ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜 作:ブルー人
年末は紅白でAqoursの晴れ舞台を見てにやにやしてました。
今年もアイデアに溢れる1年でありますように……。
“彼女達”のことを知ったきっかけは、誰にでも当てはまるようなものだった。
何気なくネットサーフィンをしていた時、意識せずとも視界に入ってくる変わった英字。
“Aqours”。それが彼女達のグループ名。
9人のメンバーが織り成す歌声と踊りが調和したパフォーマンスは、さながらギリシャ神話に登場するセイレーンを連想させた。
今までそういった俗世に染まるようなコンテンツには手を出していなかったタクミも、彼女達のライブに引き込まれるのにそう時間はかからなかった。
なかでもタクミが熱狂的に支持をしたのは——————
「なんで……なんでルビィちゃんが……スマッシュに……」
自分の胸に寄りかかりながら意識を失っている赤毛の少女。
タクミは彼女の顔に視線を固定したまま、仮面の下でひどく狼狽していた。
ほんの数秒前。
タクミがスクラップフィニッシュを発動した直後、突然その肉体を崩壊させ、内部から素材として使われたであろう人間が現れた。
それがまさか————
「…………!」
遠くの方から聞こえる騒々しい足音に気がつく。
襲撃の情報を聞きつけた政府がガーディアン部隊を派遣したのだろう。じきにここまで到着するはずだ。
加えて駆けつけたのは…………それだけじゃない。
「……!あいつら……!!」
「ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!?!?」
1人の少年を抱えた仮面ライダーが、上空からとてつもない速度で降下してくるのが見えた。
「お、おいキリオ!あれ!!」
「手遅れだったか……!ある程度降りたらお前を投げる!着地は自分でなんとかしてくれ!!」
「おっしゃ任せろッ!!…………いや今なんて?」
リュウヤの問いは虚しくも風の轟音でかき消され、キリオの耳に入ることはなかった。
「サン、ニ、イチ!今だ!!」
「ちくしょおおおおおおおおお!!!!」
ヤケクソになりながらも、リュウヤは放り投げられた瞬間に受け身の体勢になり、そのまま地面を転がった。
「黒澤妹から……!離れろッ!!」
「ぐっ……!」
腕に取り付けられたロケットを用いての高速移動。
グリスはルビィを抱いたまま咄嗟に身体を捻り、退避用に持ってきていた1本のフルボトルを取り出す。
「スタークの奴……めんどくさい状況にしやがって……!!」
《ディスチャージボトル!》
「……!!待てッッ!!」
《潰れな〜い!》
グリスが腕を掲げ、自分達を覆うような動きで空中をなぞっていく。
たちまちその金色の姿と共に、ルビィまでもがその場から消えてしまった。
「黒澤妹が……スマッシュに……?」
「…………うん」
政府から派遣された兵達が襲われた校舎とその周辺を調査しているなか、千歌と曜を含めた生徒達は揃って校庭で待機していた。
一体何があったのかを2人から聞いたキリオが頭を掻きながら悩ましげな表情を浮かべる。
(でも妙だな……。人間をスマッシュ化させるのには、相応のハザードレベルが必要になるわけだが……黒澤妹にそれほどの力があるとは思えない)
それに、だ。実験機材もないこの学校でどうやってネビュラガスを……?
加えてその犯人……考えるまでもなくスタークだろうが、なぜ彼女を狙った?
