ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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CSMアークルが三次予約開始したらしいですね。
まさか二次も完売とは……。


第20話 心傷へのカウントダウン

「……ユイちゃん、いる?」

 

数回扉をノックするが、いくら待っても返事が返ってこない。

 

ミカは静まり返った廊下を左右キョロキョロと確認した後、誰もいないとわかった途端にドアノブにかけていた手に力を込めた。

 

「入るね……」

 

すでに就寝している可能性を考慮してゆっくりと部屋へ入る。

 

明かりは消えているがユイの気配はどこにもなく、一番最初に乱れた掛け布団がベッドからずり落ちているのが視界に入った。

 

「…………」

 

やれやれと肩をすくめ、直そうと屈んだその時、横に設置されていたテーブルの上に意識が向く。

 

様々な色と模様で染められた小物————フルボトルが並べられていたのだ。

 

「————あれ?」

 

ふとミカのなかでひとつの疑問が生まれる。

 

「……こんなボトル、前まであったっけ……?」

 

————虎、UFO、クジラ、ジェット機、キリン、扇風機、ペンギン、スケートボード、マイク、熊、テレビ、カメラ、カブト虫、エンジン…………。

 

見覚えのある物とは別に————見たこともないボトルも確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ……やっぱり夜更かしするのは良くないね……ってうえぇ!?」

 

「きゃっ!?」

 

背後から飛んできた叫び声につられて体勢を崩すミカ。

 

後ろで同じように尻餅をついたのは……たった今ここへやってきたユイだった。

 

「みーちゃん!?どうしたの!?ここあたしの部屋だよ!?」

 

「あっ……えっと……ちゃんと眠れてるかなって」

 

「あのねぇ……あたしもう高校生なんですけどー」

 

「そ、そうだよね。……ごめんね、驚かせちゃって」

 

逃げるようにその場を去ろうとしたミカだったが、「そうだ」とつぶやいたユイが咄嗟に彼女の服の裾を掴んで引き止めた。

 

「みーちゃんに質問!好きな動物をふたつ挙げて!」

 

「えっ……えっ?」

 

「ほら、はやくはやく」

 

「えぇっと…………」

 

あまりに突拍子のない質問だったせいか、頭の中が真っ白になってしまう。

 

「……ワンちゃんとか……コウモリ……とか?」

 

数秒悩んだ後、やっと浮かんできた生き物の名前を口にした。

 

「……犬はわかるけど、なんでコウモリ?前も聞いた気がするけど」

 

「こっ……コウモリってよく見たらかわいいんだよ!?」

 

「ま、いいや。おやすみ」

 

「あ、うん…………」

 

その会話を最後に扉が閉じられ、ユイの姿が見えなくなる。

 

 

 

結局その夜は、彼女がどうしてこのような質問をしたのかわからないままだった。

 

「……ユイちゃんは、いったいなにを知ってるの……?」

 

今まで言われるがままにここまで戦ってきた。

 

スカイウォールがどうして現れたのか。どうして仮面ライダーや、スマッシュという存在が生まれたのか。

 

その全てを……自分はまだ知らないのだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「んー…………」

 

紙吹雪が舞った後のように散らかっている、いつも通りの地下。

 

高海千歌はキリオの留守を狙って彼の部屋——研究室へと足を運んでいた。

 

「あ、あったあった」

 

不自然に並べられた資料の束が壁となって隠していたビルドドライバーが千歌の手によって露わになる。

 

きょろきょろと辺りを見渡し、監視の目がないことを確認。

 

「…………ごくり」

 

手に持ったドライバーをゆっくりと腰に当てる。

 

「わっ————いだっ!?」

 

勢いよく巻きついてきたベルトに驚いて一歩下がった千歌の足が背後にあった机に激突。

 

「いたたたた…………。えーっとそれからボトルを————」

 

一個のボトルを適当に取り上げ、何気なくその柄を見る。

 

透き通るオレンジ色が綺麗なボトルだった。

 

「……みかん…………?」

 

 

 

 

 

 

 

——————チーン!!!!

