ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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グリッドマンが予想以上に話題になってるようで……。
ちなみに僕はアカネちゃん派です(どうでもいい)


第22話 深まるミスト

東都政府官邸。

 

首相である塔野はデスクに積まれた報告書に一通り目を通した後、戦争による被害が大きい地域から順に物資の手配を要請していた。

 

「……想定していたよりもこちらのダメージが大きいな」

 

塔野が険しい表情でそう呟く。

 

北都がここまでの戦力を備えているとは思っていなかった。

 

向こう側が最新型のライダーシステムを所有しているという情報は、つい先日までこちらの耳には入ってこなかったのだ。

 

「事態は、我々が思っていたよりも複雑ということか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「首相!!」

 

目をつむり、考えをまとめようとした矢先に執務室の扉が勢いよく開かれた。

 

息を切らしながら駆け寄ってきた職員を見やり、その表情から事の深刻さを予感した塔野は静かに尋ねる。

 

「どうした?」

 

「その……こんなものが官邸に……!」

 

その職員から手渡されたのは1枚のメッセージカード。

 

書かれていたのはシンプルな文章——————

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………“本日正午、パンドラボックスを頂きに参上します。”……?」

 

 

◉◉◉

 

 

「……そうだ!ライブ!ライブやろうよ!!」

 

浦の星女学院、スクールアイドル部部室。

 

前触れもなく声を張りながら席を立ち上がった千歌に皆の視線が集中する。

 

キリオはすぐに手元に目を戻し、何やら装置をいじりながら彼女へ言う。

 

「ライブの話は保留にするって決めただろ」

 

「そっちじゃなくて!ほら、あれだよ!……なんて言うんだっけな……。なんだっけ曜ちゃん?」

 

「いやいや、私に聞かれても…………」

 

困ったような顔でそう答える曜。

 

「うーんとだからね……東都に残ってるメンバーだけでライブとかできないかなって思ったんだ」

 

「もしかして、ユニットライブ?」

 

「そうそれ!!」

 

「なんだそれ?」

 

ハッと千歌の言いたいことに気がついたルビィとは逆に、奥に座っていたリュウヤがきょとんとした顔で問う。

 

アイドル通でもあるルビィもまた彼の質問に真っ先に答えた。

 

「ルビィ達、今は3人しかいないから……Aqoursとはまた別のチームを結成してライブをする……ってことかな?」

 

アイドルグループそのものを“ユニット”と呼称する場合も多いが、千歌が言いたかったのはそちらではないだろう。

 

Aqoursという大隊のなかでさらに振り分けられた小隊、といったところか。

 

「なるほど、ユニットか……」

 

「それなら東都のなかだけで活動できるし!ね、どうだろキリオくん!?」

 

確かにそれなら残りのメンバーを待たずともライブを開催できるだろうが……。

 

各政府間がさらに険悪の今、小規模のライブを行って果たしてどこまで影響力があるのかという問題がある。

 

戦争の抑止力として活躍していたスクールアイドルだが、今更東都だけで国民の注目を集めたって——————

 

(……いや、そういうことじゃないよな)

 

キリオは千歌と目を合わせ、無意識に浮かんでいた野暮な考えを消し去った。

 

彼女のまっすぐな瞳を見ればわかる。今の千歌はそんなこと微塵も思っていないんだ。

 

ただ純粋に、少しでもこの国の人達が笑顔になってほしいと。晴れやかな気持ちになるようなライブをプレゼントしたいと。

 

そう思っているだけなんだ。

 

 

 

「わかった。会場は確保できるかわからないが……最悪この学校の体育館を使えばいい。それでいいか?」

 

「いいよいいよ全然いいよ!!」

 

「そうと決まれば!!」

 

「まずはやっぱりグループ名からだね!!」

 

一気に騒がしくなった3人に肩をすくめつつ、キリオは口元を緩めながら機械いじりの作業に戻る。

 

……その矢先、

 

「んん……?」

 

白衣のポケットにしまっていたビルドフォンから着信音が流れていることに気がつき、手を止める。

 

素性故に友人と呼べる存在がほぼ皆無なため、キリオは誰からかかってきた電話なのかを瞬時に察した。

 

「今度はなんですか…………首相」

 

つい気怠げな態度で対応してしまった相手は東都の首相である塔野だった。

 

