ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
第1話 正義のヒーロー
「ゴリラ、ダイヤモンド————」
何かの設計図や資料からテッシュを丸めたゴミまで散らばっている、今まで掃除の類をしてこなかったのが丸わかりな部屋。
濃緑色のパネルに2本の“ボトル”をはめ込むと、化学反応を起こすように光とアルファベットが浮かび上がる。
「ベストマッチ!フゥ!やっぱ授業なんかより、こっちの実験に時間を費やした方が有意義だなあ」
ふと背後から階段を降りてくる足音が聞こえ、キリオはテーブルの上に置かれていた機器に資料を被せて隠した。
「キリオくん——って、相変わらずきったないねぇ……」
「千歌、勝手に入ってくるなよ」
「なにしてたの?」
「べつに……」
明るい髪色をしたこの少女の名は高海千歌。十千万という宿を経営している高海家の三女だ。
キリオは近くにある海岸で倒れていたところを彼女に拾われる形でこの家に居候させてもらっている。
使わなくなった地下室を借り、
「もうっ……どうして顧問が生徒より先に帰ってるの?」
「前にも言っただろ。顧問ってのはあくまで名目上だ、俺自身スクールアイドルに興味があるわけじゃねえよ。……部活ならお前達だけでもできるだろ」
「今回はキリオくんがいないとダメなんだってば!」
「はあ?」
ぐい、と前触れもなくスマホの画面を突きつけてくる千歌。
そこに映っているのは二人組の……おそらく千歌達と同じスクールアイドル。赤と黒の少女の姿だった。
「……“Bernage”だろ?こいつらがどうしたよ」
「この二人から、Aqoursとコラボしてほしいって連絡が届いたの!」
「へえ…………」
「場所は西都の特設会場!」
「いいんじゃないか?行ってこいよ」
「だーかーらー!」
千歌がバシン!と傍にあった机を叩くと、上に置かれていた紙がはらりと地面に落下した。
「……うちの学校、他の地区に行く時は保護者同伴っていうのが条件でしょ?」
「あー……」
「美渡姉も志満姉もこの日は用事があるらしいし……キリオくんお願い!」
「………………」
高海家の人間の頼みとなれば断りにくいが…………正直西都に足を運ぶのは気が進まない。
狙いはおそらく——————
「…………確かに、千歌達だけで行かせるのも心配だな」
「じゃあ決まりね!」
「ちょっと待った」
「え?」
千歌の持っていたスマートフォンを取り上げ、そこに映るBernageのライブ映像に目を凝らす。
一見他のスクールアイドル達と変わらない、普通の女の子のようにも見えるが…………
「千歌、この赤い奴……なんて名前だっけ?」
「えっと……
「幼馴染…………この二人がか」
知り合いではないはずだが…………どうにも気になる。特に赤い方。
————もしかすると、“記憶を失う前の自分”と何か関係が…………?
