ビルライブ!サンシャイン!!〜School idol War〜   作:ブルー人

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新しくTwitterアカウントを作ったはいいが大して呟くことが思いつかなくて焦っている作者です。


第51話 ローグの叫び

 

 

『みーちゃんみーちゃん!スクールアイドルやろうよ!一緒に!!』

 

 

 

唯一の親友がかけてくれたその言葉は……とても嬉しかった。

 

傷つけることしか知らなかった自分に、他人に何かを与える喜びを教えてくれた人。

 

そんな彼女の笑顔を汚してしまったのも————紛れもない、自分自身。

 

 

 

自分の弱さが…………“あの子”を傷つけてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

————近づいてくる。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

荒くなった息を深呼吸で無理やり整え、私情を奥底へ追いやり、誤魔化すように強張った表情を前へと押し出す。

 

 

 

————近づいてくる。

 

 

「は……っ……」

 

 

次……そう、次だ。この戦いにさえ勝利すれば全てが終わる。……全てが解決する。

 

 

 

————痛みが、近づいてくる。

 

 

 

もう戦わなくてもいい。誰も傷つけなくていい。

 

これが終わればきっとまた、2()()で笑い合って過ごせる日々が——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……負けちゃいましたぁ……ごめんなさい会長……」

 

不意に横から現れた少女に意識が持って行かれる。

 

うるうると瞳に大粒の雫を溜め込んだユイが、震える声で報告しながら待機部屋へと戻ってきた。

 

「なに、気に病む必要はない。簡単に決着がついてしまってもつまらんからな」

 

1戦目で西都側があらかじめ白星を獲得したことが幸いしているのか、意外にも難波重三郎はあっさりとそう返答した。

 

「か〜い〜ちょ〜!さすがお心が広い〜!」

 

「はっはっは」

 

媚びを売るように重三郎の目の前で手をすり合わせるユイ。これでもかと褒め称えてくる彼女に、老人も上機嫌な様子を見せていた。

 

 

 

「————単純な奴」

 

 

 

跳ねるような足取りで重三郎の背後へと回った後、ユイが小さくこぼしたのを…………隣に立っていたミカは聞き逃さなかった。

 

「ユイちゃん……?」

 

「さ、次はローグの番だね。期待してるよ〜?難波重工の力を東都の奴らにバッチリ見せつけてあげちゃって!」

 

「……うん」

 

思い出のなかに存在しているかつての彼女と同じように笑顔を浮かべたユイに首を縦に振る。

 

 

 

————ズキリ、とどこかが軋むように痛んだ。

 

 

◉◉◉

 

 

「やったね万丈くんー!」

 

「すごいよ万丈くんー!」

 

「あだだだだだだ!!痛い痛い!!今はやめろって!!」

 

「あ、そうだね、ごめん……」

 

帰還したリュウヤを労おうと千歌達がこぞって彼の背中を軽く叩くも、外見以上にダメージを負っていたのか小動物のように身体を縮めてしまった。

 

「ようやくスタークの野郎をぶっ飛ばせたな。……おかげでスッキリしたぜ」

 

「猿渡……」

 

照れ隠しのつもりなのか、そっぽを向きながら片手を差し出してきたタクミをきょとんとした顔で見上げた後、リュウヤは微かに笑みを浮かべつつそれを握り返した。

 

「あとは……あんただけだな」

 

2人のやりとりを傍らから眺めていた青年に皆の視線が集まる。

 

裾の長い上着を翻し、キリオは余裕に満ちた顔をリュウヤ達に向けた。

 

「揃いも揃って不安そうな目をするな」

 

「お前さっきからやけに自信満々だけど……本当に大丈夫なのか?」

 

「俺を誰だと思ってんだよ。天才教師戦兎キリオ様だぞ?」

 

そう言って彼らの横を通り過ぎ、闘技場へ向かおうとするキリオ。

 

 

 

「気をつけてね」

 

 

部屋から出る直前、背後からかかった声に足を止める。

 

