ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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再びスピード投稿。
このまま2章完結まで駆け抜けたい……!


第45話 信頼のアンコール

「はあ……はあ……」

 

肩で息をしながら、順に全員へ顔を向き合わせる。

 

予定されていたセットリストは全てやり終えた。ここから先は……人々の反応次第だ。

 

「……ん」

 

千歌から送られてきたアイコンタクトに気がつき、月は映像確認用のパソコンに視線を移した。

 

しばしの静寂のなか、滝のように流れてくる観客達のコメント。そのどれもがアンコールを望む声ばかり。

 

「よっし……!」

 

小さくガッツポーズをした月は、千歌達全員に見えるよう頭の上まで腕を持っていき————大きく円を作った。

 

汗を流す千歌達の表情が明るいものになる。

 

軽く身なりを整えた後、千歌は会場の外まで突き抜けていくような声を張り上げた。

 

「さあ……!次で本当に最後だよ!みんなで盛り上がっていこーーーーーー!!!!」

 

 

◉◉◉

 

 

小規模の爆発が何度も土煙を巻き上げる。

 

3対3の乱戦。東都と西都……それぞれの最高戦力を投入した熾烈な戦いだった。

 

「ふっ……!はっ!オラアアアアッッ!!」

 

「ぐっ……!」

 

クローズチャージの放った拳がリモコンブロスの左肩を捉える。

 

《ビートクローザー!》

 

「……!?」

 

続いてベルト内部から射出された剣を掴み取り、間髪入れずに斬撃を浴びせていく。

 

「うっ……ぐ……!」

 

《スペシャルチューン!》

 

《ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!》

 

《メガスラッシュ!!》

 

ドラゴンフルボトルをビートクローザーに装填、瞬時に力を解放する。

 

蒼炎で構成された龍がリモコンブロスへと喰らい付き、爆風と衝撃波でその強靭な肉体を軽々と吹き飛ばしてしまった。

 

「前より使いやすくなってる……?」

 

リュウヤは自分の腰にあるベルトに目を落とし、以前使用した時よりも副作用が減少していることに気がついた。

 

「ハザードレベルの上昇ってやつか……?」

 

「————ッ!」

 

《ファンキーショット!!ギアリモコン!》

 

リモコンブロスが構えたライフルから歯車のオーラを帯びた弾丸を発射する。

 

「ぉぉおおおおオオオオッッ!!」

 

リュウヤはビートクローザーの刃でそれを受け止め、身体を捻りつつ弾丸と衝撃を後方へ受け流した。

 

「いけるぞ……!今の俺は……負ける気がしねぇ!!」

 

爆発を背に再度刃をリモコンブロスへと向け、勇ましくそう宣言した。

 

 

 

そのすぐそばで近接戦闘を繰り広げているのはエンジンブロスとグリス。

 

「だりゃああああああッッ!!」

 

「チィ……!」

 

スチームブレードとツインブレイカーで互いに荒々しいカウンターを放つ。

 

鷲尾雷斗と鷲尾風華は両者とも難波チルドレンとして戦闘訓練を受けている身だ。格闘技の経験があるリュウヤはともかく、タクミが彼らに戦闘技術で上回るのは難しい。

 

考えられる手段としては————

 

「手数だ……!」

 

《シングル!》

 

《ツイン!》

 

タクミは取り出したフェニックスフルボトルとロボットフルボトルをそれぞれツインブレイカーに差し込み、向かってくるエンジンブロス目掛けて腕を振るった。

 

「喰らえやアアアアアアッッ!!」

 

両肩から放射されたヴァリアブルゼリーが翼を形取り、飛翔しつつ体当たりを仕掛ける。

 

「————!?」

 

接近に成功したところでゼリーによって肥大化した巨腕を使い、エンジンブロスの身体を挟み込む。

 

「ぐぉぉぉおおお……ッ!!」

 

地面を大きく抉りながらエンジンブロスを引きずり、そのままの勢いで宙へと放り投げた。

 

「最大!」

 

さらに肉薄し、ツインブレイカーによる追撃を加える。

 

「無限!」

 

「っ……!」

 

体勢を立て直す前にそれを受けたエンジンブロスは、防御しきれずに幾度も直撃を許してしまった。

 

「極致!————これが俺の……!力だああああああああッッ!!」

 

全ての力を注ぎ込んで放たれた拳が白い歯車の敷き詰められた胸部へとめり込む。

 

地に強く身体を打ちつけながら転がったエンジンブロスだったが、直後に両足を突き立て、よろめきながらもその場に留まった。

 

「ぜぇ……ぜぇ……死に損ないが……!」

 

「チッ……しぶとい野郎だ」

 

「俺は……俺達は……負けるわけにはいかないんだ……!」

 

「あ?」

 