…………いや、そんなことはどうでもいい。
「……グリスに連れ去られたってことは、黒澤妹は北都にいる可能性が高い。すぐにでも出発を————」
「私も連れてって」
「……私も」
顔を伏せたまま、千歌が強い口調でそう言ったのを聞いて、曜もそれに賛同する。
「……俺、お前らは物わかりがいい方だと思ってたんだが。…………どうしちゃった?」
危険だから極力関わるなと散々言い聞かせたはずだ。本人達だってそれは十分に理解している。
「私達……ルビィちゃんにひどいことを……」
「え?」
「ルビィちゃんだってわかってたのに…………あんな……。あんな……目で……!」
数分前の自分達がしたことが頭の中に蘇る。
友達が変貌した怪物に向けてしまったあの……恐怖と嫌悪に満ちた瞳。
キリオは千歌達が言わんとしていることを察し、考えるように黙り込んだ後、2人の肩に手を添えた。
「怖いのが当たり前だ。友達が突然、化け物に変わるんだからな。黒澤妹だってそれはわかってるはずさ」
「でも……!」
「でなきゃ、俺と万丈がここに来るまで……必死で戦ったりはしない。お前らを守りたいと思ったからこそ、あいつは必死に戦えたんだろうからな」
キリオはぽん、と千歌達の頭を軽く叩いた後、傍でその様子を見守っていたリュウヤと目配せする。
「あとは…………俺達に任せてくれ」
◉◉◉
『そっちの方はどうだい、姉さん』
「……順調よ。雷斗の方はどうなの?」
『こっちも変わらずだ。東都からの“お客さん”も、特に目立った行動を起こそうとはしていない』
北都と西都へAqoursのメンバーが派遣されるにあたって、その保護者として同行していた難波重工からのスタッフである鷲尾風華と鷲尾雷斗。
弟から報告の電話をもらった風華は、現在政府関係者にしか存在を知らされていないはずの地下施設にいた。
「もういいかしら。ついさっき北都の来沢首相から呼び出しがあったの」
『了解、また連絡する。……全ては難波重工のために』
「全ては難波重工のために」
お互いに決まり文句を交わした後、通話を終了する。
風華はすぐ側で意識を失い縛られたまま椅子に腰掛けている少女と、彼女を連れ去ってきた少年を順番に見やる。
「……それで、なぜこのような勝手なことを?あなたが彼女のファンであることは知っていましたが、任務に私情を挟むようなことはご遠慮していただきたい」
「べ、別に誘拐しようとしたわけじゃない!!」
「してるじゃないですか」
「だからこれはな……!!」
猿渡タクミとは以前からの知り合いだ。……といっても、風華はタクミがスクラッシュドライバーを使用できるようになるまでの間、スタークに言われた通り彼の世話をしていただけで、そこまで親密な関係というわけではない。
「まあいいじゃないの。おかげで新しい戦力も手に入りそうだしね」
部屋の奥から歩いてきた人影を目で追う。
余裕に満ちた雰囲気を見せる女性————北都を統べる来沢首相だった。
「…………ん……」
大きな脱力感と共に捕らわれていた少女の途切れていた意識が覚醒する。
薄暗い部屋の中心に置かれた一つの椅子。少女————黒澤ルビィは自分がそこに拘束されていることを数秒遅れて気がついた。
「えっ……ここ……どこ……?」
未だはっきりとはしない視界を凝らし、きょろきょろと周囲の状況を確認する。
「初めまして、黒澤ルビィさん。私は北都首相の来沢という者です」
「えっと…………その……」
明らかに混乱している様子のルビィは、首相の背後に立っていた2人の人間————その片方を見た途端に瞳を大きく見開いた。
「あなたは……確か……お姉ちゃん達と一緒に北都に行った……」
「………………」
疑問を交えたルビィの言葉を聞き流し、風華は無表情のまま彼女を見つめている。
「ふふふ……御察しの通り、ここは北都です。うちの兵士が手違いで連れてきちゃったみたいでね。スマッシュに変身できると聞いていたから、念のため身体の自由は封じさせてもらったわ」
「……!そうだ……学校のみんなが……!」
「浦の星女学院に沸いたスマッシュなら俺が全て倒した」
「え……?」
壁際を離れて近くへ歩み寄ってきたタクミを見上げる。
どこかで聞いたことのある彼の声。不意にルビィの脳裏に、以前理亞との電話で耳に入った少年のことがよぎった。
「あなたは————」
「彼の言う通り、あなた方の学校にもうスマッシュはいないわ。安心してちょうだい」
ルビィの言葉を遮り、そのままほぼ一方的に首相が続けていく。
「……それでね、あなたに一つ相談があるのだけれど、いいかしら?」
「浦女に北都の軍が襲撃……ですってぇ!?」
いつも通りSaint Snowの2人が活動している部室で時間を潰していたダイヤ、果南、花丸の3人だったが、スマートフォンを見ながら突然叫び声をあげたダイヤを皮切りに、のんびりとした空気は一瞬で崩れ去った。
「それ、本当ずら!?」
「どうして私達の学校に……!?」
「……!ルビィ……!」
理亞は咄嗟にスマホを取り出すと、すぐさま通話アイコンへと指を走らせた。
が、しかし————
