ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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今日はAqoursの3rdライブですね。
遠くから成功を祈っています。


第10話 危ういプラン

「つまりなんだ…………近々始まるかもしれない戦争に備えて、俺に兵士になれって?」

 

「うん!お願いできる?」

 

早々に帰宅しようと校門を通ったところでユイに引き留められたリュウヤがそう聞き返した。

 

ユイがスクールアイドルとして有名なのは周知の事実だが、大企業難波重工の会長と何らかの接点を持っていることは難波高校の生徒くらいにしか知られていない。それもただの噂程度だが。

 

彼女はいい加減な人間だがこの手のつまらない冗談を言う輩ではないことはわかっている。

 

リュウヤはどうやら噂は本当だったらしい、と内心つぶやいた後、受け流すように答えた。

 

「断る」

 

「うんうん、もちろんことわ————え?」

 

「じゃあな」

 

「ちょちょちょちょ……!ちょっと待ってよ!!」

 

去ろうとするリュウヤの肩を背伸びしつつ強引に掴んだユイは心底焦った様子でまくし立てた。

 

「なんで!?どうして!?西都が攻撃されるかもしれないんだよ!?ねっお願い!おねが〜いっ!!」

 

「そこでどうして俺に白羽の矢が立つんだよ。……ライダーシステム……だっけ?学生にしか扱えないなんてめちゃくちゃな理由じゃないだろうな」

 

「それは、その……ほら、万丈くん強そうだし……」

 

「んだそれ……。それよりお前、難波重工のお偉いさんとどんな関係なんだよ?」

 

何より気になるのはそこだ。

 

確か難波重工は身寄りのない子ども達を引き取っては専用の施設で育てていると聞くが……。ユイもその内の一人なのだとすれば、難波重三郎ともそこで関わりを持ったのだろうか。

 

「どんな関係って……そりゃ、会長はお父さんみたいな存在だよ?みんなだってそう思って————ああ、万丈くんは他所から来たんだっけ」

 

「まあな」

 

リュウヤはいわゆる“難波チルドレン”と呼ばれる人間ではない。

 

難波高校において他の施設や一般の家庭から通う生徒は非常に珍しく、学年で絞っても片手で数えられる程度の人数だろう。

 

「何考えてるか知らねえけど……俺を誘ったのも会長さんの指示か?」

 

「え?んーと……」

 

「……それにお前はいいのかよ。戦争なんか起きたら、スクールアイドルどころじゃねえだろ?」

 

リュウヤは以前の一件からユイやミカに対してどこか気にかけている節が見られた。

 

ライブでのパフォーマンスが想像していたよりも心打つものであり、それをスマッシュに壊されたユイ達が余計に気の毒に思えてしまうからだ。

 

「難波の会長から何を言われたのか知らないけどな…………お前、ステージの上が一番輝いてるよ」

 

そう言ったリュウヤはユイに背を向け、気恥ずかしい気持ちを隠すようにポケットに手を突っ込んだ。

 

 

 

 

 

「————しょうがない」

 

ユイが軽く腕を振るうと不気味な粒子が宙を舞い、校門をくぐろうとするリュウヤの衣服へ付着。

 

そのことに気づく様子もないまま、彼はその場から去ってしまった。

 

「ごめんねー……万丈くん」

 

 

◉◉◉

 

 

 

「……ん、小原」

 

「Oh、Mr.キリオ。これから部室デスか?」

 

「いや、お前に用があったんだ。ちょうどいい、手間が省けた」

 

廊下の曲がり角でバッタリと鉢合わせしたキリオと鞠莉。

 

相変わらず気怠そうな薄眼を目の前の金眼へと向ける。

 

「首相に俺を紹介したの、お前なんだって?」

 

「ああ、そのこと……勝手にごめんね」

 

舌先を見せておちゃらけた謝罪を飛ばしてきた鞠莉の様子からして、塔野首相から聞いた事情は「表向きのもの」だけらしい。

 

それもそうだ、戦争の兵器として御宅の教師を雇わせて欲しいなんて依頼を彼女が引き受けるわけがない。

 

「でもよかったじゃない、政府の研究チームに抜擢なんて二度とない大出世だよ?」

 