振り返り、どこか幼い印象を覚える少女と目を合わせ————キリオは古い記憶のなかにある彼女を思い出す。

 

「ああ」

 

ポケットに収納していた1本のフルボトルを布越しに握りしめ、キリオは強くそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『3戦目!仮面ライダーローグ、氷室ミカ対仮面ライダービルド、戦兎キリオ!』

 

少女と青年が闘技場に姿を現したことが確認され、審判はスピーカーを介してそう告げた。

 

 

「これで…………何もかもが終わりです」

 

静かな闘志を宿した瞳をキリオに突きつけ、ミカが口を開く。

 

「西都が勝ち、この国はひとつになり————わたしの目的は達成される」

 

「目的?」

 

「ええ。……ユイちゃんと一緒に、また楽しく歌って踊れる日がやってくるんです。わたしがもたらす勝利によって」

 

戦争の終結を目の前にし、嬉しさからか饒舌に語り始めたミカに対して、キリオは綻ぶように口元を緩ませた。

 

その様子を見てミカは苛立つように眉をひそめる。

 

「……なにが……おかしいんです?」

 

「いや……以前の氷室と比べて、ずいぶん変わっちまったなーって思ってさ。常に眉間にしわ寄ってるし、隈もひどい。千歌達と一緒にスクールアイドルやってた時の方が……俺は好きだったよ、活き活きしてて」

 

「……余計なお世話です」

 

吐き捨てるようにそう返答したミカ。

 

そんな彼女に追い打ちをかけるように、キリオは喋るのをやめようとはしなかった。

 

「今のお前からは“楽しい”って気持ちも、スクールアイドルに対する情熱も微塵も感じられない」

 

「……!そんなこと————!」

 

そう言いかけたところで我に帰り、ミカはハッと口をつぐむ。

 

「おっと……俺の見当違いだったみたいだな。どうやらまだ未練が残っていると見える」

 

「本当に……口の減らない人……っ!」

 

ミカが突き刺すような視線を向けてくる。

 

歯を軋ませ、怨敵に向けるような眼差しのまま彼女は捲し立てた。

 

「あなたが……他人がどう思おうと関係ない。わたしはユイちゃんのために戦う……!ユイちゃんの言う通りに戦って……戦い抜いて……この国を統一する……!あの子と一緒にまたステージに立つにはそれしかない!!」

 

「…………」

 

自分を睨む少女から目を離し、キリオは呆れたように小さなため息をつく。

 

ミカの言葉……そのことごとくが的を外れて後方へ流れていく。

 

何も響いてはこない。彼女自身が間違った感情に囚われてしまっているからだ。

 

(そんなの…………友達でもなんでもないじゃないか)

 

自分は“友達”とは何かを知っている。友情がもたらす美しい物語というものを…………過去に数え切れないほどこの目で見てきたせいだ。

 

友達とは……仲間とは何かを、キリオは理解()()()()()()()()()()()

 

 

 

「悪いがお前の目的は果たせないよ。……なぜなら氷室、お前はここで俺に敗北するからだ」

 

ビルドドライバーを装着し、真っ直ぐにミカの瞳を捉えながらキリオはそう伝えた。

 

「……わかりません。どうしてそう言い切ることができるんですか?……以前の戦いではっきりしたはずです。スパークリングも、ハザードも、わたしの前では何の役にも立たないことを、あなたは痛感しているはずでしょう」

 

「それを言われると耳が痛いんだがな…………前に勝てたからといって、今回も同じようにそうなると————お前はどうして言い切れるんだ?」

 

張り詰めていた闘争心が暴発する。

 

顔を伏せ、ミカは前髪に隠れた凶器のような瞳をより鋭利なものに変えた。

 

「氷室ミカ————お前のなかにあるのは友達を想う心なんて大義じみたものじゃない。自分が嫌われることを恐れた結果、膨張し続けてしまった承認欲求と自己中心的な我が儘だけだ」

 

