この腐った世界に救済を!   作:しやぶ

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第13話 対話:真守視点

 ────二度目の狙撃事件から数時間後。

 

 腹に大穴を空けられた真守は即座に病院へ搬送され、ベッドで横になっていた。

 

 そんな彼の居る病室に飛び込む少女が三人。

 

「「「真守!!!」」」

 

 舞、夏世、延珠である。三人は真守を見て顔を真っ青にし、悲鳴を上げるように名前を呼んだ。

 

 ────無理もない。

 今の彼は体が動かせないよう四肢と胴体をベッドに縛られた状態で眠っているため、とても痛ましい姿をしているのだから。

 

「ん? あれ、どうしたのさ三人共……そんなに血相変えて」

「どうしたもこうしたもないよ! 今お兄ちゃん、自分がどのくらい重傷か解ってないの!?」

「真守さんが狙撃弾を受けて、病院に搬送されたと聞いて飛んできたんですよ!」

「重傷? 狙撃……

 ──ッ! あぁクソッ、オレは負けたのか……」

「すまぬ、すまぬ真守……! 妾のせいだっ、妾が狙撃手と戦うべきだったのだ!」

「いいえ、私のせいです! 私に真守さんと並び立てるだけの力があればこんなことには……!」

「それは違う! 二人はしっかり役割を果たしてた。悪いのは、自分から志願しといて依頼を達成出来なかったオレだけだよ……」

 

 二人の役割とは、狙撃される可能性が高かった囮のリムジンの運転手を護衛することである。

 そちらに真守がいなかったのは『ティナ(狙撃兵)を倒して欲しい』という依頼があったからだ。

 

 依頼人の蓮太郎は、真守が狙撃手と知り合いだと知った時に依頼を取り下げるかと提案したのだが、本人が言った通り、真守はそれを断って志願したのだ──閑話休題。

 

「いや、今回君が敗北した原因は私にある」

 

 延珠、夏世、真守の謝罪合戦が始まろうとした時、乱入者が現れた。菫である。

 

「菫は関係ないだろう?」

「あるんだよ。なぜなら私が真守君の全力は、()()()は──私が封印していたのだから」

 

「「切り札?」」

 

 真守の切り札について全く知らない延珠と舞は同時に疑問を口にし、首をかしげた。

 

「簡単に言えばドーピング薬だ。アレを使った真守君の力は、()()()()()()()()()()()

 

 元々真守の全力を知っていた夏世と、ゾディアックが何者かを知らない舞は無反応だったが、ゾディアックの一体である天蝎宮(スコーピオン)を知っている延珠は目を剥いた。

 

「次の会談では、切り札を解禁しよう。遠慮なく使うといい」

「待ってください先生! 次の会談って、一回目と二回目の間隔を考えたら一週間後じゃないですか! こんな重態の真守に戦わせる気ですか!?」

 

「舞、オレなら大丈夫だから。こんな傷くらい寝て起きたら治ってるよ。なんなら今すぐにでも戦えるぜ?」

「~~~~~~ッ!」

 

 言いたいことが多すぎて逆に言葉が出ないのだろう。舞は瞳を潤ませながら口をパクパクさせていたが────

 

「バカッ!!」

 

 ────最終的にはそれだけ言って走り去った。

 

 

 ☆

 

 

 ────決戦の夜。外周区。

 

(はぁ……また舞と喧嘩別れしちゃったよ……『二度あることは』って言うし、嫌な予感が既にあるんだよなぁ……

 ……でも今は、目の前のことに集中しないと)

 

 蓮太郎さんの協力によって、この場所に誘き寄せられているハズのティナを捜索し──見つけた。

 数瞬送れてティナもオレに気づき、狙撃を行うが……

 

「見えているなら怖くない」

 

 元々発動していたクロカタゾウムシに加え、クロゴキブリの因子を発動する。

 

 強化された拳に最硬の虫(ゾウムシ)の硬さを乗せて、害虫の王(ゴキブリ)の瞬発力で放つ一撃は、9ミリ拳銃弾の30倍以上もの破壊力(運動エネルギー)を持つと言われる狙撃弾を粉砕せしめた。

 

(ふむ、クロカタゾウムシは弾丸蟻(パラポネラ)よりクロゴキブリの方が相性が良い感じ……前回もこの組み合わせで対処するべきだったかな?)

