外の世界の方がフラグ多くね?   作:シュリエン

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たま風攫うは桂男の憂い ⑤

「おはようございます」

「…………んぁよぅございぁす……」

 

 美國島滞在3日目。予定では今日が最終日だったはずだ。せめて今日ぐらいは行動を共にできればと、志保と不知火君が泊まる部屋を訪れると、皺の寄ったTシャツとスウェットのパンツを着て、正に今しがた起きたばかりですといった風貌の不知火君が出迎えてくれた。もう朝の10時を回っているはずだが。

 

「……眠そうですね」

「遅寝遅起きが常でして……」

「もしや、哀ちゃんもですか?」

「うん、熟睡中」

 

 彼女達が朝に弱いことは知っていたが、2人だけになると途端に自堕落になってしまうようだ。

 

「起こしてこようか?」

「いえ、無理にとは言いません」

「ごめんねぇ、夜型同士でちょっと意気投合し過ぎたんだ」

「そんな夜遅くまで何を……?」

「パズルゲームで対戦」

 

 いつでも自由に何処へでも行けるからって持ち物も自由だな。そんな物まで持ってきていたのか。リュックサックしか持ってきていなかっただろう。

 

「灰原ちゃんがバカみたいに強いんだ……ダミーの連鎖組むとか絶対に只者じゃないよ……全然勝てない……」

「そうですか……」

「チーム戦できるから組んでくれない……?」

「折角ですが、遠慮します」

 

 ゲームとは言え、志保を守る立場なのに何故よりにもよって不知火君と組んで彼女と戦わねばならないのだ。

 

「じゃあ灰原ちゃんとガチ対戦は?」

「……今は、いいです」

 

 不知火君が関わらない志保との真剣勝負には少し興味が湧いてしまった。不覚。

 

「それじゃあ、帰りのフェリーの中で3人で対戦やろうよ」

 

 遠回しに散々な目に遭わされるが、直接敵意を向けてくるわけでもない。本人は純粋な好意を向けてきて、偶にこういう無邪気な発言をしてきては不意を突かれる。思わず頷き返してしまった。

 

「今日は何時頃島を出る予定ですか?」

「今夜から翌朝にかけてまた海が荒れるらしいから……あまり遅くならないように夕方の便でかな。海の状態によっては明日の昼まで延長するかも?」

「分かりました」

 

 と言うことは、まだ猶予はあるな。DICEが動いた気配も無い。目の前の不知火君や彼が何をする気でこの島に来たのか、せめて目的は突き止めたい。

 

 一か八か、試してみるか。

 昨晩、ボウヤと電話で今後の方針を話し合い、俺が不知火君を引きつけて情報を聞き出すことになった。不知火君が俺に対して好意的であれば、可能性はある。思っていた以上に早く機会が巡ってきた。

 

「ところで不知火さん」

「はい?」

「昨日までは哀ちゃんとデートしたのですから、今日は僕としませんか?」

「いいよ」

 

 いや、待ってくれ。まさかの即答。何の逡巡も無かった。さてはまだ寝惚けているな。

 悪い展開になるとしても、信用ならない人間として警戒される方向を予想していた。しかし快諾されただと? 果たしてこれは良い展開なのか……?

 

「じゃあ哀ちゃん起こしてくるねぇ」

「!?」

 

 案の定ダメな展開だった。どうやら不知火君が思うデートとは、性別や人数に関係無く、他人と待ち合わせして遊ぶという広義のデートのことを指すらしい。確かに間違ってはいない。だが志保に知られるのは最もマズい。計画では不知火君の守る彼女のことはボウヤに頼むことになっている。

 しかし、ここまではまだ想定内。流石に俺もパターンを学習した。落ち着いて大惨事を阻止すべく、事前にボウヤと話し合って用意していた無難な中止の言葉を口にしようとする。

 

 が、ここまでしても尚、向こうの方が一枚上手であった。

 

 部屋に戻ろうと踵を返し、クルリとこちらに向けられた彼女の背中。

 

 そのTシャツの背面に堂々とした筆書きフォントでプリントされた『合法ロリ』の4文字が、何の構えもしていなかった無防備な俺を襲った。

 