「まあ別に文句を言いに来たんじゃないが……」

 

キリオは一度考え込むように顎に手を添える仕草を見せた後、再び顔を上げて尋ねた。

 

「……他に何か、聞かれたことはなかったか?」

 

「他に?特になかったと思うけど……」

 

「そうか、ならいいんだ」

 

「あ、ちょっとキリオ!」

 

用が済んだ途端にその場から離れようとしたキリオに鞠莉からの待ったがかかる。

 

「どうかしたか?」

 

「これから部活でしょ?顧問のあなたがいなくちゃ始まらないわ」

 

「……?今更なに言ってんのさ。それに俺がやることなんて————」

 

「ノンノン」

 

人差し指を振ってキリオの言葉を否定した鞠莉は、黄金色の髪を豪快に振り回しながらその指先を彼へ向ける。

 

「今回もあなたの力が必要なの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日本中のスクールアイドルを集めて……ライブぅ!?」

 

「うん!いいアイデアだと思わない!?」

 

部室で千歌達から一つの提案を聞かされたキリオが驚愕のあまり声を張った。

 

日本全国からスクールアイドルを一つの場所に集結させ、共同のライブイベントを催したいと言うのだ。

 

「ずいぶん思い切ったな…………」

 

「これくらいのインパクトがちょうどいいんじゃない?」

 

「三国がこんな状況だからこそ、ですわね」

 

果南とダイヤも千歌に続いてそう主張する。

 

今にも戦争が始まりそうというなか、今一度スクールアイドルとして国民の注目を集めて場を収めようということなのだろう。

 

それもただのライブじゃない。日本中のスクールアイドル達を集めた最大規模のイベント。しかし当然彼女達だけの力となると限界が生じる。

 

「そこで俺が色々と根回しを……ってことか。止めはしないが、具体的にどんなことをするかは決まってるのか?」

 

「そこは大丈夫!」

 

いつになくテンションの高いルビィが横から飛び出てきたかと思えば目にも留まらぬ速さでパソコンのキーボードを操作し始めた。

 

代わりに隣に立っていた善子と花丸がキリオに説明する。

 

「それがね、前例がないわけじゃないんだって」

 

「5年くらい前に、一度だけ全国のスクールアイドルが秋葉原に集まって路上ライブを披露したことがあるらしいずら」

 

「これ!」

 

興奮した様子でパソコンを抱え、ぐっと画面をキリオの眼前まで持っていくルビィ。

 

勢いに気圧されつつ、キリオはそこに表示されている動画に目を移した。

 

「これは…………」

 

5年前に行われたという秋葉原の大規模ライブ。

 

数百人ものスクールアイドル達が一丸となって展開される巨大なステージには画面越しでも充分にその想いが伝わってきた。

 

“スクールアイドルは楽しくて、素晴らしいもの”だと。

 

確かにこれほどのライブとなると影響力は桁違いだ。しかしその分————()()()()()()()も高くなる。

 

「……わかった、少し時間をくれ。こっちで使える場所の交渉をしてみる」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

「じゃあ私達は、他のスクールアイドルの人達に連絡だね」

 

「くぅ〜!なんだかワクワクするであります!」

 

賑やかな空気を背中で感じながらキリオは部室を出た。

 

 

 

「……やってやるよ」

 

本当にこのライブが実現するのならスタークが黙っているわけがない。まず間違いなく何かしらの妨害をしてくるはずだ。

 

ならばそこを抑えればいい。戦争の元凶となった者を捕らえることができれば、きっと…………。

 

「……覚悟してろスターク」

 

キリオはスマートフォンを取り出し、とある番号に向けて発信した。

 

 

 

 

 

「……戦兎です。突然すみません、首相」

 

 

◉◉◉

 

 

「キリオくん、今日もお疲れ様」

 

「あ、志満さん……」

 

長い黒髪をなびかせた女性がキリオへキッチンから声をかける。

 

彼女はよく家を空けている母の代わりに家事を行っている高海家三姉妹の長女だ。

 

「これから地下に行くの?」

 

「ああ、はい。まだ少しやることがあって……」

 

「研究に没頭するのはいいけど、たまにはきちんと休むことも大切よ?」

 