◉◉◉
初対面の人からは「男か女かわからない」と言われる。体格や顔つきもそうだが、雰囲気がそう思わせるらしい。
キリオが高海家の世話になり始めたのは5年前。ちょうどスカイウォールが現れた時期と同じだ。
災害に巻き込まれて傷付いた者は大勢いる。記憶がないのはキリオ自身、その時のショックが原因だからと医者に診断された。
…………が、後にスカイウォールから採取された“ネビュラガス”と同じ成分が彼の身体から発見され、単なる身体的ショックが原因ではないだろうという結論が出された。
火星から落ちてきたと言われる、スカイウォールが出現した原因——“パンドラボックス”は現在東都政府が預かり、研究を進めている。
(……きっとあの箱に……俺の記憶の鍵が——————)
「ア……ウァア…………」
日は完全に落ち、辺りは暗闇に包まれている。
波の音に混ざって何者かの足音が耳に滑り込み、キリオはすぐさま下ろしていた腰を上げて“ドライバー”を腰に巻きつけた。
「来たなスマッシュ」
闇夜に紛れてこちらへ歩み寄ってくる影が一つ。
白い身体。針らしき物が指先から伸びている。
キリオが内浦で保護されてから数日置きにやってくる怪物達。こいつも今までと同じ————
「狙いは俺か?」
「ァアアアアアア……!!」
突然奇声を上げて襲いかかってきた怪物を受け流し、コートから取り出した二本の“フルボトル”を振る。
こいつを放ってはおけない。一般人に危害が及ぶ前に————この手で倒す。
《ラビット!》
《タンク!》
《ベストマッチ!!》
ベルトに装填したボトルに反応して発光。レバーを回せば機械的な音と共に透明なパイプがキリオを囲むように形成され、“人の型”を形作る。
《Are you ready?》
「変身!!」
覚悟を問われ、それに応えるようにファイティングポーズと掛け声を叫ぶ。
《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!!》
《イェーイ!》
仮面ライダービルド。
キリオが作り出した技術——二つのフルボトルを“ビルドドライバー”に装填し、組み合わせごとに装着者を戦士へと変身させるシステム。
彼が内浦の海で発見された時、大事そうに抱えていたという“別のドライバー”を元に作られている。
そちらは怪物から採取した成分を浄化するための装置に組み込んでいるので劣化版であるこちらを戦闘に使っているが、これまで敵との戦闘で支障が出たことは一度もない。
「アアアァァアアアア…………!!」
「おっと」
怪物は腕の針を伸ばしたままそれを細剣のように刺突。瞬時に反応して回避してみせる。
スピードもパワーもこれまでの奴らと大差ない。手持ちのボトルで対応できそうだ。
「……すぐに戻してやるからな…………!」
ドライバーから飛び出したパイプが直線的に形成され、スーツを生み出したのと同じように“ドリル状の剣”へと変化する。
「はああッ!」
効率的に、最速で片付けられる方法を————
繰り出される攻撃を最小限の動きで回避し、確実に急所を回転する刃で抉っていく。
「ウア……ッ……!」
「いいぞ、もう少しの辛抱だ」
多少のダメージを負わせなければゆっくり成分採取もできやしない。
キリオを襲うこの怪物達の名は“スマッシュ”。
国境を越える際に東都のガーディアン達に仕留められる場合がほとんどで、こいつらの情報は一般に公開されることもあまりない。
世間に知られているのは精々スマッシュという名前くらいなものだ。
「ふっ……!」
スマッシュが繰り出す刺突を避けながら思考を巡らせる。
だがこうしてキリオに辿り着くスマッシュこそ————おそらく
何者かが東都政府の目を引くために別働隊を送り、単騎を潜ませてまっすぐ俺の所に向かうよう仕向けているのだろう。
敵の正体は何か…………。単身か組織か、男か女かもわからないが————はっきりしていることは一つ。
「俺の平穏を邪魔する奴は…………誰であろうと容赦しないッ!!」
《Ready go!!》
《ボルテックフィニッシュ!!イェーイ!!》
レバーを回しつつ手に持っていた“ドリルクラッシャー”を一旦しまう。
「はああああああッッ!!」
地面から唐突に出現した数式でスマッシュを拘束し、上空へ飛び上がり最善の角度で突貫。キックを炸裂させる。
「ウアッ……ァァアアア…………!!」
爆煙から弱り切ったスマッシュが倒れるのが見え、取り出した“エンプティボトル”を奴に向けた。
たちまちスマッシュの身体を形成していた成分が抜け落ち、ボトルへと吸い込まれ————
「……やっぱ今回も、人間が変えられていたか」