「灰原ちゃーん、沖矢さんが一緒にデートしようって誘ってくれてるよ」

「…………は……?」

 

 その文字に気を取られて息を詰まらせてしまったのが運の尽き。

 静止の声は間に合わず、部屋の奥から聞こえてくる寝起きの志保の氷点下を突き抜けた声に、俺はまたしても敗北感と絶望に打ちひしがれた。

 

 なるほど。

 これが、Cool Japanか。

 

 

 

「あんた……不知火さんを傷付けたら絶っっ対に許さないわよ……」

「…………勿論ですとも」

 

 こうして俺達は、地獄のようなお土産選びデートへ繰り出すことになった。

 

 

 

***

 

 

 

 DICEはおそらく、この島に隠された謎をオレ達に解かせようとしている。浅井先生の時とパターンが似ているのだ。そして今回は、その上で何かを遂げようとしている。その何かが未だに分からなかった。

 

 何分にも情報が集められない。事情を知らない蘭や服部達がいる以上、用も無いのに真宮寺さんや浅井先生のところに行くことは不自然過ぎてできない。なら、近づき放題で訊けば何でも教えてくれる不知火さんはどうかと言えば、まさかの灰原による堅固なガードで阻まれる始末。

 いや何だこの状況。直接向こうから何かされたわけでもなければ、何かを仕掛られた様子も無い。妙な巡り合わせだけで物事が上手くいかない。不知火さんの才能の悪意ってこのこと? 確かにこれはヤバイ。何の対策もしようがない。現役捜査官達がめげるのも頷ける。

 

 そんなわけで昨日の晩、赤井さんと電話して不知火さんと灰原を離す計画を立てたのだが……さっき赤井さんから『やはり俺の手に負える相手ではなかった』というメールが送られてきた。あらゆるシチュエーションを想定したのにそれでもダメだったとは。下手しなくても例の組織より手強いんじゃないのか。

 

「多分、いや絶対。3年前の火事で出てきた焼死体は人魚なんかやない。それが誰か分かっとるから、島の人間は人魚や言い張ってんねや」

「問題は、誰かなのかが分からねーことだ」

 

 蘭達がお土産を選ぶのを店の外で待ちながらそんな会話を交わす。うーん、と唸る声が服部と被った。

 

 昨日、神社の君恵さんから3年前に起きた倉の火事について教えてもらい、そのことについての話を島のあちこちで手分けして聞いたのだ。結果、あの火事で見つかった死体については、誰もが口を揃えて人魚の死体だと言っていることが分かった。警察の調べで中年女性の遺体だと公表されたはずなのにだ。そして、つい最近の目撃騒ぎの影響もあるのか、皆少し怯えているようにも見えた。

 

 その時引っかかったのが、殆どの島民が人魚の死体かもしれない、またはそう聞いたと曖昧にぼかすだけなのに対し、一部の人間が強く本物だと信じ込んでいること。その一部の人間こそが、儒艮の矢に執着する沙織さんと、彼女の幼馴染である寿美さんや奈緒子さん達であった。

 

「絶対あの3人には何かあるはずだよなー」

「オレも同感や。でもおかしいと思わへんか? あの3人は嘘をついてたり誤魔化してるようには見えんねや」

「ああ。他の人達が人魚の正体を知っていそうな雰囲気だったのに、何かありそうなあの3人は本気で人魚だと信じている」

「普通は逆やろ」

 

 もしも仮にあの3人が火事に関わり、死者を出したとしたら、それを誤魔化すために人魚の死体だと言い張るのは理屈が通る。しかし、実際はまるで逆。

 

「まるで人魚の正体を誤魔化しているのが周りの人間で、あの3人はそれを信じ込んでいるような感じや」

「いやいやまさか、流石にそれは……」

 

 ない、と言いかけて口を噤んだ。

 

 服部も自分が言った言葉に驚いたように目を見開いて固まった。

 

 まさか。そのまさかだとしたら。

 

