ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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本日劇場版ジオウ&リュウソウジャーの予告が解禁されましたね。
真の最終回ってことはトゥルーエンディングのように本編後の話なんでしょうか……?


第49話 ミストマッチな奴ら

「タクミ!」

 

引きずるような足取りで帰ってきた同級生へと駆け寄り、理亞は彼の肩を支えると足並みを揃えながらゆっくりと歩み出した。

 

「すまん、負けた……」

 

「そんなことはいいのよ!ケガは大丈夫なの……?」

 

「平気だよこんくらい」

 

灰色の扉がひとりでに開く。

 

少女に体重を預けながら部屋に戻ってきた少年に、待機していた全員の視線が集中した。

 

「猿渡くん、すぐに手当を……!」

 

「聖良さん……すんませんお手数かけて」

 

「今更でしょ」

 

タクミを椅子に座らせながら呆れた顔でそうこぼす理亞。

 

鹿角姉妹から消毒液の染み込んだガーゼを傷口に付けられる度に苦悶の表情を浮かべる彼に、やけに落ち着いた様子の青年が歩み寄ってきた。

 

「ちっ……いいぜ、文句なら聞いてやる」

 

「いや、お前も案外甘いところがあるんだなー……って思ってさ」

 

そう微かに笑ったキリオが部屋の隅でストレッチに励んでいたリュウヤの方を見やる。

 

「3回勝負なんだ、これから巻き返せばいい」

 

「そうだよ猿渡くん!まだ負けが決定したわけじゃないんだから!」

 

「うぇ……っ!?は、はいぃ……!!」

 

元気付けようと彼の手を強く握ったルビィを見てタクミの顔面が上気する。わかりやすい奴だ。

 

「いけるか万丈?」

 

「あったりめえだろ、見てろよ俺の超つえー姿をよ!」

 

自信満々な調子でシャドーボクシングをするリュウヤ。彼のおかげで少しだけ場の空気が和らいだ。

 

……実際問題、次の戦いでリュウヤが勝たなければ東都に未来はない。

 

葛城ユイ————スタークの思惑が未だわからない以上、彼には万全の体制かつ慎重に臨んでもらわなければ。

 

 

 

「…………ぅ」

 

「梨子ちゃん?」

 

急に額を押さえて俯いた梨子の肩に千歌が優しく手を置く。

 

「大丈夫?頭痛でもするの?」

 

「ううん、平気……少しくらっときただけ」

 

「桜内はこの前も俺の部屋で気絶してたからな。具合が悪いならすぐに知らせろよ」

 

「はい、すみません……。みんなも心配かけてごめんね」

 

「もう、梨子ちゃんたらすぐ謝るんだから。心配するのは当然でしょ、友達なんだから」

 

少女達のやりとりを横で眺めていたキリオの瞳が、何かを注意深く観察するように細くなる。

 

その視線の先にあるのは————梨子の左手首にあるバングル。

 

異様な雰囲気を漂わせているそれを視界の中心に捉え、キリオは上着にしまっていた()()()()()()()をポケット越しに触れた。

 

 

◉◉◉

 

 

「ははは、それでこそ……難波重工の最終兵器だ」

 

「……お褒めに預かり光栄です」

 

待機部屋へと戻った風華を待っていたのは、上機嫌な様子でたい焼きを口にする難波重三郎だった。

 

「姉さん、勝ったんだな」

 

「雷斗……」

 

後ろにある扉から勢いよく入室してきた弟を見て胸を撫で下ろす風華。

 

「約束通り、雷斗の拘束は解いておいた。……すまなかったな雷斗、辛かっただろう?」

 

「いえ、会長が望むことであるのなら……例えどのようなご命令でも従う所存であります」

 

拳を胸に打ち付けて敬礼の意を表す雷斗を一瞥し、風華はどこか痛ましそうに彼から視線を外した。

 

 

 

 

「さて…………次はユイの番か」

 

「はぁーい!難波会長の右腕、葛城ユイ!ご期待に沿えるよう一生懸命頑張りまーす!」

 

語りかける老人に対して元気よく挙手する少女。その光景だけを切り取れば孫娘とその祖父が微笑ましいやりとりをしているようにも見える。

 

「————間違えて殺しちゃうかもしれませんが、問題ありますかね?」

 

