鍛冶師の妖精   作:みかんブリ
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何故かいつもの倍くらいの量になりました。


遭遇

 アイズは赤髪の女性と対峙していた。豊満な双丘をもち、容姿も端麗である彼女は今回の事件の容疑者として、疑われる筈だった。しかし、殺した男性の顔の皮を剥いでそれを被ることで捜査の目から抜けていた。そして、アイズが『魔法』を使った時に言った『アリア』という名前を聞いた瞬間、アイズに衝撃が走った。

 

 

「どうして、その名前を知っている!?」

 

「さあな、どうしてだろう。とにかく、その宝玉(たね)を渡してもらうぞ」

 

 

 彼女が言う宝玉――先程、不審な動きをしていたルルネと名乗る女性冒険者が配達していた品――を目にすると、アイズは様子を激変させた。吐き気がする、言いようのない不安に襲われる。まるで自分の血が騒ぐような。とにかく、相手は自分の秘密を知っている。それが分かってしまい、アイズの剣筋に乱れが見えた。

 

 

「甘いな」

 

「……っ!」

 

「……まあいい、私と来てもらうぞ『アリア』」

 

 

 そんな剣筋の乱れの隙をついて、アイズの剣をあっさりと打ち払った赤髪の女性は、アイズに肉薄する。周りには食人花が多数出現して、レフィーヤとルルネもそちらで戦闘を行っているため、アイズを助けることが出来ない。赤髪の女性が剣を振り上げて、アイズが目を眇めた時。

 

 

「ここまでだ」

 

「アイズはやらせないよ」

 

「くっ……!何者だ貴様ら」

 

「リヴェリア、フィン!」

 

 

 リヴェリアとフィンが杖と長槍によって、アイズに迫る剣を防いだ。リヴェリアは眉を吊り上げ、フィンは相手をじっと見つめたあと、口を開いた。

 

 

「君が今回の黒幕でいいのかな?調教師(テイマー)

 

「今回に限っては……な」

 

「貴様一人で我々に勝てると思うか、大人しく投降しろ」

 

「ふん、いつ私が一人だと言った。駒の一つや二つは持ってきている」

 

「駒……?それはあの食人花の事かい?」

 

食人花(ヴィオラス)もそうだが……もう一人貴様らの敵がいる」

 

 

 赤髪の女性が口にした言葉にフィンとリヴェリアが瞠目する。彼女の様子を見て、その言葉が嘘ではないと判断したフィンが口を開く。

 

 

「君の目的は何だ?闇派閥の生き残りか?」

 

「私をあのような連中と一緒にするな。まあ、先程言った駒はそうだがな」

 

「君のような実力者がもう一人か……頭が痛くなる話だ」

 

「ふん、奴にそれほどの実力は無い。奴は本当に唯の人間だからな」

 

 

 互いに警戒は怠らずに話し合いを続けていたが、一つある疑問が発生して、杖を構えたままリヴェリアが尋ねた。

 

 

「先程からもう一人の情報を話しているが、お前の仲間ではないのか?」

 

「違う。今回は利害が一致したから共に行動しているだけだ。あちらも私の事など仲間と思ってはいまい」

 

「なるほど、では君が窮地に陥っても助けには来ないわけか」

 

 

良い事を聞いた、と呟いてフィンは槍を握りなおす。それを見たリヴェリアと赤髪の女性も戦闘態勢に入り、互いを見つめた。

  ガラッ、と周りにある水晶が倒れた瞬間、三人は一斉に動き出した。

 

 

※※

 

 

「これでここら辺のモンスターはあらかた片付けたか」

 

 

 魔法を駆使して食人花を呼び寄せ、手当り次第に斬りつけ、爆破していたエルスはそう呟いた。

 呼び寄せる段階でかなりの人数に『魔法』を見られたので、この戦いが終わればいよいよ殆どの冒険者に自分の魔法は伝わるだろう。冒険者の追求が激しくなることを考えると今から気が重いが、それはしょうがないと自分を納得させる。

 

 

「まだまだ向こうの方には結構いるな……。【ロキ・ファミリア】も向こうにいるだろうし合流するか」

 

 

 エルスが食人花を引き寄せていたおかげで、怪我人こそ多いものの、死者はまだこちら側では出ていなかった。魔力回復薬を飲んで、走り出そうとしたその瞬間。

 

 ――凄まじい悪寒がして、エルスは自らの直感に従い横に跳躍した。

 

 

「くっ!何だ!?」

 