「……真宮寺さん、言うてたよな。嘘も理由が無ければ生まれない、って。あの人もしかして全部知っててあんなこと言うたんか」

「た、多分?」

 

 まあ最初からそのつもりだっただろうな。下手したらオレ達がここに来たのも計算した上でのことだったのかもな。あの人達はそういう人達だから。

 

 嘘や虚構も理由が無ければ生まれない。確かにその通り。

 3年前に焼けた倉から発見された焼死体を、島ぐるみで人魚のものだと嘘をつかなくてはならないその理由。そして、唯一島の伝説をただの噂話だと笑ったあの人。

 

「……まだ確証はあらへんけど、もし当たっとったら、オレらはどうするべきなんやろな」

「……」

 

 もし今のオレ達の中で薄っすらと姿形が見えてきたその真相が本当だったとして、それを公表するか否か。多くの人を傷付けるであろうそれを、果たして世に知らしめても良いのか。

 

 そう悩んだところで、ふと思い出した。ここには殺人を嫌うあの人達もいることを。

 

「3年前の火事で亡くなったのが人魚じゃないなら、やっぱりその真実を世間に知らせるべきだ」

「せやけど……」

「公表されて不都合な奴は多いだろうけど、その影で苦しんでいる人をほっとく理由にはならねーだろ」

「!」

 

 それもそうや、と帽子を被りなおして覚悟を決める服部には悪いが、正直この判断でどう転がるかオレにも分からない。と言うかもう、あの計算高い面白テロリストのことだから、オレ達がどう動こうが結果は変わらないのかもしれない。悔しいけど。

 犯罪で苦しむ人を助けるDICEがいる以上、悪い方向にはいかないだろうが……どうも変な予感がする。彼らが関わっているにしては妙に静かな気がするのだ。まるで嵐の前の……

 

「よっしゃ。そうと決まれば裏付け調査や!」

 

 オレが言い知れぬ予感に悶々としているうちに、服部は次の行動を決めていた。彼女の周りの人間関係をもう一度確認し直すらしい。

 

 それならオレは……と思ったところで、店の方からこんな声が聞こえてきた。

 

「あら不知火さん!」

「やあ毛利ちゃんだ。一昨日ぶりだね、おはよう」

「おはようて、もう11時やん」

「遠山ちゃんったら厳しい」

 

 ちょうど脳裏に浮かんだ人物がやってきた。蘭達と気の抜ける会話をしている。

 しかし、タイミングが良いのに怖いと思うのは何故か。灰原にキツく睨み上げられている沖矢さんが、マスクの下で死にそうな顔をしていそうに思えたからだと思う。

 何があったのかは知らないが、本当に不知火さんと相性悪いな。安室さんみたいに嫌われているわけでもないのにどういうことだよ……。

 

「そう言えば、不知火さんと哀ちゃんはお祭りに参加しなかったんですね。姿が見えなかったから……」

「ああ、一昨日の晩は灰原ちゃんとデートしてたんだ。一緒にお寿司食べに行ったの、ねー」

「ねー」

 

 珍しくノリの良い灰原。冷めた顔してなかなか楽しんでいるようだ。

 

「見事に食べ物ばかりのツアーだったけど、ハズレは無かったわ。デートはやっぱりリサーチ力がモノを言うわね」

「やだ……小学生とは思えんマジな意見やわ……」

「もうちょっと参考に聞かせてくれない?」

 

 女子高生達はデートの話題にすぐ食い付いた。おい止めてくれ、蘭からDICEレベルのプランニングを求められるようになったらどうすんだ。いや、オレならきっと応えてみせる。後で不知火さんに押さえるべき要点とか聞いてみよう。隣を見たら服部が真剣に耳をそばだてていた。お前もか。

 

 その時。店の表でワイワイと話し込む女性陣を、遠目に見ている人影が見えた。その人物はしばらくその場にいたが、やがて諦めたように立ち去って行った。あの眼鏡をかけた短髪の女性は……

 

「あれって……」

「沙織さん、だよな……?」

 

 フラフラと何処かへ歩いていった彼女を見ていたオレ達は、その時灰原が何かの壊れる幻聴を聞いていたことなど知る由も無かった。

 