「はっはっは、構わんよ」

 

だがその実態は恐ろしいほどにドス黒い感情を胸に秘めた者達の会話に過ぎない。

 

狂気に満ちたその一室で、風華は吐きそうになるのを堪えながら平静を装って佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふふー……やっぱり2番手になってくれたんだね、万丈くん。罠だとは思わなかったの?」

 

「……葛城」

 

闘技場に立ち、向かい合ったリュウヤとユイが一定の距離を保ちながら互いに口を開いた。

 

「お前からはまだまだ聞きたいことが山ほどあんだよ」

 

「あ、もしかして……あたしと話すために自らこのタイミングを選んだの!?嬉しいなあ!なになに、なんでも聞いて!」

 

尻尾を振る子犬のように無邪気な反応を見せるユイに、リュウヤは終始鋭い眼差しのまま問いかける。

 

「お前と……氷室についてのことだ」

 

「あたしとローグのこと?」

 

ミカのことを“ローグ”と呼ぶユイにまたも怒りが湧いてくる。

 

彼女にとってもうミカは友達ではなく、都合のいい兵器なのだと嫌でも理解させられた。

 

「お前らBernageは……これまでやってきたことに何の感情も抱かなかったのか?スクールアイドルに対する想いは……本当に偽物だったのか?」

 

疑問に思っているのはリュウヤだけじゃない。キリオも、Saint Snowの2人も、Aqoursのみんなだって知りたがっている。

 

以前ユイとミカが見せてくれたライブ————あれはスクールアイドルに対して真剣に向き合うことでしか実現できない最高のパフォーマンスだった。

 

あんなライブを行えるグループが…………一切の情熱もなく活動していたとは思いたくない。

 

「どうなんだよ……葛城!!」

 

声を張り上げるリュウヤを見て、ユイは拍子抜けしたかのように肩を落として言った。

 

「なぁんだ、そんなこと」

 

「あ……?」

 

「まあでも、言いたいことはわかるよ?なんのモチベもない状態で西都に君臨するスクールアイドルになれるわけないもんね」

 

「それはどういう————」

 

「もちろん多少の努力はしたよ。そのための練習施設だって会長が用意してくれたし。……でもスクールアイドルって思ったよりシビアでねえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ユイの言わんとしていることが徐々に鮮明になっていく。

 

「あ、その顔はまだピンときてないでしょ。簡単なことだよ、いくら努力したからってさ……短期間で千歌ちゃん達や聖良さん達に肩を並べられるわけないじゃない?」

 

「……やめろ」

 

「他に実力のあるグループへの脅迫、妨害行為……あとちょっとした暴行。邪魔者を消すためならどんなことだってしたよ」

 

「やめろッ!!」

 

鋭い視線をユイへ突きつけたリュウヤが身体を震わせながら叫ぶ。

 

彼女はブレザーのポケットからトランスチームガンとコブラボトルを取り出した後————表情から一切の笑みを消して口にした。

 

「もうわかったでしょ?————『()()にとってスクールアイドルなんてもんはなぁ、破壊のための手段でしかないんだよ』」

 

《コブラ!》

 

「蒸血」

 

《ミストマッチ!!》

 

 

小柄なユイの身体が霧に呑まれていく。

 

赤い花火と共に再び姿を現した時には、もう彼女の表情を読み取ることすら叶わなかった。

 

「さあ来いよ万丈。お前の怒り……余さずオレにぶつけてこい」

 

「かつ……らぎぃ……!!」

 

《ドラゴンゼリー!》

 

装着したスクラッシュドライバーにスクラッシュゼリーを叩き入れ、コブラの装甲をまとったユイを見据える。

 

「変身ッッ!!」

 

《潰れる!流れる!溢れ出る!!》

 

《ドラゴンインクローズチャージ!ブラァ!!》

 

弾けたビーカーの中から空色の鎧に包まれた戦士が現れる。

 

「今の言葉……後悔させてやる……!お前には何が何でもぜってぇ……高海達に謝ってもらうからな!!」

 

「クククク……!ハハハハハハハッッ!!!!」

 

 

 

 

『それでは第2戦————始めッ!!』

 

 

 

 

審判の掛け声と同時にスタークとクローズが駆け出す。

 