「はは、お気遣いどうも。ご飯ごちそうさまでした、今日も美味しかったです」

 

「はいお粗末様」

 

重い瞼を無理やり開き、キリオはゆっくりと地下へ続く階段に向かう。

 

 

 

塔野首相には知る限りスタークの情報を伝え、今度から各地で行われる予定であるスクールアイドルのライブには警戒するよう要請。

 

もうすぐ行われる首脳会議でも議題として挙げてくれると言ってくれた。

 

「さて…………」

 

キリオは研究室にあるパソコンの前に座り、とある人物についての調査を進めていた。

 

 

 

 

 

「————葛城ユイと氷室ミカ」

 

難波高校のスクールアイドル“Bernage”の二人。

 

彼女達は幼い頃に両親を失い、大企業難波重工が運営する孤児院で育てられてきた。

 

これは単なる噂にすぎないが、ネットの情報によると難波重工は身寄りのない子ども達に洗脳教育を施し、あらゆる方面で優秀な人材を生み出している…………らしい。

 

トップである難波重三郎についてもよく悪評を耳にする。なんでも自社の兵器をアピールするために戦争を引き起こそうとしているとか。

 

この二人もスクールアイドルになるべくして育てられた人間だとしたら————

 

 

 

 

赤と黒。ユイとミカのイメージカラーが良からぬものを連想させる。

 

“コウモリ”が女である可能性が出てきた以上、ありえない話ではないが…………。

 

スターク達が難波重工に付き従っているとなれば全て合点がいく。

 

「……戦争を起こす引き金になるために、お前らはスクールアイドルを始めたのか?」

 

画面のなかの少女達に向けて問う。

 

被害者であるスクールアイドルになることで自分達の身の潔白を証明し————その陰で難波重工の犬として活動していたと?

 

「…………考えすぎか」

 

キリオは自分の勘繰りを鼻で笑い、画面に表示されていた二人の資料を消した。

 

気のせいだと思いたくなるほど彼女達のライブは素晴らしいものだった。今まで興味がなかった自分がそう心を揺さぶられるくらいに。

 

 

 

 

 

 

 

『続いてのニュースです』

 

「……ん?」

 

不意に横へと視線をずらすと、何気なく電源を入れていた小型テレビが視界に入る。

 

『一人の男子高校生が、西都の聖堂(せいどう)首相を毒殺しようとした容疑で逮捕されました』

 

「はっ……!?」

 

あまりにも唐突にそう知らされたキリオは驚愕のあまり椅子から立ち上がると、前のめりになって画面に釘付けとなる。

 

首相が一人の少年の手によって昏睡状態に陥ってしまったというニュース。

 

このタイミングで首相を暗殺しようとするなんて正気の沙汰とは思えない。今にも戦争が起きそうだという時に————

 

「……まさか……!」

 

 

◉◉◉

 

 

数時間前。

 

「お邪魔します……っと」

 

「なっ……なんだ貴様は……!?」

 

官邸に上がりこんできた怪物————スタークは西都の首相である聖堂のもとを訪れていた。

 

「警備は……!?ガーディアンはどうした!?」

 

「あぁ、それなら全員始末しておいたよ」

 

狼狽える首相に向かって剽軽な態度で無慈悲に通告するスターク。

 

「さて————」

 

「なにを…………ッ…………!?」

 

赤い腕から伸びた触手が聖堂首相の首元へ突き刺さり、同時に“毒”を注入。

 

致死量には満たない程度のそれを打たれた聖堂は消滅することなく、苦しみながらその場に倒れた。

 

一瞬の何気ない動作。スタークは日常に起こる些細な出来事かのように、躊躇いもなくその行動に出たのだ。

 

「これはいけない!通報通報っと」

 

白々しい口振りで傍にあった受話器に手をかけたスタークは、警察に繋がると途端に声色を変えて言った。

 

 

 

 

 

 

 

「すぐに来てください!首相が……首相が万丈リュウヤという少年に襲われました!!」

 




新しい企画を立ち上げようとするAqours。
その一方でスタークは西都の首相を襲い、リュウヤに罪を着せるというやりたい放題。一体何が目的なのか……?

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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