鍛冶師の妖精   作:みかんブリ
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豊穣の女主人

「ゴメンね、リュー。お買い物手伝ってもらって」

 

「いえ、気にしないでくださいシル。店の食材が足りなくなったなら、私にも買い物に行く義務がある」

 

「ふふっ、ありがと」

 

 

  リューは、ミアに食材の買い出しを頼まれたシルの手伝いをしていた。『豊穣の女主人』で働いている者は皆、女性であり、その中でも見目麗しい者が接客を行っている。そのため、店はいつも繁盛していて今回のように、食材が夜まで持たないこともたまに起こる。

 

 

 

「それでシル、何を買うのですか?」

 

「うーんとね、野菜炒めのための野菜と、調味料が無くなりそうだから買ってきてくれって」

 

「なるほど、確かに調味料がなくなるのは痛手だ」

 

「そうだよね、――そういえばリュー、本当は私についてきたのは、誰か会いたい人がいたから?」

 

「はい……最近は彼に会ってませんし――はっ!シ、シル!何を言い出すんですか!?」

 

 

  何気ない会話に仕込まれた罠に、リューはすっかり嵌ってしまい、思わず声を上げる。シルはそんなリューを見て、上手くいったとばかりに笑った。これ以上何か言おうとしても墓穴を掘るだけだと思ったリューは、いつも通り無表情を装おうとしたが、頬を上気させ、エルフの特徴である少し尖った耳まで真っ赤になっている彼女は、誰の目から見ても、自らの内心を隠せてなかった。そんな彼女を見て笑みを浮かべていたシルだったが、目の端である人物を捉え、ますます笑みを深くした。リューと同じ金色の髪に紅い目、がっしりとした身体つきではないものの、お店に来る神々が言うところの『細マッチョ』を思わせる。今は数名の女性に囲まれているが、エルフで二つ名持ちの冒険者ならば、人気も出るだろう。

 

 

「ねぇ、リュー。あれってエルスさんじゃない?」

 

「っ!……本当ですね」

 

 

  シルが指さした方を向くとエルスがいて、リューは少し笑みをこぼした。しかし、女性に囲まれているのを見て、少しそわそわしているとシルが。

 

 

「行かなくていいの?困ってるようだけど。このままだったら、取られちゃうかもよ?」

 

「……少し行ってきます。すいませんが、待っていてください」

 

「ふふっ、わかりましたー。ついでにエルスさんも呼んできたら?一緒に買い物に行こうって」

 

「そうですね……」

 

 

 シルに背中を押されたリューは、エルスのもとに歩き始めた。汚れた自分では彼の横に立てないと、もっと他に良い人がいる、と頭ではわかっているのだが、彼の横に知らない女性がいるのが、リューは嫌だった。

 

 

「こんにちは、エルスさん」

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

(【ロキ・ファミリア】の遠征について行く……か)

 

 

  ダンジョンから帰った後、ギルドで換金も済ませたエルスは、ヘファイストスに言われたことを思い出していた。そもそも、彼らの未到達階層は59階層なので、今遠征に行っていて帰った後、直ぐに次の遠征の準備をして、出発するには、団員の休みも必要だろうし、何より大量のお金が必要だろう、と主神に問いを投げかけてみたが、そんな気がする、と言われてしまえばそれまでだった。神の勘ほど不確実なくせに信ぴょう性があるものは無い。

 

 

(流石に深層で魔法を隠してる場合じゃないしな……)

 

 

  エルスに魔法が発現した時、ヘファイストスは彼に他のファミリアの前では決してそれを使うな、と厳命した。彼の魔法はほぼ無限に武器を生み出せると言うもので、更には爆弾にもなると知られてしまえば、【ロキ・ファミリア】などの探索系ファミリアにとって魅力的すぎる。一応、【投影魔術】にもデメリットはあるのだが、自分で作ったものに関しては、そのデメリットもほとんど働かない。いや、仮に働いてもその圧倒的な物量の前には些細なことである。

 

 

