ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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今日で平成が終わりますね。
ほんとは連休初日に更新したかったのですが、タイミング悪く体調を崩してしまい……(焦)
現在は9割7分ほど回復しているので、GW中にもう1話くらい投稿できればいいかなと考えております。


第37話 戦意のボーダーライン

「スクールアイドル?」

 

「うん!」

 

「流行りのアレか…………なんでまた急に?」

 

まだ戦争が勃発する前のある日のこと。

 

昼休みの職員室で惰眠を貪ろうとしていたその時、1人の教え子が部活の顧問をやってくれないかと頼み込んできた。

 

「いや〜……それがさ、私と曜ちゃんだけじゃ足りなくて。キリオくんが顧問になって口添えしてくれれば、なんとか交渉できるかな〜……と思いまして」

 

「“先生”を付けろ。というか……部の設立には5人以上必要だったはずだが?」

 

「そのあたりも含めて、一緒に生徒会長に頼み込んでくれると非常に助かるのですが……」

 

「あー……!?やだよめんどくさい」

 

「そこをなんとか〜!」

 

「だいたい相手は黒澤だろ?そんな例外を通すような奴じゃない。“認められませんわぁ”とか言うに決まってる。諦めるんだな」

 

そう口にした直後に失言をしたと気づく。

 

彼女に対して「諦めるか」や「やめるか」といった問いは逆効果だ。

 

……そら見ろ。目の前の少女は、諦めるどころかより一層瞳をメラメラと燃え上がらせて——————

 

「諦めない!!」

 

全力でそう歯向かってみせた。

 

 

◉◉◉

 

 

「やられたな」

 

政府官邸の一室。

 

塔野首相は眉根を揉み、側に立つキリオにそう投げかけた。

 

「北都は実質西都の勢力下。おまけに主犯格の葛城ユイと氷室ミカを両者とも取り逃がすとはな」

 

キリオは目を伏せ、現状を呪うように奥歯を噛みしめる。

 

数日前、西都政府は正式に東都へ宣戦布告を言い渡した。

 

西都と東都が敵対していると世間に知れた今、Bernageの正体を公表しても“東都側のでっちあげ”で済まされてしまう。

 

自分達はまたも、奴らに出し抜かれてしまったわけだ。

 

「……奴らの狙いは、東都政府が保管しているパンドラボックスかと思われます」

 

「ああ、私もそう考えている。西都政府のバックには難波重工が付いているわけだしな。奴らにとっては、未知の力を秘めたあの箱は喉から手が出るほど欲しいはずだ」

 

————パンドラボックス。5年前、突如としてこの地に飛来し、そしてこの国を分断するスカイウォールを作り出した悪魔の箱。

 

難波重工の目的は戦争を引き起こすことだけじゃない。絶対的な力を持つ兵器を生み出し、その果てに世界までをも掌握することを企んでいる。

 

そのために奴らは…………スタークやローグを使ってスクールアイドルを崩壊させ、箱を手に入れようと暗躍してきた。

 

「さて戦兎くん、今後の方針だが————」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究室の机に突っ伏し、間の抜けた顔で真横に置いてあったオレンジフルボトルを眺める。

 

(……仮面ライダーを正式な防衛システムに、か)

 

首相から言い渡された提案を思い返す。

 

北都との戦いを経て————もはや仮面ライダーの存在が戦争の勝ち負けを左右することは、誰の目にも明らかだった。

 

もう単なるヒーローで居られる状況じゃない。東都の人々も、仮面ライダーの認識は“兵器”へと移りつつある。

 

(俺が仮面ライダーになったのは……千歌達を、自分を戦兎キリオらしくいさせてくれる人を守るため。そのためならどんな犠牲も厭わないと決めていたのに————)

 

…………彼女の口から聞いてしまった。

 

千歌の願いを。兵器ではなく、みんなのヒーローでいて欲しいと。

 

 

 

「なーにしょぼくれてんのさ」

 

目だけを動かして背後からかかった声の主を視界に入れる。

 

「……なんだ、いたのか」

 

「なにその言い草、私んちなんだから当然でしょ」

 

髪を解き、寝間着姿の千歌がそばにあった長椅子へ腰を下ろす。

 