「アレを避けるのか、凄いなぁ」

 

「……誰だお前は」

 

 

 エルスが後ろを振り返ると、そこにはナイフを何本も携えた黒髪の男が嗤って立っていた。190Cはありそうな長身の男で、顔から首にかけて大きな傷が残っている。

 

 

「俺か、俺はな闇派閥の生き残り、とだけ言っておこうかなぁ」

 

闇派閥(イヴィルス)の生き残りだと?」

 

「ああ、俺達は流石に地上では生き辛いから、地下でひっそりと暮らしてたんだよぉ。ほら、あの事件とかあったしなぁ」

 

 

  地下で暮らしている――つまり、ダンジョンで――と聞いて、エルスは目を見開いた。

 『27階層の悪夢』。闇派閥(イヴィルス)がダンジョン内で仕掛けた、階層主まで巻き込んだ大規模な怪物進呈。多数の冒険者がこの罠に掛かり、死亡し、敵味方含めてほぼ全滅したという凄惨な事件だ。

 

 

「お前もあの場所にいたのか?」

 

「いやぁ、あそこにいたら生きてないって。俺は準備にまわってたから、居なかったんだよぉ」

 

「そうかよ、とりあえず捕まってもらう。色々と聞きたいこともあるしな」

 

「――へぇ、やれるもんならやってみな!」

 

 

 どこか巫山戯た態度を取っていた男が、急に殺意を剥き出しにしてエルスに迫る。急な変化に少し驚きつつも、エルスは剣を投影して相手のナイフを受け止めたその時。

 

 

「ッ!?」

 

「ハッ、どうした!」

 

 

――剣が音をあげて溶けだした。

 すぐさま剣の打ち合いを止めて後ろに飛び退くが、剣がジュワッ、と半ばまで溶けたせいで武器が破壊された。

 

 

「おいおい、今の『魔法』か?めんどくせえな」

 

「勝手に剣が出てくるお前に言われたくねぇよ。俺の魔法は、武器になんでも溶かせる能力を付与する」

 

「なんでもってことは……」

 

「ああ、お前も捕まったら溶けちゃうぜ?【万物よ、溶解せよ】」

 

「【リオスト】」

 

 

 男が超短文詠唱と思われる魔法を発動すると、武器が赤い膜に覆われ始めた。血のように赤い膜がどんどん剣を侵食していく。そのまま持っていたナイフ全てを魔法で覆った男は、エルスに向かって走り出した。

 男が四本のナイフのうち二本をエルスに投擲する。エルスはそれを左に避けて、男のもとに走る。投影した双剣で男に斬り掛かると、男は膜に覆われたナイフを交差する事で防ぐ。また溶けだした剣を捨て、新たに投影しようとするが。

 

 

「遅せぇよ、させると思うか」

 

「ぐっ!」

 

 

 男がその隙を見逃さない。手に持っていたナイフを投擲して、エルスがかわした所を斬り掛かる。ナイフがエルスの頬を掠り、そこから激痛が走る。痛みに顔を歪めるエルスに男は嗤って言う。

 

 

「お前のその魔法、確かに厄介だが、近接には向いてねぇな」

 

「そんな事ねぇよ。ちょっとお前のおかしな魔法との相性が悪いだけだ」

 

 

 軽口を叩くエルスだったが、余裕は少しも無かった。確かに、エルスの【投影魔術】は同格かそれ以上の敵と戦いながら連発するには向いていない。だが、上級鍛冶師であるエルスの武器を一撃ごとに破壊する相手などとは戦ったことがなく、連発する機会も無かった。

 

 

「まぁいい、人と殺し合うのは久しぶりなんだ。まだまだくたばるなよ」

 

「そうだな……【投影、開始】」

 

「おお、そう来るか。いいね」

 

 

 エルスが一度に数十本の剣を投影する光景を見て、男が少し驚いたような声を出す。

 エルスの『魔法』は、注ぎ込む精神力の量によって、大きさや数を増減させることが出来る。戦闘中に創り出す時間が無いならば、今のうちに創るまで。更にそれをスキルで浮かせ、目の前にいる男を見つめる。

 

 

「ほんとに面白いことするな、お前」

 

「そりゃどうも、【奇術師(マジシャン)】って聞いたことないか?」

 

「ああ、なるほど。聞いたことあるぜ、お前がそうか」

 

「これで、武器は圧倒的にこっちが多い。本気で行かしてもらう」

 

