 クリスマスだからか、やけに気前がいい。

 アストレアだけではなく、模倣品と言えどOガンダムまでくれるとか言い出した。

 こっちは量産型のパーツも入っているただのコピーだが、ノーフェの予備機体にしたいと貰うことに。

 どんどん、リボンズの要らないものを引き取っていくうちに戦力が膨れ上がる。

 リボンズは物をあまり大切にしない奴なのであった。

 以前に、あのガンダムには乗ったこともある。頂けるなら頂いていこう。

 他にも、

「T3……?」

 何やら聞きなれない単語を操縦しているリボンズは言った。

『あぁ。ティターンズの部隊の一つでね。独自開発したMSを試験運用している部隊があったんだけど、アロウズと衝突してね。生意気にも、僕達を打倒しようと画策していたから、潰したんだ。で、そこの接収した機体が倉庫で余っている。アロウズはティターンズのような傲慢な態度の組織は認めない。嫌がって誰も使わないんだ。この間、かなり機体を任務中に破壊していたと聞いたよ。配備するものがないなら、貰ってくれないか? 正直、僕は見るのも嫌なんだ。ああいう、身の程知らずの人間が作ったマシンは』

 リボンズが吐き捨てる。そういう人種が大嫌いなリボンズらしい台詞だが。

(何でもかんでも回収するの止めましょうよ……)

 アメリアスは内心呆れていた。

 アロウズは、倒したり潰した組織の機体は取り敢えず回収する方針らしく、使っていないマシンは数えきれないと言っていた。

 あっても困らないし、あらゆる組織の人間がイノベイター下で、現場で働いている。

 需要に応えるべく、保存はしている。というのが、建前。

 本音は、配備の間に合わない部隊にもしっかりと戦力が行き渡るようにするための方法。

 戦力を消費しないために、奪ったものはそのまま運用。それがアロウズ。

 メンテするぐらいの技術はあるので、なおさら悪い。

 一部では、異世界のAE社とかとも繋がりがあるとかないとか……。

 道理で戦力が桁違いな訳である。奪ったものまで貪欲に使っていればそうもなる。

 主義主張なども、現場ではあまり気にする声も聞かない。

 聞くのはアロウズが正義のために戦う組織だと言うことだけ。

『くすくす……』

 話を黙って聞いていたノーフェが、リボンズと通信を終えたアメリアスに話しかける。

 愉快そうに笑っていた。

「……何がおかしいんです?」

『身の程知らずですか……。リボンズが管理する世界に、人間の自由はあるんですかね?』

「ありませんよ。彼が行う統治は、人類家畜化計画とも言えます」

 リボンズが目指す世界は、彼らが管理してゆく物理的恒久平和の世界だ。

 どこかの議長がやりそうな過激な方法だが、そうなれば……二人の意味もなくなるだろうか。

 尽くす人類の消えた世界。ならばそこで、二人は誰に尽くせばいい?

 ノーフェは戦いのない世界は退屈だと言う。

『暇な世界なんでしょうね。でも、そうですね……そうなれば、私の目的も、簡単に達成できるかもしれません』

「させると思いますか? ノーフェ、あなたはわたしと死ぬんですよ。絶対に、逃がしません」

『勝ち目がないくせに。私のほうが能力は勝っていますけど?』

「どうでしょうね? それこそ、サイコミュを暴走させて、あなたの意識だけでもあの世に連れて逝きますよ」

 彼女が大人しくなったが、やはり根幹は復讐である。

 全員殺すまで、絶対に満足しない。殺せばいい。リボンズの思想に、協力するかもしれない。

 最悪、アメリアスが某天才のように、心だけでも壊して共に死ねば、それでもいい。

 互いに異なる表情を見せる。ノーフェはバカにする笑みを、アメリアスは軽蔑の殺気を。

 そんな交差するクリスマス。二人のサンタは、互いを否定しながら、夢を配り続ける……。


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