再度構えをとるグリスに対し、エンジンブロスはスチームブレードを強く握り直し…………標的へと駆け出した。

 

「全ては……難波重工のためにッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も、何度も、何度も、糸口が見えてくるまで殴りつける。

 

「————!」

 

マスクの下にある顔を強張らせ、キリオは思い切り地面を踏み切って空高く跳躍した。

 

泡の爆発力を加えたキック、パンチ————あらゆる方向から思いつく限りの打撃を加えていく。

 

が、しかし、

 

「硬っ…………!?」

 

通っている気が微塵もしない。

 

至近距離からの攻撃を受けても全く動じる様子のないローグを見て、キリオは徐々に焦りを感じていた。

 

「ッ……!」

 

ただならぬ殺気を感じ、奴が繰り出してきたカウンターの拳を瞬時に後退して回避する。

 

「どうしました?さっきからピョンピョンと…………バッタみたいに跳ねてるだけじゃ、わたしには勝てませんよ」

 

「…………ウサギだ」

 

余裕を崩さないミカを捉えつつ、考える。

 

彼女が使用しているのはタクミやリュウヤと同じスクラッシュドライバーだが…………妙だ。

 

あのベルトの特徴の1つとして射出されるヴァリアブルゼリーを自在に操ることができる点が挙げられる。が、ミカはゼリーどころかツインブレイカーすら使用するところを見せてはいない。

 

(すぐに反撃できる運動性を考慮しても……単に分厚い装甲を着込んでるってわけじゃなさそうだ)

 

とにかく重要なのは、ローグはスパークリングの攻撃すら完全に防ぎ切ってしまうということだ。西都の主力というのも伊達じゃないらしい。

 

《クラックアップフィニッシュ!!》

 

「はっ————!」

 

前方から迫る大顎に反応しきれず、ローグの繰り出した右ストレートが脇腹を掠める。

 

「く……っ!」

 

鋭い痛覚が走り、直後にコンクリートに叩きつけられた反動で数本のフルボトルがホルダーから落下してしまった。

 

「さっきまでの威勢はどうしたんですか?」

 

ゆっくりとキリオの落としたボトルを拾い上げながら静かにそう投げかけてくるミカ。

 

キリオの方が場数を踏んでいることが幸いしているのか、なんとか耐えてはいられるが————やはりシステムの性能差は埋められない。

 

だがこれでいい。今回の目的はミカ達を倒すことじゃない。

 

千歌達がライブを終わらせるまでの時間が稼げれば…………それが自分達の勝利になる。

 

(とはいえ……このままじゃジリ貧なのは確かか)

 

キリオは震える足に力を込め、立ち上がると………………ラビットタンクスパークリングをドライバーから外した。

 

「……ひとつ聞きたい」

 

「……?」

 

「お前らBernageは、本当に難波重工に言われるままに活動していたのか?そこには千歌達(あいつら)のような想いは一切なかったのか?」

 

「なにを今更……。だいたい、それを聞いたところで……もうどうにもならないですよ」

 

「答えになってねえぞ」

 

返答を渋るローグ————そのマスクの下に向けてじっと視線を送るキリオ。

 

ミカは顔を横に振ると、相変わらず冷たい声で言い放つ。

 

「……もう、忘れました……そんなの」

 

「わかりやすい嘘をつくんだな」

 

「っ……あなた……なんかに……!あなた達なんかに!わたしのなにがわかるっていうんですか!!」

 

ミカは髪の毛を逆立たせる勢いでそう捲し立てると、握った拳に目を落としながら言った。

 

「わたしの心を理解できるのは……ユイちゃんだけ……!わたしを救ってくれた、あの子だけだッ!!」

 

ミカの繰り出した蹴りを避けつつ、キリオは取り出したアイテムの()()()()に指を置いた。

 

「————そうか」

 

 

 

《ハザードオン!》

 

ノイズがかった電子音声がそう宣告する。

 

「お前達とはまた改めて話し合いの機会を設ける必要がありそうだ。…………だから今は戦いに集中するとしよう」

 

「ハザードトリガー……!」

 

《ラビット!》

 

《タンク!》

 

《スーパーベストマッチ!!》

 

ビルドドライバーにハザードトリガー、及び2本のボトルを装填する。

 

「万丈に代わって、まずは俺がお前を矯正してやる。……教師としてな」

 

《アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!!》

 

《ヤベーイ!》

 

出現したハザードライドビルダーにプレスされた後、漆黒に染められた装甲を引きずりながら再びローグの前に現れた。

 

 

◉◉◉

 

 

「投影された映像だと……!?」

 

「すぐに調べ直せ!奴らの居場所を突き止めるんだ!」

 

騒音が飛び交う一室の真ん中で、1人の少女が静かに戦士達の戦いを見守っている。

 

 