 

 

***

 

 

 

 規律は大切なものだ。多種多様な考え方を持つ人間が集まって形作る社会の秩序を守るためには必要不可欠だと思う。

 ただ、大多数の人間を守れるのは事実だけど、全ての人を幸せにできるものではない。そもそもそんな万能な法があれば、人類はここまで苦労しない。

 

 なら、不運にも法の加護からこぼれ落ちた人を助けようとするならどうするか。例えどれだけ素晴らしい才能を持っていようとも、何も犠牲にせずにしてそんな欲張ったことはできない。

 僕達の場合、犠牲にするものとして選んだのは人でも物でもなく、他でもない規律そのものだった。それに縛られているせいでロクに動けないなら、一旦取っ払ってから問題を処理すれば良い。要は法を無視した手段を使うというわけで。人を守るための規律を守るために人が犠牲になるなんて本末転倒だろ、とは口が回る総統の言葉だ。

 

 まあつまり、世間では僕達のことを人助け集団と呼んで賞賛しているみたいだけど、法律を破って好き勝手してる点はそこらの犯罪者と何ら変わりないってことなんだよね。

 

 だけど、そこまでしても完璧な形で誰かを助けられることは滅多にない。勿論全ての困っている人を助けられるわけでもない。飽くまで手の届く範囲だけ。素晴らしい慈善事業として持て囃されているけど、僕達は誰もこの活動を誇ったりしない。単なる自己満足だと分かっているからだ。

 

「本当に、このまま進めても良いんですね?」

『今までのことを考えたら、それくらいの覚悟は簡単よ。私に遠慮せず景気良くやっちゃって!』

 

 今回の依頼人である君恵さんだって、例え彼女が望むような結末を得られようとも、いくつかの罰則を受けることになる。

 島のためとは言え、とっくに亡くなった曽祖母を生きているように見せかけ、祖母や母の死亡届を出さずにおいたことは、文書偽造の罪になる。年金の不正受給で詐欺罪も加わるかもしれない。複数人で行ってきたから、君恵さん本人には時効が適用されるかどうか分からないけど。

 

 ……日本で探偵業を営むには何の資格も要らないから、法律はそこまでしっかり勉強していない。何せ収入を得るために慌てて開業したからね。だからそんなはっきりしたことは言えないけど、少なくともその辺りの刑法に引っかかることは確実だ。

 

『私は、あなた達に感謝してるわ』

「……僕達は誰かに感謝されたくてこんなことをしているんじゃありません。僕達がやりたいようにやってるだけなんです」

『それでも。あのままじゃ私、絶対に良くないことを考えてた。もしそれを我慢できたとしても、母さんのことでずっと苦しみ続けていたと思う』

「…………」

『今更前科者になることなんて全然怖くないわ。それに、彼女達の方がもっと重い罰を受けるんでしょ? そう考えたら平気平気!』

「それはそれで何か違う気が……」

 

 でもやっぱり、島のために1人で心身を削ってきた彼女が罰を受けるなんて理不尽だ。そう思うけど、世の中そんな感情論が通せるほど甘くはない。分かっているんだけど、遣る瀬無いなぁ……。

 

『情状酌量の余地もあるからいきなり実刑判決は出ないでしょうし、悪くても数十万の罰金なら何ともないわ』

「うわ逞しい」

『それに! あなた達は私に黙っていた皆にも仕返ししてくれるんでしょ? それだけで随分心持ちが違うわよ』

「いやあれは、真宮寺くんの趣味と言うか、研究の一環と言うか……」

『何だっていいの、皆がちょっとでも反省してくれるなら。そもそも復讐なんて、敵討ちの他にも、自分が受けた仕打ちを1人でも多くの人間に知ってもらいたい気持ちで起こるものなんだから』

「それは、分かる気がします」

『だから、私に気兼ねなく好きなようにしちゃってください。お願いします』

「……はい、分かりました」

 

 通話を切り、溜息を1つ。

 

 本人が望んでいるなら、迷う必要もない。気持ちを切り替え、既に通信中のパソコンに向き直る。

 

