外の世界の方がフラグ多くね?   作:シュリエン

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 あらかたのストーリーは脳内でできてるのにそれを文字に起こすのって大変。いつかもそうこぼしたような……。


瞳の中の暗殺者 with V3 ⑤

 伊達刑事達から、安室さんも知らなかった回転木馬(メリーゴーランド)騒動の真実こと5年前の悪夢、通称"暴霊事変"の詳細を聞かされ、あらゆる方面からすっかり疲弊した直後のこと。千葉刑事から、佐藤刑事が目を覚ましたという朗報がもたらされた。

 協力する気が無い不知火さんより遥かに確実な証言者が無事に意識を取り戻したと聞き、刑事達は様々な意味で胸を撫で下ろした。ようやく事件解決へ一歩進められるであろうことのほか、被害者が回復したという報せは純粋に喜ばしいものだ。

 

 早速お見舞いに向かおうとすれば、佐藤刑事の方から話さなくてはならないことがあるから来て欲しいと千葉刑事から言付けを受け、蘭の病室にいたおっちゃんも連れて彼女の証言を聞くことになった。

 

「犯人だなんてそんなまさか! むしろその逆、彼女は私や蘭さんを守ってくれたのよ」

 

 目暮警部が真っ先に訊ねたのは、不知火さんへの疑惑について。佐藤刑事はすぐにとんでもないとそれを否定した。

 不知火さんが犯人ではないことなんて最初から分かりきっていたが、確固たる証拠を掴んで、そこでようやく初めて心から安心できた。どんだけ疑わしいんだあの人は。例えしでかすとしてもジャンルが違うのに。

 

「って、不知火さんが助けてくれたの!?」

「ええ、私が話したかったのはそのことなの。彼女と何か起きる前に言っておくべきだったんだけど……その様子だと、既に何かあったみたいね」

 

 残念ながらガッツリありました。誰もそう口には出さずとも、それとなく漂う疲労感を察知した佐藤刑事は苦笑した。

 不知火さんと警察の衝突を危惧していた佐藤刑事も、あの暴霊事変を経験したうちの1人のようだった。

 

「む……やはりそうだったか。前の2人の事件と比べて負傷の度合いが少ないから、もしやとは思ったが……」

「あの人らしいと言えばらしいですね……」

 

 なんと目暮警部達は、不知火さんが佐藤刑事や蘭を助けたということに驚かず、むしろ納得するような素振りを見せた。

 

 ……いや、よく考えなくても、不知火さん達の活動は"殺さない殺させない"が絶対的な軸になっている。それは嫌いな警察に対しても例外ではないのだろう。嫌がらせも人助けも全力投球か……。

 

「佐藤さん、あの時何が起きたのか、教えてくれませんか」

 

 真剣な顔の高木刑事に訊かれ、佐藤刑事は1つ頷いてから語り出した。

 

***

**

 

『……あら、もしかして不知火さん?』

『ん? 毛利ちゃんだ。こんばんは、こんなとこで会うなんて』

『ビックリですね! 不知火さんもどなたかのパーティに呼ばれたんですか?』

『いーや、私は友達の研究会を見学しに来ただけなんだ。毛利ちゃんの方は?』

『私は知り合いの妹さんの、結婚を祝う会に出席しているんです』

『へぇー、道理で。お淑やかで華やかな装いも似合うねぇ』

『そ、そんな。不知火さんこそ、いつもと違う格好じゃないですか。一瞬誰か分かりませんでした』

『これコート脱いだだけだよぉ』

『随分と印象が変わるんですね……』

『そちらの方は? もしや毛利ちゃんのお母様?』

『やだ、違うわよ! こちらは佐藤さん、刑事さんなの』

『へえー! 刑事さん、刑事さんでしたか! へえええええ! それは大変失礼いたしましたぁ!!』

 

**

***

 

「蘭さんと一緒にいただけで彼女のお母さんだと勘違いされたし……その上で私が警察官だと知った途端態度が分かりやすく様変わりしたから、偶然を装ってお手洗いで鉢合わせたという線はまずあり得ないわ」

 