 

 

 

————スクールアイドル。()()()に浸透している未知の力の発生源。

 

かつて訪れた惑星のなかでこれほどまでに活気付いている場所があっただろうか。少なくとも“こちら側”にその記憶はない。

 

火星で感じたものと似てはいるが、地球(こっち)の方が規模はずっと大きい。

 

……また、この“見えない力”に手を焼かれるというのか。

 

 

 

 

「…………少し予定を早める必要がありそうだ」

 

今まさに終わろうとしているライブの映像を眺めながら、ユイは遠い眼差しでそう呟く。

 

「…………経過はどうだ?」

 

扉が開かれ、よろよろとした足取りで部屋に入ってくる気配がひとつ。

 

現れた老人を見るや否や、PC画面に集中していた職員達は一斉に胸に手を当てて見事な敬礼を見せた。

 

ユイは彼の方へ身体を向けると跳ねるように椅子から降り、その眼前まで駆け寄ってはにこやかな表情を浮かべた。

 

「会長〜!わざわざこんなところに来るなんて、どうされました?」

 

「少し様子が気になってな。……どうだ?我が難波重工が生み出した兵器達は、成果を出しているか?」

 

「首尾は上々、といったところでしょうか。まあ彼女達が負けることはありえません。……ただ東都の連中も想定以上に奮闘しているようで、このままではライブの完遂を許してしまうかと」

 

淡々と報告を上げていくユイの横を通り、老人————難波重三郎は重い腰を用意された椅子に下ろした。

 

「ライブが成功してしまえば人々の意識は一気にそちらへ向いてしまいます。戦争は政府の“独り善がり”だという批判も出てくるでしょう」

 

「それならそれで……もっと相応しい手段を向こうに提案するまでだ」

 

「相応しい手段……ですか?」

 

「ああ、手っ取り早くこの国の覇権を手に入れる方法をな」

 

首を傾けるユイに、重三郎は不敵な笑みを見せ…………しわがれた声音で何かを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ハザードすら凌ぐか……!)

 

意識を持っていかれないよう、ギリギリのところで踏み留まりながらキリオはローグと近接戦を繰り広げる。

 

奴め、生意気にも手加減をしていたのか。こちらがハザードトリガーを出した途端に明らかに動きが変わった。

 

「はァ……ッ!!」

 

「うっ————!?」

 

ローグの放った横薙ぎの蹴りを片腕で受け止めるも、勢いを殺しきれずに体勢が崩れてしまう。

 

「————ッ!!」

 

直後、追撃が飛んでくる前に腰を低く構え、崩れた体勢のまま奴の腹部に一発打撃を叩き込んだ。

 

だが隙を作るのが精一杯だ。おそらくダメージは与えられていない。

 

「……ッ……!!」

 

すぐさまローグから距離を取り、ハザードのタイムリミットが刻一刻と迫っていることに冷や汗を流す。

 

(これ以上長引かせるのはまずいか……!)

 

「はあああああッ!!」

 

再度接近してくるローグに対して拳を構え直したその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ストップ』

 

通信機から聞こえる少女の声に反応し、ミカは走り出していた足を地面に突き刺して強引に身体を止めた。

 

(……!葛城……!?)

 

「ユイちゃん……!?」

 

飛ばされた音声にキリオもつられて動きを止める。

 

『会長直々のご命令だよ。3人とも今すぐ撤退、今回の作戦は諦める』

 

それを聞いたミカが悔やむように歯を軋ませるのがわかった。

 

自らボトルを引き抜いて変身を解いたミカが背を向け、去ろうとする。

 

『ああ戦兎先生、そこにいるんだよね?』

 

直後、ユイは言葉の矛先をキリオへと向け始めた。

 

「葛城……」

 

『前よりトリガーの稼働時間延びてるじゃないですか、すごいすごい!』

 

「今度はなにをするつもりだ?」

 

ハザードトリガーを引き抜き、変身を解除したキリオは警戒しつつミカの耳元にある通信機へと尋ねた。

 

『まあ詳細は後日、ということで。感謝してくださいよ?難波会長が国民を巻き込まない平和的な決着方法を提案してくれたんですから』

 

ミカがネビュラスチームガンを使って放射した霧に包まれながら、ユイは笑いを含んだ声でそう言い残していった。

 

『チャオ〜』

 

おちゃらけた挨拶を最後に彼女達の気配が消える。

 

 

キリオは手にしていたトリガーを見つめ、その力を持ってしてもローグを退けることが叶わない現状に眉をひそめるのだった。

 




次回からは個人的に2章で1番書きたかった代表戦へ突入していきます。が、西都側からアイツが出場したり……と、ビルド本編とは多少違った展開になる予定です。
3章へと繋がる戦争編クライマックス、どうぞお楽しみに。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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