『突然すまないな。君と万丈くんにしかできない頼みがあるんだ』

 

「……万丈はともかく、俺はあんたの便利な兵器になったつもりはないんですが」

 

『別に北都に攻め入ろうなんてことじゃない。ちょっとした防衛任務だ』

 

「防衛……?」

 

『ああ。……実は政府宛に妙なメッセージが送られてきてね』

 

どうやら北都絡みとはまた別件らしい。

 

こんな時にまた厄介事を引き受けるのは御免だが、わざわざ仮面ライダーに防衛を頼むとなれば只事ではないはずだ。

 

『詳しいことはこちらで話そう。すぐに東都研究所へ来てくれ』

 

「研究所?官邸ではないんですか?」

 

『ああ、とにかく来てくれ。————パンドラボックスが狙われている』

 

「えっ……?」

 

通話はそこで途切れた。

 

 

“パンドラボックスが狙われている”、首相は確かにそう言った。

 

今あの箱を狙うとすれば北都ぐらいしか考えられないと思うが——————

 

「……いや」

 

ふと赤い人影が脳内をよぎり、すぐさま立ち上がる。

 

「キリオくん?」

 

「研究所の方へ行ってくる」

 

「えー?また出かけるのー?」

 

「別に俺がいなくても活動はできるだろ。……あ、あと万丈、お前も一緒に来い」

 

「え?俺も?」

 

いつの間にかダンベル片手にプロテインを口へ流し込んでいたリュウヤが呆けた顔でこちらを見る。

 

「万丈くんもってことは……」

 

「先生、また戦いに…………?」

 

そう言って表情を曇らせる曜とルビィ。正体を明かしたのはいいが、やはりこういう時に動揺を与えてしまうのはどうしようもない。

 

「わからん。けど首相から呼び出しがあったんだ、無視するわけにもいかないだろ?」

 

部屋を出ようとしたその時、ただ1人無言でこちらを見つめている千歌と目が合った。

 

明らかに不安げな様子だ。

 

こういう時になんて声をかけてあげればいいのか、何度もそう思う。そしてその度に答えが出ないのだ。

 

だから、

 

 

「帰ったら、どんなグループ名に決まったのか教えてくれ」

 

「へ?」

 

 

だからせめて————ちょっとしたことでいい、“帰る理由”を決めておくんだ。

 

「……うん!お仕事頑張ってね!」

 

ひらひらと手を振る千歌の顔に、少しだけ明るさが灯った。

 

 

 

「おーおー、教師と生徒の禁断の関係ってやつ?」

 

「うるさいぞ筋肉バカ」

 

「へへ……」

 

「いや褒めてないわ。あとお前買い出しの時にプロテイン箱買いしてくるのやめろ、部室に保存してる食料は俺のポケットマネーで買ってるのを忘れるな」

 

「ゴチになります先生!!」

 

(こいつ…………)

 

日に日にこの環境に馴染んでいるリュウヤ…………それだけなら別にかまわないのだが、千歌達の影響か出会った当初よりもどこか生意気になっている気がする。

 

 

 

そのまま2人でくだらない言い合いをしつつ、学校の廊下を歩いて玄関へと向かった。

 

 

◉◉◉

 

 

『グリス、そろそろ時間よ』

 

「…………了解」

 

廊下の隅で身を隠すように、ひっそりと首相からの連絡を受けとる。

 

タクミはスクールアイドル部の部室のなかで仲睦まじそうにガールズトークに花を咲かせている少女達を、外からじっと見つめた。

 

そこには理亞や聖良の他に、長期休暇を利用して東都からやってきたAqoursのメンバーもいる。

 

なんでも戦争を止めるためにわざわざこの北都まで来たというのだが…………。

 

「……俺のせいで、全部台無しになったってわけか」

 

直後、部屋のなかにいた理亞と目が合った。

 

「あ——————」

 

なぜだかひどく居た堪れない気持ちになり、反射的にその場から駆け出してしまう。

 

「ちょっとタクミ!?」

 

背後からかかる声を振り切り、タクミはとても恐ろしい何かから逃げるように学校の外へ飛び出した。

 

 

 

(俺は……北都の兵器……!!人殺しなんだ……!!)