「皆、聴いてた? 本人の意志も改めて確認した。このまま続行しよう!」

 

 

 

***

 

 

 

 ダンガンロンパで生き残った私達には、才能の他にも期せずして得たものがある。人格だ。

 記憶の方は戻らない……と言うか諸事情により、むしろ戻らなくてもいいとか戻らない方がいいとか、いっそ思い出しても無視するという方針で決まったので全く触れずにいる。

 

 皆が人格に変化を感じるようになったのは、警察が管理していた寮から出てしばらくした頃。それぞれ個人差はあれど、本来の人格と思しき思考や振る舞いが表に出始めた。

 どうやら私達に植え付けられた才能は、ダンガンロンパの劇中における人格とセットになっていたらしい。周囲の人間から才能ばかりを注目されていた寮の生活では、本来の人格は抑制されざるを得なかったみたいだ。そんな生活から脱したことで、ようやく素が出てこれたようだった。

 

 あの頃はもう大変だった。覚悟を決めて記憶と一緒に決別したはずの過去の一部が今更になって蘇ってきたのだから、荒れに荒れた。一緒に皆のフォローに奔走してくれたスコさんには本当に頭が上がらない。

 

 で、結局その人格はどうなったかと言えば、皆それぞれの方法で無事に折り合いをつけることができた。大半は劇中の性格と本来の性格がところどころ混ざったような感じである。カエデちゃんが良い例だ。元気溌剌とした友好的な態度でありながら、ちょっと悪賢い一面があったり。サイハラくんも生真面目な性格の中に根暗でマニアックな部分があったりする。

 もしくは、意識的に別物として使い分けている奴もいる。オウマくんがその代表だね。大胆不敵な総統である時と、気弱な一般人として生活している時ではまるで別人だ。どちらも演技ではない本物の人格なので、周りの目を欺くには都合が良いらしい。嘘つきな彼にしては珍しく本物と断言できる部分でもある。

 

 ならば、最初から自前の記憶や人格を保っていた私はどうなのかと言えば。我ながら意外だけど、あの事件の前後で自分でも分かるほどの変化があった。考え方が物凄く悪どくなったのだ。流石"超高校級の悪意"と呼ばれるだけはある。

 その悪どさはこの身をはみ出すほどで、サイキックなアレコレが作用し生き霊的な何かになってあちこちで悪さをしていると揶揄されるほど……いや、それは流石に言い過ぎだと思うんだサイハラくん。

 

 しかし確かに、それ以前の私は清廉潔白とまではいかずとも、それなりに慎ましかったと思う。法律だってそこそこ気にしていた。決まりが出来てからは無闇に海で食料を採らないように心掛けるとかね。まあ、見つからないようにやったことが全く無いわけでもないけど……。

 そんなバレなきゃ犯罪にならない根性が今ほどに増長したのは、やはりあの事件の後からだ。友人達のためという名目もあったが、以前の私ならあんな堂々と獣を狩ったりはしなかった。だってバレたら面倒じゃゲフンゲフン。

 

 ……チームダンガンロンパによれば、私達に植え付けた才能は、元々その本人が持っていた素質を増強させまくったものらしい。

 と言うことは、あれ? 元々私には"悪意"の才能の片鱗はあったってこと? バレなきゃ犯罪にならない根性がそれだった? よし、分からなかったことにしよう。

 

 まあとにかく、かつての私達にはそういうめんどくさい事情があったわけだ。

 

 

 

「……何これぇ」

 

 灰原ちゃん達とお土産を選んでいる最中に送られてきた無題のメール。見慣れぬアドレスだったので警戒したが、回線を管理している学園長からの警告は無かったので開けてみれば、本文がない代わりに写真が1枚だけ添付されていた。

 スコティッシュフォールドのマスクとネコの手グローブを装着した何者かが、つい最近ミウちゃんが誰かさんに依頼されて完成させたばかりのイヌ科マスクとイヌの手グローブを装着した何者かと肩を組み、至近距離で自撮りした写真だった。

 背景の壁には何も無く、顔や素肌も隠していたりと色々徹底して情報を制限しているけど、何処で誰なのかは簡単に想像がつく。何してんだあの人達、仲良いな。

 

 そして続けて送られてくるメッセージ。今度はお馴染みの人物から。

 

『お前の連絡先教えたけど別に良いよな』

 

 全く良かねえわ!! さっきの写真の送り主ってあいつかよ!