スマッシュはどこにでもいる中年の男性へと変貌した。
……これまでのスマッシュも一般人が何者かに誘拐され、ネビュラガスによって姿を変えられたものだった。
今回は————どこかのアイドルのイベントにでも行った帰りに連れ去られたのだろう。可愛らしい女の子が描かれたTシャツを身につけている。
「ほらおっさん、しっかりしろ」
「……うぅ……」
「……ちっ……タクシー役は勘弁だってのに……」
しょうがない。このまま病院に連れて——————
「……ん?」
ふと男が身につけていたシャツを改めて見ると、見覚えのある顔が視界に入った。
「これは……Bernageの葛城ユイ…………。ということはやはり西都からやってきたのか?」
確定ではないが今までの例から考えるに彼も西都の人間。
やはりキリオを狙ってスマッシュを送り込んでいる奴の本拠地は西都にあると見て良さそうだ。
「…………千歌達とのコラボの話もあったし、一度色々と調べてみるか」
◉◉◉
「さてさて……現在のランクはっと……」
使われていない倉庫のように寂れた部屋の中心で、葛城ユイは足を組みながらどっしりとした態度でテーブルの上に置いたパソコンを操作する。
スクールアイドルの人気を表すランキングが記されたサイトだ。
「……む?あれ?あたし達2位になってる…………」
「1位はSaint Snowさんみたいだね」
「うわっみーちゃん!?急に出てこないでよ!びっくりするじゃん!」
「ご、ごめんね。これ……お腹空いてるかなって……作ってみたの」
横から差し出されたクッキーを一瞥するが、興味なさげにテーブルを指で示すユイ。
少しだけ悲しそうに眉をひそめたミカは持っていた皿を静かにそこへ置いた。
「なるほど……聖良さん達、新曲の動画をアップしたんだ」
「わっ……わたし達も……負けられないね。が、頑張ろう?」
「そうだねー…………
「————え?」
ライブ中に見せるものとは違う、ユイが見せた黒くて含みのある笑顔。
ミカは彼女の表情を見て何を悟ったのか、震える声で言った。
「あ、あの……でも、聖良さんと理亞ちゃん……は、関係ない……よ?」
「関係……?この前スマッシュにしたオタクくんだってそうでしょ?」
「えっと……でも……だって……この二人は、有名人だし……手を出すのは……まずいんじゃ……」
「————正解!なんだ、思ったよりも考えられる子だったんだね!」
椅子から立ち上がったユイは傍に放置していた“ブレード”を拾い上げ、背後を振り返ってはそのバルブを回転させた。
「さて……っと、思わぬ材料が手に入ったことだし」
「むーっ!むーーーーッッ!!」
猿轡で口元を固められ、全身に縄を張り巡らされた一人の男性が床に転がっている光景を見下ろし、ユイは不気味に口角をつり上げた。
「ねね、おじさん、あんな夜道であたしを襲って…………何しようとしてたの?」
声も出せないまま怯える男性を見つめていたユイははっとした顔で口にする。
「ああ、あたしが掲示板で呼びかけたんだっけ。まさか本当に来るバカがいると思わなくて、ちょっとびっくりしちゃったけど」
《デビルスチーム!!》
「ムーーーーーーッッ!!!!」
「きゃはっ…………きゃははははハハハハハ!!」
黒霧が周囲を満たす。
少女が振り下ろした刃は男の胸に深く突き立てられる。
男性の悲鳴を聞きたくなかったミカは涙を流しながらも必死に両耳を腕で塞いでいた。
「……あれ?」
しかしガスを注入された男はたちまち身体が紫色の粒子に変化し、宙に溶けるように消滅してしまった。
「……なぁんだ、ハザードレベル1の役立たずだったか。つまんないの」
巧みな手つきでブレードを逆手に持ち直したユイは冷めきった顔で空を見つめる。
「楽しみだなあ、どんな人達なんだろ。……東都のAqoursさん」
まずは主人公の立ち位置や目的、それと敵(?)がどういった人物なのかの紹介ですね。
次回からはもうちょっとキリオとAqours達の絡みを書ければと思っています。
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
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後日談として日常もの
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シリアス調のもの
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両方
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別にいらない。