まほチョビ(甘口)   作:紅福
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蛙の大きさについてはご想像にお任せ


大蝦蟇の午

 日曜の午前、キッチンに立っておやつ作りに興じている。

 と、言っても料理をしているのは私じゃない。今日の私はあくまで補助。鍋と向き合ってるのは、まほだ。

 

 メニューは牛乳寒天。

 料理に慣れてなくても簡単に作れて美味しいし、カロリーは控えめ。手軽なおやつにぴったりのやつ。

 

「沸騰したら砂糖入れて」

「んん」

 

 ちょっと緊張気味で鍋に砂糖を入れるまほ。

 分量は、まほ好みの甘さになるように私があらかじめ調整しておいた。

 

「かき混ぜたら火を止める。そうしたら牛乳を入れて、またかき混ぜる、だったな」

「そうそう」

 

 さっすが、覚えが良い。

 よく勘違いされるけど、まほは不器用なんじゃなくて、知らない事が他人よりちょっと多いからその結果として不器用に見えちゃうだけなんだよな。

 

 実際のまほは、覚えれば何でも出来るタイプだ。

 

「混ぜ終わったら容器に移して粗熱を取る、と」

「ぶちまけるなよー」

「お、脅かすな」

 

 鍋の中身をそーっと容器に移して、次にまほは、みかんの缶詰をキコキコと開け始めた。

 私はみかん多めが好みだけど、まほはみかん無しが好き。だから一応用意はしたものの、使わないかなと思ってたから、まほが缶詰に手を伸ばしたのはちょっと意外だった。

 

「みかん入れるのか」

「千代美はみかん多めの方が好きだろう」

 

 あ、そっか。

 えへへ、嬉しいなあ。

 

「ある程度冷ましたら、冷蔵庫へ」

「そうそう。あとは固まるのを待つだけー」

 

 レシピに書いた文章をきっちり復唱しながら動くまほが面白い。

 

 大きなトラブルも無く、やる事はひとまずこれでおしまい。固まるまで二時間くらいかなー。お昼のデザートに丁度良いくらいのタイミングだ。

 それまでの間はもちろん暇で、適当に時間を潰そうかってところなんだけど、まほはずっとそわそわしている。

 

「そろそろだろうか」

「まだ十分しか経ってないだろ」

 

 笑いを堪えながら言ってやると、少ししゅんとして静かになるものの、暫くするとまた落ち着きが無くなってくる。時計をちらちら気にしたり、不意に立ち上がったかと思うと、何をするでもなくうろうろしたり。

 出来上がるのが楽しみで仕方ない、って感じ。

 

 かーわいい。

 

「まほ、二時間はまだまだ先だぞ」

「そういうんじゃない」

 

 ふふふ。

 

 まあ、そうは言っても二時間丸々そわそわして過ごすのも疲れるだろうし、もうちょっと落ち着いてて欲しい。

 何か良い時間潰しは無いかな。家事は料理の前にあらかた片付けちゃったしなあ。読書ってのも一瞬考えたけど、そわそわしてる時に読書は無理だ。絶対頭に入らない。うーん、どうしよ。

 

 あ。

 

「まほ、散歩にでも行かないか」

 

 我ながら名案、散歩なら意識せず時間を潰せる。

 まほもそのことに気が付いたみたいで、特に渋りもせず乗ってきた。

 

「行こう」

「行こう」

 

 そういう事になった。

 

 そうして辿り着いたのは、近所の公園。以前、深夜に来たことがあったなあ、あの時は雪が降ってたっけ。

 あれからもう半年経つのか。なんだかあっという間で、いまいち実感が湧かないな。

 

「思ったより涼しいな」

「ほんとになー」

 

 今日は雲が出ていて日差しが隠れてるお陰か、最近にしてはかなり過ごしやすい。暑い日が続いてたし、たまにはこんな日も無いとやってらんない。

 辺りを見回すと、私達のほかにも散歩やジョギングをしてる人が心なし多い気がする。涼しくなったお陰で外に出たくなった人も多いんだろう、たぶん。

 

 ふと、まほが口を開いた。

 

「千代美、昼御飯は何か計画があるのか」

「んー、あるもので簡単に済ませようかなとは思ってるけど」

 

 なんか食べたいものでもあるのかと思って訊いてみると、もう少し足を伸ばしてみないかと言われ、コンビニへ。

 そこでおにぎりとお茶を買って公園に戻ってきた。成程なあ。

 

 手頃なベンチに腰掛けて、早速二人で『いただきます』をする。ちょっと早めのお昼ご飯だ。

 

「ここで食べたくなった」

 

 梅のおにぎりをもぐもぐしながら、まほが言う。

 わかるわかる、こうやって公園でお昼っていうのも良いもんだ。

 あらかじめお弁当を用意するんじゃなくて、天気や気温に心を動かされて買いに行くっていう、行き当たりばったりな感じが面白い。

 

 おにぎりを食べ終わってゴミを捨てたあと、どちらからともなく同じベンチに戻る。それから私達は暫く腰を上げず、ぼんやりとして過ごした。

 ジョギング中の人が通りすぎるのを見送って、砂場でままごとをする子供を眺めて、ぼんやりと。

 

 あー、泥団子とか懐かしいなあ。

 

 あれって、渡されたら適当に食べる真似をして、壊さないように脇にでも置くのが正解なんだろうけど、子供にはその正解に辿り着くのがちょっと難しいんだよな。

 私もちっちゃい頃、相手の子が『食べる真似』しかしてくれないのが不満で泣いた事があったっけなあ。唐突に変な事を思い出しちゃった。

 

「私は千代美の作った泥団子なら食べるが」

「作んないし食うな」

 

 妙なアピールをされた。

 うん、嬉しいっちゃ嬉しいけど、やっぱり妙だ。

 

 二人で笑ってると、ベンチの後ろの草むらでガサッという音がしたのが聞こえた。だけど振り向いてみても何も居ない。暫くその辺を眺めていると、またガサッという音がして、今度はその姿が見えた。

 

 蛙だ。

 

 近くまで跳ねてきたので、手の平に乗せてみた。ちっちゃくてかわいい。この辺にも蛙なんて居るんだなあ。

 まほにも見せようと振り向くと、今度はまほの姿が見当たらない。あれっ、今の今まで隣に座ってたのに。見回すと、まほはいつの間にかちょっと離れたところに立って、こっちの様子を伺っている。

 

「まほー、蛙ー」

「私は大丈夫」

 

 あっ、成程。

 蛙を手に乗せたまま、まほにじりじり近寄ると、まほもじりじりと同じだけ離れる。

 まほがこういうの苦手って、意外だな。

 

「千代美、もうすぐ二時間だぞ」

「お、おう」

 

 仕方なく、蛙を元の草むらの辺りに放す。

 私達二人の静かな攻防に巻き込まれた蛙は、なんだか迷惑そうな顔をしているようにも見えた。

 

 この出来事がよっぽど衝撃だったらしく、まほはこの日の話を時々するようになったんだけど、話が蛙の大きさのところに差し掛かると『これくらい』のジェスチャーを両手で作るのがいまいち納得いかない。

 手の平に乗る程度の大きさだったと思うんだけどなあ。






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