 不知火さんの警察への反応っぷり、過剰にも程があるだろ。アナフィラキシーかよ。

 しかし、そのおかげで疑惑の1つは晴れた。仮に不知火さんが佐藤刑事を狙っていたとしたら、最初から警察官だと知っているだろうし、態度もあからさまに変えたりもしないはずだ。不知火さんの良くも悪くも正直なところが幸いしたとも言える。

 

「不知火さん、事件では何も見てないって言ってたけど、それは流石に無理があるんじゃない? あの人に限ってさ」

 

 世良のそんな疑いの声に賛同して頷く人は多い。かく言うオレもだ。オレがずっと不知火さんについて違和感を持っているところでもある。

 不知火さんは目暮警部に何も見てないとぶっきらぼうに証言しただけ。転んだら万馬券の束を手に入れてから起き上がるような人が、事件の現場にいながらその犯人について何も掴んでいないなんて到底信じられない。あの超視力で犯人の顔も知っていそうである。つまるところ、あの証言は嘘なのではと疑っているのだ。

 

 ところが、佐藤刑事は少し思案してから首を横に振った。

 

「……いえ、彼女は本当に何も見てないはずよ」

「うぇっ、本当に!?」

「正確に言えば、何も見えなかったと言うべきかしらね」

 

 見てないのではなく、見えなかった?

 佐藤刑事は言葉を続けた。

 

「停電中、蘭さんが化粧台の下から懐中電灯を見つけたというのはもう知ってる?」

「知ってるよ。その懐中電灯から蘭姉ちゃんの指紋が見つかったって、千葉刑事が教えてくれたんだ」

「……ライトを持っていたせいで、蘭ちゃんが犯人を目撃してしまったかも、ってこともね」

 

 入院中の蘭を付け回すような視線を感じるのは、おそらくそのせいではないか。今朝、中庭で灰原が察知したのは犯人の気配かもしれない。

 そう考えたオレと世良はすぐにおっちゃんや刑事達を探しに行こうとして……そのついでに、不知火さんの知られざるヤンチャっぷりを知ってしまったわけである。好奇心って怖い。

 

「その時のことなんだけど、蘭さんが懐中電灯を持ち上げた時、偶々その光が不知火さんの目を直撃してしまったのよ」

「あ……!」

 

 暗闇の中で突然目に光が当たれば当然眩んでしまう。特に不知火さんの場合、夜目も抜群なだけにそのダメージは大きかったはずだ。今回は視力の良さが裏目に出てしまったのか!

 

「その直後に犯人が襲撃してきて、去って行くまで30秒もかからなかった。その異様な手際の良さもあって、彼女は犯人を見たくても何も見えなかったはずよ。明かりが復旧しても、犯人を追わずに私や蘭さんを気にかけてくれたから……」

「じゃあ、不知火さんは本当に何も目撃してなかったと……」

 

 あの証言は意地悪でも何でもなかったのかよ。本当のことを教えてもらおうと彼女を追いかけてはおちょくられた高木刑事が気の抜けた声を出した。

 でも、と佐藤刑事は続ける。

 

「見えなかっただけで、ただ突っ立ってたわけじゃないわ」

「不知火さん、何か行動したってこと?」

「そうよ、流石は抜け目ないあの子と言うべきかしら……私が2発目の弾丸を受けて、蘭さんを巻き込んで倒れた時、その上から彼女のコートを被せられたの」

「コートを?」

 

 どうしてそんなことを? その意図にいち早く気付いたのは松田刑事だった。

 

「なるほど、犯人の目を誤魔化したのか。あいつの真っ黒なコートは暗闇によく紛れる。弾数にも時間にも制限がある犯人からすりゃ、ターゲットに狙いを定められないんじゃ追撃は難しかっただろうな」

「そ、そうか!」

 

 殺人の容疑どころか思い切り人助けしてんじゃねーか不知火さん。あ、いつものことか。

 これで疑惑はもう1つ解決した。不知火さんのコートに佐藤刑事の血痕がついていたのは、負傷した彼女に直接被せたからだ。

 

「昨日の事件で見つかった弾丸は全部で4つ。その内2発が佐藤君に撃ち込まれ、もう2発は現場に残っていた。現場に捨てられていた凶器の拳銃には残っていない……」

「つーことは、半分は不知火が外させたのか」

 

 不知火さんやっぱりすげぇよ。なのにどうしてタンバリンを手にあのような暴挙に出たのだろうか。ひたすら解せぬ。

 

 ……いや、待てよ?

