歪んだ殺人鬼の転生録(凍結)   作:クルージング

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ようやくの戦闘回。



では、どうぞ。


《第15話 魔王VS半人半神①》

先に動き出したのはギィだった。

 

常人には知覚できない程のスピードでガレアの懐へと接近し、無造作に拳を振るう。

並の相手ならこの一撃で呆気なく撃沈しているだろう。だがしかし、この魔王が対峙している者は当然ながら並の相手ではない。

ガレアはその一撃を片手で軽く下に受け流すと、空いたもう一方の腕でギィに向けてカウンターを放つ。だがギィはそれを読んでいたのか、受け流された腕を垂直に上げ、それをカウンターを仕掛けていたガレアの腕に強くぶつけることでその一撃の軌道を上手くそらした。

 

「ぐっ…」

 

同時に、ガレアの表情が苦いモノへと変わる。

先の衝撃でカウンターを仕掛けていた腕が大きく上へと逸れてしまい、懐ががら空きになってしまったからだ。

 

《っマスター、防御を!》

 

「分かってる!」

 

間髪入れずにギィの攻撃がガレアに襲いかかる。咄嗟の判断でもう片方の腕を戻し、何とか受け流したが、咄嗟だった為完璧に受け流せず、その衝撃で後方へとかなり吹き飛ばされてしまった。【知ノ恵】が最適な行動パターンをガレアの脳内に伝達し、それをガレアが即座に実行しなければ、これだけではすまなかっただろう。

直ぐ様体勢を立て直し正面へと向き直るが、その時既にギィはガレアの眼前へと即座に移動しており、目にも止まらぬ激しい追撃を仕掛けてきた。早く、そして鋭い一撃が目にも止まらぬ程のスピードで迫ってくる。しかしガレアもやられっぱなしではいられない。紙一重でその一撃を見切ると同時に反撃して攻勢を五分へと持ち直した。そして戦いは純粋な殴りあいへと発展する。

 

まだ戦いは始まったばかりだ。こんな序盤でつまづくようでは話にならない。そう思ったガレアは気合いを引き締め、正面の敵へと意識を向けた。

 

 

◇◆◇

 

 

「これは…驚いたのだ」

 

「まさかここまでギィと渡り合えるだなんて…」

 

その一連の戦いの様を、観戦しているミリムとラミリスが驚愕の表情を浮かべながら表現する。ミリムとラミリスはギィの実力を良く知っているから余計に驚いた。まさかここまで戦況が緊迫するのは予想外だったのだろう。ギィの実力は、能力を抜きにしてもかなりのモノ。対抗できるとしてもほんの一部の強者達のみ…なのだが、まさか今ギィが相対している者がその一部だとは思いもしなかった。

 

「激しくなるぞ…この戦いは」

 

「えぇ…間違いなくね。本当に驚きだわ…」

 

二人の戦いはこの先、更に激しさを増していくだろう。そう確信したミリムとラミリスは先程より真剣な顔付きでこの戦いを見つめる。そこには並々ならぬ意志が確かに感じ取れた。

 

(ガレア様…)

 

その一方で、ネフィの心境はとても落ち着いたモノだった。例えガレアが強かろうと、相手は世界の支配者である魔王。勝てる保証はない。ただでさえ以前負けているのだ。勝つ確率等限りなく低いだろう。だと言うのに何故ここまで落ち着いていられるのか。

 

答えは当然。信じているからだ、自分の主の力を。

 

例えどんな強敵だろうと、自分の主は──ガレア様は勝ってくれる。そんな確信が彼女にはあった。勿論、その確信が本当に正しいのかは分からない。けど、信じることしか今の彼女にできることはない。だから、ネフィは自分の主の勝利を信じ、静かに手を合わせて祈るのだった。

 

(ガレア様は、勝ちます。私は、そう信じます)

 

 

◇◆◇

 

 

一連の攻防の最中、ガレアは目の前の違和感に気が付いた。

 

(……以前とは、戦い方がまるで違う。)

 

ガレアとギィが最初に戦ったときにもこのような肉弾戦をしたのだが、ギィの近接格闘術はただ相手を叩きのめす為の大雑把で単純な威力重視の一撃が多かった。だからこそ技術で対応し、有利に進めることができたのだ。結局その時はガレアが有利なまま進行し、不利だと感じたギィが能力を頻繁に使い始め、ギィが持つ【傲慢之王(ルシファー)】の能力を過剰に警戒し過ぎて能力を使うことができなかったガレアがそのまま力押しされて敗北してしまったが、今回はそうはいかない。

 

【知ノ恵】のサポートもあるし、多少ではあるが能力も解禁させている。無論切り札となる能力は勝負の時まで温存させるつもりだが、以前の時よりは戦える筈だ。そう思っていたのだが…それは見通しが甘かったと言わざるを得ないだろう。