『ただいま、電話に出ることができません————』
「そん……な……」
理亞の手から滑り落ちたスマートフォンは横にあったテーブルの上へ落下し、静かな空間に鋭い音が響いた。
戦慄する一同の代わりに、ダイヤが消えそうな声で記事の続きを読み上げた。
「…………“戦場を制したのは北都。東都研究所でも同じく襲撃が行われ、東都軍はそちらの防衛に徹していたようだ。”……」
「……キリオが付いてるなら、きっと大丈夫だよ。千歌達に何かあったら、向こうから連絡がくるだろうし」
不安を押し殺しながらそう語るのは果南だ。余裕があるように振舞っているのは、皆を少しでも安心させようという心の表れだろう。
「理亞」
「………………」
「理亞っ」
「……!姉様…………」
聖良は呆然と立ち尽くしていた理亞の肩を掴み、強引に彼女の意識を自分へと集中させた。
「大丈夫……?」
「…………ごめんなさい姉様。少し外の空気を吸ってくる」
「あ…………」
姉の手を払った理亞は、それ以上は何も言わないまま部室の扉を開いて廊下へ出て行ってしまった。
「……理亞さん」
その光景を見ていたダイヤは目を伏せた後、意を決したようにきゅっと握り拳を作った。
◉◉◉
「……全員集まったな」
多くの兵士達が集結したのは東都の首相官邸前。
整列した兵の前に立つのは東都首相である塔野…………そして彼の横には戦兎キリオと万丈リュウヤの姿もあった。
「北都が行った武力行使はもはや看過できるものではない。奴らはこの国の平穏を脅かす侵略者に他ならないのだ」
塔野が演説をする最中、いまいち状況が掴めないでいるリュウヤはひっそりとキリオに尋ねた。
「なあ……さっき首相と何話してたんだ?」
「…………一時的にだ」
「あ?」
「一時的に東都政府の管理下に置かれることを承諾した」
「ほおー…………って、ええぇ……!?」
あっさりと答えたキリオに驚愕する。
無理もない。彼は今まで東都の兵器として行使されることを嫌っていた節がある。それはリュウヤもわかっていたからだ。
「いいのかよ……!?」
「……なんだ、お前は以前から乗り気だったじゃないか」
「それはそうだけど……」
「今後はおそらく北都との全面戦争に発展していくだろう。…………そして、負けた方が敵国の勢力下に置かれる」
そう妙に淡々と話すキリオには一種の恐怖すら感じた。
「…………どうしちまったんだよ、お前……?」
自分でも意図がよくわからない質問を発したリュウヤに対し、キリオは静かに返答する。
「この際だから言っておくよ万丈。俺はな——————」
「今こそ北都に我らの鉄槌を下す時だ!!この国を制するのは東都だということを……奴らに知らしめてやれ!!」
————ォォォォオオオオオオ!!!!
兵士達が自らを鼓舞するために雄叫びをあげるなか、キリオは地を見つめたまま口を動かす。
「————俺は、この国がどうなろうとどうでもいいと思っている」
「……え?」
「スマッシュが現れれば、俺はすぐにでも駆けつけてそれを退けよう。教え子が襲われようとしているなら、同じように力の限りを尽くそう」
生徒に教鞭を振るう時のように、何気ない会話を交わすように、キリオは自然な口調で言った。
「…………
落ち着いた表情をしているはずなのに、リュウヤはキリオからはただならぬ狂気を感じていた。
「……お前はどうする?」
「え……?」
「お前はもともと西都から派遣されてきた人間だろ。お前次第じゃこの戦いから降りることだってできるはずだ。気が乗らないなら西都へ戻ればいい」
「…………!本当にどうしちまったんだよ……?」
「どうもしてないさ。……ただ、奴らの行動が俺の“許容範囲”を超えただけだ」
東都の軍が北都に向かえば、その時点で侵略行為とみなされすぐにでも全面戦争が始まる。
それは千歌達にとっても良いことではない…………そう考えて、これまでは防衛に徹していたが————もうそんなのは関係ない。
「…………待ってろよ、黒澤妹」
あれ、なんかキリオさん闇落ちしてません……?
逆に考えるのです、これが元々の彼であると。
ここにきて主人公の黒い部分が再度見えてきました。自分さえ良ければいい系男子の片鱗が……。
ここから物語の動きがさらに加速するかも……?
そしてあらかじめ伝えておきますと……もしかしたらスパークリングとハザード、登場する順番が本編とは逆になるかもしれません。
完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?
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後日談として日常もの
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シリアス調のもの
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両方
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別にいらない。