「まるで、さっきまでが本気じゃなかったみたいな言い方だな」

 

「いや、さっきまでも本気だったよ。普通に戦うならな」

 

「じゃあ、今から見せるのがお前の真の力か、いいね!」

 

 

 口元に笑みを浮かべながら男が突貫する。エルスは剣を操作して、男を取り囲みつつ、残りを一斉に掃射していく。男も剣を振り払おうとナイフで斬りつけ、次々と溶かしていくが、大量の剣に対処しきれず、次第に体に傷が付いていく。

 男の使用していたナイフの赤い膜も次第に薄れていき、剣が溶かされるペースも落ちてきた。

 

 

「どうやら、その魔法にも制限があるみたいだな。時間か、それともその能力を使用した回数か」

 

「まぁな、そこまでは教えられねえけどなぁ」

 

「まだやるか?もう投降したらどうだ?」

 

 

 そう言って、エルスは剣を操作し、男の首に突きつける。だが、そんな状況でも、男の笑みが消えない。エルスが不審に思っていると、男が口を開いた。

 

 

「お前、人を殺したこと無いだろ」

 

「……急になんだ」

 

「まぁいいじゃねぇか。……闇派閥(イヴィルス)の生き残りで、自分の敵だと分かっているなら、覚悟があるやつなら普通は殺す。俺たちは、そうされても仕方ない位のことはしてきた」

 

「だから、お前を殺していない俺は人殺しをした事がないと?お前を捕まえて話が聞きたいからとは考えないのか?」

 

「それもあるんだろうが……怖いんだろ、殺しが。顔色が悪いぜ」

 

「……当たり前だろ。それが怖くない奴は、きっと何かがおかしい」

 

「そりゃそうだ。まぁ、今回はそれが命取りになるぞ」

 

「どういう――」

 

 

 ことだ、そうエルスが言おうとした瞬間、首に突きつけられている剣も気にせず、エルスに向かってきた。完全に不意をつかれたエルスは自らの不覚を呪いつつも、剣を男の腕や足に刺していく。顔を歪めながらも足を止めず、懐から異様な形をしたナイフを取り出した男はエルスに斬りかかった。

 エルスも剣でナイフを受け止め、後ろに飛び退き、体勢を立て直そうとした時、足元が沈んだ。何事かと足元を見ると、男が始めに投げていたナイフが地面に刺さって、その部分が溶け出していた。

 驚愕に目を見開いたエルスに男が接近し腹を斬りつけ、殴り飛ばした。

 

 

「ぐっ!……お前、その体、どうなってやがる……」

 

「俺の仲間に面白ぇ奴がいてなぁ、そいつが魔道具を作ってくれたんだよ。そいつの道具の中にこのナイフと玉があったんだぁ」

 

 剣を体から抜き取った男の傷がみるみるうちに塞がっていく。動き出す時に深く切った首の傷さえも一瞬で元通りになる光景に、エルスは目を剥いた。

 斬られた腹を押さえながら問いかけるエルスに、男はその二つの道具を見せた。ナイフは鋸上になっており、斬るというよりは相手を痛めつける事に特化した形をとっており、藍色の玉は魔力を流し続けることによって、傷を回復する能力があると、どこか得意げに話した。

 

 

「傷の自動回復って反則だろ……」

 

「殺し合いに卑怯もクソもあるかよ、使えるものは何でも使わねぇとな。……それより、そろそろ気づいたか?」

 

「……ああ、回復薬を飲んでも傷が治らない。それがその剣の能力か」

 

 

 正解、と嗤う男を見て、エルスは悪態を吐きたい気分だった。腹の傷は致命傷などではないものの、このまま血を流し続けるということになるとかなり危険だ。

 相手を戦闘の最中に誘導する技術や、対人戦を想定している武器。相手は自分より明らかに戦い慣れている。

 焼けるような痛みに襲われながらも、エルスは口を開いた。

 

 

「お前の目的は何だ?今出てきて何がしたい」

 

「目的かぁ、――壊すんだよ、このオラリオを。そうすりゃ、みんながまた俺を止めに来る。……あの時遊べなかった代わりに丁度いいだろぉ?今回はちょっとしたお遊びさぁ」

 

「またあんな事件を起こそうってか?正気じゃない」

 

「かもなぁ、実際どうするかは、神サマ辺りが決めるだろうよぉ。今回は俺が勝手に始めちゃったけど、もうすぐ面白ぇ事になるぜぇ」

 

 