 

 

「ひぃっ!?!?」

 

部屋の奥に設置されていた巨大な機械の小窓が展開し、モクモクと煙を立ち昇らせる。

 

同時に扉が横にスライドし、装置の中から1人の青年が姿を見せた。

 

「…………千歌?」

 

「あぅ……!き、キリオくん……!?そこにいたんだ…………」

 

「んん……?」

 

眠そうな瞳から送られる視線が千歌の腰へ下がる。

 

彼女が装着していたビルドドライバーに気づいた瞬間、キリオは怠そうな表情のまま静かに怒りの炎を燃やした。

 

「……とりあえず外せ」

 

「はぁい……」

 

青ざめた顔で薄ら笑いを見せた千歌がキリオの言う通りドライバーを腰から離し、そばにあった机に置く。

 

彼はそれを確認した後、装置の小窓に入っていた小さなボトルを取り出してはまじまじと観察し始めた。

 

「錠前のボトルか…………へへへ」

 

「なんか気持ち悪いよキリオくん」

 

「うっさいわ」

 

近くにあった椅子を指で示して千歌を座らせる。

 

「本当に性懲りもないな、お前は」

 

「えへへ……」

 

「えへへじゃないんだよ。前に説明しただろ、そのドライバーはハザードレベルが3を超えない限り扱うことはできない」

 

「じゃあ、私もそうなれるようにしてよ!」

 

「は?」

 

自分はいたって大真面目である、といった顔でそんなことを口走る千歌に思わず間も抜けた声がこぼれる。

 

「どうした?最近いろいろありすぎて疲れたか?」

 

「…………む」

 

冗談交じりに返してきたキリオにふくれっ面を向ける千歌。

 

「……キリオくんはずるいよ。肝心なことはなにも話してくれないくせに、自分だけ危険なところへ行っちゃうんだもん」

 

「…………」

 

「私はスクールアイドルとして、この国のためにやれることを精一杯頑張りたい!……だから……私も、キリオくんと一緒に————」

 

「ずいぶんと……背負わせちまったみたいだな」

 

「え——?」

 

キリオは眉をひそめ、苦しそうな表情で千歌と目を合わせた。

 

「お前達には改めて謝らなくちゃならないな。……“スクールアイドルとして戦争を防ぐために頑張ってほしい”っていう、俺達大人のわがままに付き合わせちまった」

 

「……!」

 

「スクールアイドルが戦争なんかしちゃダメだろ?……こんな状況になってから言うのもなんだが、千歌達は自分達のできる範囲で歌って、踊っていればそれでいい。走る速度を上げれば上げるほど、転んだ時に感じる痛みは増していく」

 

「……私は…………」

 

「お前はAqoursのリーダーだろ。その責任を果たすのが最優先だ」

 

今の千歌にとってはあらゆることがプレッシャーになっている。

 

自分だけが知る仮面を被ったキリオや、離れ離れになってしまった他のメンバーのこと。

 

…………1人で思いつめるよりも、みんなで問題と向き合った方がいいに決まっている。

 

「…………仕方ないか」

 

「え?」

 

「千歌、みんなを呼んでくれ。今から部室へ集合だ」

 

「いいけど……どうしたの急に?」

 

キリオは机のビルドドライバーを掴み取り、はっきりと口にした。

 

「————情報共有だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かーっ!どこのコンビニも品切れでカップ麺ひとつありゃしねえ!!」

 

「私もルビィちゃんと買い出しに行ってみたけど…………」

 

「大した食べ物は手に入らなかったね……」

 

部室に集まったリュウヤ、曜、ルビィ、千歌、そしてキリオ。

 

北都からの攻撃があった日から、東都中の店から物資が急激に消費されていった。

 

今は協力関係にある西都からの支援や小原グループからの支えもあり、なんとか成り立っている状況。

 

しかし戦力の増援に関してはリュウヤくらいしか派遣されていないため、西都側の考えていることが未だに見えないのも不気味だ。

 

「……それで、なにかあったのキリオくん?」

 

そう切り出してきたのは曜だった。

 

若干疲れが見て取れる表情で肩を軽く回しつつ質問してきた彼女に対し、キリオはホームルームに知らせを伝える時のようにさらりと言い放った。

 

 

 

「実はな、俺と万丈は仮面ライダーなんだ」

 

 

◉◉◉

 

 

「…………!」

 

猿渡タクミはいつも通っているスクールアイドル部の部室へ足を運び、そこに集まっていた顔ぶれを見た途端に言葉を失った。

 