 

 ────そんなことを考えながら電話を掛ける。

 

「戦う前に一つ聞いてもいいか?」

 

 言いたいことは色々あるが、これだけは聞かねばならない

 

『いいですよ。ただしその前に、私の質問に答えてくれたらですが』

「分かった。何が知りたい?」

 

 他人行儀な声に少し傷つくが、態度には出さない。

 

『私が天童民間警備会社を襲撃したとき、アナタは私を庇いましたね。何故です?』

 

 ────何故? 

 

 木更さんにも同じ質問をされたけど、やっぱり答えはこれしかない。

 

「約束だから──と言いたいところだけど、正直あの時思考停止中だったからなぁ……体が勝手に動いたんだよ」

 

 『真の守護者』を目指す者として恥ずかしながら、あの時のオレは木更さんとティナ、どちらを守るか決められなかった。

 今回は二人とも無事だったけれど、咄嗟にどちらかを選ばなければならなくなった時、今のオレでは()()()()()()()()()だろう。

 

 それでは〝守護者〟失格だ。論外だ。

 

 だから心の中で反省する。次は必ず、自分の意思でどちらかを守ってみせると────理想としては、両方守れることではあるのだが。

 

『……そうですか。それで、アナタの聞きたいことというのはなんです?』

「お前の戦う理由が知りたい」

 

 ────ティナは少しの間考えて、口を開いた

 

『……強いて言うなら、罪滅ぼしでしょうか。

 ()()()()()()()()()()()んです』

 

 

 ──────は?

 

 

 答えが予想外すぎて一瞬思考が停止していた。

 そして正気に戻ると、言い様のない黒い感情が沸いてきた。

 

 ────怒り、悲しみ、寂しさ、悔しさ。

 

 その内のどれが自分の感情か分からない。その感情が己に向いているのか、ティナに向いているのかすらも曖昧だ。

 

 でも、これだけは言える。

 

「お前が死んだら、お前の家族や友達はどうなるんだよ?」

『残念ながら、全員向こうで私が来るのを待ってます』

「……妹がいると聞いたんだけど?」

『確かに血の繋がっていない義妹(いもうと)が5人います。ですがあの子たちは皆私より強いので、心配無用です。()()()()()()()()()()()

 

 ────頭をハンマーで殴られた様な衝撃に襲われる。

 

 オレは、思い上がっていた。

 

 神崎真守(一般人)として、最後にティナに会った日のことを思い出す。

 

 ── 今までどんな生活を送ってきたか、ですか? 

 

 ── 聞いても、面白くないですよ……? 私の生活は、人生は──『痛い』だけです

 

 ティナはその後すぐに笑って、『でも今は凄く楽しい』と言った。

 オレはそれを信じた。自分はティナの支えになれていると思っていたから。

 

 でも違った。支えになれていたなら、ティナが心を開いて身を任せてくれていたのなら、こんなことは言わない。

 

 もしそうだったなら────

 

「オレは……お前が死んだら悲しいよ……」

 

 ────この気持ちが、伝わらない訳がない

 

『アハハハハッ! 敵にそんなことを言うなんて、バカな人! ついこないだも、貴方と同じく私に優しくしたバカな人を殺しました! 貴方もよく知る人間ですよ?』

 

 なんだと? それはどういう────

 

『私は貴方を殺します! あの人と、()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 ……は?

 

 落ち着こう。冷静に考えるんだ。

 

 …………よし、状況を理解した。

 

 オレはバカか!?

 

 よく考えたら、ティナが神崎真守と守屋真護が同一人物であると判断できている訳がない。

 そりゃあ狙撃弾を喰らわせたら死んだと思うし、他人行儀にもなるに決まっている。

 

 ……だがそもそもの話、何故ティナは依頼主から離反したのにまだ戦おうとしているんだ?

 

「お前が聖天子様を撃たないなら、オレ達が戦う理由は無いだろ!?」

『何を勘違いしてるんですか? 聖天子は殺しますよ。でないと依頼主に私の叛意がバレてしまうので』

「そんな……!」

 

 ……結局、戦わないといけないのか。

 

『私は序列98位 〝黒い風(サイレントキラー)〟 止めたければ、私を殺してください』

 

 ────しかし幸い、この発言、この状況はオレにとって都合がいい。

 

「いいぜ、そんなに死にたいなら殺してやるよ……全種解放加減は無しだ。絶望に挑めよ、〝黒い風(サイレントキラー)〟」

 

 ────オレは元々、()()()()()()()()()()()()()()()

 


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