「君は藍原延珠を知っているか!?」
背後から襲いかかってきたガストレアを殴り飛ばした少年──いや
ガストレアを拳で殴り飛ばした点から見て、鎧タイプの
「……そっか、知らないか」
「あ、いえっ!」
「無理しないでいいよ。伝言を頼みたかったんだけど、それを伝えられたところで、何かが変わるワケでもないし……それよりも、君は休んでて。オレが一体でも多く敵を削る」
そして彼は、私が延珠というイニシエーターを知っているということを伝える前に、敵の群へと突進していった。
☆
────目障りなデカブツから殴っていく。
オレは、賭けに負けた。少女はあの子を知らなかった。
──デカブツはもういない。小型を蹴散らさねば。
仕方のないことだ。里見という名字は珍しくもないのだから。
……そう理解していても、期待していた分落胆も大きい。
──個別に殴っていては間に合わない。武器が必要だ。
もう目的は果たせない。それならばせめて、あの子と同じ、イニシエーターの少女を助けて死のうと思った。
──ヘビのガストレアを振り回すと効率が上がった。だがまだ足りない。
そのためには、オレの自我が残っている内に敵を全滅させる必要がある。
──視界を開くために木をナギ倒ス。
ナのニさっきカラ敵が見えナい。オレには時間ガ無イノに。
──ドコダ、テキハドコニ……
「落ち着いて下さい、もう敵は全滅しています!」
「…………え?」
──正気に戻り、周囲を見渡す。
少女の言葉通り、視界の範囲内に動いているガストレアはいなかった。
「全く……人の返事も聞かずに一人で飛び出したと思ったら、暴走しだすだなんて……まぁ、呆けていた私も悪いんですけどね……」
「あ、あぁ。ごめ……ん? あれ、返事ってなんのことだっけ?」
すると、少女は呆れた表情で答えてくれた。
「『藍原延珠を知っているか』という質問の返事です。私の答えは、藍原かは知らないが、延珠というイニシエーターを知っている。です」
「本当に!?」
その内容は、ついさっき諦めた目的がまだ果たせるというというものだった。
「えぇ。里見蓮太郎さんのパートナーであるイニシエーターの名前ですが、間違いありませんか?」
「あぁそうだ! 間違いない! 君に延珠ちゃんへ伝えてほしいことがある!」
これで悔いなく死ねると、この時オレは思っていた。だが────
「はぁ、構いませんが……御自分で伝えなくてよろしいのですか?」
「そうしたい気持ちは山々なんだけど、オレはもうすぐガストレアになっちゃうから、自分では伝えられないんだ。だから伝言を聞いたら、ついでにオレを殺してくれると助かる」
「んなっ!? いつの間にそんな傷を!?」
「君に会う前だよ。首から下は穴だらけだろ? でもそのおかげで、君を助けられた。ガストレアウイルスの力無しでは、こんな数のガストレアを倒すことは出来なかったよ」
「……鎧は無傷のように見えるんですけど」
「え、鎧……? あれ、ホントだ。こんなのいつ着たんだろ」
「……ちょっとその兜、外してくれませんか?」
「お、おう……ごめん、ちょっと手伝ってくれない?」
「……では、引っ張りますね」
「…………外れないな」
「外れませんね…………まさか」
「まさか……?」
「モデルヒューマンのガストレア?」
「…………冗談だよね?」
「…………」
「…………マジか」
「マジです」
────オレはまだ、死ねないらしい。