 

「ねえ、現場に残ってた弾丸ってさ、1つは蛇口に当たって、もう1つは鏡に命中していたよね?」

「ああ、そうだったな」

「不知火さんが佐藤刑事や蘭姉ちゃんを隠すまでは犯人も2人が床へ倒れたところまでは見ていたはずなのに、どうしてそんな高い位置に撃ったんだろう?」

「!」

 

 オレの推測が正しければ、懐中電灯に不知火さんの指紋が残っていたのにも納得できる。

 すると、佐藤刑事は言いにくそうに言った。

 

「……視力が少し回復したらしい彼女が、蘭さんの取り落とした懐中電灯を拾ったのが、コートの影から少しだけ見えたの」

「あいつ、囮になったのか!?」

「多分そう。その頃には私の意識は朦朧としていたけど、真っ暗な中で犯人のいる方向が僅かに明るく照らされたのが見えたわ」

 

 自分が懐中電灯を持って目立つことで、倒れて動けない蘭や佐藤刑事から犯人の気を逸らした? あの人、陽動や囮になるのに全く躊躇いが無いな。ダンガンロンパの劇中でも無意識でやってなかったか?

 

「だとすれば、彼女の狙いは犯人に鏡を撃たせることだったのかもしれませんね」

 

 そう言ったのは、ようやく本調子を取り戻しつつある安室さんだった。いつもと違うのは、顎ではなく胃のあたりに手を添えているところだけだ。

 

「人目を憚り停電まで起こし、凶器の拳銃にはサイレンサーまで付けていました。そんな慎重な犯人にとって、鏡が割れる大きな音は想定外のアクシデントだったはずです」

「確かにあんな派手な音、大勢の人間の気を引くには十分だな。会場にいた我々にも聞こえたぐらいだ」

「鏡が割れることを見越していたのなら、佐藤刑事達にコートをかけたことにも別の意味が見出せませんか?」

「あ……そう言えば、あれだけ現場には鏡の破片が散らばっていたのに、蘭ちゃん達には切り傷の1つも無かった……」

「ええ、そういうことです」

 

 安室さんの推理を要約すれば、不知火さんは拳銃を持った犯人を退散させるため、犯人自らに鏡を撃たせて大きな音を出させ、その破片で被害者の2人が傷つかぬように予めコートを被せていた……ということになる。あの黒いコートに細かい鏡の破片がまぶされたように付着していた理由はそれだ。

 

 え、いや、マジで? 不知火さんそこまで計算してたの?

 

 と、疑ってみたが、すぐに思い直した。

 計算なんかしなくても、あの人ならやりかねないじゃないか。

 

「彼女の"悪意"が働いたとすれば、何の不自然もありませんよ」

 

 ホントそれな。安室さんの無理をしたような笑顔が痛々しかった。

 ある意味最も理想的な才能の発揮の仕方だったんじゃないだろうか。タンバリンはその余計な延長だったんじゃないかな(適当)。

 

 すると、おっちゃんがポツリと呟いた。

 

「……それなら、囮に使った懐中電灯が壊れていたのは、まさか……」

 

 こうして不知火さんに全く別の疑惑が勃発したのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 ふと心地良い仮眠から目を覚ました私は大事なことを思い出した。

 

「ヤッベェ忘れてた……!」

 

 すぐに現場へと急行する。一応ブツへのアルコール消毒も忘れない。昨晩お世話になった看護師さん達に会釈しながら向かえば、そこには思わぬ知り合い達がいた。

 

 

 

「ああー……あの時はちょっとテンパってて、コートの袖から折り畳みスコップ出そうとしたらバサーッと落っことしちゃったの」

「……偶々蘭姉ちゃん達に被さっちゃっただけ?」

「そうだねぇ」

「……懐中電灯を拾ったのはどうして?」

「自分の方に向いて落っこちて眩しかったから、とりあえず向きを変えようと手に取ったの」

「つまり特に何か計算したわけじゃないんだね?」

「何を計算するってのさ?」

「だよねー!!」

 

