この腐った世界に救済を!   作:しやぶ

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第6話 決闘

「ルールを確認するわ」

 

 今オレは、凄まじい怒気を滲ませこちらを睨む延珠ちゃんと対峙している。

 

「勝利条件は対戦相手を降参もしくは気絶させることのみ。降参の方法は、口で『降参』と言うか、地面のタップするかの二通りよ…………ねぇ、本当にやるの? 言っとくけど、延珠ちゃんはかなり強いし、里見君が絡むと容赦しなくなるから、凄く危険よ?」

「知ってます。室戸先生に聞きましたから」

 

 そうだ。イニシエーターとしての延珠ちゃんの情報は全て、二週間前室戸先生に聞いて知っている。

 

 その情報の中には、延珠ちゃん本人すら知らない秘密も含まれていたのだから────

 

「最後の警告なのだ。真守、今すぐ蓮太郎に謝るならまだ許す。だから──」

「前言撤回はしないし、何度だって言うよ。()()()()()()()()()

「…………そうか。ならばお主は妾の敵だ」

 

 ────瞳が赤くなった。どうやらやっと戦う決心をしてくれたらしい。

 

 ここまで本当に長かった。超一流のイニシエーターたる延珠ちゃんが相手でも戦えるよう、夏世ちゃんと室戸先生に協力してもらって自身の能力を把握するのに2日。室戸先生が用意してくれた()()()の制御を身に付けるのに5日。切り札無しで戦えるようになるまでに5日で延べ12日+延珠ちゃんを挑発して決闘を受けさせるまでに2日で計14日かかった。

 実は14日の準備期間で一番苦労した時間は、延珠ちゃんにこの勝負でどうやって本気を出させるかを考えている時だったりする。

 なにせ蓮太郎さんをダシにすれば簡単に釣れると思っていたのに、実際は延珠ちゃんを怒らせることに成功しても蓮太郎さんが宥めてしまうのだ。

 更にはいざ戦おうという場面になっても、オレを攻撃することが気乗りしなかったのか、今の今まで怒気はあっても戦意は無いという意味不明な状態だったのだから。

 

「はぁ……仕方ない──両者、準備は良いですか?」

 

 延珠ちゃんはこっちを見たまま黙って頷く。

 

 ────考え事は終わりだ。練習通りにやれ。

 

 オレは自分の舌を噛んで血を流す。

 

 ── クロカタゾウムシ

 

 怪我を修復するためM.O.の外に出たガストレアウイルスを操作して、身体強化──鎧の構築に回す。

 コレが菫先生と夏世ちゃんの見付けてくれた、能力を一番手軽に発動する方法だった。

 

「オレの準備は終わったよ」

「おぉ……その鎧、自由に出し入れ出来るようになったのだな」

 

「それでは──始め!!」

 

 

 ☆

 

 

 ────二週間前。

 

 そもそも、何故真守が延珠と戦う決心をしたのかと言えば……

 

「コレはさっき取ったデータで作った延珠ちゃんの最新診断カルテだ。その内容は本人とそのプロモーター以外に教えてはいけないことになっているからルール違反なのだが、君には見てほしい」

「……良いんですか?」

「ルール違反だと言っているだろう? だが断言しよう。君はコレを見なければ後悔する」

「……分かりましたよ。じゃあ見させてもらいますね──ッ!?」

 

 今の延珠は、体内侵食率42.8%という超危険域に達している。そのことを知ったからだ。

 

「延珠ちゃんにはショックを受けないよう、低い数値を伝えてある。だからこのことを知っているのは私と蓮太郎君、そして君の三人だけだ。そして私は彼女にこの事実を伝える気はない。おそらく蓮太郎君もな」

「どうしてッ! このまま戦い続けたら、延珠ちゃんはあと二年も生きられないんでしょう!?」

「彼女に民警を辞めさせても、逆効果だからだ。それはIISOから侵食抑制剤の支給が受けられなくなるということを意味するからね。そしてあの子はイニシエーターである限り、戦いを止めることは出来ない。