キリオの様子をうかがうように視線を注いだ後、彼女は小さく問いかけてきた。

 

「ねえ、覚えてる?」

 

「なにが」

 

「スクールアイドル部を作った時のこと」

 

突拍子もなくそう尋ねてきた千歌に困惑しつつ、キリオはすぐに何気なく返した。

 

「その表現で思い当たることが多すぎて、なんの話をしてるかわからないな」

 

「じゃあ……ファーストライブの時」

 

「覚えてる、ビラ配りが面倒だった」

 

「いやもっと他にあるでしょ!」

 

さすがに今の答えは自分でもどうかと思ったので少し真剣に考えてみる。

 

思えばファーストライブの時は、それを開催すること自体が苦労の連続だった。

 

転入生の梨子を加えても部員が足りない状況に陥り、突如この学校の理事長に就任した鞠莉の計らいで部を設立できると思ったのも束の間、千歌達に突きつけられた条件は「ファーストライブで体育館を満員にする」こと。

 

そのために彼女達は曲を作り、振り付けを考え、客を集めるための宣伝を行ったのだ。

 

「…………長かったような、短かったような」

 

最初は人数も足りなかった千歌達Aqoursが……いつの間にか東都を代表するスクールアイドルになって、ラブライブで優勝して————

 

同時に悪化する三国の関係とは裏腹に、スクールアイドルという文化は人々の注目を集め、平和を支える大きな柱になった。

 

「今は国中が大変なことになってるけど……私ね、みんなと一緒に頑張ってこれた毎日のことを誇りに思うんだ。前にルビィちゃんが言ってたみたいに、それだけは絶対になくならない。……キリオくんはどう?」

 

「…………」

 

一緒に頑張ってこれた毎日————

 

記憶喪失のキリオにとって、千歌達と過ごしてきた日々だけが積み上げてきたもの。

 

それ以外に誇れるものなんてない。

 

「ああ、俺もだよ」

 

だからこう答えるしかなかった。

 

千歌は微笑んだ後、不安げな様子でまた尋ねてくる。

 

「もし……もしさ、記憶が戻ったら…………どうするの?」

 

おそるおそるそう聞いてくる千歌は、目を合わせて話すことを怖がっているようにも見えた。

 

「記憶…………」

 

それは「自分を構成してくれる人を守る」こと以外に、唯一キリオが興味を持つことだった。

 

今の自分を創り上げているものとは全く別の“要素”。

 

すなわち戦兎キリオではない「本当の自分」を取り戻す手がかり。

 

目の前のことを片付けるのに精一杯で、最近はすっかりそんなことは頭から抜けていた。

 

「————俺自身、前の自分がどんな奴だったかなんて知らないしな。戻ったら戻ったで、その時考えるさ」

 

「内浦から————みんなの前からいなくなったりしない?」

 

「さあな」

 

跳ね上がるように椅子から立ち上がると、キリオは机に置いてあったオレンジフルボトルを手に取ってそれを上着のポケットへ突っ込む。

 

濁すような態度にムッとする千歌を見て、苦笑しつつキリオは答えた。

 

「別に意地悪してるわけじゃない。まだわからないことだらけなんだ、そう無責任に約束することはできない」

 

「はいはい、わかってますようだ。————おやすみなさい!」

 

少しばかり不機嫌そうな顔で背を向けた千歌が出入り口の扉を開け、部屋を飛び出していく。

 

「…………まあ、でも」

 

その後ろ姿を見送った後、キリオは沈んだ表情で上着のポケットに触れた。

 

 

 

 

「忘れることはないだろうさ」

 

 

◉◉◉

 

 

『ターゲットを確認』

 

『確保する』

 

北都と東都の境界線。

 

スカーウォールが間近に見えるその地で、夜闇に紛れた逃走劇が繰り広げられていた。

 

「くそっ……!西都の連中め……いったいどれだけのガーディアンを……!!」

 

腰にベルトを巻いた、みすぼらしい布切れで身を隠した少年が駆ける。

 

現在の北都は西都に支配されている。奴らは東都に協力するふりをして、最初からこの地を狙っていたんだ。

 

「はあ————っ!」

 

立ち止まり、追っ手と相対する。

 