「こちら、私達のマネージャーの猿渡タクミ。……花丸達のことはわざわざ紹介しなくてもいいわよね?」

 

「Aqours……!そうか……今日到着だったんだな……」

 

「なんか反応薄いわね。もっと狂喜乱舞するかと思った」

 

「い、いやいや!喜びすぎて絶句してるだけ……」

 

理亞を介して紹介されたタクミが椅子に座るダイヤ、果南、花丸へ順に軽く挨拶をしていく。

 

「聞きましたわよ、ルビィの大ファンなんですって?」

 

「あはは。残念だったね、ここに来たのが私達で」

 

「見くびってもらっては困ります!俺はルビィちゃんに限らず、全国のスクールアイドルに精通してる男ですよ!」

 

「おお、ダイヤさんといい勝負ができるかもずら」

 

表向きへらへらと笑顔を振りまきながら花丸達と会話を交わすタクミだったが、内心吐きそうになっているのを必死にこらえていた。

 

「ちょっとトイレ」

 

「え?」

 

前触れもなくそう言って部屋を出るタクミに理亞達の視線が集まる。

 

それを気にする暇もなく彼は校内をしばらくの間走り続けた。

 

 

 

「………………クソ……!」

 

確かに自分は東都や西都の連中を恨んで仮面ライダーになった。しかしそれは、何も知らないくせに理亞や聖良の悪評を振りまく輩に対しての怒り故だ。

 

「………………」

 

取り出した携帯に表示されているのは政府からの指令。

 

次に行動すべき任務の詳細について書かれていた。

 

自分に与えられた仕事は、東都と西都が所有しているフルボトル及びパンドラッボックスの奪取。

 

「……落ち着け、俺……兵士になった時から覚悟していたことだろ……」

 

 

 

 

 

————次の標的は浦の星女学院。隠されているであろうフルボトルを奪い取るために、次の作戦で攻撃する場所だ。

 

正確にはそこに所属している教師が持っているという話だが…………。

 

「仮面ライダービルドの正体がまさか…………Aqoursの顧問だったとはな……」

 

政府の調べで判明した事実————戦兎キリオという人間が、仮面ライダービルドの変身者だということ。

 

彼を殺害することも推奨された。

 

身近な人を傷つけられる痛みはタクミだって充分に承知している。

 

けれど今度は————

 

「俺も……“そっち側”に回れってことか」

 

北都を……理亞達を守るために。

 

 

 

「俺は…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにを躊躇う必要がある」

 

「……!?お前————」

 

廊下の角から姿を見せた人影を見上げる。

 

自分にグリスの力を与えた者————ブラッドスタークだった。

 

「どうして学校に…………!?」

 

「お前の調子を見に来たんだよ。案の定、罪悪感で押しつぶされそうになっているみたいだな」

 

「………………」

 

スタークはやれやれと両手を挙げ、タクミの肩に軽く触れた。

 

「今更気にする必要もないだろ。お前はすでに、何人もの兵士の命を奪っているんだからな」

 

「……なに————?」

 

「ハッハハハハ!!気づいていなかったとは傑作だ!いや、スクラッシュドライバーの特性を考慮すれば仕方ないか?」

 

「どういうことだよ……!!」

 

「普段新聞やニュースは見ないのか?この前の東都襲撃の際、死傷者は300人を軽く超えている」

 

「…………なんだと……?」

 

スタークの言葉を聞いた瞬間、全身から血の気が引いていくのがわかった。

 

「まさか……誰も傷つけずにこの国をひとつにするなんて……本気で思っていたのか?」

 

「————黙れッ!!」

 

背後から聞こえる声の主に向かって思い切り拳を振り抜く。

 

その一撃が空を切る。後ろには奴が残した黒い蒸気が立ち込めるばかりで、スタークの姿はとっくに消え失せていた。

 

「……人を……殺したってのか……?俺が————」

 

思い出そうとしてもぼんやりとした光景しか浮かんでこない。

 

戦いを楽しんでいた自分が、笑いながら敵を————

 

 

「うっ…………!!」

 

こみ上げてきたものが飛び出さないよう口元を押さえながら洗面所へ駆け込む。

 

後戻りなんてできないことはわかっている。でも——————

 

 

 

「立ち止まることすら……許されないっていうのか……」

 

 




オレンジとロックを登場させておいてなんですが、鎧武フォームは出てきません()

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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