  また、エルスは基本的に他者との接触を好まないエルフである。もし、魔法がバレてしまえば、見知らぬ人々に囲まれることは想像に難くない。今でこそ、かなり改善されたものの、知らない人物に自分からならともかく、相手からは少し抵抗があった。そのため、エルスはヘファイストスの命令を守り、基本的に人前では、スキルの【魔力操作】で元々身につけている剣を自在に操作することで戦ってきた。その独特の戦い方が【奇術師】と呼ばれる所以である。

 

 

  閑話休題

 

 

  先程も述べた通り、エルスは見知らぬ人々に囲まれることは、まだ少し苦手である。つまり━━

 

 

「エルスさん!握手して下さい!」

「エルス様!サイン下さい!」

「少しお茶でもどうですか?」

 

 

  このように女性に囲まれると、どうしたら良いのか分からなくなってしまう。先程からやんわりと断っているのだが、グイグイ来る彼女達に押されている。これが冒険者ならばもう少しやりようがあったのだが、一般市民で自分のファンだと言う人を邪険には扱えなかった。いつもなら、同期であるレイグや先輩である椿がいるのでなんとか躱していたのだが、生憎今は1人である。この状況をどうにかするべく頭を回していると……。

 

 

「こんにちは、エルスさん」

 

 

  そんな救いの手が差し伸べられた。

 

 

「リュー!こんにちは、久しぶりだな」

 

「ええ、半月ぶりくらいでしょうか」

 

「悪いな、最近ちょっと忙しくてな」

 

「構いません。ですが、時間があれば是非とも来てください。……なにか困り事のようですが大丈夫ですか?」

 

「えっ……ま、まあ」

 

「なるほど、貴方達、彼が困っていますので、退いてもらえると有難いのですが」

 

「「「……っ!」」」

 

 

  リューの気迫に気圧されたのかそそくさと去っていく彼女達を見て、ようやくエルスは胸を撫で下ろした。

 

 

「ふぅ……助かった、ありがとう。リュー」

 

「いえ……そういえば、エルスさんは何をなさっていたのですか?」

 

「ああ、さっきダンジョンから帰ってきたんだけど、市場に面白そうな食材があるなら買って帰ろうかと」

 

「それならば、私たちと一緒に行きませんか?ちょうど私たちも買い物に来ていたので」

 

「私たちって……シルがいるのか。じゃあ一緒に行こうか」

 

「はい」

 

 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「ごめんなさいね、荷物を持ってもらっちゃって」

「大丈夫大丈夫、こんなのたいして重くもないからな」

 

 

  市場で買い物を済ませたエルスたちは、帰路についていた。相手が女性なら、あまり荷物を持たせるわけにもいかないし、シルにお礼を言われるようなことでもないとエルスは思っていた。

 

 

「そういえば、エルスさんはこの食材を買ってどうするんですか?」

 

「そりゃあ、料理して食べるんだよ」

 

 

  シルからの問いに、エルスは普通に返答したのだが、余程意外だったのか2人とも思わず立ち止まって、エルスを見つめていた。

 

 

「なんだよ、俺が料理するのってそんなに意外?」

 

「はい……貴方はその……」

 

「そうですよ、てっきり外食ばかりかと思ってました」

 

「それじゃあ、今度食わせてやるよ。明日あたりにミアさんに頼んで厨房貸してもらうか。リューも食べる?」

 

「エルスさんがよろしいのならばお願いします」

 

「了解っと。じゃあ俺はこっちだから、また明日」

 

「はい、さようなら」

 

 

  エルスが去っていくのをじっと見つめていたリューを見て、シルが一言。

 

 

「エルスさんに明日も会えることになって嬉しい?」

 

「シル……いい加減怒りますよ」

 

「ふふっ、ごめんね」

 

「いつかシルに想い人でも出来たら、私も反撃しますから」

 

「リューがやると怖そうだね……」

 

 

 

 

 




先に言っておくと、今作では武器を投影しても使い手の経験や記憶は自分のモノにならないので、本当に武器を生み出せるだけです。でも、武器を作ったのは自分なので、士郎が使う「技術を模倣し〜」の工程は完全再現出来るので、特にデメリットなしにしました。で、スキルの、魔法で生み出したものを自在に操作するというのは、エミヤたちみたいに、一斉掃射が出来たり、剣が自分の周りをふよふよ飛べるようになるというスキルです。





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