姿を隠していた布を自ら剥ぎ取り、少年————猿渡タクミは瞬時にスクラッシュゼリーを取り出し、ドライバーへ装填した。

 

《ロボットゼリー!》

 

「変身!!」

 

《ロボットイングリス!!》

 

《ブラァ!!》

 

ヴァリアブルゼリーが弾けたのと同時に金色の戦士が20体を超えるガーディアン達の懐へ突っ込む。

 

《ツインブレイカー!》

 

《ビームモード!》

 

すぐさま出現させた武器を振り回して軍勢を撹乱しつつ、ボトルを取り出す。

 

《シングル!》

 

《ツイン!》

 

選んだのは“薔薇”と“ヘリ”、どちらも使い慣れているフルボトルだ。

 

ヴァリアブルゼリーで形成されたプロペラで円を描きながらガーディアンを巻き込んでいく。

 

「らあああああああッッ!!!!」

 

付近の敵を片付けた後は棘を伸ばして離れた場所の目標もなぎ倒す。

 

爆発の光が星空の下で一瞬の輝きを放った。

 

 

 

「この数を一瞬で片付けるかぁ。ますます腕を上げたみたいだね、猿渡タクミくん」

 

「…………?」

 

肩の力を抜いたグリスの背後にそう声がかけられる。

 

タクミは後ろに立っていた人物の方へ、警戒心と共にツインブレイカーの砲口を向けた。

 

「葛城……ユイ…………!?」

 

そしてその人間を視認した途端に戸惑うような反応を見せる。

 

それもそのはず、目の前にいるのはスクールアイドルに精通している者ならば誰もが知っている程の著名人だったからだ。

 

慌てて変身を解除し腕を下ろしたタクミは、近寄ってきた少女の顔を奇異の目で見た。

 

「ん?……あーそっか、君はまだ知らなかったんだっけ」

 

「……?どういう————?」

 

「これならわかるかな?」

 

少女はブレザーのポケットから1本のボトルを引っ張り出すと、タクミの眼前にそれを掲げてきた。

 

中心に刻まれているコブラの意匠。虫酸の走る喋り方をする奴が嫌でも連想される。

 

「コブラフルボトル……!?どうして————なんで……そんなもの……!?」

 

「お……そうこれだよこれ!こういう反応が見たかったんだよねあたしー!」

 

ステージ上で見せるような無邪気な笑顔で、少女は手中のフルボトルをコロコロと弄ぶ。

 

「まったくあのバカ教師ときたら勝手にシナリオ進めちゃうんだからさ。正体を明かすとなれば、やっぱり今みたいに間抜け面拝まないとねぇ!」

 

「は……?」

 

「まだわかんない?かー……頭がよわよわな人は嫌いなんだよねあたし。じゃあ大ヒントあげちゃうね。これで答えられなかったら毒殺だよ毒殺」

 

少女はどこからともなく取り出した拳銃を構え、持っていたボトルを————

 

《コブラ!》

 

それに突き刺した。

 

「なっ……!」

 

「蒸血」

 

《ミストマッチ!!》

 

闇のなかでも一際目立つ黒い霧が小柄な身体を包む。

 

《コッ……コブラ……コブラ……!》

 

《ファイヤー!》

 

次にその姿を現した時、彼女はタクミが最も嫌悪する者となってその場に佇んでいた。

 

「さあ問題、あたしは誰でしょう?」

 

「ブラッド……スターク……!?」

 

「今度は正解!やればできる子だね猿渡くん!」

 

「……っ……!」

 

霧散する赤い装甲から再び影の帯びた笑みを見せる少女と目が合う。

 

タクミは徐々に荒くなっていく呼吸を抑えるように自分の胸を抱きしめ、青い顔で口を開いた。

 

「…………意味が……わからねえ……」

 

「これからわかればいいよ。それよっか君に話があってさ」

 

膝をつくタクミと目線を合わせた少女は、変わらない笑顔でひとつの提案を出してきた。

 

 

 

 

「西都の兵器として……働く気はないかな?」

 

 





今作ではまだ明かされていなかったスクールアイドル部結成前の出来事が少し語られましたね。
そして久しぶりに出てきたグリスことタクミとユイが接触。
西都側に引き込もうとするのはビルド本編と同じですが果たして……?

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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