 

ギィの動きは明らかに以前とは違うモノへとなっていた。前回のような力任せの大雑把な動きではなく、淡々と獲物を追い詰めていくような細かで線密な動き。恐らくだが、前回は本気で戦っていた訳ではないのだろう。今回になってようやく本気を出してきたと言うことか。戦いを楽しむ戦闘狂なら別の反応を示したのかもしれないが、生憎ガレアはそこまで戦いが好きと言う訳じゃない為、そこまでいい気分にはなれない。いくら戦い方が上手かろうが、ガレアの本質は殺しであって、戦闘ではないのだ。

正直、今の戦況は多少ギィの有利へと傾いている。このままではその勢いでギィが押し勝ってしまうだろう。だがしかし。

 

 

ここで一つ問おう。引き金を引き、殺しを行っても全く心を動じさせない者が、たかが戦闘で一度劣勢になった程度で、心を折られる事があるだろうか。

 

《マスター、今です》

 

答えは──否だ。

 

 

◇◆◇

 

 

(ククク…そうこねぇとなぁ!)

 

止めどなく繰り返される激しい攻防の中、ギィは身体から湧き上がる熱気を強く感じていた。

 

七日七晩休むことなく戦い続けたミリムとの死闘。

 

世界のあり方を賭けたルドラとの激闘。

 

両者共に世界の命運すら分けた、正しく激戦と言って良いモノだ。戦いの激しさこそ劣るが、今この戦いに迸る熱意は、それらの戦いにも決して劣らない。現に今この瞬間にも戦いは激しさを増し続け、それに呼応するようにギィの闘志もまた、更にその勢いを増していく。今、ギィは最高に燃えていた。

 

(どうした、まだ踊れるだろ!)

 

現状、戦況はギィの有利。しかし当然、ギィは追撃の手を緩めるような真似などしない。容赦なく追撃を仕掛けていく。頭部、胸部、鳩尾と、的確に急所を狙い、強烈な打撃を放つ。しかしそれらの攻撃は全て届く前に寸前で弾かれてしまった。それにギィは苦渋の表情を浮かべることなく、寧ろ更に獰猛な笑みを浮かべて、次の追撃を放つ体勢へと即座に移る。しかし。

 

(───っ!?)

 

その瞬間、不意にギィの右腕に激痛が走る。途端にギィの表情が苦悶に歪み、思わず衝動的にガレアとの距離を取った。

 

(何が…っ!)

 

すぐに何が起こったのかとその激痛の原因である右腕へと視線を寄せるが、その右腕は二の腕より先が丸ごと切り落とされなくなっていた。

 

一体何故と思ったが、答えは分かりきっている。今の状況でそんな芸当ができる相手は一人しかいないからだ。

 

その原因となったであろうガレアの左手には黒く輝く剣がいつの間にか握られていた。間違いなく、ギィの右腕はそれで切られたのだろう。しかも只の剣ではない。ギィの身体は並の剣では傷一つ付かない程強靭だ。むしろ逆に斬り付けた剣の方が折れてしまうだろう。だと言うのにあの剣はギィの身体に傷を付けるどころか、あろうことか切断してしまった。それだけでも脅威なのだが、問題はそれだけではない。

 

(傷の治りが遅せぇ……クソッ)

 

ギィが【傲慢之王】で模倣し得た能力の中には、当然回復系の能力もある。失った腕の一つぐらいすぐに再生させられるだろう。

だが、その能力は阻害されているのか上手く機能せず、その再生速度はとても遅いものになっていた。

 

(詳しくは分からねぇが間違いねぇ、能力を使った攻撃だ。一体どういった能力なのかはまだ掴めねぇが…チッ、やってくれる)

 

ガレアは内心でそう愚痴を吐いた。今付けられたこの傷がこの戦いの最中に治るのは難しいだろう。

ギィは苦虫を噛み潰したような気分になった。それは腕を切り落とされた事にではなく、それに対応できなかった自分自身に対して、だ。

ガレアとの殴りあいに少々気分を熱くさせて冷静さを欠いていたのは事実。正直、情けなくて泣きたいくらいだ。だが今はそんな余裕はない。この序盤で片腕を失ったのは流石に痛い。間違いなく、これからの近接戦は不利になるだろう。そう確信したギィは改めて気合いを入れ直し、眼前の相手へと対峙する。

 

(面白れぇ…上等じゃねぇか…!)

 

戦いは、更に佳境へと差し掛かろうとしていた。




余談ですが、今まで投稿してきた話を大幅に改善することにしました。設定がどんどん矛盾してきましたので…辻褄合わせに。

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