 輝かんばかりの笑顔で声をハモらせるのは江戸川くんと世良ちゃんの2人。何が"だよねー"なのかは知らんが、仲良しなのは良いことである。

 

「じゃあ、囮になったつもりでもねぇんだな」

「流石にスコップも構えていない丸腰で拳銃持った相手に立ち向かうほど私はバカじゃないよ!」

「スコップ持っててもバカだよ」

 

 松田さんのツッコミはいつものことながら斬れ味抜群だ、痛い。

 

 さて、こんな会話をしているこの現場だが、彼らがいるにはちょっと意外な場所である。

 

「ところで何でこんなとこに君達がいるの? 遊びに来たとか?」

「違うよ!!!」

 

 カラフルなウレタンマットが敷かれた病院内の一角、小児科病棟のプレイルーム。探偵やお巡りさんと一緒に殺人事件関連の話をするにはあまりにも不似合いな場所である。

 

「ここに戻ってくるであろう不知火さんを待っていたんだよ! パッタリ姿を見なくなったからさ」

「ハッ……もしや、犯人は現場に戻ってくる的なアレか。カスタネットを狙っていることがバレたのかと思ったぁ」

「ここにきてレパートリー増やすつもりだったの」

「タンバリンばかりだと飽きられると思って……」

「何処に気ぃ遣ってんだお前は」

 

 誤ってキッズが口に含んでも間違いが起こらぬようにアルコール消毒したタンバリンを所定の位置に戻すと、私がこれ以上余計な物をとらないようにするためか、両側から江戸川くんと世良ちゃんに手をホールドされた。両手に友達っていいよね。

 そのままどこかに連れて行こうとする彼らに、またも私はハッと気付いた。

 

「はっはぁ、さてはついに私への容疑が固められたんだな! 来いよポリ公! 理屈なんて捨てて疑ってこい!」

「ちっげーよ、逆だよ、お前への容疑は晴れた」

「何でだ、私に適当なイチャモンつけて適当な証拠捏造したって一向に構わないのに」

「どうしてそんなに喧嘩腰なの不知火さん……」

「戦争には理由が必要なんだよ、探偵くん」

「ボク子供だから分かんなぁい!!!」

 

 とにかく私は警察からこれ以上追及されないそうだ。実に残念である。

 松田さん曰く、あの婦警さんが目を覚ましたらしい。彼女の証言で私の無実が証明されたとか。それなら仕方ないか……。

 

「ボク達が聞きたいのは、この手のことだよ」

「手?」

 

 私の右手を緩く握る世良ちゃんが、その握った手を揺らしてそう言ってきた。昨日、この病院で処置されてから、ずっと包帯を巻きっぱなしの両手。怪我してるということで、彼らが掴んでくる力も逃がしてくれそうにない割には優しい。

 

 しかし、ふむ、ここで手に注目してくるとは。

 

 その話をするためにも、ひとまず私はあの婦警さんの病室へ連れて行かれることになった。彼女が私に言いたいことがあるらしい。文句かな? 罵倒かな? 密かにそんな期待をする私を、左手を捕まえている江戸川くんが胡乱げな目で見上げてきた。君のような勘のいいキッズはそれほど嫌いじゃないよ!

 

 そして、案内された先の病室にて。

 

「本当に、ありがとう」

「ぐぅぁぁぁぁ……」

 

 期待を裏切られ婦警さんからお礼を言われてしまった私のライフはガリガリ削られていく。謂れの無いことで礼を言われるのは私の最も苦手とすることである。ただの偶然でそうなっただけじゃん!!

