「それじゃ行くね」
「くうぅ!もう行くのか伊織ぃ!お父さんはまだ伊織と遊んであげられてないぞぉ!」
「修一さんは馬鹿な事言わないの!頑張りなさい、伊織。でも無理だけはしちゃダメよ」
「うん、分かってるよお母さん!お父さん、また今度遊ぼうね!」
僕は昨日のうちに纏めた荷物を持ち、家の前で家族と別れの挨拶をしていた。
昨日の大会が終わってからライカちゃんや布施君とお話して、水穂と帰宅した夜に月読先生から電話が来たんだ。
前に僕が制圧しちゃったテロリストの仲間が一人脱走したみたいで、捜索に協力してほしいって内容だった。
何でこのタイミングで?とも思ったけど、放って置ける話じゃないから急遽戻る事になったんだ。
「お兄ちゃん、気を付けてね……」
「うん、すっごく気を付けるよ。だからそんな顔しないの!水穂は笑ってる方が断然可愛いんだから」
昨日よりも心配そうな顔で僕を見つめる水穂に、僕は笑いながら答える。もう、別に死地に行く訳じゃないんだから!
「……うん。行ってらっしゃい、お兄ちゃん。頑張って!」
「任せといてよ!では稲葉伊織!行って参ります!」
最後は天使のような笑顔で送り出してくれた水穂にビシッと敬礼して、僕は駅へと歩き出した。
僕は歩きながら今回の脱走について考える。
余りにも不自然なタイミングでの脱走、しかも脱走した一人は他の仲間を助ける事はなく、教務科や尋問科から逃げ切ったと言うことになる。
そんな事有り得るのかな?仮にそれが可能だとしても、そんな実力を持った人が僕に制圧される筈がない。
だから僕がその人より強かったって説は絶対に無い。
それじゃあまさか偽装情報?それにしたって何のために?
駄目だ、混乱してきたよ……
「そこの君、少しいいかな?」
「え?」
いろんな情報が頭の中を駆け巡って混乱し始めた時、赤茶色のスーツを着た外国人に話し掛けられた。ふわぁ、流石外国人!背が高いなぁ!180くらいかな?
でも僕に何の用かな?
「あぁ、そう警戒しなくても大丈夫さ。私の名前は古谷 仁。こう見えても日本生まれなんだ」
「え!そうなんですか!」
と言うことは古谷さんはハーフって事だよね!成る程、だから外人ぽいのに日本語がスラスラなんだね。
古谷さんは僕に目線を合わせながら懐から手帳を取り出すと、その中身を僕に見せてきた。そこには東京武偵高校教務科って書かれていた。え!?じゃあ先生なの、この人!?
「古谷さんってうちの武偵高校の先生だったんですね……全く知りませんでした!すいません!」
「ははっ!いいんだよ。私も滅多に姿は見せていないからね。知らないのも無理はないよ。さて、今時間大丈夫かな?月読先生から話を聞いてると思うのだけど」
「あ、はい。昨日電話が来ました。もしかしてそのお話ですか?」
「話が早くて助かるよ。それで、どうだい?何ならご馳走しよう」
古谷先生はカフェに目線を向け、再び僕に目線を戻すとニッコリと微笑んだ。
…何故か脳が危険信号を出してる。この人は危険だって。でも、何かしらの情報は得られるかも知れない。
「わかりました。じゃあお言葉に甘えてご馳走になります!」
「はは!正直な子だ!よし、何でも頼むといい!」
こうして僕は古谷先生と一緒にカフェに入って遠慮無く注文することにした。
この人は敵か味方か、どっちかな……