元気な白は諜報科!   作:黒三葉サンダー

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皆様、お久しぶりです。黒三葉サンダーがこの小説に帰ってきたぞぉ!!

え?お呼びでない?そんなぁ……(´;ω;`)






人命救助

いきなりだけど、僕には苦手なものは二つあるんだ。一つは〔雨〕。雨の日はまるで金縛りに合ってるかのように体が動かせなくなっちゃって、凄く眠たくなっちゃうんだ。何でそうなるのかは全然分かってないんだ。しかも雨の日は急激に心細くなって、まるで世界に僕だけが取り残されてしまったんじゃないかって思ってしまうくらいに心が弱ってしまう。武偵高に来る前はよく瑞穂が添い寝してくれたから多少平気だったけど、寮生活じゃそんなことも言ってられない。でも結局どうにもならなくて雨の日は欠席しちゃうんだ。月読先生は僕の体質に理解を示してくれて、今は僕の体質を調べてくれてるんだ。信じられないよね、こんなに良い人が実は古谷さんの仲間だなんてさ。でも何となくは気付いてたんだよ?

 

月読先生からの電話を受けてから古谷さんが接触してくるタイミングがバッチリ過ぎたし、古谷さんから「僕に月読先生から連絡が来た」という事を明かされれば嫌でも勘繰ってしまう。そしてキンジと話をしてから後日、誰にも気付かれないように月読先生と接触して本人にダメ元で確認したら呆気ない位に古谷さんの仲間だと答えてくれた。でも同時に「私は貴方の味方でもあるのよ?」と言われた。どういう事か聞き返してもこれ以上の返答は貰えなくて、ただ何時もの優しい笑顔で返されちゃった。……何となくだけど、月読先生なら信じても大丈夫だと思う。根拠も何も無いけどね?

 

話がだいぶ逸れちゃった!話を戻すね。だから僕の体質的に雨が苦手。そしてもうひとつの、最早どうにもならない程の致命的な弱点は────────

 

「う、動かないでね……!だ、だだ大丈夫だからね……!」カタカタ

 

「う、うん……」

 

何とか壁の小さな出っ張りやベランダに手や足を掛けながらマンションを登る。登り始めてから現在、既に三階建て位の高さになっておりうっかり下を見ようものなら完全にその場から動けなくなってしまう。

 

そう、僕のもうひとつの致命的な弱点は〔高所恐怖症〕なんだ……。じゃあ何で高所恐怖症の癖に壁登りなんかしているのか。それは僕の頭上にいる、壊れかけの柵に何とか捕まりながら体を震わせて動けなくなっちゃった女の子を助ける為だ。

 

そもそもこの状況に出会す前はガンショップ梶田に向かっていたんだけど、マンションの上の方からガシャン!という何かが壊れる音と女の子の悲鳴が聞こえて、慌てて声の方を見てみたら女の子が今にも外れてしまいそうな壊れかけの柵に必死に捕まっているのを見付けたんだ。だから僕は女の子を助ける為に〔無我夢中で〕壁を登り始めた、んだけど……

 

「うー……何で壁登りなんて始めちゃったんだろう……高いよぉ……怖いよぉ……」カタカタ

 

絶賛僕が大ピンチです!もう頭が勝手に現在の高さをイメージしちゃって体が滅茶苦茶震えてます!でも女の子もそろそろ限界が近いのか少しずつだけど下に体が引っ張られ始めている。

 

「ひぐっ……怖いよぉ……痛いよぉ……ママぁ……パパぁ……助けてぇ……」プルプル

 

どんどん体重と引力で引っ張られていく恐怖感と落ちたら死んでしまうという絶望感に女の子がポロポロと泣き出してしまった。この状況は非常に宜しくない。

ええい!覚悟を決めろ僕!僕よりも小さな女の子が怖がってるんだ!僕が怖がってちゃ駄目だ!何とかなる!何とかする!

 

「大丈夫!今助けるからね!もうちょっとだから!!」

 

さっきよりも素早く壁をよじ登り、なるべく早く女の子を救助することだけに専念する。

怖くない!怖くない!怖くない!怖じ気付く暇があったら早く上へ!僕なんかよりも頑張ってる女の子の元へ!

 

「おい!救助隊はまだなのか!?」

 

「くっそ!何処でモタモタしてんだよ!!このままじゃ女の子や彼女が危ないぞ!?」

 

「あの部屋には行けないのか!!」

 

「駄目だ!鍵が掛かってるらしい!大家も今出掛けていて鍵も借りられない!」

 

「はぁ!?今はそんな事言ってる場合じゃねぇだろうが!!」

 

「どうすんだよ!警察もまだ───って嬢ちゃん!?何処に行くんだ!?」

 

下の方が騒がしくなってきてるみたいだ。辛うじて聞き取れたけど、救助隊や警察はまだ来てないみたいだね……。

何とか五階位まで登ってこれた。女の子がぶら下がっているのは六階位だがらもう少しで手が届く。早く!早く!早く!