ユイはトランスチームガンを駆使しながらの中距離戦に持ち込もうとするが、当然リュウヤの方は簡単に彼女の思い通りの展開に持って行く気はない。

 

常に1歩出ることを意識し、逃げる隙を与えなかった。

 

「フンッ!ハッ……!オリャアアアア!!」

 

「ふっ……!」

 

リュウヤの繰り出したラッシュを受け止め、スタークは品定めをするかのように彼を観察しだす。

 

「ハザードレベル4.6か……!期待以上の成長ぶりだ……こりゃあキリオの奴もどこまで到達してるのか楽しみなってきたぞ……!」

 

「あいつは今……関係ねえだろッ!!」

 

引き絞った拳を放ち、榴弾を思わせる一撃がスタークの腕に炸裂する。

 

仰け反りながらもすぐに体勢を立て直した奴は、取り出したスチームブレードでリュウヤを牽制しつつ彼に言った。

 

「いいや?大有りだよ。もちろんお前も重要だが……本命はむしろあっちさ」

 

「あぁ……?どういうことだよ……!?」

 

「ま、あいつのことはローグに任せて————今はお前に付き合うとするか、万丈ォ!!」

 

《エレキスチーム!》

 

「ぐっ……!」

 

拡散された電撃に視界を奪われ、数秒間身動きがとれなくなる。

 

《アイススチーム!》

 

「ぐああああっ!!」

 

間髪入れずに打ち込まれた氷の斬撃にリュウヤの身体が宙へと放り投げられた。

 

「そらそら……!お前の力はそんなもんかぁ!?」

 

「う……るせえええええええええッッ!!」

 

《ビートクローザー!》

 

《スペシャルチューン!》

 

「らあッ!!」

 

着地する前に取り出したビートクローザーにドラゴンフルボトルを装填。即座に全方向へ火炎攻撃を放射する。

 

「おおっと……!」

 

驚異的な反応速度でバックステップを踏んだスタークは、物の見事に蒼炎の弧を回避してみせた。

 

身体に付着した火の粉を払うような仕草を見せた後、奴は怪しげに胸元へ腕を掲げる。

 

「なかなかの動きだ……————スクラッシュドライバーの副作用は克服完了、と。じゃあ次のステップに移るとするか」

 

「なにをブツブツ言ってやがる……!」

 

スタークは向かってくるビートクローザーによる斬撃を受け止め、蛇を思わせるスライディングでリュウヤの股下を移動し、彼の背後に立った。

 

「————ッ!」

 

だがリュウヤはそれを見越していたのか、反撃がやってくる前に上半身を捻りながら地を蹴って跳躍。

 

「オラアアアアアッッ!!」

 

振り返り際にスタークの横顔めがけて強烈な右ストレートをお見舞いした。

 

「ぐっ……ぉお……!?」

 

さすがに不意を突かれた今の攻撃には反応しきれず、防御することもままならないまま数メートル後方へ吹き飛んでしまう。

 

……いける。単純な戦闘能力で比べれば圧倒的にこちらが優勢だ。

 

奴に————スタークに勝てる……!

 

 

 

「どうだ葛城……もうお前に、遅れはとらねえ!!」

 

「ククク……クハハハハ……ッ……!」

 

亡霊のように揺らめきながら立ち上がるスタークに狂気じみたものを感じつつも、リュウヤは気圧されることのないように踏ん張りながら再度構えをとった。

 

 

 

 

「最っ……高だなぁ……万丈……!」

 

千鳥足で歩み寄ってくるスタークに警戒する。

 

……奴のまとう空気が変わった。なにか仕掛けてくるとすればこのタイミングだろう。

 

(なにをしてこようが関係ねえ、来るならこい。……お前の野望は、全部ここで潰してやる……!!)

 

 

 

「ハア……————」

 

立ち止まったスタークが深く息を吐き出す。

 

————その直後、深緑のバイザーに隠れた奴の瞳が…………真紅に輝くのを見た。

 

 

 

 

 

 

「さあ……実験を始めようか」

 

 

 




久しぶりに出ましたスタークの実験発言。このセリフが意味するものとは……?
キリオに対して「本命」と語ったり、今作のスタークもまだまだ明かされていない謎が多いです。
ここからどう物語が展開していくのか……。

では次回もお楽しみ。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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