 

 ──だが、君次第では延珠ちゃんを救えるかもしれない」

「本当ですか!?」

「あぁ。形象崩壊までの予測期間は、侵食抑制剤を指示通り処方している状態にあり、平均的な頻度でイニシエーターが能力を解放して()()()()()()日数だ。つまり」

「オレが延珠ちゃんの代わりに戦えば、もっと長く生きることが出来る?」

 

「そういうことだ。抑制剤を使って大人しくしていれば体内侵食率の進行は殆ど0に抑えられる。人並み以上に長生き出来るだろうさ。だが彼女はお人好しの頑固者だし、どうせ『妾に友達を矢面に立たせて引っ込んでいろと言うのか!』とか言って結局戦おうとするだろう?」

「あー……あの子なら言いますね……絶対」

「だから上下関係を叩き込むのさ。そうすれば君は胸を張って『オレの方が強いんだから当然だ』と言えるだろう?」

「なるほど!」

「ここで重要になるのは、君がどの程度自分について把握しているかだ。君は、今すぐ鎧を纏えと言われたら可能かい?」

「…………無理です」

「あの映像と聞いた話の限りだと、能力を自由に扱えれば君と延珠ちゃんの戦いは────」

 

 

 ☆

 

 

 ──先手必勝。

 

 開始の合図と同時に飛び出しハイキックをお見舞いする。

 手加減はするし、あの鎧の頑丈さも知っているが……やはり友達を攻撃するのは気が進まない。軽く数発当てて降参してくれれば良いのだが……

 

 実の所、蓮太郎を悪く言われたことに対してはあまり怒っていない。どちらかというと、あの真守に『クズ』と言わせた蓮太郎が何をしたのか問いただしたい気分の方が強い──と、それはともかく。

 

「てりゃッ!」

 

 直撃だ。コレでどのくらいのダメージが入ったか、様子を見る。

 

「効かないよ」

「……本気じゃなかったとはいえ、妾の──モデルラビットの蹴りを喰らってビクともしないとはな。流石に驚いたぞ……」

「この期に及んでまだ手加減……いや足加減か? まぁどっちでも良いけど、本気を出してくれないと意味が無いんだよね──よし、じゃあこうしよう」

「……真守?」

 

 ────様子がおかしい。

 

「この勝負でオレが勝ったら、君の目の前で蓮太郎さんのことを殺すから。本気、出してね?」

 

「…………は?」

 

 ────コイツ、今なんて言った?

 

「聞こえなかった? じゃあもう一回──」

「もう、いい」

「……今度こそ、本気だよね?」

「見損なったぞ、真守……もうお主を友達とは思わぬ。ここからは容赦しない」

「うん、それでいい。殺すつもりで来なよ」

 

 

 ☆

 

 

 ────そろそろ頃合いか。

 

「ハアアアァァッ!!」

「懲りないねぇ。効かないって言ってるのに」

 

 最初と違って鎧越しでも伝わる衝撃と気合から、延珠ちゃんの本気度が伝わってくる。

 

 だが加減を止めた彼女の攻撃も、オレの鎧の前では無力だった。無抵抗の相手をこれだけ蹴って効果が無ければ、流石に心が折れるだろう。

 

「──なんでッ! どうしてだ真守……! 何故そこまで蓮太郎を恨む!?」

 

 ────攻撃が止んだ。あとは種明かしをするだけだ。

 

「理由なら、君が降参してくれたら話すよ」

「そうしたらお主は蓮太郎を殺すのだろう!?」

「あぁ、それは──」

「木更も黙ってないで何か言ったらどうなのだ!? お主は蓮太郎が殺されても良いのか!?」

 

 言葉を遮られてしまったがまぁいい。木更さんには決闘を申し込むことになった経緯を話してある。この流れなら木更さんが種明かしを──

 

「そうね、あんなでも家の社員ですもの。命を狙われてるなら助けてあげないと。天童式抜刀術一の型一番──」

 

 ────してくれることなく何故か構えを取った。

 

「えっ、ちょっと木更さ──」

「『滴水成氷』」

「ひでぶっ!?」

 

 鎧は斬れなかったが衝撃で吹っ飛ばされた。痛い。

 

 ────待て、痛いだと!? 鎧越しにダメージ与えるとかこの人本当に人間か!?

