今年もよろしくお願いしまほチョビ
【千代美】
「ちーよーみ」
「んぁ」
私を呼ぶまほの声で、意識が引き戻された。
いつの間にか降りていた瞼を持ち上げ、全身を包み込むような心地好い気だるさを、朦朧(ぼんやり)とした頭で確かめる。ああ、寝ちゃってたのか。
頭は上げないまま、あくびを噛み殺して小さく伸びをした。
「ふふ、起こしてしまって悪かったな」
見上げると、にこにこと微笑むまほの顔がある。えへへ、良い眺め。まほの膝の上で眠りこけて、まほに起こして貰えるなんて、最高に贅沢な事じゃないかな。
顔より少し手前にあったおっきいやつを、ついぽよぽよと掌で弄ぶと、その向こうのまほの顔はちょっと困ったような顔になった。
「こらこら、悪戯をするな」
「うへへ」
だって触りたくなるんだもん、まほのおっきい胸。
「まほー、もう終わったのか」
「いや、まだ反対側が残ってる」
「あ、そっか」
それで起こされたんだ。寝惚けてるなあ、ちょっと考えれば分かる事じゃないか。
自分のボケっぷりににやける顔を隠すようにしてくるりと頭を回し、反対側の耳を上に向けた。
目の前に、まほのお腹がある。
「よしよし、動くんじゃないぞー千代美ー」
じっくりと噛んで含めるように言うまほの声が、真上を向いた耳に直接降ってきた。
私は反射的に、ちょっとだけ身を固くする。
まほはそんな私の緊張を和らげるように、頭を優しく撫でてくれた。それが嬉しくて、気持ち良くて、私の身体はみるみる弛緩していく。
耳掻きの前はいつもそうだ。まほは私の頭を撫でながら、それで私の身体から段々と力が抜けていくのを嬉しそうに眺めて、それから作業に取り掛かる。
まほの手がゆるゆると止まった。自分では分からないものの、どうやら私の緊張が丁度いいところまで解れたらしい。その加減は、まほだけが知っている。
満を持したように髪を掻き分けて、綿棒が耳の入り口に当てられた。
「ん」
反射的にぴくん、と身体が跳ねた。こればっかりは、動くなと言われても無理だ。まほはそれが分かってるから、いきなり綿棒を突っ込むようなことはしない。
綿棒は私の穴の縁をゆっくり、丁寧に、なぞるように這っている。これも、私の緊張を解すために必要なステップらしい。
余談として、ちょっと恥ずかしい話だけど、私の耳垢は一般的なそれよりもかなりネトネトしている。だから、耳掻きは綿棒派。
初めてまほにしてもらった時、すごく驚かれたっけな。
「痛くないか」
「うん、大丈夫」
何て事のない一言が嬉しく感じる。大事にされてるんだっていう実感が沸いて、頬が緩む。身をよじって喜びたいけど、今はそれが出来ないのがもどかしい。
そんな私の静かな興奮を知ってか知らずか、まほの綿棒は穴の入り口をなぞり終え、ゆっくりとその中に侵入してきた。
「んっ、んん」
私が漏らした声を聞いて、綿棒の動きが一瞬止まる。でもそれが痛みから来るものじゃないってことは、私の緩みっ放しの頬を見ればすぐに分かる。くすぐったい、気持ち良い。そんな甘ったるい声だ。
綿棒は安心したようにまた動き出し、穴の内側の壁を丹念に擦り始める。
程なくして、まほが『うわあ』という小さな声を上げた。
それは吐息と紛うような、恐ろしく幽かな歓声だった。
「随分と溜まってるなあ、千代美」
「い、言うなよぉ」
さっきの悪戯への仕返しか、ちょっと意地悪なまほの言葉に顔が熱くなった。
そんなこと、言われなくたって分かってる。だって今まさに、そこを掻き回されるニチャニチャとした音が、直接耳の中で響いてるんだから。
決して、乱暴にはしない。すごく優しく、丁寧に、私の中が掻き回されていく。その音が、ずっと響いてるんだから。
「凄いことになってるぞー、ふふふ」
「うぅー」
ああ、こいつ確信犯だ。
私が抵抗出来ないのをいいことに、まほは尚も意地悪な言葉を重ねる。普段なら小突いたりしてる所だけど、今に限ってはまほの思惑通りそういう訳にもいかず、唸るだけにしておいた。
数分後。耳の中で響き続ける湿った音が、段々と乾いたものに変わってきた。そろそろ終わりかな。朦朧とそんなことを考えていると、思った通り、それからすぐに綿棒が引き抜かれた。
安心したような、名残惜しいような。
「ふーっ」
「あぁんっ」
仕上げとばかりにまほが耳に息を吹き掛けてきたせいで、思わず変な声が漏れた。完全に不意打ち。
「私の耳に要らないだろ、その工程」
「すまんすまん、ついな」
いつの間にかぎゅっと掴んでいた、まほの服の裾を放して身体を起こす。
あー、気持ち良かった。
「じゃあ」
「うん」
私が膝を折り畳んで座り直すと、まほがその上に頭を乗せてきた。
膝枕、交代だ。
「お願いします」
「お任せください」
覚悟しろよー。