 

「待っててね!もう届くから──!!」

 

女の子に懸命にエールを送りながらよじ登る。階段の方から足音が聞こえたような気がしたけど、正直気にしている余裕がない。下の方もなんか怒声が飛び交ってるし、気になる事この上ないけど気にしてられない!

一気に壁を〔駆け上がって〕比較的無事な柵に捕まりしっかりと女の子を抱き止める。

 

「よ、し!届いた!もう大丈夫だからね!」

 

「ひっぐ……ぐす……ありがと……お姉ちゃん……!」

 

お、お姉ちゃんか……やっぱり勘違いされるんだね。にしても比較的無事な柵に捕まったとは言え状況は未だにピンチ。何故ならうっかり、ついうっかりと下を見てしまったのだ。つまりどういう事かというと。

 

「ひぇ………怖いよぉ……」

 

完全にイメージしちゃった……というかイメージが完成しちゃった……もし落ちてしまったらひとたまりもない。な、何とかこの子だけでも助けたいけど……

 

「お、お姉ちゃん……?」

 

「あっ……ひっ……な、何でもないよー……大丈夫だからね……」カタカタ

 

もう体が悲鳴を上げてます!無理無理!!誰か助けてぇ!キンジー!レキちゃーん!りこりーん!白雪ちゃーん!うわぁーん!!

 

女の子を抱えながら恐怖で震えていると、部屋の奥からタタタン!と三点バーストの音が響き乱暴に扉が開けられる音がした。その足音は徐々に此方に近づいて来ており、救助隊が来た!と思い顔を上げた。するとそこにいたのは救助隊でも警察でもなかった。

 

「伊織さん!今助けます!」

 

そこにいたのは恐らく僕が最も付き合いが多い、僕が気になってる女の子だった。ここまで走って登って来たせいだろうか、額に汗が浮かんでいる。

 

「レキちゃん!?どうしてここに!?」

 

「後で説明します!」

 

普段は絶対に見せない位に必死に僕達を助けようと手を伸ばしてくれるレキちゃんにビックリしながらも、最優先事項を改めて確認し直す。今現在優先すべきはこの子の身の安全の確保だ。二人分の体重を支えていたせいか手摺もギシギシと不穏な音を立て始めている。

 

「レキちゃん!先ずはこの子をお願い!」

 

「っ!分かりました!」

 

何とか震えを抑えながらゆっくり柵に余計な負担を掛けないように慎重に女の子をレキちゃんの元へと送り出す。

 

「ほら!あのお姉ちゃんの手に捕まって?僕の肩とか踏んでも大丈夫だから」

 

「ぅ、うん」

 

女の子はレキちゃんの手を掴みながら僕の肩を台にして部屋へと戻す事が出来た。後は僕が登りきれば無事に解決だ。

 

僕はこの時油断していた。女の子を無事に助ける事が出来た事実に安心した。安心してしまった。だから気付けなかったのだ。

 

一気に登りきろうと体を持ち上げたその時。バキャン!と嫌な音を立てて柵が折れたのだ。勿論僕はその柵に捕まっていた為に柵と共に落下してしまう。

 

「っ!!伊織さん!!」

 

「レキちゃん!!」

 

すぐに柵から手を離し、レキちゃんが伸ばしてくれた手を掴もうとした。が、僕の手は後数㎝程届かずに空を切ってしまった。

 

「あっ……」

 

「だめ!!」

 

レキちゃんは尚も必死に身を乗り出しながら手を伸ばしてくれたけど、やはりその手に届くことはなく。

 

「ごめんね……」

 

「いや……いやぁぁぁぁ!!」

 

今まで見たことがないレキちゃんの泣き顔をぼんやりと見つめながら、レキちゃんを泣かせてしまった事に自己嫌悪しながらも抗うことは出来ず。そっと目をつむる。

 

確か、前世の頃も人助けした結果運悪く死んじゃったんだっけ。また、痛いのかな……でも何よりも……

 

「ここで終わりなんだ……」

 

何もかも諦めて、迫り来る死に身を委ねる───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く張れぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き覚えのある親友の声が聞こえたかと思った次の瞬間、体を襲ったのはアスファルトの強い衝撃ではなく、布の感触だった。恐る恐る目を開くと、冷や汗をかきながらもイタズラが成功したような笑みを浮かべるキンジがそこにいた。どうやら周りの大人達が即席で布のマットを作って受け止めてくれたみたいだ。上ではレキちゃんが腰が抜けたのか、ぺたんと座り込んで此方を見ていた。

 

「よう親友。気分はどうだ?」

 

「は、はは……最高だよ、親友」

 

こうして僕は何とか事なきを得たのだった。

 

……はぁぁぁ!!今回はもう本当に駄目かと思ったぁぁぁぁ!!

 

 




高所恐怖症。それは逃れられない恐怖症。高いところが大好きな人の気持ちは共感できぬい……すまない!本当にすまない!

そして自分が高所恐怖症であるのにも関わらず人助けの為に直ぐ壁登りを始めてしまう伊織君マジ伊織君!

はぁ……伊織君のイラスト描きたいけどどないしよ……うち絵心ないねん……

以上!久しぶりの更新でした!また次回お会いしましょう!

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