 私を見る周りからの目が生暖かい。関係無いお医者さんにまでそんな視線を向けられる始末。何だこの公開処刑。

 

「……松田刑事、どうして不知火さんはあんなに捻くれちゃったの……?」

「普段から疑われ過ぎるせいで、疑われてないと逆に不安になる病気に罹ってんだよ」

「何その闇深さ……」

 

 そう、私は誰かに感謝されるより忌まれる方が気が楽なのだ。特に警察に対してはその傾向が強い。しかし、だからって罪の無い誰かを不幸にしたいわけでもない。加減を考えて嫌がらせしてるのさ! そのせいかスコさんから()んでるとしょっちゅう称される。

 

「チクショウ……警察にお礼を言われるなんて屈辱の極みだ……」

「これは重症だ……」

「紛れもなく末期だね……」

「……これ以上用事が無いなら私は行くよ」

「あー! 待って待って!」

 

 病室から出ようとすれば、再び世良ちゃんに腕を掴まれて引き留められた。

 

「不知火さんさ、懐中電灯を持った時、犯人に手を撃たれてない?」

「ヴァッ」

 

 江戸川くんから前置きをすっ飛ばして核心を突くようなことを言われてしまい、動揺して思わず変な声を漏らしてしまった。しまった、その問いを肯定したようなもんだ。

 すると再び周囲の人間の視線が生温くなる。ヤメロォ、そんな目で私を見るなァ!

 

「不知火さんにそんなつもりは無かったかもしれないけど、懐中電灯を拾い上げて蘭ちゃん達から犯人の気を引いた時、その明かりを目印に撃たれたんじゃないかな。それも、2発も」

「その内2発目はきっと、不知火さんが持った懐中電灯を掠めて鏡に命中した。犯人が逃走した理由に、弾切れや鏡が壊れた時の大きな音だけじゃなくて、真っ暗な現場を照らすものが無くなったというのもあったんだ。だとしたら、不知火さんのその手の怪我は鏡のせいじゃなくて、掠めた弾丸そのものか、もしくは壊れて飛び散った懐中電灯の破片のせいなんじゃない?」

 

 ふえぇ、探偵の推理力怖いよぉ。何を食べてたらそんなことまで想像できるんだか……。

 

 何も答えられずじっと黙秘していたら、事態を静観していたお医者さんが苦笑しながら口を開いた。

 

「とりあえず、あなたの怪我をもう一度診させてもらえませんか? もし銃弾と接触していたら、可能性はごく低いですが、鉛などの影響も考えられますので……」

「うぐぅ……」

 

 そう言って、気遣わしげに私の左手へ伸ばしてくるお医者さんの手を振り払うこともできず、何も言わずされるがままになることに。

 新しい包帯を巻かれている最中、周りから相変わらず微笑ましい目で見られたのは、大変不本意であった。

 

 

 

***

 

 

 

「よくも俺だけ除け者にしてくれたな」

『挨拶も無しにいきなり何言い出すんだ』

「例の17人を松田達の家に連れて行ったんだろう……よりにもよって、死んだばかりのお前も一緒に……!」

『あの頃の話か……』

「あいつらと会う前に俺を頼るという選択肢は無かったのか、あぁ!?」

『落ち着け』

「俺だけ……俺だけお前が生きてたこと知らずに、何年も……!」

『それに関しては本当にすまなかった』

「だったら答えろ。何故あいつらを巻き込んだ」

『あー……萩原が既にクシビと顔見知りで、あいつらからの信用も厚かったからな』

「その話は聞いた……俺の思っていた以上にとんでもない因縁があったんだな。そもそも、どうして不知火さんは萩原と面識があったんだ?」

『7年前の爆弾騒ぎがキッカケらしい』

「……3年前のと同一犯の、あの事件か?」

『その時爆弾が設置されたマンションの空き部屋に無断で寝泊まりしていたクシビが、現場に向かった爆発物処理班に発見されたんだ』

「その頃から既に家なき子だったのか……」

『避難させようとしても警察に捕まると思ったのか頑として部屋から出てこなくて、仕方なく爆弾の解体を急いだら、その頃にはもう影も形もなくなってたという……当事者の爆発物処理班には心霊的な未解決事件として印象付けられていたみたいだ』

