ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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どうも、金欠でジクウドライバーが買えない作者です。
ゲイツの変身ポーズすんごい好きなので、ベルトが無くてもついつい真似してしまう(笑)


第18話 ベルトに託す想い

「計画は中止にすべきだ」

 

浦の星女学院スクールアイドル部、その部室。

 

東都に残っているAqoursのメンバー、高海千歌と渡辺曜に黒澤ルビィ————そして顧問である戦兎キリオがテーブルを挟みつつ今後の方針を話し合っていた。

 

「…………でも」

 

「お前達が考えていたライブの目的は、三国の注目を政治から遠ざけて、国民のスクールアイドルへの意識をさらに強めることだった。……けど、こうなった以上そうも言ってはいられない」

 

「わかってるよ!————わかってるけど……」

 

口ごもる千歌の姿を見てキリオも悩ましそうに下を向く。

 

彼女の言わんとしていることはわかる。悔しいという気持ちも。

 

だがこの状況で行動が起こせるわけがない。計画の中心であるAqoursのメンバーも終結することは叶わなくなり、加えて北都からの攻撃。

 

「……とりあえず今は西都や北都に向かったメンバーの安全を第一に考える。まずは西都との交渉からだ。こっちで上手くやってみせるさ」

 

「…………お願い」

 

息苦しい空気が充満する。

 

この場にいる誰もが不安で仕方がない。この先自分達は、他の皆がどうなるのか見当もつかないんだ。ここで元気を出せという方が無理な話だろう。

 

 

 

 

 

「あ、あのぉ……」

 

「ん?どうかしたか、黒澤妹」

 

皆が黙り込んでいたなか、怪訝な顔でキリオの背後を見やるルビィ。

 

「そちらの方は————?」

 

「あー……」

 

彼女の示した方へ振り向く。

 

そこには千歌達が過去に使ってきた衣装やら何やらが保管されている棚を物珍しげに眺めている少年の姿があった。

 

「ん?俺?」

 

数秒遅れてこちらからの視線に気がついたのか、少年——万丈リュウヤはルビィと視線を交わした。

 

「あれ、確か君……前のイベントの時の————」

 

「あ!ユイちゃん達のクラスメイト!」

 

「……あぁ!お前らは確か東都のスクールアイドルの…………()()()()!」

 

「「「Aqours(アクア)!/です!」」」

 

「お、おお……そうだったか……悪い」

 

そういえばリュウヤと千歌達は一度顔を合わせていた。といってもほんの数分だけだったが。

 

「こいつな、しばらく東都にいることになったから。仲良くしてやってくれ」

 

「はっ!?いや聞いてね————」

 

何かを言いかけたリュウヤの肩を掴み、千歌達の死角になるところへ素早く移動して耳打ちをする。

 

「お前にはいろいろと聞きたいことがあるって言ったろ……?」

 

「いやそれは聞いたけど……こっちに残るなんて一言も——」

 

「政府には俺が適当に伝えとくから、とにかく頼むぞ、いいな?」

 

しぶしぶ「しょうがねえな」と頷いたリュウヤを尻目に千歌達へ向き直る。

 

「そうだったんだ……」

 

「左から高海千歌、渡辺曜、黒澤ルビィ————んで、こいつは万丈リュウヤだ」

 

「よ……よろしく」

 

1人ずつ名指ししながら半ば強引に話を進めていくキリオに微妙な表情を浮かべる千歌達だったが、すぐに普段と変わらぬ緩やかな笑顔で挨拶を返す。

 

多少空気が和らいだようにも見えたが、彼女達は未だ心の中で隠しきれない不安を募らせていることだろう。

 

 

 

(……一刻も早く、この戦争を————)

 

 

◉◉◉

 

 

「おお……なんか秘密基地みてえだな……」

 

「テーブルにある物は勝手に触るなよ、どこにいったかわからなくなるからな」

 

今日のところは一旦解散となり、キリオと千歌はリュウヤを連れて旅館“十千万”へと帰宅。

 

周囲に散乱する紙や山のように積み重なっている本を見てはリュウヤが目を回している。

 

しばらくの間彼の面倒はキリオと同じ————この地下室でみることにした。高海家の人達にはこれ以上迷惑はかけられない。

 

それに、

 

「お前の持ってるドライバー、ちょっと貸してみろ」

 

「あ?……これか?」

 

リュウヤがおもむろに取り出したそれを受け取り、まじまじと目視で観察した後パソコンの横に置く。

 

データを読み取るためのコードを接続。PC画面に設計図が映し出された。

 

「少しの間借りるぞ」

 

「別にいいけどよ……それどんくらい時間かかる?」

 

「わからん。暇ならそこらへんにある本でも読んでろ。読み終わったら元の場所に戻しといてくれよ」

 

「どれどれ」

 

何気なく手に取った小難しそうな冊子を開いたのも束の間、「さっぱりわからねえ」とだけ呟いて再び部屋の散策を始めるリュウヤ。

 

 

 

 

 

「…………これは」

 

羅列された文章を注意深く読んでいくうちに、リュウヤやグリスが用いていたこのベルトの特性が徐々に判明していった。

 