 そうかよ、と吐き捨ててエルスは相手を睨みつけた。男は強い。エルスの【ステイタス】はLv.4の中でも上位に位置している。そのエルスと同等かそれ以上の速さで動き、卓越した戦闘技術。相手は恐らくLv.5、『魔法』が無ければとっくにやられていてもおかしくない。

 

「じゃあ続きだ。行くぞ」

 

 男が迫る。高速をもって繰り出される斬撃を、双剣を交差することで受け止める。『魔法』を帯びた剣がエルスの剣を侵食していき、強引に破壊する。

 すかさず追撃を加えようとするが、前後から、浮遊していた剣が男に襲いかかり、ナイフを持っていた右腕を貫く。

 男の動きが止まった一瞬を狙い、ナイフを弾き飛ばし、男の顔面に回し蹴りを加えるが、左腕を使ってそれを防ぎ、お返しとばかりに腹に蹴りを加える。エルスは後方に蹴り飛ばされつつも、剣を操作することで、相手の左腕に数本の剣を高速で向かわせ斬り飛ばす。腕を失った事で初めて男に焦りが見え、その隙を見逃さぬように、エルスは足元にあった男の歪な形状のナイフを投擲した後、地面を勢いよく蹴って接近する。

 

――もらった。エルスがそう確信したその時。

 

「はい、そこまで」

 

「なっ――」

 

 

 エルスの体にとてつもない衝撃が加えられ、宙を舞った。勢いよく真横に飛ばされ、木製の建物に頭から突っ込む。瓦礫の中から顔を上げ、何が起こったか確認しようとすると。女が男の横に立っていた。何かを話しており、どこか険悪そうな雰囲気――男に対する女の怒りのような―― が伝わってきたが、頭を強く打ったせいか、視界がはっきりとせず、顔までは視認できない。この状況からすると、自分に攻撃を仕掛けたのはあの女で、自分の味方でも無いということは一目瞭然で、エルスは眉を歪めた。

 死、そのイメージが強く脳裏に浮かぶ。

 女との話が終わったのか、腕こそは繋がってないものの、一通りの傷を修復した男が建物の中に入ってくると、言った。

 

 

「危なかったぜ、流石に死ぬかと思ったよ」

 

「……さっきの、女は誰だ……」

 

「悪いがそれは言えねぇ。俺と同じ境遇の奴とだけ言っておこう」

 

「……そうかよ」

 

「更に悪いが、お前はここで殺しておく。てめぇみたいなのがいたら厄介な事この上ない」

 

 

 男の言葉が耳朶を打つ。女はもう何処かに行ってしまったのか、見当たらず、周囲も戦いが終わったからなのか、あるいはエルスの耳が音を取り込んでいないだけなのか、静寂に包まれていた。

 男が足元に転がっていた剣を手に取り、振り上げる。その光景にエルスは目を眇め、このままでは終われないと、先程の攻撃で折れた片腕を盾に、口を開き、言葉を紡ごうとした瞬間。

 

「――何をしておる、貴様!」

 

「――がっ!?」

 

 壊れた屋根から降りてきた黒髪の女性が男に踵落としを食らわせた。余りの衝撃に床が陥没し、男が地面に叩きつけられる。

 すぐさま飛び起き、エルスから距離を取った男は頭から血を流しながら黒髪の女性を見つめ、ふっ、と笑みをこぼす。

 

 

「つ、椿か……?」

 

「そうだ、こやつは敵だな。……少し待っていろ、直ぐに片をつける」

 

「そいつは不味いなぁ、まだ捕まるわけにはいかないんだよ」

 

「巫山戯たことを……。手前の後輩をこのようにしておいて、無事で済むとでも思っていたのか」

 

「ああ、良かったなぁ【奇術師】。助けてくれる人がいて、それじゃあ俺はこの辺で逃げさせてもらうよ。――俺の名前はヴァイス、次は始めから殺しに来い」

 

「逃げられると――」

 

 

 思っているのか、と椿が言葉を続けようとした時、男が血塗れのズボンから小さな玉を取り出し、地面に叩きつけた。すると、辺りに一瞬で黒い煙が立ち込め、視界が封じられた。すぐさま椿が大剣を振るい、風圧で煙を吹き飛ばしたが、男の存在は煙のように消え去っていた。

 男が――ヴァイスが居なくなったことで、エルスの張り詰めていた緊張の糸が切れ、腹部から未だに血が流れていることを感じながら、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




申し訳程度のオリ展開







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