 

もう彼女達とは関わるべきではないことは承知している。

 

理亞は薄々タクミが何かを隠していると勘付いている節がある。このまま下手に関係を長引かせて自分が仮面ライダーだと気づかれる事こそが最悪の事態だ。

 

「理亞と聖良さんには……これ以上迷惑はかけられない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、東都研究所。

 

「予告状……ですか?」

 

「ああ、これがそうだ」

 

キリオは塔野首相が差し出してきたカードを受け取り、そこに記されてあった短い文章を注意深く読み込んだ。

 

顎に手を当て、数秒考えた後で口を開く。

 

「こういうふざけたことをする奴なら……1人心当たりがあります」

 

「ほう……というと?」

 

「俺が……いや、俺達が何度か交戦したことのある相手——ブラッドスタークと名乗る者です」

 

「ブラッドスターク……?」

 

首を傾ける首相に、キリオはこれまでスタークが行ってきた所業の全てを語り始めた。

 

西都でのライブ襲撃から……それ以降のことも含めて、知り得る限りの情報を。

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、そんなことがねえ……」

 

「……スタークがパンドラボックスを狙ってるってのか……?」

 

「なんだ万丈、パンドラボックスのことは知ってるんだな」

 

「さすがにバカにしすぎだ。5年前の惨劇は忘れたくても忘れらんねえ」

 

リュウヤは右手を強く握ると、それに視線を落としつつ言った。

 

「少し気になることがあるんだ」

 

「なにがだ?」

 

「もしスタークがパンドラボックスを狙っているなら……そりゃ西都の、東都に対する裏切り行為だと思うんだよ」

 

「……?どうしてそこで西都が出てくるんだ?」

 

「あのベルト……スクラッシュドライバーを俺にくれるよう指示したのは、スタークなんだ。むかつく奴には変わりねえが……一応は西都側の奴だって思ってたんだが……違うのか?」

 

「はあ……!?」

 

無表情だったキリオの顔が一気に困惑で満たされる。

 

「どうしてそんな大事なこと今まで黙ってたんだよ!?」

 

「す、すまん、忘れてた」

 

頭を掻きながら誤魔化すように笑うリュウヤを尻目に、深い思考へと潜る。

 

スタークがリュウヤにスクラッシュドライバーを渡したということが本当なら、余計にわけのわからないことになる。

 

つまりはアレは西都で開発され、リュウヤに渡された物の他に…………流用された同質の物が北都のグリスに渡った————もしくはその逆。

 

スタークが物流の源だとすれば……西都と北都、どちら側の人間なんだ?なぜわざわざ対立している国の双方にドライバーを渡した?

 

「ああ、くそ……っ……わけがわからない」

 

奴の行動は何もかもが霧がかっているようで心底気持ち悪い。そもそもなぜ東都だけに渡さなかったのか————

 

 

 

 

「…………()()()()()()()()()()()……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————ジリリリリリリリ!!!!

 

 

「……!?なんだ!?」

 

突如として警報が鳴り響く。

 

扉の外から騒がしい足音が近づいてきたかと思えば、1人の警備員が部屋の中に勢いよく転がり込んできた。

 

「侵入者ですッ!!ただいまガーディアン部隊が交戦中!!」

 

 

 

「万丈!!」

 

「ああ!!」

 

考えるよりも先に身体が動いていた。

 

戦闘音が聞こえる方向はパンドラボックスが厳重に保管されている大広間。

 

キリオとリュウヤが駆け付けた時にはもう、立っていられる兵士も、起動しているガーディアンもいなかった。

 

 

 

 

「————これは皆さんお揃いで」

 

 

 

コツ、と鈍い靴音がこだまする。

 

赤と黒————2人の戦士が前方から歩み寄ってくるのが見えた。

 

 

 

「予告通り…………パンドラボックスを頂きに参りました」

 

奴は柄でもない紳士的なお辞儀を見せながら低い声でそう言った。

 

「…………スターク」

 

握った手が震える。

 

宿敵を前にしたキリオは————説明のつかない不安感に苛まれていた。

 

 

 

 

 




読者の方々が言いたいことはわかります、ええ、「通常クローズはいつ出るのか」ですよね、わかっています、わかっていますとも。
次回こそ……次回こそは必ず……。

東都研究所にスタークとローグが襲撃する一方、浦の星にはグリスが狙いを定めて……って、割と千歌達ピンチなのでは?

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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