「警戒中の警察官だらけの中から突然消えたら、そうなるだろうな……」

『その数年後にテレビのニュースでクシビを見た萩原が、あの時の幽霊っ子だと気付いたんだ』

「それまでずっと幽霊だと思われていたあたりが彼女らしい……」

『実際そんな大人しいもんじゃないが』

「それな」

『そんな経緯もあって、クシビと顔見知りだった萩原があいつに事件前の記憶があることを証明したおかげで、ようやくあの寮から出ることができたんだ』

「いやいや、だからどうしてそうなるんだ。警察の不祥事を証明できたなら、その後の待遇が良くなることも期待できただろう。どうして出て行ってしまったんだ」

『……分かってないなぁ、ゼロ』

「んん?」

『当時のあいつらは本当に極限状態だったんだ。あのまま寮に居続けた方が危なかった』

「……どういうことだ?」

『今の面白おかしいサイコロじゃなくて……それこそお前達(公安)がガチで対応しなくちゃいけないような連中(テロリスト)になっていたかもしれないんだぞ』

「えっ」

『考えてもみろ。連日テレビやインターネットでは自分達の顔と名前が流れ放題。実情を何も知らないコメンテーターやコラムニストが書くのは無責任で一方的に哀れむだけの意見。それでいて、実際に受けているのは実験動物のような扱い。それが1年近くも続いた。お前だったら、正気を保てるか?』

「…………」

『あいつらの中で一番正気だったクシビですら、自由の女神の松明を警視庁に突き立てようとか、トチ狂ったことを言い出し始めたんだ。世間の関心を自分達からそらすためにな』

「………………」

『そんな状況を間近で見てきたからこそ、いい加減に環境を変えてやらなくちゃまずいと思って、俺が脱出案を出した。日本の警察は危うく犯罪史上最悪のテロリストを生むところだったんだぞ』

「」

『萩原や松田達を頼ったのも、寮を出てから事件前の記憶が蘇りつつあって精神的に不安定になったあいつらを、説得するためにだ。クシビが事件前から利用していた廃墟や空き家も人目を避けて気持ちを落ち着かせるには良かったが、人との対話も必要だった。根気良く付き合ってくれた萩原達には本当に頭が上がらない』

「……爆弾って、そういう意味だったのか」

『どういう例え方をしたんだあいつは。確かに、あの3人は世界を滅ぼしかねない爆弾を解体してくれたんだ。お前や赤井が別の方向から起爆したようなもんだけど』

「ングッフ」

『いや、俺はそれで良かったと思ってるぞ。感情の捌け口があった方が、あいつらも溜め込まずに済むからな』

「待って、待ってくれ……まだ続くのかアレ……」

『すまないがゼロ、俺は当分戻れそうにない。まだあいつらから目を離すわけにはいかないんだ。本当に危ういギリギリの一線を越えないよう、クシビ達に口出しできる今の立場は捨てきれない』

「それは事実上のDICE所属宣言か……!?」

『潜入先がサイコロになっただけだ』

「そんなイージーモードな潜入捜査があってたまるか!!」

『ところで、今夜はクシビに夕飯を奢ることになってるんだ。クシビと落ち着いて話がしたいと前々から言っていたし、あいつも食事中なら比較的機嫌が良いし……なんならお前も来るか?』

「ふっざけんなおま……行く!!!」




・元"超高校級のサイキッカー"
 無実でありながら積極的に警察へ喧嘩を売っていくスタイル。そんな自分がおかしいという自覚はあるが特に治そうという気は無い。


・超高校級の小学生探偵
 サイキッカーの闇の深さを改めて実感する。本当に無実なんだよねこの人……?


・超高校級の女子高生探偵
 一見常識人に見えていたサイキッカーにも強烈な個性()があると知る。やっぱりこの人もサイコロだ。


・超??級の???
 誰もが知らないうちに巨大な借りができていて、誰もが知らないうちに返済に追われることになっていた人。何もしなくても主に心証や胃壁の安寧が勝手にドンドコ引き落とされていく。そんなこの世界の彼は孤独ではなく気の毒。送迎代の2万円を用意する。


・フクロウさん
 大体こいつのせい。しかしちゃんと日本を守っていたお巡りさん。過度のストレスでおかしくなったサイキッカーによる国際問題待ったなしの警視庁デコレーション事件を人知れず未然に防いだ。


・同期のお巡りさん達
 蝶の羽ばたきから発生した嵐は彼らの死亡フラグを跡形もなく吹っ飛ばしたが、その代わりに胃痛フラグを現在進行形で無差別に撒き散らしている。

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