“スクラッシュドライバー”————ハザードレベルが4を超える者にしか扱うことのできない最強のライダーシステム。

 

ボトルの成分をゲル状に変化させた“スクラッシュゼリー”を変身に用いることで、キリオが扱うビルドドライバーとは一線を画す能力が得られる。

 

 

(……しかし、その代償は——ネビュラガスの影響をより強く受けて、好戦的な気質が現れる……か)

 

どうりで————戦闘中のグリスの様子からしても間違いないだろう。おまけに装着者のアドレナリンまで過剰に分泌されるときた。

 

…………このベルトを使い続ければ危険だということは明白だ。

 

「万丈」

 

「あー?」

 

「お前これ没収な」

 

「あー………………あ!?なんで!?」

 

「おそいよ反応が」

 

待ち疲れたのか、椅子に腰かけつつ頭を上下させてウトウトしていたリュウヤが跳び起きた。

 

「お前……これがどんな物かわかってて使ってたのか?」

 

「どんなって……軍事兵器だろ?」

 

彼が口にした単語に反応するように、キリオの肩がほんの少し揺れる。

 

「……なにも考えてないだろ、お前」

 

大きくため息を吐き出したキリオを見てムッと表情を歪ませるリュウヤ。

 

「どうして戦うのかってやつだろ?……決まってる、いつかスタークの野郎をぶっ飛ばしてやるためだ」

 

「スタークを?」

 

「ああ!あいつは……葛城達の気持ちを踏みにじって、この国をめちゃくちゃにした最低な奴なんだろ?……それに」

 

「……?」

 

当時の悔しさを思い出したのか、リュウヤは力強く握りこぶしを作った。

 

「俺は……あいつに冤罪をかけられてるんだ」

 

「冤罪————」

 

言いかけたところで不意にひとつの記憶とマッチする。

 

以前ニュースで聞いた、西都首相の殺人未遂事件…………。

 

「まさか、お前が……?」

 

静かに頷いたリュウヤを視界に捉えつつ思考を巡らせる。

 

彼がどういった経緯でドライバーを手に入れ、戦場へ駆り出されたのか…………。大方無罪にする代わりに兵士として働けとでも吹き込まれたのだろう。

 

なら実際に首相を襲ったのはやはりスターク……?

 

 

 

「最初は葛城からの誘いだったけど……その時は断ったんだ。けど、スタークが強引に……首相まで巻き込んで——」

 

「……ちょっと待て、今なんて言った?」

 

「え?」

 

予想していなかった名前がリュウヤの口から飛び出したのを聞き逃さなかった。

 

「葛城から誘われたって?」

 

「あ、ああ。なんでも、難波重工の会長が俺を欲しがってたみたいでさ。西都の兵士にならないかって、葛城を挟んで声かけられたんだよ」

 

……なんだ、この違和感は。覚えのある不快感だ。

 

何もかもが誰かの描いたシナリオ通りに進んでいるような不安感。同じものを何度も感じたことがある。

 

 

 

 

「それよか、あんたはどうなんだよ?偉そうに説教するんだったら、あんたにもそれなりの戦う理由ってもんがあるんだろうな?」

 

ごちゃごちゃになった頭のなかで、リュウヤの質問が鮮明に響いた。

 

「あるに決まってんでしょうが」

 

「なんだよ?」

 

「…………そうだな、簡単に言えば——————」

 

背もたれに身を預けたキリオは天井を見つめながら静かに言い放つ。

 

 

 

「適当に飯を食べて、適当に寝て、起きたらだるい身体引きずって学校で教鞭振るって————ここに帰ってきたら新しい発明に着手する。そんな“当たり前”を過ごすために戦ってる」

 

「……なんだよそれ、俺と大差ないじゃねえか。結局は自分のために戦ってるんだろ?」

 

ふとキリオの瞳に影が差す。

 

考えるように顎へ手を寄せた後、再び口を開くと落ち着いた口調で言った。

 

「自分のため…………か。捉え方によってはそうなるのかもな」

 

「……?」

 

「そういや言ってなかったがな、俺にはスカイウォールの惨劇以前の記憶がないんだ」

 

突然の告白に面食らったような表情を浮かべるリュウヤ。

 

「記憶喪失って、んなバカな話——」

 

「俺はこれ以上自分が無くなるのが嫌なんだ。……だから、俺を取り巻く周囲の環境、人間、土地……“戦兎キリオ”という存在を構成しているもの全てを守りたいと思ってる」

 

真剣な眼差しで語るキリオを見て冗談や嘘の類ではないと理解したのか、リュウヤはやがて静かに彼の話を聞いていた。

 

「戦争で人が死ねば千歌達が悲しむ……それは嫌だ。あいつらが笑ってくれないと、おちおち授業もできやしない」

 

要は他人のために戦うことが、自分のためになるんだ。

 

戦兎キリオという空っぽの人間は、今までそれだけを拠り所にして生きてきた。

 

 

「…………とんだお人好しだな」

 

「ん?」

 

「なんでもねえよ」

 