 すぐに返信を送る。

 

『消して。却下』

『そんな冷たいこと言うなよ。信用できる奴だ』

『私はできない』

『だからそれは誤解です!』

 

 根拠のない釈明をしてくるメールは即削除した。

 

『個人的にお前の力を借りることがあるかもしれないからって』

『ふざけろ』

『バイト入ってる時にポアロ来たら好きなデザート奢るって言ってるけど』

『今回だけな』

『いっそ不安になるほどチョロい』

 

 仕方ないので新しくアドレス帳に追加した。登録名は『ドンペリ』である。

 

 土産は小鯛の笹漬けが欲しいという、どう考えても酒の肴にする気満々のリクエストに適当な返事を送り、携帯端末をポケットにしまう。

 灰原ちゃんはまだお土産選びに悩んでいた。

 

「吉田さん達には良いとしても、博士にはお饅頭はダメね」

「あー、ダイエット中だからかぁ」

「それなの。何が良いかしら」

「だったら魚の干物をおススメするよ。ちゃんと地元感もあるものだし、焼くだけで食べられるし、冷凍しとけば日持ちもするし、それに魚の脂肪分は肉と違って身体に良いって言うもの」

「不飽和脂肪酸のことかしら」

「あと、この店には宅配サービスもあってね、手荷物にすると煩わしいなら直接自宅に送るという手段も使えるんだ。干物の匂いうつりも気にしなくて済むよ」

「言うこと無しよ、完璧だわ」

 

 満足気にお菓子売場から食品コーナーに移動していく灰原ちゃんを見ながら、自分も笹漬けを探さねばと思い出した。この店には無いようだから帰りの道の駅で探そうか。後で沖矢さんに頼もう。

 

 ああ、スコさんのことで思い出した。

 スコさんのような立場の人は、本来の自分を隠すために、性格のみならず住居や経歴まで丸々異なる別人格を作り出すらしい。使命のために必死で別人格を作り上げた彼は、不本意で殺人劇を演じるための別人格を捻じ込まれた私達に対して、物凄く複雑な気持ちを抱いているそうだ。自分をもう1人持つと言うのはそれだけ大変なことなのである。

 そしてスコさんが言うには、あのドンペリ野郎は3人分の人格を持っていて、彼よりも更に苦労しているらしい。あいつそんな苦労人なのか。いずれにせよ胡散臭い。スコさんによれば私はその3人全員を見たことがあるらしいが、残念ながらドンペリ1人しか覚えが無い。

 

「お待たせ」

「ちゃんと満足のいくものを買えた?」

「おかげさまで。明日の昼には届くそうよ」

「おお、そうかぁ。だったらそこそこの時間にここを発たなきゃね」

 

 灰原ちゃんが会計から戻ってきた。

 携帯電話で船の発着時間を確認すれば、良いタイミングで出る船があることを知る。よし、この船で本土に戻ろう。

 

 そう予定を決めていると、店の奥からこんな声が聞こえてきた。

 

「えぇっ、沙織が!?」

 

 店内にいる知り合い数人が振り返ったその声に、面倒ごとの気配を薄っすら感じた。




・元"超高校級のサイキッカー"
 生地がしっかりしていれば何でも着る。


・超高校級?の薬物研究者
 ナンパ男には容赦なんてしない。


・超高校級の小学生探偵
 計画を立てるも悪意にカバディされる。


・超高校級の探偵(西)
 何の問題も感じていない。


・アメリカのお巡りさん
 未知の文化に遭遇した。


・フクロウさん
 友人宅で高校生テンション。


・ドンペリ
 貴重な連絡先とイヌ科マスクをゲット。


・島の巫女さん
 覚悟はいいか? 私はできてる。


・元"超高校級の探偵"
 ちゃんと事を見守っている待機班。

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