「例えそうだとしても……何が正しいかはユイちゃんが決める。ユイちゃんがもたらすものだけが大義たり得る……!あの子の意志を支えることが……わたしの矜持!!」

 

《デンジャー!》

 

ミカの握っていた紫色のフルボトルに赤い亀裂が走る。

 

《スクラッシュドライバー!》

 

《クロコダイル!》

 

装着したスクラッシュドライバーにボトルを装填し、レバーを倒す。

 

出現したビーカーに満たされた成分がミカ自身を呪うように彼女の身体にまとわりついた。

 

「そのために戦兎先生……わたしはあなたを全力で叩き潰す。————変身」

 

《割れる!食われる!砕け散る!!》

 

《クロコダイルインローグ!!》

 

《オーラァ!》

 

ミカの全身が生成されたスーツで覆われ、その顔には“顎”で砕かれると同時に双眸が現れる。

 

 

 

「……そうだ、俺は“先生”だ」

 

キリオもまた上着のポケットへ腕を入れ、まさぐるような仕草を見せた。

 

「まだ成熟し切っていない子供達を正しい方向へと導いてやる義務がある。……ちょうど、お前みたいなガキンチョをな」

 

《マックスハザードオン!》

 

取り出したハザードトリガーを起動させ、ドライバーの連結部分へと繋げる。

 

「……不毛です。それはわたしに通用しないと、何度言ったら————」

 

直後、ミカは仮面の下で目を剥く。

 

キリオが続けて取り出したのは通常のフルボトルではなく————2本のボトルを縦に繋げたかのような、棒状のアイテムだった。

 

「それは…………?」

 

「今から個別指導をしてやる。授業料は————特別に免除だ」

 

手首のスナップを利かせ、握っていたそのアイテムを上下に振る。

 

ピョンピョン!——と兎が跳ねるような緊張感の欠片もない音が闘技場に響き、離れた待機室で2人の様子を見守っていた千歌達が苦笑するのがなんとなく察知できた。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

《ラビット!》

 

キャップを回して“成分”を選択。続いて横に持ち直し、棒アイスの如くそれを()()

 

《ラビット&ラビット!》

 

ビルドドライバーに備わっていた2つのレーンへと同時に挿し込み、キリオは素早くレバーを回し始めた。

 

《ガタガタゴットン!ズッタンズタン!ガタガタゴットン!ズッタンズタン!》

 

《Are you ready!?》

 

 

「————変身」

 

 

《オーバーフロー!》

 

 

キリオが言葉を発すると同時に形成されていたハザードライドビルダーが彼の肉体を挟み込む。

 

やがて姿を現した漆黒のビルドのもとへ————“1匹の()()()”が駆けつけた。

 

「ふっ……!」

 

やってきた“兎”がバラバラに分割され、それぞれ胴、腕、足を象ったような形へと変形する。

 

ハザードフォームへと変身していたはずのキリオは跳び上がり————自らその装甲を全身に装着した。

 

 

 

《紅のスピーディージャンパー!ラビットラビット!!》

 

《ヤベーイ!!ハエーイ!!》

 

 

 

「な……」

 

新たな姿を見せたビルドにミカが驚愕する。

 

これまで決して一致することのなかった複眼が左右とも“ラビット”に。

 

そしてハザードの黒いボディを隠し、制御するように…………兎を思わせる紅の鎧が被されていた。

 

 

 

『では第3戦目!仮面ライダーローグ対仮面ライダービルド————!』

 

 

 

対峙する2人の戦士を確認し、審判は高らかに戦いの幕を切って落とした。

 

 

 

 

 

 

 

『————始めッ!!』

 

 

 

 




出し惜しみをしないキリオくん。
次回でおそらく決着はつくかと思いますが……3章に突入する前に、Bernageの2人の過去を描くエピソードを挟むと思います。

ここから一体どう展開していくのか……。
では次回もお楽しみに。

完結後に何かしらの続編はいりますか?いりませんか?

  • 後日談として日常もの
  • シリアス調のもの
  • 両方
  • 別にいらない。

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