どこか含みのある言葉を呟いた後、リュウヤは拗ねたように背を向けて傍にあった椅子へドカッと音を立てて座り込んだ。

 

 

 

 

 

「…………それで、だ。話を戻すが……このスクラッシュドライバーな、使うにはいろいろとリスクが多すぎる」

 

「んなこと言ったって、他に戦う手段がないんだからしょうがねえだろ。……あ、言っておくが戦いから降りるって選択肢はねえからな?」

 

「ま、そう言うと思った。……手段がないなら作ればいい」

 

「え?」

 

「ドラゴンフルボトルあっただろ、あれ一旦返せ」

 

頭のなかで大量に「?」を浮かべつつ、言われるままにボトルを取り出してはキリオへと手渡す。

 

「なんに使うんだよ?」

 

首を傾けて尋ねるリュウヤを尻目に、キリオはうっすらと口元を緩めた。

 

「決まってるだろ。……ガキンチョのお前でも扱える変身アイテムを作るんだよ」

 

 

◉◉◉

 

 

その夜。

 

「ちょっ……ちょっと!」

 

「大変だわ!!」

 

「Emergencyーーーー!!」

 

並んでいた三つの扉がまったく同じタイミングで開かれる。

 

ひどい焦りが見て取れる顔で廊下に飛び出したのは————善子、梨子、鞠莉の3人。

 

言葉を交わすまでもなく、彼女達の訴えたいことがお互いに理解できた。

 

「北都が攻撃をって…………他のみんなはどうなるのよ!?」

 

「スカイロードの封鎖って…………」

 

 

 

 

 

 

 

「どうか……した?」

 

不意にかけられた声の方向へ反射的に振り向く。

 

既に部屋着に着替えていたミカが恐る恐るそう問いかけてきたのだ。表情から察するに「廊下が騒がしいので様子を見にきた」といったところだろう。

 

「これ……見た?」

 

「——————」

 

梨子が差し出してきたスマートフォンの画面を見るなり、ミカは眉をひそめては口元を震えさせた。

 

「こんなの……あんまりよ」

 

「いくらなんでも……」

 

「…………急すぎるわよね」

 

肩を落とす3人とは対照的に、怖いくらいの冷静さをミカは見せる。

 

「……たしかに、緊急事態……だね。……でも、考えるのは明日にしよう?」

 

「え……?」

 

「わたしとユイちゃんで、なんとか東都にいる人達と……連絡をとってみるから。……今日はもう、疲れたよね?」

 

「でも————」

 

「安心して。あなた達が危険な目には遭わないよう……わたし達も、尽力するから」

 

途切れ途切れにそう話す彼女の語気には、どこか必死さが滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、北都。

 

 

 

「理亞、こんな時間にどこに行くの?」

 

「ちょっと散歩。大丈夫、そこらへんでちょっとウロウロしてるだけだから」

 

心配そうな視線を送ってくる姉を一瞥した後、小さく「行ってきます」とだけこぼして夜風の流れる外へと踏み出す。

 

規則的に並べられた街灯からの光だけを頼りに足を進め、時折ため息混じりの鼻歌を漏らす。

 

 

 

(…………これから、どうなっちゃうんだろう)

 

重たい思考で頭を満たしながら、理亞はゆっくりと歩み続けた。

 

ついこの前までは、昼は姉と一緒にダンスの練習をして…………夜は友達と楽しく遅くなるまで電話で話して、ほんの少しだけ叱られた後にやっと眠る。そんな日常が続いていたのに。

 

今でも眠れない日々は続いているが、それは決して「楽しいからまだ眠りたくない」なんて気持ちからじゃない。

 

今はただただ——————

 

「…………こわいよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな時間に女の子が1人で出歩くなんて……感心しないねぇ」

 

「…………!?だれ……っ!?」

 

アテもなく歩き続けていたその時、傍に見える茂みのなかから聞こえた声に身体をビクつかせた。

 

「こんばんはお嬢ちゃん。……相変わらず寒いねぇ、ココは」

 

ひと目見ただけで声の主が普通じゃないことはわかった。なぜなら()()()姿()()()()()()()()()()()だ。

 

赤い身体に張り巡らされた無数の排気管。顔面と胸には特徴的なコブラのレリーフが刻まれている。

 

「怪物…………ッ!?」

 

「おぉっと、ストップ。そんなに怖がらなくても、オレは別にお前に危害を加えようだなんて思っちゃいない」

 

ちっちっち、と指を振りながらそう語る奴だったが、理亞にはその姿がとても恐ろしいものに見えた。

 

「…………な、何者なのよ……あなた……?」

 

「んん?」

 

ごほん、とわざとらしい咳払いをした後、胸に手を当てて紳士的なお辞儀を見せながら奴は言った。

 

 

 

 

 

 

「オレの名はブラッドスターク…………以後、お見知りおきを。Saint Snowの…………鹿角理亞ちゃん?」

 




キリオの戦う理由は本編の戦兎と似てるようで全然違うのがポイントです。ちょっと達観してる感じが何かを匂わせる……。

そしてスターク、またお前か。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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