この腐った世界に救済を!   作:しやぶ

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第2話 衝撃

 

「君は藍原延珠を知っているか!?」

 

 背後から襲いかかってきたガストレアを殴り飛ばした少年──いや()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ガストレアを拳で殴り飛ばした点から見て、鎧タイプの外骨格(エクサスケルトン)なのだろうが……こんな形の外骨格(エクサスケルトン)は見たことがない。というかそもそもパワードスーツを着ているとはいえ喧嘩殺法(ステゴロ)って──と、そんなことに気を取られていたせいで、青年の質問に答えるのが遅れてしまった。

 

「……そっか、知らないか」

「あ、いえっ!」

「無理しないでいいよ。伝言を頼みたかったんだけど、それを伝えられたところで、何かが変わるワケでもないし……それよりも、君は休んでて。オレが一体でも多く敵を削る」

 

 そして彼は、私が延珠というイニシエーターを知っているということを伝える前に、敵の群へと突進していった。

 

 ☆

 

 ────目障りなデカブツから殴っていく。

 

 オレは、賭けに負けた。少女はあの子を知らなかった。

 

 ──デカブツはもういない。小型を蹴散らさねば。

 

 仕方のないことだ。里見という名字は珍しくもないのだから。

 ……そう理解していても、期待していた分落胆も大きい。

 

 ──個別に殴っていては間に合わない。武器が必要だ。

 

 もう目的は果たせない。それならばせめて、あの子と同じ、イニシエーターの少女を助けて死のうと思った。

 

 ──ヘビのガストレアを振り回すと効率が上がった。だがまだ足りない。

 

 そのためには、オレの自我が残っている内に敵を全滅させる必要がある。

 

 ──視界を開くために木をナギ倒ス。

 

 ナのニさっきカラ敵が見えナい。オレには時間ガ無イノに。

 

 ──ドコダ、テキハドコニ……

 

「落ち着いて下さい、もう敵は全滅しています!」

 

「…………え?」

 

 ──正気に戻り、周囲を見渡す。

 

 少女の言葉通り、視界の範囲内に動いているガストレアはいなかった。

 

「全く……人の返事も聞かずに一人で飛び出したと思ったら、暴走しだすだなんて……まぁ、呆けていた私も悪いんですけどね……」

「あ、あぁ。ごめ……ん? あれ、返事ってなんのことだっけ?」

 

 すると、少女は呆れた表情で答えてくれた。

 

「『藍原延珠を知っているか』という質問の返事です。私の答えは、藍原かは知らないが、延珠というイニシエーターを知っている。です」

「本当に!?」

 

 その内容は、ついさっき諦めた目的がまだ果たせるというというものだった。

 

「えぇ。里見蓮太郎さんのパートナーであるイニシエーターの名前ですが、間違いありませんか?」

「あぁそうだ! 間違いない! 君に延珠ちゃんへ伝えてほしいことがある!」

 

 これで悔いなく死ねると、この時オレは思っていた。だが────

 

「はぁ、構いませんが……御自分で伝えなくてよろしいのですか?」

「そうしたい気持ちは山々なんだけど、オレはもうすぐガストレアになっちゃうから、自分では伝えられないんだ。だから伝言を聞いたら、ついでにオレを殺してくれると助かる」

「んなっ!? いつの間にそんな傷を!?」

「君に会う前だよ。首から下は穴だらけだろ? でもそのおかげで、君を助けられた。ガストレアウイルスの力無しでは、こんな数のガストレアを倒すことは出来なかったよ」

 

「……鎧は無傷のように見えるんですけど」

 

「え、鎧……? あれ、ホントだ。こんなのいつ着たんだろ」

 

「……ちょっとその兜、外してくれませんか?」

 

「お、おう……ごめん、ちょっと手伝ってくれない?」

 

「……では、引っ張りますね」

 

「…………外れないな」

 

「外れませんね…………まさか」

 

「まさか……?」

 

「モデルヒューマンのガストレア?」

 

「…………冗談だよね?」

 

「…………」

 

「…………マジか」

 

「マジです」

 

 

 ────オレはまだ、死ねないらしい。

 

 


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