 

「もしや()()社長もM.O.持────」

 

「天童式抜刀術零の型三番──」

 

 ────え、殺気? 

 

 いやいや気のせ──首が飛ぶ未来が見えた。

 

 ダメだ喰らったら死ぬ! 逃げろ!! 

 

 ── サバクトビバッタ

 

 これぞ訓練の成果、能力の同時発動だ! 今のオレなら二つ────

 

「逃がさないわよ? 『阿魏悪双頭剣』」

「うあぁぁああ!?」

 

 鎧越しに足と首を、皮一枚だけ斬られた。間合いはたっぷり5mは稼いだ筈なのに、どうして斬撃が届くのかは解らない。

 だが一つだけ解ったことがある────魔王(木更さん)からは逃げられない。

 

 

 ★

 

 

 ────木更さん曰く。

 

 ── 事情は知ってるけどやり過ぎ

 

 ── 次天童と呼んだら斬り落とす

 

 とのことだった。何を斬り落とされるのかは分からないし分かりたくないから置いといて────

 

「この大バカ者ーー!!」

「なんでさっ!?」

 

 ──事情を話したら、延珠ちゃんに正座させられました。解せぬ。

 

「何が『なんでさ』なのだ! そういうことなら最初から教えてくれれば良かったではないか! 妾は戦闘狂じゃないし、そういう事情なら進んで前線に出ようとは思わぬぞ!?」

 

「え、マジで?」「え、ホントに?」

 

「…………まさかお主等、本当に妾を戦闘狂だと思っていたのか? 些か傷付くぞ……」

 

「室戸先生の話だとそういう印象」「里見君の話だとそういう印象」

 

「よしあの二人は後で蹴る」

 

「いや褒めてたんだよ? 『彼女は銃口を向けられても怯まず突っ込んでいける強い精神力がある』って。オレも凄いと思うよ? 実際オレは効かないって知った上で、延珠ちゃんの蹴りにビビってたし。だから戦うの好きなのかな? と」

 

「里見君のはただの愚痴だったわね……『敵を早く倒そうと先走って、ヘリから飛び降りて怪我をした』って……だから戦うの好きなのかな? と」

 

「う、何も言えぬ……だが妾は皆に心配を掛けてまで戦闘に拘る気は無い! それ以外でも人類に貢献は出来るのだからな! 妾より攻撃力が高い木更も書類仕事ばかりやってるし。あぁ、でも誰かがピンチになってたら止められても戦うからな?」

「…………前から思ってたんだけど、延珠ちゃんは同じ10歳って感じがしないんだよね……普通突然『今までの生活が出来なくなる』って言われたら、大人でも取り乱すと思うよ?」

「確かに。どんなに筋道が通ったことでも、心が納得するかは別だものね。なんでそんなに落ち着いていられるのかしら?」

 

「それは、その…….落ち着いてるというか………… 男の子が自分との約束を守るために戦ってくれるという状況に酔っているというか……言わせるな恥ずかしい!!」

 

 ────真っ赤になった顔を見せないよう、蹲る彼女を見て、心臓が跳ねる。

 

(……あぁ、やっぱオレ──延珠ちゃんが好きだ)

 




木更が零の型を使ったのは単純に、鎧ごと斬れる技が零の型しかなかったからです。

まぁ切り札を切った場合、木更ですら勝ち目零なのですが。

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